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「白粉花」






久しぶりに賽の河原へと伊達は出向いた。
ちょうど、賽の河原のアジトの入口にいた遥が伊達を見つけ、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「伊達のおじさん!」
「おう、遥。久しぶりだな」
「うん」
「変わったことねぇか?」
遥の頭を優しく撫でながら伊達が問う。
「大丈夫だよ」
「そうか」
伊達は辺りをぐるりと見回すと直ぐに、遥に桐生の事を聞いた。
「桐生はどうした?」
「おじさんは少し用があるからって、朝から出かけた」
「入れ違いか、仕方ねぇな」
頭の後ろに手をやると、伊達はやれやれと溜息を吐いた。


もうそろそろ夏も終わろうかという頃だった。
河原のあちらこちらに雑草が咲き、その中に咲く赤紫や黄色の花が目を引く。
「可愛いお花でしょ?」
遥はその花を気に入っているらしく、伊達に向かって花を指差した。
「へぇ……こりゃ、あれじゃねぇか」
伊達は面白いものを見つけたというように、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
ゆっくりと花に手を伸ばす伊達を見て、遥が声を上げる。
「お花、ちぎっちゃ駄目だよ!」
慌てたように遥が叫んだが、それにも動じず、伊達の手が花の上で小さく動いた。
「ひどいよ!伊達のおじさんの馬鹿!」
伊達の腕に取りすがるようにして、遥が叫ぶ。
「安心しろ、遥?」
「……伊達のおじさん……?」
「摘んじゃいねぇよ」
ほら、と開いた伊達の掌には直径1センチ程の黒い粒がひとつ、乗っていた。
「これ、なに?」
「ああ、こりゃ種だ」
「種……?」
「見てろよ、遥」
伊達はその種を口元に持ってゆくと、それを奥歯の横でがり、と齧った。
遥は伊達のその予想外の行為にただ驚き、それを黙ったまま見詰めている。
伊達が噛み砕いた黒い種子は二つに割れ、その中に白いものが見えた。
その種子を再び掌に戻すと、伊達はその割れ目を指で一層広げた。
「ホラ、見てみろ遥」
「あ……」
伊達は指で、種子の中から出てきた白い粉状のものを指先で擦り取る。
「『おしろい』って知ってるか?」
遥がこくりと頷く。
「女の人が、お化粧に使う…」
「ああ」
今度は伊達が頷いた。
「この花はおしろいばなって言ってな、種の中に白粉の原料が入ってんだ」
「白粉……」
「そうだ。面白いだろ?」
「うん!」
遥は伊達の手から受け取った割れた種をまじまじと見つめた。



「伊達のおじさん!見て、こんなにたくさん」
両手を開いて遥が花から集めた種を見せた。その小さな両手で種は左右に転がる。
「ああ、良かったな」
「いっぱい集めたら、白粉になるね!」
「そうだな」
遥の弾んだ様子に伊達も自然と顔が綻ぶ。やはり遥も年頃の女の子なのだと実感する。
「──けど、遥はそういうもんつけなくてもきっと別嬪になるな」
その言葉に、はにかんだように遥が俯いた。伊達もそんな遥に優しい笑顔を向ける。
遥は伊達を見上げて、その名を呼んだ。
「ん?」
遥の位置まで屈んだ伊達の耳に入った遥の可愛い言葉。
伊達はああ、と頷いた後、もう一度笑った。



数時間後には所用を終えた桐生が戻り、アジトの部屋は3人の笑い声が響いていた。
遥はベッドの上でポケットの中をごそごそと探っている。
チラチラと桐生を見ては、その後、また伊達に視線を移す。
桐生はそんな遥の様子が気になって仕方ないようだった。しきりに遥を気にしている。
「どうかしたか?遥」
「別に!なんでもないよ、ね、伊達のおじさん?」
「ああ」
二人の間に流れる独特の雰囲気に、桐生は僅かに首を捻った。
「伊達さん、ちょっと」
桐生は伊達のシャツの袖を引っ張った。小声で伊達に詰問する。
「んん?」
「あんた、遥に一体何したんだ?」
「何って、何がだよ」
そう桐生に言われてちらりと遥に目をやると、遥は伊達にそっと目を合わせ、楽しそうに笑った。
「目がな」
「目ぇ?」
「ああ…あんたを見る目が、今日はちょっと違うぜ?」
「そうかぁ?」
伊達は至って平然と返事をする。しばらく考えてから、おもむろに口を開いた。
「実はな」
伊達は桐生に耳を寄せると、今日の出来事を簡略に伝えた。桐生の目が大きく見開かれる。
「おい、伊達さん」
やや不機嫌そうに目を細めると、桐生は伊達に顔を近づけて声を絞り出す。
「遥には、まだそういうのは早いんじゃねぇか?」
その、いかにもふて腐れた様子に伊達がクッ、と笑う。
「妬くな妬くな」
「……そんなんじゃねぇけどよ」
短い髪を掻きながらも、桐生は呻いた。
それから間を置かずに、桐生は再び伊達を横目で見つつ、伊達に聞こえるくらいの小声で呟く。
「……あんた、結構手ェ早いよな」
「だから、何がだよ!」
桐生がいやに絡んでくるのに閉口した伊達は、チッと舌打ちをした。
「遥の気も知らねぇで」
「何だ?そりゃどういうことだ、伊達さん?」
「さぁ」
肩を竦め、とぼけた様に伊達が返事をする。


『おじさんに、白粉つけたら見せてあげようかな…』


あの時、遥の可愛らしい言葉が伊達の耳元で囁かれたのだ。まるで秘密の言葉のように。
「伊達さん!」
「刑事にゃ、守秘義務ってのがあってな」
伊達はこの話はここで終わりとばかりに胸ポケットから煙草を取り出し、そっと咥えた。






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