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「おじさん、本当にいいの?」
遥が、少し心配そうに自分を見上げていた。携帯電話の機種変更と新規契約。変更は桐生のもの。新規は遥のもの。カウンターに並んで座り、奥で契約のために動いている店員を前に、桐生は遥の髪を撫でた。
「ああ。遥も携帯があった方が便利だろう?」
「そうだけど、本当にいいの?」
「持っててくれ。その方が俺が安心できるからな」
そういえば遥は、うん、と頷いた。その笑顔に、桐生は内心ため息をついた。

それは、昨晩の事だった。週末、仕事を終えて戻ってきた桐生が一服していたところに、大阪から電話がかかってきた。ディスプレイに出る番号に、桐生は嫌なものを覚えたが、通話ボタンを押した。
「龍司か?」
台所にいる遥に聞こえないように小さく言えば、電話の向こうの相手は陽気に
『そうや。オッサン、元気かあ?』
能天気さに思わずため息をついて、桐生は低く問う。
「用件は何だ?」
『ちょっと、遥と代わってくれや』
「断る」
殆ど脊髄反射で桐生は答えた。自分でも何故そう言ったのかわからなかった。だが、電話の向こうでは
『そう言わんと。なあ、遥と代わってえな』
「用件を言え」
『オッサンがウチの妹と遊んでる間に、ワシが遥を守ってやるさかい、話くらいさせてくれてもええやろ?』
そういわれると、前回預けた手前、無碍に断れない。桐生は龍司に聞こえるくらい大きくため息をつき、
「わかった。待ってろ」
携帯を保留にすると、台所に立つ遥を呼んだ。
「おじさん、なに?」
可愛らしいブルーのエプロンをつけた遥は、手を拭きながら居間に来た。桐生はムッとしたまま携帯電話を差し出し、
「龍司からだ。話がしたいそうだ」
「え、お兄ちゃんから?」
ぱあっと笑顔になる遥に、桐生はますますムッとした。恐らく表情を隠しきれていないだろう。しかし、遥はそんな事に気付かないのか、嬉しそうに電話に出た。
「あ、お兄ちゃん?遥です」
そういいながら、頬を紅く染めつつ遥が台所に移動する。
「うん・・・ホント?・・・楽しそうだね!」
桐生が聞き耳を立てるなか、遥の嬉しそうな声が響く。
「うん・・・私が?うーん。やっぱり、富士急ハイランドかな・・・フジヤマ乗れないの?じゃあやめようかな・・・」
その声を聞きつつ、桐生はだんだんイライラしてきた。タバコに火をつけて落ち着こうと思うが、どうしても引き戸の向こうの遥の会話が気になって、すぐに消してビールを飲む。
「お兄ちゃんは?・・・私、それでもいいよ?一回しか行ったことないから・・・うん。じゃあ、約束ね。おやすみなさい」
ようやっと話し終えた遥が居間に帰ってきた。桐生に携帯を差し出して
「お兄ちゃんがお話ししたいって」
桐生は無言で受け取った。
「まだ何かあるのか?」
強烈な刺のある言い方になってしまったが、電話の向こうの龍司は飄々と
『オッサン、そんなツンケンすんなや。遥が大事なのはわかるけどな』
「何だと?」
『ワシなら、遥の事、大切にするで?』
「・・・そういう問題じゃねえだろう」
呆れたように桐生が言うと、電話の向こうの声は一つ笑い、
『そんじゃ、オヤスミ、お・と・う・さ・ん』
プチっと音がして電話が切れた。瞬間、桐生は携帯電話を壁に叩きつけた。ガシャンと金属の壊れる音がして、携帯電話は真っ二つに折れ、床に転がった。
「おじさん!」
驚いた遥が叫ぶ。その声に、桐生はハッと我に返った。
「あ・・・」
視線の先で、遥が壊れた携帯電話を拾っている。
「おじさん、どうしたの?お兄ちゃんに何か言われたの?」
「・・・龍司にからかわれただけだ。驚かせてすまなかったな」
桐生は、安心させようと笑顔を見せたつもりだった。だが、それはうまくいかなかった。遥が心配そうな顔で見つめてくる。その視線から逃れるように桐生はタバコに火をつけて
「遥にも、携帯が必要だな。明日買いに行くか」
「え、でも・・・」
遥が口ごもる。だが、桐生はもう龍司からの電話を取りたくなかった。その度にあんな事を言われてはたまらない。
「俺が持たせたいんだ。携帯も買いなおさなきゃいけないしな」
「・・・うん」
遥は小さく頷いた。

携帯の入った箱をを手にして、遥は嬉しそうに道を歩く。
「ふふふ。携帯買ったの、みんなに教えなくちゃ」
輝くような笑顔に桐生はホッとする。だが、次に遥から出た言葉にビクッとなった。
「ひなちゃんと、けいちゃんと、あとりゅうちゃんにも」
「・・・リュウチャン?」
瞬間的に、不敵に笑う龍司を思い出し眉間に皺を寄せる。
「うん。クラスの劉ちゃん。この間写真見せたジャン」
「あ、ああ。その子か」
桐生は思わず苦笑した。龍司からの電話を直通するために買い与えたのに、龍司から電話がかかってきたら嫌だと思う自分は矛盾している。『遥に彼氏が出来たら、酔っ払って暴れるだろう』との龍司の予測は、以外と外れていないのかもしれない。
しかし、と桐生は考え直した。自分は、遥を真っ当に育てていかねばならない。遥には、普通に学校を出て、普通に就職して、普通に結婚して、普通の幸せを掴んでもらわなければ、由美や、錦や、風間の親っさんに申し開きできないではないか。だから、龍司のような極道者がウロウロしているのは良くないのだ。ピリピリして当然だ。
「おじさん。もしかして、お兄ちゃんにヤキモチ焼いてる?」
小首を傾げ、ニコッと笑って言う遥の言葉に、桐生は息を飲んだ。次の言葉が上手く出てこなかった。
「おじさん、大丈夫だよ。龍司お兄ちゃんに番号教えなければいいんでしょ?おじさん、お兄ちゃんから電話かかってくると怒るもんね」
クスクスと笑う表情は、まだまだ子供のもの。
「違うな。心配しているだけだ」
タバコに火をつけて、桐生は答えた。たぶん、本当は遥の言う事が正解だろう。
「私、ずっとおじさんの側にいるからね」
繋ぐ手が、小さく細い。黒く輝く大きな瞳に桐生は微笑み
「ああ。そうしてくれ」
ひとこと、答えた。




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