ギルティギア~メイの野望~ 第一話
作:奈須野雪葉
『第一話 金色の友情』
とある海賊団に、メイと言う少女がいた。
彼女は『ジョニー』という男性が大好きで、その行動パターンの殆どが、彼に対する求愛行動で出来ている。
というわけで、今回突如としてジョニーを惑わす(と言っても半分はジョニー自身の所為だが)女性達を倒そうと考えた。
候補としては
オカマなブリジット
綺麗な足を持つジャム
大きな胸を持つバイケン
自由な髪型なミリア
そして際どいコスチュームなディズィー
(全てメイ談)
の5人が当てられる。
いくらなんでも一人で5人を倒すのは辛いという事で、メイは明鏡止水にでも目覚めたかのようにゴールドキャラに変化している。
本人曰く『これでボクもお高い女』とか言ってたらしいが…。
『というわけで勝負よディズィー!』
メイは早速、一番近い所(というか同じ所)に住んでいるディズィーに、戦闘を仕掛ける。
『……展開早くないですか?』
『そんな事はどうでも良いの!』
『良くないです!
……でも、たまには悪くないですね…』
何故か乗り気のディズィー。
最もメイもディズィーも遊びのつもりで、ウォーミングアップのつもりだった。
海賊船の中で、メイとディズィーは激戦を繰り広げた。
ディズィーの魚を取る時に使うアレにかなり苦戦しながらも、メイは何とか隙を作る
『今だよ!!メーイ・ダイナミーック!!』
メイが上空に舞い上がる。
不意を付いた攻撃だが、ディズィーは咄嗟に見切った。
元々普段から一緒に住んでいるだけあり、彼女の行動パターンはかなり把握していた。
『このタイミングだと…、後ろに飛べば!!』
衝撃波による刺激が少しだけあるが、直撃よりは遥かにマシ…。
ディズィーはそう判断し、バックステップを踏んだ。
『あー、当たるかと思ったのに~!』
メイが空中で叫ぶ。
この時点で、メイはこの技の失敗を確信した。
この後どう立ち回るか思考している内に、メイが地面に激突する。
そして、衝撃波がディズィーを襲う。
ディズィーはそれを、ネクロを使ってガードする。
その後はメイが大っ嫌いな『魚を取る時に使っていた』氷で追い討ちをかけるつもりだった。
衝撃波に、何か小さな針が突き刺さるような感触を、ディズィーは感じていた。
だが、ディズィーは気にしなかった。
ディズィーが、例の氷のスタンバイを始めようと、手を動かそうとした時だった。
(……手が動かない?)
手だけでは無い。ディズィーの体全体の動きが、封じられている。
(…どうして?)
どうにかして今のポーズを解除しようと、四肢を動かそうと試みるも
体は自分の物では無いみたいに、行動してくれない。
そしてディズィーは、気付いた。
…いや、気付いてしまったと言った方が正しいか?
(…金!?)
それは、今のメイと、同じ色をしていた。
白い服に現れた金色の斑点。
その斑点が…、全身に現れている事を。
『さっきは外したけど…、もう一回メイ・ダイナミーック!』
メイが再び、例の飛び込み技を開始する。
ディズィーが動けないことには気付いていない。
そして、ディズィーに対して、メイの技がダイレクトに命中し
…ディズィーはかなり派手に吹っ飛んだ。
『あぁ~!!やりすぎた~!!!
大丈夫!?、ディズィー!!』
武器であるイカリを放り投げて、ディズィーの方に走るメイ。
ディズィーは足をピンと立てて、ゴミ捨て場に頭から突っ込んでた。
メイはそんなディズィーを見て、少し不安がる
『……金色?』
ディズィーの足が、金色に染まっていた。
『…と、とりあえず
引っこ抜くよ!!』
『……ん~、お…重い……』
イカリを片手で持ち上げるメイがそういうのだから、かなりの重さなのだろう。
『ディズィーってこんなに重かったっけ?』
メイがつい言葉にしてしまう、女性には非常に禁句な言葉。
しかし、足が金色のディズィーは、全く反応しない。
そして、メイがディズィーを引っこ抜いたとき、衝撃の事実が判明した。
『……ん?』
汗を拭ったメイが、気付いた。
『…ディズィー?ゴールドキャラになるのは良いけど、何固まってるの?』
足をゴンゴンと叩きながら、話掛ける。
しかし、反応が無い。
『……、まさか、ボクが本気出しちゃったから怒ってる?』
でも、それだとしたらネクロ辺りが…とメイが考えていた時だった。
先程のディズィー引き抜き時に開いた本の内容が、メイの目に入った。
そこには、こう書かれている。
『エルダ・タルー○』
『…これは違うでしょ』
何が違うのかは不明だが、もう一冊の本も、メイは見る。
『金色の体を手に入れたものは、相手を金にする、ミダスの力を手に入れられる』と。
メイが青ざめる。
うつぶせ状態で、何かに耐えた表情で倒れている、金色の妹分。
『…ミダスって…触った物を全部金にしちゃう手の事?』
メイが、ディズィーの体を恐る恐る触る。
彼女の体は…、金と同じくらい、硬くなっていた……。
『それじゃ、ディズィーを元に戻す方法を探す旅に出かけてきま~す!!』
快賊団の皆に送られて、ディズィーは旅を始めた。
金色の体に、金色のディズィー。
『御免ねディズィー、でも、これからはお詫びとして、愛用のイカリの代わりに武器にしてあげる』
それは逆効果ではと思う事も無いまま、メイは、金化したディズィーを、肩に担いだ。
そのディズィーは純度の高い金の体のまま…、眠っていた……。
メイは元気だった。
ゴールドキャラなメイは、途轍もなく、意味も無く、元気だった。
森の中、左肩に友達の金像を担いで、特徴的な足音を立てながら、メイはとりあえず、元気に歩いている。
『とりあえず、ディズィーはあのハゲ医者に任せるとして……』
メイはハゲを極度に嫌っているが、友達の命には変えられない。
しかし、そのハゲは患者を求めて常に放浪しているので、あえる可能性は非常に低いのだが
メイはそんな事は思っていなかった。
理由は簡単で、しょっちゅう出会っているからだ。
ディズィーの事は一先ず解決した所で、メイは再び歩き出した。
鼻歌をうたいながら。
その歌は、少し下手だったが、別に誰に聞かせるわけでもないので気にしていなかった。
と、そこに、ヨーヨーが飛んでくる。
『……!!』
メイはいつものくせで武器で防御する。
友達の綺麗な顔にヨーヨーが激突したのは、持ち主が『しまったぁ~』と嘆いた後だった。
『御免ディズィー!後でボク愛用のジョニーの写真あげるから!』
咄嗟の事とはいえ、盾代わりにした友達に、メイは謝った。
幸いにも傷は無かったが…。
『そのヨーヨー使いは、ブリジット!!』
『やっほー、メイ~』
『何が『やっほー』かこのおじゃ○丸!オカマ!』
不意打ちをしてきた『見かけは少女、頭脳は少年』な男に、メイが悪口を言う。
彼女と形容したくなる容姿を持つ、彼の名前は、ブリジット。
『そういえば旅の目的はジョニーを誑かす女性とかオカマとかを倒す事だったんだ!
というわけで覚悟しなさいブリジット!!』
メイが斧…じゃなくてディズィーを構えながら、ブリジットに突撃する。
ブリジットはその突撃を見切り、最低限の動きで避けた後。
『隙だらけ♪』
と、喜びながらヨーヨーをメイに飛ばす。
『何の!!』
メイはそのヨーヨーを足で蹴飛ばし、持ち主の元に返す。
『やるじゃない♪』
『全てはジョニーの愛の為よ!!』
メイはそういいながら、ディズィーを振り回す。
大降りながらも当たれば重い。
ブリジットのような小柄な体なら、一発当たるだけでも致命傷だろう。
ブリジットのような技で攻めるタイプにとって、メイの様な猪突猛進力押しタイプはかなり愛称が悪い。
とはいえ、それはメイも同じである。
リーチの短さ(それはディズィーの身長の低さだとか言っているが)と、隙の多さ。
その弱点を、ブリジットは確実に突いてくる。
小技タイプは、力押しタイプが一番の苦手とするタイプだ。
『こうなりゃ…アレしかない!』
メイの目が、光った感じがした。
そして、ディズィーを武器に変えた、あの技を使う。
『メーイ・ダイナミーック!!』
メイが、上空に飛びあがる。
そして、地面に向かって思いっきり突っ込んだ。
その時に生じた衝撃波が、ブリジットを襲う。
森の中。
少女の格好をした少年は、悔しがっていた。
とはいえ、表情は『不意を付かれて驚いている』と言った感じだが。
現地の子供達と動物が、自分を興味深々に見つめている。
中には自分に触れる子供もいる。
イタチのような動物など、自分の首に巻きついてくる。
ブリジットは確かにオカマだが、外見上は『普通の少女』にしか見えない。
少なくとも、子供に指差されて『アレ何~』と言われるほどではない。そういうのはアンジの仕事だ。
しかし、現に今、ブリジットは注目を浴びている。
理由?そんなもの、一言でカタがつく。
ブリジットという少年は、金像になっていた。
あのメイ・ダイナミック(というよりはただの上空からの突撃なのだが)によって生じた衝撃波が、ブリジットを襲う。
ブリジット自身は、衝撃波自体ではどうにもならない、と思ったのだろう。
事実、衝撃波の『ダメージ自体』は無かった。
アレは、後から来る『衝撃波』だった事を、ブリジットは体が動かなくなったときに、感じた。
今の彼は、人間ではない。
子供達と動物達の憩いの場に作られた、金の像である。
糸すらも金に摩り替わったヨーヨー。
もう、表情を変える事の無い、ロジャー。
そして……、金色の肌を持つ、少女のような少年。
ブリジットは悔しさと悲しさをこめて、その場所に突っ立っている。
『これで、ブリジットは撃破…っと』
指を咥えながら、メイが呟いた。
『これで、ジョニーの愛に一歩近づいたわね!』
そして、いきなりハイテンションになり、座っていた岩から飛び跳ねる。
メイは元気だった。
ゴールドキャラなメイは、途轍もなく、意味も無く、元気だった。
森の中、左肩に友達の金像を担いで、特徴的な足音を立てながら、メイはとりあえず、元気に歩いている。
メイはとりあえず、元気に歩いていた。
夏は暑いのは常識である。
いや、確かに夏が寒い地域もあるのだが、ゴールドメイの脳には、夏と言うものは暑いものだとインプットされている。
夏の街中。
ビルが立ち並ぶ街の中を、メイは歩いていた。
『というか暑い』
何が『というか』なのかは不明だが、メイは本日実に73回目となるこの台詞を呟く。
まぁ確かに計算上途轍もなく重くなる元親友現在金像をずっと担いでいるわけで、いくら怪力の持ち主のメイでもこれは辛い。
メイの体力は既に風前の灯。
今は持ち前の根性値で辛うじて持っているという所だ。
ので、出会った敵は一撃必殺もとい、一撃必固を心がけなければならない。
何せ向こうのP一発で死亡しそうな体力だ。
ゲージを見ても、そこに残りがあるのか疑われても反論できない状態である。
『というか暑い』
イルカさんを使えばいいかと思うが、あの水飛沫はデモンストレーションだ。
『でも…、これもジョニーの為……』
汗を垂らしながら、メイは歩いていた。
『おい!』
『げ……、その声は…』
一番最初は声が似ているとか言われたその声。
今でこそ違うが、最初の方は似ていたらしい。
『……ガキ…何してやがる…』
梅喧。
隻眼隻腕の剣士で、とりあえず強い。
ジョニー程じゃ無いが、強い(メイの主観)
『あのー…えーっと…』
暑さと唐突な状況変化の所為で、少々頭が混乱気味のゴールドメイ。
そんなメイが担いでいたのは…、『ギア』と呼ばれる少女だった。
『……』
梅喧がディズィーを見つめる。
そして…
『このギアを使って…何をする気だ!?』
『え?』
『問答無用!ブッ殺す!!』
刀を抜く。
そして、言葉通り問答無用な斬りを見せる。
メイはそれを何とかかわすが、体力は殆ど無い。
必殺じゃなくて必固のメイ・ダイナミック…と考えていたが、恐らく無理だ。
疲れて飛べません。
以上、メイの主張。
この娘…、恐らくサバイバルで生き残るのは無理だと思う。
まぁ今はいつもの武器の数十倍重い得物(金化したディズィー)を武器にしているため、疲労も増えるのだが。
とはいえ、流石にこのままでは殺される。
無理して飛ぶか…?いや、それだと相打ちの可能性が否定できない。
ディズィーを渡せば見逃してもらえるとも一瞬考えたが、仲間を売る事など出来ない。
そして、そんな事を一瞬でも考えてしまった自分を、心の中で責めた。
と、言うわけで、梅喧の容赦も遠慮も無い攻撃を避けながら考える。
とはいえ、メイの戦法は基本的に『力押し』だ。
そんな彼女の考える事も、その戦法に似た感じである。
『当たって砕けろぉ!!』
そう叫びながら、ジョニー愛の少女は、空高く飛びあがる。
メイ・ダイナミック。
その衝撃波に触れたものは、全て金に変えられるという謎の設定を持った、ゴールドメイ必殺技。
『おせぇよ!!』
だが、梅喧は見切っていた。
彼女が後ろに、大ジャンプをする。
『えっ!!』
空中でメイが叫び、そして地面に激突する。
頭から地面に付き刺さったディズィーの、足の上。
メイはそこで、一瞬落ち込んだ。
『おしかったねぇ…、じゃあ褒美と行こうか!』
梅喧がそう叫び、刀を構える。
『…くっ!』
メイは何とかして、それを避ける。
しかし親友の体重と太陽の悪戯によって体力を消耗させていたメイ。
その動きも非常に遅かった。
交わしたと思ったのが、刹那、血が吹き出る。
噴水のように、右手から血が大量に出た。
(……これじゃ、イカリもロクに振るえないじゃない…)
イカリというかディズィーだが。
ディズィーを引き摺りながら走るも…限界に近い。というか限界。
メイの行動を嘲笑うかのように、梅喧が目の前に現れた。
『…とどめと行こうじゃないか
…手前ェが『それ』を渡してくれるのなら話は別だがな』
ディズィーを指差して梅喧が言うが、メイはその質問に高速で答えなおした。
『絶対嫌!』
死ぬかもしれない状況で、メイが叫ぶ。
『これでもくらえ!!』
そして、…最後の抵抗のつもりで、メイはそこにあったドラム缶を投げつけた。
ドラム缶の中に入っていたのは、液体窒素と呼ばれるものだった。
梅喧はそれを知っていた。
その液体を被るだけで、凍りつく。
そのドラム缶を斬った時、彼女は後悔した。
『何…だと……』
動きを止めた。
だが、そのまま梅喧が動く事は無い。
自分の体が凍りつく。
体中が一瞬にして冷やされる感覚を感じながら、梅喧は意識を失った。
そして…、体がカチンコチンに凍り付き、ツララが生まれた。
『ん……』
メイが目を覚ます。
一瞬何が起こったか良く解らないが、意識がハッキリしていくうちに、こんな思考が生まれた。
(ああ…、ボクはジョニーを手に入れる事無く死んじゃったのね…
お父さんお母さん、こんばんはー)
だが、目の前の視界がはっきりしていくうちに、その思考は否定しなければなってくる。
『…アレ?』
惚けた声。
そこに、確かに梅喧がいた。
刀を高々と上げ、今にも斬りかかりそうな表情をした。
その梅喧の姿に一瞬ビクッとするが…、すぐに無駄なことだと解った。
梅喧はそのまま、凍っていたのである。
青白い膜が、彼女の身体を支配していた。
氷が彼女の体を全て拘束している。
その拘束された体を自力で動かすのは、非常に困難なことだろう。
一目で、彼女が冷凍されている事が解った。
体中の至る所から、ツララが垂れ下がっている。
どうやらあのドラム缶の中には、液体窒素が入っていたらしい。
氷漬けの剣士。
その剣士がもたらす冷気と、望まずとも取った休息。
『メイ、復活~!』
先程死にかけていた少女とは思えない声で、彼女は叫んだ。
そしてメイは更に進んでいく。
襲いかかってくる人間を、ミダスパワーで金に変えながら。
余談だが、先程外したメイ・ダイナミック。
それで街の人間が何人か金になっているのだが、今のメイには、余り関係の無いことだった。
相変わらずメイは、金の友達を抱いて歩いていた。
ジョニーを惑わす女性達を殺…もとい、動けなくするために
メイは頑張っていた。
ゴールドキャラという裏技を使ったメイは、今の所負け無しである。
いや、実際のゲームではこれを使っても某牛乳嫌いのギタリスト(ボスモード)に負けたりするのだが
とにかく、今の所は負け無しである。
『さてー、次はあの本当に料理人か疑問な人でもー』
と独り言を呟いきながら歩いている少女。
彼女の前に女っぽい男が現われたのは、その言葉を言ってから余り時間は立っていなかった。
『あーブリジットー!』
メイが少年の名前を大声で叫んだ。
『あ、メイさん!』
向こうも、少女の名前を叫ぶ。
『アレー、でも、ブリジットは確かボクが金にしたはずなんだけどなー』
『ああ、アレですか?アレはうちの偽者ですよ』
『偽者?…そういえば口調が少し違ったような…』
『最近多いらしいですので偽者、気を付けてくださいね』
一通り会話した後、メイとブリジットは別れた。
途中、『ブリジットって本当に男なのかな?』という疑問がメイの頭に浮かんだが
その事実は、歴史の闇に埋葬されていた。
『しかし偽者か…、でも、ボクの偽者になって何をする気だろう』
メイが再び独り言を開始する。
否、本人はもしかしたらディズィーに話しかけているのかもしれないが、残念ながら彼女は意識不明である。
差し詰め彼女は、道端の人形に話しかける少女のようなものだろうか?
そしてそんなロマンチックな少女は加速する。
『はっ!もしかして……』
恋する乙女特有の妄想が始まった。
『ボクに化けてジョニーに近づこうと……そんな事はさせないんだから、ジョニーはボクが守る!!』
ジョニーに近づくならグラマーな20代の女性に化けるのが一番だと思われるのだが
今のメイにそんな考えは存在しなかった。
そしてメイは、ジョニーに近づく悪女を固める作戦から
自分の偽者討伐に、目的を切り替えたのだった。
因みに、既にディズィーの事は頭に無かった。
この時のメイにとって、ディズィーは『ていの良い武器』にしか思われていないだろう。
テスタメントや育ての親が見たら無いていたところだ。
余談だが、某紙忍者の師匠は常に泣いていると思う。
相変わらず個性的…と言うよりは某医者と似ている足音を立てながら
メイは走っていた。
見つけるのは自分の偽者。
『早く倒さないとジョニーが奪われるわ』
という誇張気味の事を思いながら、メイは走っている。
探し続ける事2時間くらいで、ターゲットは発見できた。
それは確かに、メイの偽者だった。
髪の毛は灰色で服は紫だったが、明らかにそれは『メイ』だった。
『見つけたよ!僕の偽者!!』
後ろから錨のつもりで、黄金のディズィーを振り下ろす。
その事をとっさに感じ取った『偽者』は、叫んだ。
『な…何よ!君こそ僕の偽者じゃないの!?
錨じゃないしキンピカだし!』
そしてその台詞の間に回避行動を終了し、そのままこちらの隙を付こうと錨を回す。
金メイはそれに反応し、させまいとミストファイナーを繰り出そうとした。
ミストファイナーと言ってもジョニーのそれとは運泥の差だが、それでも敵の牽制には使える。
偽者…と思われるメイはミストファイナーを防ぐことができずに、ハートの霧をもろに食らってしまった。
この時点で、この偽者の運命は決まった。
金という物質に身体を支配され、意識ですら金色に染まり
動かない金の像になるという運命が。
ミストファイナーで体制を崩した偽者を、本物は見逃さなかった。
メイは上空に舞い上がり、あの技を出す。
かつて、ギアとのハーフであり、全身要塞とまで称されたディズィーを金像に変え
偽者とは言え、ブリジットを金に仕立て上げた技。
メイ・ダイナミック。
その衝撃波に巻き込まれたものはミダスの呪いにより、金と化す。
それは偽者のメイですら、変わりない。
既に、声を上げることはできなかった。
メイがディズィーを一振りし、肩に掲げる。
『へっへ~ん、余裕だね~♪』
嬉しそうに言う少女の下に、泣いている少女がいる。
手を見たら金色。
足を見たら金色。
これは紛れもなく自分の肌だが、その肌は人間の色をしていない。
『な…何よこれ~!』
偽者がそう叫んだつもりになった。
無論、現在は、その口さえも金に包まれている。
『でも、自分で自分を金にしたみたいで複雑だなー』
自分の形をした金の像。
メイはそれを見て、呟いた。
輝いた体は、人々を魅了する事ができる。
金色の体には、その能力は十分備わっていた。
正直に言う。メイは、メイに魅入っていた。
金色のメイは、何故か、金色のメイに魅入っていた。
『……もしかして…』
こんなに綺麗になれたら、ジョニーもボクに……。
少しだけ思ったその思考が…一つの過ちを呼んだ。
メイは深呼吸の後、自分に向けて、ディズィーをぶつけた。
渾身の力を込めたメイダイナミックの如く、自分の腹に。
メイは其処にいた。
メイは自分の船の倉庫に、ディズィーと一緒に居た。
メイは金の眠りに付いたまま、ジョニーを待つ。
既にジョニーに見つけられ、回収されたことも知らずに、ジョニーを待つ。
金色の少女は、待っていた。
この後、某長身の医者に治療されるまで、メイは金である。
愛する男の夢を見ながら、メイは金の眠りを受け入れていた。
なお、メイやブリジットの偽者は…俗に言う『同キャラ対決』という事で処理してもらいたい。
終わり
作:奈須野雪葉
『第一話 金色の友情』
とある海賊団に、メイと言う少女がいた。
彼女は『ジョニー』という男性が大好きで、その行動パターンの殆どが、彼に対する求愛行動で出来ている。
というわけで、今回突如としてジョニーを惑わす(と言っても半分はジョニー自身の所為だが)女性達を倒そうと考えた。
候補としては
オカマなブリジット
綺麗な足を持つジャム
大きな胸を持つバイケン
自由な髪型なミリア
そして際どいコスチュームなディズィー
(全てメイ談)
の5人が当てられる。
いくらなんでも一人で5人を倒すのは辛いという事で、メイは明鏡止水にでも目覚めたかのようにゴールドキャラに変化している。
本人曰く『これでボクもお高い女』とか言ってたらしいが…。
『というわけで勝負よディズィー!』
メイは早速、一番近い所(というか同じ所)に住んでいるディズィーに、戦闘を仕掛ける。
『……展開早くないですか?』
『そんな事はどうでも良いの!』
『良くないです!
……でも、たまには悪くないですね…』
何故か乗り気のディズィー。
最もメイもディズィーも遊びのつもりで、ウォーミングアップのつもりだった。
海賊船の中で、メイとディズィーは激戦を繰り広げた。
ディズィーの魚を取る時に使うアレにかなり苦戦しながらも、メイは何とか隙を作る
『今だよ!!メーイ・ダイナミーック!!』
メイが上空に舞い上がる。
不意を付いた攻撃だが、ディズィーは咄嗟に見切った。
元々普段から一緒に住んでいるだけあり、彼女の行動パターンはかなり把握していた。
『このタイミングだと…、後ろに飛べば!!』
衝撃波による刺激が少しだけあるが、直撃よりは遥かにマシ…。
ディズィーはそう判断し、バックステップを踏んだ。
『あー、当たるかと思ったのに~!』
メイが空中で叫ぶ。
この時点で、メイはこの技の失敗を確信した。
この後どう立ち回るか思考している内に、メイが地面に激突する。
そして、衝撃波がディズィーを襲う。
ディズィーはそれを、ネクロを使ってガードする。
その後はメイが大っ嫌いな『魚を取る時に使っていた』氷で追い討ちをかけるつもりだった。
衝撃波に、何か小さな針が突き刺さるような感触を、ディズィーは感じていた。
だが、ディズィーは気にしなかった。
ディズィーが、例の氷のスタンバイを始めようと、手を動かそうとした時だった。
(……手が動かない?)
手だけでは無い。ディズィーの体全体の動きが、封じられている。
(…どうして?)
どうにかして今のポーズを解除しようと、四肢を動かそうと試みるも
体は自分の物では無いみたいに、行動してくれない。
そしてディズィーは、気付いた。
…いや、気付いてしまったと言った方が正しいか?
(…金!?)
それは、今のメイと、同じ色をしていた。
白い服に現れた金色の斑点。
その斑点が…、全身に現れている事を。
『さっきは外したけど…、もう一回メイ・ダイナミーック!』
メイが再び、例の飛び込み技を開始する。
ディズィーが動けないことには気付いていない。
そして、ディズィーに対して、メイの技がダイレクトに命中し
…ディズィーはかなり派手に吹っ飛んだ。
『あぁ~!!やりすぎた~!!!
大丈夫!?、ディズィー!!』
武器であるイカリを放り投げて、ディズィーの方に走るメイ。
ディズィーは足をピンと立てて、ゴミ捨て場に頭から突っ込んでた。
メイはそんなディズィーを見て、少し不安がる
『……金色?』
ディズィーの足が、金色に染まっていた。
『…と、とりあえず
引っこ抜くよ!!』
『……ん~、お…重い……』
イカリを片手で持ち上げるメイがそういうのだから、かなりの重さなのだろう。
『ディズィーってこんなに重かったっけ?』
メイがつい言葉にしてしまう、女性には非常に禁句な言葉。
しかし、足が金色のディズィーは、全く反応しない。
そして、メイがディズィーを引っこ抜いたとき、衝撃の事実が判明した。
『……ん?』
汗を拭ったメイが、気付いた。
『…ディズィー?ゴールドキャラになるのは良いけど、何固まってるの?』
足をゴンゴンと叩きながら、話掛ける。
しかし、反応が無い。
『……、まさか、ボクが本気出しちゃったから怒ってる?』
でも、それだとしたらネクロ辺りが…とメイが考えていた時だった。
先程のディズィー引き抜き時に開いた本の内容が、メイの目に入った。
そこには、こう書かれている。
『エルダ・タルー○』
『…これは違うでしょ』
何が違うのかは不明だが、もう一冊の本も、メイは見る。
『金色の体を手に入れたものは、相手を金にする、ミダスの力を手に入れられる』と。
メイが青ざめる。
うつぶせ状態で、何かに耐えた表情で倒れている、金色の妹分。
『…ミダスって…触った物を全部金にしちゃう手の事?』
メイが、ディズィーの体を恐る恐る触る。
彼女の体は…、金と同じくらい、硬くなっていた……。
『それじゃ、ディズィーを元に戻す方法を探す旅に出かけてきま~す!!』
快賊団の皆に送られて、ディズィーは旅を始めた。
金色の体に、金色のディズィー。
『御免ねディズィー、でも、これからはお詫びとして、愛用のイカリの代わりに武器にしてあげる』
それは逆効果ではと思う事も無いまま、メイは、金化したディズィーを、肩に担いだ。
そのディズィーは純度の高い金の体のまま…、眠っていた……。
メイは元気だった。
ゴールドキャラなメイは、途轍もなく、意味も無く、元気だった。
森の中、左肩に友達の金像を担いで、特徴的な足音を立てながら、メイはとりあえず、元気に歩いている。
『とりあえず、ディズィーはあのハゲ医者に任せるとして……』
メイはハゲを極度に嫌っているが、友達の命には変えられない。
しかし、そのハゲは患者を求めて常に放浪しているので、あえる可能性は非常に低いのだが
メイはそんな事は思っていなかった。
理由は簡単で、しょっちゅう出会っているからだ。
ディズィーの事は一先ず解決した所で、メイは再び歩き出した。
鼻歌をうたいながら。
その歌は、少し下手だったが、別に誰に聞かせるわけでもないので気にしていなかった。
と、そこに、ヨーヨーが飛んでくる。
『……!!』
メイはいつものくせで武器で防御する。
友達の綺麗な顔にヨーヨーが激突したのは、持ち主が『しまったぁ~』と嘆いた後だった。
『御免ディズィー!後でボク愛用のジョニーの写真あげるから!』
咄嗟の事とはいえ、盾代わりにした友達に、メイは謝った。
幸いにも傷は無かったが…。
『そのヨーヨー使いは、ブリジット!!』
『やっほー、メイ~』
『何が『やっほー』かこのおじゃ○丸!オカマ!』
不意打ちをしてきた『見かけは少女、頭脳は少年』な男に、メイが悪口を言う。
彼女と形容したくなる容姿を持つ、彼の名前は、ブリジット。
『そういえば旅の目的はジョニーを誑かす女性とかオカマとかを倒す事だったんだ!
というわけで覚悟しなさいブリジット!!』
メイが斧…じゃなくてディズィーを構えながら、ブリジットに突撃する。
ブリジットはその突撃を見切り、最低限の動きで避けた後。
『隙だらけ♪』
と、喜びながらヨーヨーをメイに飛ばす。
『何の!!』
メイはそのヨーヨーを足で蹴飛ばし、持ち主の元に返す。
『やるじゃない♪』
『全てはジョニーの愛の為よ!!』
メイはそういいながら、ディズィーを振り回す。
大降りながらも当たれば重い。
ブリジットのような小柄な体なら、一発当たるだけでも致命傷だろう。
ブリジットのような技で攻めるタイプにとって、メイの様な猪突猛進力押しタイプはかなり愛称が悪い。
とはいえ、それはメイも同じである。
リーチの短さ(それはディズィーの身長の低さだとか言っているが)と、隙の多さ。
その弱点を、ブリジットは確実に突いてくる。
小技タイプは、力押しタイプが一番の苦手とするタイプだ。
『こうなりゃ…アレしかない!』
メイの目が、光った感じがした。
そして、ディズィーを武器に変えた、あの技を使う。
『メーイ・ダイナミーック!!』
メイが、上空に飛びあがる。
そして、地面に向かって思いっきり突っ込んだ。
その時に生じた衝撃波が、ブリジットを襲う。
森の中。
少女の格好をした少年は、悔しがっていた。
とはいえ、表情は『不意を付かれて驚いている』と言った感じだが。
現地の子供達と動物が、自分を興味深々に見つめている。
中には自分に触れる子供もいる。
イタチのような動物など、自分の首に巻きついてくる。
ブリジットは確かにオカマだが、外見上は『普通の少女』にしか見えない。
少なくとも、子供に指差されて『アレ何~』と言われるほどではない。そういうのはアンジの仕事だ。
しかし、現に今、ブリジットは注目を浴びている。
理由?そんなもの、一言でカタがつく。
ブリジットという少年は、金像になっていた。
あのメイ・ダイナミック(というよりはただの上空からの突撃なのだが)によって生じた衝撃波が、ブリジットを襲う。
ブリジット自身は、衝撃波自体ではどうにもならない、と思ったのだろう。
事実、衝撃波の『ダメージ自体』は無かった。
アレは、後から来る『衝撃波』だった事を、ブリジットは体が動かなくなったときに、感じた。
今の彼は、人間ではない。
子供達と動物達の憩いの場に作られた、金の像である。
糸すらも金に摩り替わったヨーヨー。
もう、表情を変える事の無い、ロジャー。
そして……、金色の肌を持つ、少女のような少年。
ブリジットは悔しさと悲しさをこめて、その場所に突っ立っている。
『これで、ブリジットは撃破…っと』
指を咥えながら、メイが呟いた。
『これで、ジョニーの愛に一歩近づいたわね!』
そして、いきなりハイテンションになり、座っていた岩から飛び跳ねる。
メイは元気だった。
ゴールドキャラなメイは、途轍もなく、意味も無く、元気だった。
森の中、左肩に友達の金像を担いで、特徴的な足音を立てながら、メイはとりあえず、元気に歩いている。
メイはとりあえず、元気に歩いていた。
夏は暑いのは常識である。
いや、確かに夏が寒い地域もあるのだが、ゴールドメイの脳には、夏と言うものは暑いものだとインプットされている。
夏の街中。
ビルが立ち並ぶ街の中を、メイは歩いていた。
『というか暑い』
何が『というか』なのかは不明だが、メイは本日実に73回目となるこの台詞を呟く。
まぁ確かに計算上途轍もなく重くなる元親友現在金像をずっと担いでいるわけで、いくら怪力の持ち主のメイでもこれは辛い。
メイの体力は既に風前の灯。
今は持ち前の根性値で辛うじて持っているという所だ。
ので、出会った敵は一撃必殺もとい、一撃必固を心がけなければならない。
何せ向こうのP一発で死亡しそうな体力だ。
ゲージを見ても、そこに残りがあるのか疑われても反論できない状態である。
『というか暑い』
イルカさんを使えばいいかと思うが、あの水飛沫はデモンストレーションだ。
『でも…、これもジョニーの為……』
汗を垂らしながら、メイは歩いていた。
『おい!』
『げ……、その声は…』
一番最初は声が似ているとか言われたその声。
今でこそ違うが、最初の方は似ていたらしい。
『……ガキ…何してやがる…』
梅喧。
隻眼隻腕の剣士で、とりあえず強い。
ジョニー程じゃ無いが、強い(メイの主観)
『あのー…えーっと…』
暑さと唐突な状況変化の所為で、少々頭が混乱気味のゴールドメイ。
そんなメイが担いでいたのは…、『ギア』と呼ばれる少女だった。
『……』
梅喧がディズィーを見つめる。
そして…
『このギアを使って…何をする気だ!?』
『え?』
『問答無用!ブッ殺す!!』
刀を抜く。
そして、言葉通り問答無用な斬りを見せる。
メイはそれを何とかかわすが、体力は殆ど無い。
必殺じゃなくて必固のメイ・ダイナミック…と考えていたが、恐らく無理だ。
疲れて飛べません。
以上、メイの主張。
この娘…、恐らくサバイバルで生き残るのは無理だと思う。
まぁ今はいつもの武器の数十倍重い得物(金化したディズィー)を武器にしているため、疲労も増えるのだが。
とはいえ、流石にこのままでは殺される。
無理して飛ぶか…?いや、それだと相打ちの可能性が否定できない。
ディズィーを渡せば見逃してもらえるとも一瞬考えたが、仲間を売る事など出来ない。
そして、そんな事を一瞬でも考えてしまった自分を、心の中で責めた。
と、言うわけで、梅喧の容赦も遠慮も無い攻撃を避けながら考える。
とはいえ、メイの戦法は基本的に『力押し』だ。
そんな彼女の考える事も、その戦法に似た感じである。
『当たって砕けろぉ!!』
そう叫びながら、ジョニー愛の少女は、空高く飛びあがる。
メイ・ダイナミック。
その衝撃波に触れたものは、全て金に変えられるという謎の設定を持った、ゴールドメイ必殺技。
『おせぇよ!!』
だが、梅喧は見切っていた。
彼女が後ろに、大ジャンプをする。
『えっ!!』
空中でメイが叫び、そして地面に激突する。
頭から地面に付き刺さったディズィーの、足の上。
メイはそこで、一瞬落ち込んだ。
『おしかったねぇ…、じゃあ褒美と行こうか!』
梅喧がそう叫び、刀を構える。
『…くっ!』
メイは何とかして、それを避ける。
しかし親友の体重と太陽の悪戯によって体力を消耗させていたメイ。
その動きも非常に遅かった。
交わしたと思ったのが、刹那、血が吹き出る。
噴水のように、右手から血が大量に出た。
(……これじゃ、イカリもロクに振るえないじゃない…)
イカリというかディズィーだが。
ディズィーを引き摺りながら走るも…限界に近い。というか限界。
メイの行動を嘲笑うかのように、梅喧が目の前に現れた。
『…とどめと行こうじゃないか
…手前ェが『それ』を渡してくれるのなら話は別だがな』
ディズィーを指差して梅喧が言うが、メイはその質問に高速で答えなおした。
『絶対嫌!』
死ぬかもしれない状況で、メイが叫ぶ。
『これでもくらえ!!』
そして、…最後の抵抗のつもりで、メイはそこにあったドラム缶を投げつけた。
ドラム缶の中に入っていたのは、液体窒素と呼ばれるものだった。
梅喧はそれを知っていた。
その液体を被るだけで、凍りつく。
そのドラム缶を斬った時、彼女は後悔した。
『何…だと……』
動きを止めた。
だが、そのまま梅喧が動く事は無い。
自分の体が凍りつく。
体中が一瞬にして冷やされる感覚を感じながら、梅喧は意識を失った。
そして…、体がカチンコチンに凍り付き、ツララが生まれた。
『ん……』
メイが目を覚ます。
一瞬何が起こったか良く解らないが、意識がハッキリしていくうちに、こんな思考が生まれた。
(ああ…、ボクはジョニーを手に入れる事無く死んじゃったのね…
お父さんお母さん、こんばんはー)
だが、目の前の視界がはっきりしていくうちに、その思考は否定しなければなってくる。
『…アレ?』
惚けた声。
そこに、確かに梅喧がいた。
刀を高々と上げ、今にも斬りかかりそうな表情をした。
その梅喧の姿に一瞬ビクッとするが…、すぐに無駄なことだと解った。
梅喧はそのまま、凍っていたのである。
青白い膜が、彼女の身体を支配していた。
氷が彼女の体を全て拘束している。
その拘束された体を自力で動かすのは、非常に困難なことだろう。
一目で、彼女が冷凍されている事が解った。
体中の至る所から、ツララが垂れ下がっている。
どうやらあのドラム缶の中には、液体窒素が入っていたらしい。
氷漬けの剣士。
その剣士がもたらす冷気と、望まずとも取った休息。
『メイ、復活~!』
先程死にかけていた少女とは思えない声で、彼女は叫んだ。
そしてメイは更に進んでいく。
襲いかかってくる人間を、ミダスパワーで金に変えながら。
余談だが、先程外したメイ・ダイナミック。
それで街の人間が何人か金になっているのだが、今のメイには、余り関係の無いことだった。
相変わらずメイは、金の友達を抱いて歩いていた。
ジョニーを惑わす女性達を殺…もとい、動けなくするために
メイは頑張っていた。
ゴールドキャラという裏技を使ったメイは、今の所負け無しである。
いや、実際のゲームではこれを使っても某牛乳嫌いのギタリスト(ボスモード)に負けたりするのだが
とにかく、今の所は負け無しである。
『さてー、次はあの本当に料理人か疑問な人でもー』
と独り言を呟いきながら歩いている少女。
彼女の前に女っぽい男が現われたのは、その言葉を言ってから余り時間は立っていなかった。
『あーブリジットー!』
メイが少年の名前を大声で叫んだ。
『あ、メイさん!』
向こうも、少女の名前を叫ぶ。
『アレー、でも、ブリジットは確かボクが金にしたはずなんだけどなー』
『ああ、アレですか?アレはうちの偽者ですよ』
『偽者?…そういえば口調が少し違ったような…』
『最近多いらしいですので偽者、気を付けてくださいね』
一通り会話した後、メイとブリジットは別れた。
途中、『ブリジットって本当に男なのかな?』という疑問がメイの頭に浮かんだが
その事実は、歴史の闇に埋葬されていた。
『しかし偽者か…、でも、ボクの偽者になって何をする気だろう』
メイが再び独り言を開始する。
否、本人はもしかしたらディズィーに話しかけているのかもしれないが、残念ながら彼女は意識不明である。
差し詰め彼女は、道端の人形に話しかける少女のようなものだろうか?
そしてそんなロマンチックな少女は加速する。
『はっ!もしかして……』
恋する乙女特有の妄想が始まった。
『ボクに化けてジョニーに近づこうと……そんな事はさせないんだから、ジョニーはボクが守る!!』
ジョニーに近づくならグラマーな20代の女性に化けるのが一番だと思われるのだが
今のメイにそんな考えは存在しなかった。
そしてメイは、ジョニーに近づく悪女を固める作戦から
自分の偽者討伐に、目的を切り替えたのだった。
因みに、既にディズィーの事は頭に無かった。
この時のメイにとって、ディズィーは『ていの良い武器』にしか思われていないだろう。
テスタメントや育ての親が見たら無いていたところだ。
余談だが、某紙忍者の師匠は常に泣いていると思う。
相変わらず個性的…と言うよりは某医者と似ている足音を立てながら
メイは走っていた。
見つけるのは自分の偽者。
『早く倒さないとジョニーが奪われるわ』
という誇張気味の事を思いながら、メイは走っている。
探し続ける事2時間くらいで、ターゲットは発見できた。
それは確かに、メイの偽者だった。
髪の毛は灰色で服は紫だったが、明らかにそれは『メイ』だった。
『見つけたよ!僕の偽者!!』
後ろから錨のつもりで、黄金のディズィーを振り下ろす。
その事をとっさに感じ取った『偽者』は、叫んだ。
『な…何よ!君こそ僕の偽者じゃないの!?
錨じゃないしキンピカだし!』
そしてその台詞の間に回避行動を終了し、そのままこちらの隙を付こうと錨を回す。
金メイはそれに反応し、させまいとミストファイナーを繰り出そうとした。
ミストファイナーと言ってもジョニーのそれとは運泥の差だが、それでも敵の牽制には使える。
偽者…と思われるメイはミストファイナーを防ぐことができずに、ハートの霧をもろに食らってしまった。
この時点で、この偽者の運命は決まった。
金という物質に身体を支配され、意識ですら金色に染まり
動かない金の像になるという運命が。
ミストファイナーで体制を崩した偽者を、本物は見逃さなかった。
メイは上空に舞い上がり、あの技を出す。
かつて、ギアとのハーフであり、全身要塞とまで称されたディズィーを金像に変え
偽者とは言え、ブリジットを金に仕立て上げた技。
メイ・ダイナミック。
その衝撃波に巻き込まれたものはミダスの呪いにより、金と化す。
それは偽者のメイですら、変わりない。
既に、声を上げることはできなかった。
メイがディズィーを一振りし、肩に掲げる。
『へっへ~ん、余裕だね~♪』
嬉しそうに言う少女の下に、泣いている少女がいる。
手を見たら金色。
足を見たら金色。
これは紛れもなく自分の肌だが、その肌は人間の色をしていない。
『な…何よこれ~!』
偽者がそう叫んだつもりになった。
無論、現在は、その口さえも金に包まれている。
『でも、自分で自分を金にしたみたいで複雑だなー』
自分の形をした金の像。
メイはそれを見て、呟いた。
輝いた体は、人々を魅了する事ができる。
金色の体には、その能力は十分備わっていた。
正直に言う。メイは、メイに魅入っていた。
金色のメイは、何故か、金色のメイに魅入っていた。
『……もしかして…』
こんなに綺麗になれたら、ジョニーもボクに……。
少しだけ思ったその思考が…一つの過ちを呼んだ。
メイは深呼吸の後、自分に向けて、ディズィーをぶつけた。
渾身の力を込めたメイダイナミックの如く、自分の腹に。
メイは其処にいた。
メイは自分の船の倉庫に、ディズィーと一緒に居た。
メイは金の眠りに付いたまま、ジョニーを待つ。
既にジョニーに見つけられ、回収されたことも知らずに、ジョニーを待つ。
金色の少女は、待っていた。
この後、某長身の医者に治療されるまで、メイは金である。
愛する男の夢を見ながら、メイは金の眠りを受け入れていた。
なお、メイやブリジットの偽者は…俗に言う『同キャラ対決』という事で処理してもらいたい。
終わり
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