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うろほろぞ
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その日はとても麗らかな休日だった。

「カイさん、“オトコの浪漫”って、何?」

突然の乱入者がそんなことを言い出すまでは。

「……………………はい?」

紅茶を優雅にすすり、かくかくと震える手でカップを落とさないように苦労しながらカイは微笑む。その笑顔は僅かに引き攣っていたが。

「と、とりあえず、ご一緒にお茶でもどうですか? メイさん、ブリジットさん」

開いていた茶器のカタログを片付けつつカイは二人に椅子を勧めた。だが二人は、真剣な顔でカイを見つめ続けている。

「…………………事の経緯を、教えていただけますか…?」

あまり乗り気ではない、むしろかかわりたくないのだが、カイは目の前で殺気にも似たものを迸らせている少女たち(片方誤)に負けていた。

「あのね、カイさん……。ジョニーがね…」

だとは思っていた。メイが必死すぎるほどに悲壮な決意を宿すのはただ一人の愛しい人のためである。その暴走は確かに傍から見ていれば微笑ましいのだが。

―――今回はこういうことだ。

出かけるジョニーについて行こうとしたところ、彼はどうしても連れて行ってくれなかったのだと。

行き先を問い詰めたところ、『男の浪漫だ』と不思議な一言だけ残されたそうだ。

(傍迷惑な………)

「それで、ブリジットくんの趣味が“陰で男らしく努めること”だったから、知ってるかなって聞きに来たんだけど………」

可愛らしい少女……の服装をした美少年は、幼さを残す顔に真剣な表情を浮かべてカイをじっと見つめていた。

「お願いです、カイさん! ウチに、“オトコの浪漫”を教えてください!!」

深く頭を下げられ、カイは面食らう。

「……お、男の、浪漫…ですか………?」

幼い頃から今までの自分の生き方を回想し、そのほとんどが戦場で生き抜くことだけに必死になってきたと気付いたカイは困ったように眉を寄せる。

「………どういうものなのでしょう…?」

考え込むカイを前にして、少女(誤)二人はがっくりとため息をついた。

「あ。確か、“一国を獲る”とかいうのも男の浪漫ですよね?」

ちなみにこの男の浪漫、ゲームになる前の初期考のソルの抱いたものだそうだ。

「………一国…」

これ以上ないくらい真剣に顔を見合わせるブリジットとメイに不穏なものを感じ、カイは慌てて取り繕った。

「でも! ヒトそれぞれに浪漫はあるはずですからっ!!」

このままではどこかの国にクジラとクマが進撃しそうだからである。

「「ヒトそれぞれの浪漫……」」

何とか話を逸らしたことにホッと胸を撫で下ろしたカイは、両腕を二人に掴まれてきょとんとした顔をした。

「カイさんも行こうよ♪」

メイがにっこりと笑う。

「オトコの浪漫を探しに☆」

もう片腕はロジャーだ。ブリジットがその後ろで笑んでいる。

そして、ソル一人分の重さがある錨を片手で持ち上げる少女と、巨大なクマさんをカイの細腕で振りほどけるはずもなく。

「私の休日がぁぁぁ~~~~~~」

地面に足をつけることさえままならないままに引っ張っていかれるカイの絶叫のみが響き渡ったのであった。







「………で、何でオレから聞きに来るんだ?」

かなり複雑な顔をして、『オトコの浪漫』なるものを聞かれた女性は固まっていた。

「やっぱりストーリーモードのイメージから言って梅喧さんが一番男らし――――むぐむぐ…」

命知らずなことを言い放とうとしたブリジットの口を手で覆い、カイは青ざめつつ苦笑する。この子達と一緒にいると生命が幾つあっても足りないようだ。

「………浪漫、ねぇ…」

幸い、彼女は聞いていないようだったが。

「まぁ、何だ。“オレより強い奴に会いに行く”ってのも浪漫じゃねぇか?」

やはり一番男らしい意見が返ってきた。

「じゃ、ジョニーは、誰かと戦いに行ったのかな…………」

どうもピンと来ないらしく、メイは眉を寄せる。

「ま、オレの意見だけじゃなく、他のやつらを回ったほうが確実だろうよ」

一献どうだい?とカイに杯を差し出し、梅喧はにやりと笑う。

「いえ。保護者をしなければなりませんので」

丁重に断り、次の人の元へ行こうとするメイとブリジットを慌てて追いかけるカイを見送りつつ、苦労性な生真面目くんの背中に苦笑して彼女は軽く杯を煽った。







「浪漫か………。幸せな家庭と家族があれば他に望むものはないと思うのだが…」

「それ、わかります。独りは寂しいですからね」

テスタメントとディズィーが微笑む。彼女はどうやらこちらに遊びに来ていたようだ。

「浪漫! それは爆破!」

「はい?」

とても犯罪めいた言葉を聞いた気がして、カイは絶句する。

「浪漫! それはアフロ!!」

どなたが言った言葉かとてもわかる気がするが。

「アフロ復活~~!!!!」

なおも楽しげに叫んでいる医師を無視し、三人はその傍らを通り過ぎた。

「アイヤァー♪ 浪漫、つまり夢あるネ☆ 夢ならたくさんアルよ! お店大きくして、いい男もゲットするアル♪ カイ様、ボゥイやらないアルカ?」

“男の浪漫”というか、“夢”よりも、“野望”に近い気がするのだが。

「………お断りさせていただきます」

「残念アル~」

冷や汗を拭ったカイは、次の二人が言おうとしていることに気がつき、慌ててメイの元に走っていく。

「「嫁っっ!!!!」」

お分かりだろう。ザッパとロボカイである。

「………嫁…?」

ちゃきっとメイの手の中で錨が鳴った。

「…ジョニーを殺してボクも死ぬ………」

「――――待って下さい!!!!」

瞳に不穏な光を宿し、唇に微笑みなど浮かべながら呟いたメイを羽交い絞めして必死に止め、カイはこのままでは心中事件に発展しそうな状況を何とか回避しようとする。

「(多分)違いますからっ! そんな相手が居るなら、一番近くに居る貴方が気付かないはずないでしょう?! メイさんっ!!」

パチパチと瞬きをして、何とかメイは正気に戻ってくれたようだった。

「そ、そうだよね……。嫁はその二人の男の浪漫だもんね………」

「ムシロ漢ノ浪漫ト言ウガナ」

その違いはどうもわからないが、とりあえず意図的に無視してカイはおそらく興味ないのだろうソルに視線を向ける。

「………あ?」

怪訝そうに睨まれ、カイは肩を竦めた。

「いい。お前に男の浪漫を求めた私が悪い」

ソルの大きな手がカイの肩を掴む。

「………海は、却下か?」

何を言われたか一瞬わからなかった。

「……海?」

「船着場で、船を係留するあれに足を乗せて、潮風に吹かれつつ夕陽を……」

「…………………………お前の、浪漫か?」

こく、と真顔で頷かれ、反応を返せないままにカイは考え込む。

「多分、方向性が間違っていると思うが」

「そうか」

「……一応、考えてくれたことは感謝する」

思いもしなかったソルの“浪漫”に引き攣った笑顔を浮かべるカイは、不意に肩を叩かれて振り返った。

「カイちゃん、漢の浪漫探してるんだって?」

どこで噂を聞きつけたのか、アクセル、闇慈、チップがいつの間にか参加していた。

「俺様たちも交ぜて~」

楽しげに笑い、何故か三人はポーズを決める。

「時空の異邦人アクセル=ロウ!」

「松籟(しょうらい)の舞師御津闇慈!」

「カラクリニンジャ(?)チップ=ザナフ!」

最後、かなり違ったような気がするのだが。多分、ロボカイに対抗したかったのだろう。

ちなみに松籟、確か松に吹く風のこと、雅な様子のことだったと思う。

「「「三人合わせて、ボンクラーズ!!!」」」

画面の外(?)に向かってそんなことを叫ぶ三人の背後で煙幕が破裂する。

「「「誰がボンクラーズやねん!!!」」」

「どうでもいいから、どこかで見たようなネタをやってないで帰ってきてください。読者がびっくりします」

自分でボケて自分で突っ込まれても見ているほうは困惑するしかない。冷静なとどめのツッコミを入れ、カイはため息をついた。

「カイちゃん、漢の浪漫はね、ナンパだよ、ナンパ☆」

逆ナンパの経験はあるものの、ナンパなどしたことのないカイは苦笑する。

「ちなみに、カイちゃんがディズィーちゃんをデートに誘ったのもそれに入るから」

Xplusストーリーモード参照。

「あ、あれはですね…!」

顔を真っ赤になるカイの肩を掴み、アクセルは真剣な顔で彼を見つめた。

「で、どこまで行ったの?」

「買い物です」

「そうでなく。………キスした?」

カイの顔がこれ以上ないくらい真っ赤になった。

「すっ、するはずないでしょう! 手すら握ってません!!」

「勿体無いよ、それ」

「馬鹿なこと言わないでください……。私のことは兄のように思っているだけですよ、彼女は」

うろたえるカイの前でち、ち、ちと指を振り、アクセルは真剣に言う。

「“おにいちゃん”もまた萌え。ちなみに、“お義兄ちゃん”でないと犯罪ね」

漢の浪漫がわからなくなってきたカイは、混乱のままに叫ぶ。

「か、彼女は…っ、まだ三歳ですよ!」

「カイちゃん、ディズィーちゃん見てそう言えるのは成人男性としてどうよ?」

言葉を詰まらせたカイの頭を撫で、闇慈が救いの手を差し伸べる。

「ま、それがカイ殿のいいところだな。無意識に漢の浪漫は全てキャンセルする」

「……男の、ロマンキャンセル?」

男のロマキャン、何か嫌な響きである。

「ちなみに俺の浪漫はメイドさんかな? カイ殿も似合いそうだが」

本気か冗談かわからない口調でそう言って笑う闇慈にどう反応を返したものかとカイは眉を寄せる。その表情はまるで小動物だ。

「―――で、チップは?」

これ以上苛めるのも可哀想だと思ったのか、それでもカイの頭を撫でたまま闇慈はチップに話を振る。

「そりゃ勿論! 帯をくるくる~~っっ?!」

――――げしぃっっ

「こ、子供の前で何てこと口にしてるんですかっっ!!!」

顔を真っ赤にしたカイによりチップは黒焦げのまま地面に沈んだ。

昔聞いた話では、あれの正式名称は『生娘独楽回し』らしい(何で知ってんだ、こんなこと)。

「よいではないか、から言わなきゃな……。とりあえず、カイ殿は何で知ってるんだ?」

カイはそういう情報には疎そうな気がするのに。

「え、あ、あの……っ」

頬を染めたままカイは泣きそうな顔で視線だけをソルに向ける。それだけで元凶を察したのか、アクセルと闇慈は肩を竦めた。

そして、彼らの言う“浪漫”をメモしていたブリジットとメイは、難しそうな顔をして互いに視線を合わせる。

「つまり……」

「オトコのロマンって言うのは……」

「「メイドさんをナンパしてゲットして、お嫁さんにして幸せな家庭を築いて爆破で『れっつアフロ』ってこと?」」

「どんな犯罪ですか、それ……」

少しも乱れずに一息で言い切った二人にカイは絶句したものの、かなり不穏な空気を感じてツッコミを入れる。

「やだなぁ、カイさん。これこそがロ・マ・ン☆なんですよ!」

「ブリジットさん、メイさん、別にまとめなくてもいいんです」

れっつアフロをロマンにされても困るのだ。

というか、みんなの中の浪漫とは一体どういったものなのだろう?

「スレイヤーさんの浪漫は何ですか?」

ブリジットの無邪気な質問に苦笑し、長き時を生きてきた貴種は僅かに考える仕種を見せて顎に手を当てる。

「やはり愛しい者との運命的な出会いだろうね? 二度と離れられなくなるような」

ちらりとソルとカイに意味深な視線を送る。

「でも“不倫は文化だ”って言ったヒトもいますよね?」

「ふむ、それも一理――――っいや、シャロン。例えばの話だ!」

今回はカイの静止も間に合わなかったらしい。一組の夫婦が危機に陥っている間、カイは今まで挙げられた浪漫の数々を思い出し、額を押さえていた。

(まともな物がない……)

これだけ個性の強い方々(イロモノ含む)がテンションMaxのまま集まれば仕方ないとも思える。彼はがっくりと肩を落とし、不意に視線をずらした。

「ぅわ」

そこでは、偶然会ってしまったがためにバトルしていたのだろうミリアが、エディの全身を髪で締め上げていたのである。

「…………み、ミリアさん…」

「何?」

一頻り必殺技の嵐だったからなのか、彼女だけテンションが下がっている。

「あの………オトコの浪漫って、わかります?」

まともな説明をくれそうな様子にホッとして、カイは質問を投げかけてみる。

この際、後ろでもがいている影は無視しよう。

その後ろに、一緒に締め上げられている銀髪の人も見えるのだが、こうして一緒にいられるだけで彼には浪漫なのかもしれないと温かく見守ってみる。

「…………そうね、男の浪漫はわからないけど…」

しばらく考え、彼女は納得したように軽く頷いた。

「漢の浪漫は、女にとってのセクハラよ」

今日一番の爆弾発言であった。







「ジョニー、何を見てるの?」

新聞を後ろから覗き込み、エイプリルは少し笑った。

「宝くじ?」

「男の浪漫だろ?」

一枚の紙をひらひらと振る。

「30W$、大当たりだ」

子供を見る母親のような顔で苦笑し、彼女は腰に手を当てる。

「で、何枚買ったの?」

「10枚」

「±ゼロ」

「当たるかどうかのハラハラを楽しめただけプラスだな」

楽しそうに笑い、ジョニーはその宝くじを仕舞った。

新聞を片付けつつ部屋の入り口を見ると、開け放たれたドアの外にオレンジ色の服を纏った少女が俯いている。

「メイ? どうした?」

「ジョニーの……っ」

どうやら、今来たらしい彼女には、ジョニーの考えていた“男の浪漫”は届いていないらしい。

「馬鹿あぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!」

ピンク色の物体が部屋の中に炸裂する。

勘違いととばっちりの果てに、今回の犠牲者(全治三日)ジョニーは床に沈んだのであった(合掌)。



おわり

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