「メイさんは、物知りですね。」
「へっへーん!もっと色々聞いてもいいよ?」
「では・・・。」
などという微笑ましい光景が繰り広げられているのを、特に思う事は無く、ジョニーは甲板の手摺にもたれかかったまま、ぼんやりと眺める。
どういう話題になっているのかを聞くのはそれこそ野暮というもの。彼の主義に反するからやらないが、
質問しているのは最近新しく入った団員のディズィー、そして何やら威張っているのがメイだ、という事は見るだけでわかる。
ディズィーもいい笑顔が出るようになったな、と思う。魔の森から初めて連れて出た時の翳りのある様子はもう見られない。
そんな事を、上空の爽やかな風に吹かれながら思っていると、メイとディズィーがこちらにとてとてと向かってくるのが見えた。
・・・どうしたのやら。
「ねーぇ!ジョニー?」
「どうした?メイ。」
「あ、いや、正確にはボクじゃないんだけどね。」
困ったような笑みが来て、その後に、ディズィーが、これさえあればおそらく世界だって征服してしまうであろうもう半ば神がかった邪気のない天使の笑みを向ける。
・・・・・・う~ん。デンジャ~な。
「あの、ジョニーさん?」
「コラ、ジョニー!何見とれてんの!」
「ん?あ、ああ。すまんすまん。・・・・・・・で、何の用だい?」
「ええと、ジョニーさん、聞きたい事があるのですが・・・メイさんに聞いたら解らなかったそうで・・・。」
「そうかぃ?じゃあ遠慮なく質問していいぞ?」
「ありがとうございます!・・・ええと、じゃあ・・・・・」
一言区切りを置き、先ほどと全く同じ笑顔が・・・・・・
「子供って、どうやって作るんですか?」
弾けた。
なんだかわからんがとにかく、弾けた。
「お前、本気で・・・・・・・(SLASH)」
「ジョニー!!(大汗)」
「えっと・・・・・・ご存知なかったですか?」
勿論知っている。知らないわけがない。・・・・・・ の だ が 。
・・・よく見ると、メイが「憐れみ」・・・というよりは同情の視線を送ってきているのに気付いた。
(メイやっぱお前もこの質問を・・・・・・?)
(ま、まぁね・・・・・・)
(で、答えられなかったから俺に押し付けた、と。)
(ち、違うよ違うよ!知ってたけど、ボクみたいなおしとやかな淑女(レィディ―)の口からはとてもとても。)
(知ってるのか!?・・・・・・ああ、俺の教育が悪かったのか・・・・・・)
(ちょっ!?何ソレ!ジョニー!?ジョニーとの将来を考えたら当然でしょ!?)
その言葉(いや、眼だけで会話してるが)に、男として喜ぶべきか、それとも彼の父親としての常識を優先させるべきか、
板挟みで悩んでいるジョニーを、何やら羨ましそうに眺めるディズィー。
アイコンタクトだけで会話する事もできる、ツーカーという感じのジョニー&メイ。こんな2人が最近は羨ましくて仕方がないのだ。
・・・もっとも、ディズィーの質問にはまだ返答がないので、彼女の容赦ない爆弾投下は続く。
「あ、えっと、結局どうなんでしょうか。さっきの質問は。」
(ガンバレ、ジョニー。男らしく真面目に答えてね。)
「(・・・・・・)まあそもそもお前さんは普通の人間と生態が違うからな・・・まずはその前に、人間の常識が通用するかどうか、だな。」
(コラ!ジョニー!言い逃れ!?)
「そ、そうなんですか・・・・・・。」
ちゃんとした答えが得られず、やや、しゅんとなるディズィー。
その様子に、一瞬悪かったと思ったものの、
「では、人間同士ではどうやって作るんですか?」
再度、弾ける
この世界一難題な状況にジョニーがうんうん唸っていると、メイからのアイコンタクトが来た。
(へっへーん!ジョニーって、結構オバカさん?)
(お前人に勝手に押し付けといてだな・・・・・・!)
(そりゃあボクだってできないけど、何とかなるでしょ?ジョニーなら!)
(なるか!)
「へぇ~。こんな男に惚れたボクが間違いだったのかなぁ~。」
「いきなり普通の会話に戻すな!」
「だってそんな事も知らないのぉジョニー?男として致命傷だね☆」
「いや知ってる!(←漢の叫び)知ってるんだがな・・・・・・。」
「知って・・・・・・おられるんですか?ジョニーさん。」
やっべぇ地雷踏んだよ
しかもギアに例えるならメガデス級。
「あ、いや、それはだな・・・・・・。」
「やっぱりわかんないんだね?ジョニー?」
「ぐ・・・・・・ぅ・・・・・・。」
「う~ん・・・残念ですね・・・。」
「ホラホラ、ディズィー!今度はまたボクに質問してもいいよ?さっきの質問は答えられなかったけど。」
「そ、そうですか?」
「そうだよ!ボク、ジョニーと違って色々知ってるんだから!」
えっへん、と、メイがない胸を張った刹那。
「船長!地上から熱源が急速に接近!」
快賊団のメンバーの誰かの焦った声が響いた。
そう。『地上から』。先ほどまでの「甲板」などの描写でわかった人も多いと思うが、ここは上空を飛ぶメイシップ。
そしてその熱源は、そのメイシップに向かってきているというのだ。
地上からの砲撃というのは、機械文明が捨て去られている今では殆どありえない。
ツェップが唯一の例外だが、ツェップもメイシップと同じく空中に浮かんでいるものだ。
なのに何故・・・・・・!?
「どうなってる!?」
「あ、駄目!間に合わな・・・・・・・い、いや、直撃はしません!微妙にズレてます!!」
「ん?」
それに対する答えは、地上から上がってきた「それ」が、空中を飛ぶメイシップのすぐ近くに現れた事で判明した。
「それ」は、人の形をしていた。
体の各所はしっかりと伸びているが、しかしその伸びている姿勢は随分と嘘くさい。というか無理くさい。
そんな姿勢のまま、拳をしっかりと上に突き上げ、溢れんばかりの炎を拳どころか全身から湧き立たせ、空へと舞い上がる。
そしてその挙動には、叫びが付属していた。
すなわち、「ヴォルカニックヴァイパァァァァァァァァァァァァァ」・・・・・・・と。
声が大きくなり、そして再び小さくなっているのは、その男がそのままメイシップの横を通り過ぎ、そしてそれでもそのまま止まらず上昇し続けているから。
そんな事を呆然とした頭を働かせてなんとか考えて、ふと視線に気付き横を向くと、同じような顔をしたメイと目線が合った。
メイはしばらく餌を食す弐式二シキゴイのように口をパクパクとさせた後、ようやく声が出るようになったか、しかしそれでもやや掠れた声が出てくる。
「ジョ、ジョニー!!ボク、ジョニーと一緒でなにがなんだか全くわかんないよ!!」
全くだ。
溜め息をつき、しかしジョニーはさすがに状況を冷静に理解する。
「ヤツか。何かあったんだろうな・・・まあ、そろそろ落ちてくるだろうから、もうちょっとだけ動いて拾ってやれ。」
「わ、わかりました・・・。」
しばらくして、ジョニーの言葉通り、メイシップの飛んでいるただでさえ高高度の、更に上空から何かが落下してきて、
ぼとっ、と音を立てて甲板に転がった。
そうして甲板に転がった男に、ディズィーがゆっくりと近づき、そして確認してから、驚きに目を見開く。
「ソルさん・・・・・・なんですか?」
答えとして、むっつりとした無言の肯定が帰ってきたのだった。
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ドラゴンインストールの余韻でフラフラしていたソルが語るには、彼は最初は、適当な野っ原で寝ていただけだった。
・・・だったのだが。
う~む、珍しくソルが無防備な姿を・・・。
― ・・・眠い・・・なんだ・・・・・・?
でもなんだ、やっぱりアレだな。ソルという男の表情は、睨んで見下して、ばっさり切り落とされてこそだな!
― ・・・ごちゃごちゃとうるせぇ・・・・・・なんだ・・・・・・?
うん、やっぱりそれでこそソル!そして睨まれても怯まない私萌え!
― ・・・・・・??
・・・・・・し、しかし・・・・・・こういう、全く動かずに可愛いらしい顔で寝ているソルというのも・・・・・・・・・イイ。
― ・・・なんだ・・・・・・どこかで聞いたような声だが・・・・・・
・・・・・・周りには誰もいないな・・・・・・・よし。
― ・・・・・・(寝汗)
よし!これからめでたく新ジャンル開拓だ!では、カイ・キスク団長、参る!!
「露出プレイかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「・・・・・・。」
「途中でぶっちぎれてるが、その後お前さんはカイを吹ッ飛ばして、そのままここに来たって事か?」
「一瞬でテンションゲージ、50%まで溜めたんだねぇ・・・。ドラゴンインストールって事は。もう一丁オイッス以上のゲージ蓄積・・・」
「・・・・・・何の話だ。まぁそうだ。吹っ飛ばしている途中で落としたが。」
「だ、駄目だよソル!そんな途中で落としちゃったら、壁際でのヴェイパーループ確定だよ!?」
だから何の話だ、という全員のツッコミが入り、それから間を置いて、ディズィーが笑顔でソルに告げる。
「カイさんとソルさんは、とても仲がよろしいんですね。」
・・・それは激しく誤解している上に、二重に(そのまんまの意味と、男同士である事)勘違いしてる、
と、言いたい場の全員であったが、ディズィーの純真無垢な笑顔に対して、今の発言で一番動転したソルですら怒鳴ってやる気力も湧かず、
違うと訂正しただけで終わる。恐るべし清純パワー。
「あ、でも、最近知ったんですけど、こうも言いますよね?―嫌よ嫌よも好きのうち。」
・・・助けてくれ、というかなり切実な、むしろ哀願に近い救難信号がソルから送られてくるが、
ジョニーとメイは、この清純爆撃の対象が自分達から切り替わった事実だけで安心しており、今更巻き込まれたくないね、というあからさまな顔をしていた。
「違う!俺と奴に限ってそんな事はねぇ!そんな事はねぇそんな事はねぇそんな事はねぇ・・・。」
「んと、何を呪詛のように繰り返してるの?ソル。」
「パ~フェクトな自信がないんじゃないのか?」
「ふざけんな・・・・・・ッ!!誰があんな腐れ野郎と!」
「まあ確かに腐ってるよね!カイって。男関係が。」
「テメェそれどういう意味だ。」
「そんなのヴェノムさんだけで充分ですよね!」
「的確だがデェンジャーなスメルのする発言だな・・・・・・。」
ヴェノム本人がいたら、怒りで八つ裂きだったかもしれない・・・最も、ディズィーの天然系というかむしろ天使系な笑顔ならどうだか・・・とか思ったが、
この発言を行ったのがそのディズィー自身である事にジョニーは遅ればせながら気付き、ちょっとディズィーの内側を疑う。
・・・そして、「倦怠」という以外の表情を読み取り難いソルという男が珍しいことに「諦め」という表情を見せているのに気付く。
「・・・いつもこうか?」
「まぁな。」
苦笑し、きゃぁきゃぁと騒ぐメイとディズィーの2人をメイシップの内部に追い払ってから、ジョニーはソルに向かって振り向く。
これから言う事に関して、ソルの心象を考慮しての事だ。
「・・・元気でやっているよ。ディズィーは。」
「・・・・・・はン。」
「本人はあまり意識してないみたいだが、お前さんの話題がかなり出て来るんだぞ?ソルさんは今どこにいるんでしょう?とかな。」
「だからどうした。」
「好かれてるねぇ。お前さん。あの子に。」
「・・・下らねぇ。」
だがその顔の、よく見たら凛々しいとも思える眉がひくっと動き、口の端が歪められたのは、
「嬉しいかい?」
「まずお前を炭にして、その熱で剣は溶かして食器にでも再加工してやろうか?ちなみに犬用だ。」
「無駄なく再利用する気かッ・・・・・・・いかにもお前さんらしい、モノが溢れていた前時代的な発想だよ。」
「・・・どこかズレてるな。」
肩をすくめる。ソルはからかうと面白いが、あまりやり過ぎても相手の心象を悪くする。
賭け事は好きだが、ジョーク程度で命までは賭けたいとは思わない。何よりダンディ~な男は、女性だけに限らず、あまりしつこくしないのが信条。
・・・・・・だが、フィナーレをきちんと締めるのは忘れない。肩をポンと叩いてにやけた笑顔で、
「お前さんとディズィーなら、似合ってると思ったんだがな?」
次の瞬間。
「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
普通にしていれば―あくまで、「普通に」だが、端正とも言える声が、だがそのまんま拡大されて野太くなったような恐ろしい音律の声が響く。
なんとなく二重に聞こえるダミ声、という感じもあるかもしれない。
そしてその声の主が現れたのは甲板の手摺にもたれかかっているソル達の背後から。
・・・背後すなわち、「お空」なのに。
「ディズ」
・・・その声色で、再び何か声が聞こえた気がするが、それはソルが封炎剣を振った「びゅん」という音によって遮られる。
突然湧いた殺気にさっとしゃがみ込み、そしてジョニーは確認する。
さっきまで、彼の頭があった位置を封炎剣が通過していくのを、
もっともその剣戟が、彼に向けられたものではない、という事が解ったのは、ドガッ、という、骨を切断する時の鈍音が背後から響いてから。
そしてジョニーは再び確認する。
おそらく「ディズィー」という単語を発しようとしていた魔の森の番人の、怒り顔が宙に舞っているのを。
くるくると空中を回転しながら、威嚇するように怒り顔を振りまくテスタメントの首からは、血が吹き出ている。
そしてその血も、回転する首に合わせてくるくると楕円軌道を描く。
ジョニーはふいに、そうやって描かれる紅い円が、一体何個描かれるのか数えたくなるという現実逃避にとらわれた。
そして、首が離れた胴体が、そのまま後ろにのめり、地上へと落下する首の後を追いかけるように落ちていくのを見て、ようやくジョニーは我に帰る。
「・・・・・・・お前さん、今何をした?」
「キモいから、斬った。」
んな直球勝負な・・・・・・
同意できるだけに反論の余地もない。
だからまあ、弁護もしないけど(酷)
「手首を切ってすぐに再生するぐらいだから(ゼイネスト)、首ぐらいワケないだろう。」
「それで納得しろというのも無理があるというか、論理立てに致命的な欠陥があるように思うが。ていうかアイツどうやって昇ってきた?」
「・・・俺に聞くんじゃねぇ。」
「・・・まあそれはいいとして、さて、これからお前さんはどうする?」
「・・・そろそろ退散させてもらう。何やら色々とうやむやになっちまったが。」
「ああ、ディズィーの事か?」
「・・・船ごと燃やすぞ。」
「それは洒落にならないから、俺も本気でやらんとな?」
「・・・けっ。行くぜ。カイの野郎が飛空挺を持ち出したりしてきても困るしな。」
「そんな職権濫用な真似をアイツがすると思・・・・・・。」
言いかけて、考え直してみる。
(3秒後)うん。彼ならやるかもしれない。
「あばよ。」
はっと我に帰ると既にソルの姿はない。気付いて、下を見ると、特徴のある付け髪が風になびいているのが遥か地上の方向に、微かに見える。
「・・・相変わらず人外なヤツだな。」
苦笑して、船内に振り向くと、
「船長!大型の熱源が西方より接近!」
「・・・今度は何だ?」
「船です!ええと・・・・・・この大きさは・・・国際警察機構のモノですが・・・逃げますか?」
「・・・いや、燃料が勿体無いから無理して逃げなくてもいい。」
「最近の看守は男に代わったそうですよ?」
「なっ!?そんな馬鹿な・・・・・・って違う!知り合いが乗ってるんだ。あの船には。」
「そ、そうなんですか・・・・・・。」
そうして、クルーに船の停止を命じ、ジョニーは、段々と接近してくる飛空挺に正面から向かい合う。
そしてその飛空挺の窓から見える紅茶をすすっている男は・・・・・・ああやっぱり(汗)
ま、いいか。俺みたいな楽してる人間ってのも中々いないし、時々はソルの尻拭いくらいしてやるのも悪くないさ ―
そう、穏かな気分になるジョニー。そして彼がその思考をすぐに後悔する事になるのは遅くはない(笑)
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