目を閉じて。闇の中、見えない人の影を追う。
重ねる祈りが、彼女に届くようにと。
結局、メリルとミリィは、ヴァッシュとウルフウッドに付いてきている。
一度干物にされかけたこともあってか、ヴァッシュもウルフウッドも強いて引き離すようなマネはしなかった。目の届く範囲に置いて危害を加えられないよう監視する方が、むしろ安全だということで、二人の考えが一致したからである。
大抵は宿で夜を過ごしたが、町と町との距離が空いているところでは、四人揃って野営することもあった。
大抵は男二人が交替で火の番と見張りをして、夜を過ごした。
毛布にくるまって眠るメリルが、身じろいだ。
眠り込んでしまわない程度にぼんやりと炎を見つめたヴァッシュ容易にそれに気付いた。
彼女の方を見やると、細い肩が毛布からはみ出ているのがわかった。
砂漠の冷え込みは激しい。毛布をかけ直してやろうと、ヴァッシュは立ち上がる。
細いうなじ。艶やかな黒髪。年相応の女性の持つやわらかな容貌。
伸ばしかけた指が触れる寸前、メリルが目を覚ました。
「ヴァッシュさん…?」
「あ、ああ。肩がはみ出ていたから…」
「ありがとうございま…」
紅い唇から漏れた眠気にかすれる声は、彼女が再び夢の世界に舞い戻るのと同時に、消え去ってしまう。
見られていない。いつものように、笑えたはず。
健やかな寝息を立てるメリルに触れないように毛布を掛け、ヴァッシュはため息をつく。
やさしく、ふれて。大丈夫だと、囁きたいのに。
もう一度、頬に手を伸ばすが、ふれる寸前で指を止めてしまう。
彼女が、銃爪を引くことの出来る強い女性だと、知っている。
だけど、汚したくはない。幾人もの命を奪った、この手で……
ヴァッシュは、黙って最初の位置に戻り、座った。
目を閉じて。彼女の、姿を追う。
微笑んでいられるようにと。ただ、祈り続けて…
end.
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