こんな夢を見た。
自分は歩いていた。
ここがどこだか判らない。 どこへ行くのかも判らない。
只、歩いて行く先に≪あいつ≫が居る。
弟が、居る。
其れだけが確かな事だ。
弟の気配に向けて、自分は歩いているのだ。
果たして、そこに弟は居た。
話に聞いたとおり、明るい筈だった頭髪は黒くなっている。
あの町で≪兄弟≫が変貌するのをまのあたりにした時よりも心が痛むかと思ったが、
何故かそう云うことはなかった。
只、自分よりも更に症状が進んでいることに驚きを感じた。
あいつは身体が変化していた。
羽に似た身体。 刃のような自分の身体とは違う。
他の≪産み出す者≫と同じ造りの。
その羽の中で、黒いものが見え隠れしている。
人間の。
女だった。
女はゆらゆらと羽の中で蠢く。
弟の羽の中で。
動きに合わせて白い頸や肩が顕わになった。
弟は其れを凝と観ていたが、
ふと。
此方を見返した。
眼が、あった。
――待っていたよ――
其の口が動いた。
声は届かなくてもそう云っているのだと判った。
ごらん、彼女を。
僕達はいずれこんな風になって逝くんだ。
僕もお前もいつか真黒に染まる。
そう云いながら弟は女を抱く。
眉根を寄せていた女の両の眼が朦朧と開けられた。
其の水晶には何も映されずにまた閉じられる。
白い貌に浮かぶのは紛れもない
愉悦だった。
――おいで――
弟は呼ぶ。
――来たいんだろう?――
肯定も否定もしなかったが其の刹那、自分は≪そこ≫に居た。
夢だからだ。 そう思った。
弟は満足げに自分を観ている。
唇が笑みの形につり上がる。
そして。
羽が四肢を絡め取った。
――何を見ているんだい?――
誰も。 貴様以外は誰も。
――そんな筈は無いだろう?――
羽に被われた眼の前に、
女が現れる。
夢見るような表情で女が口を開く。
お前は僕を見てはいない。
弟の声で告発する。
彼女の事を視ているんだ。
女の手が自分に触れる。 鳥肌が立った。
――違うよ――
告発は続く。
何が違うものか。
――嘘吐き――
声が嘲笑う。
手は熱を持った中心を探り当てた。
そして。
目が醒めた。
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