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うろほろぞ
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vv


私は私と、はぐれる訳にはいかないから
いつかまた逢いましょう。
その日までサヨナラ恋心よ。


落とした照明。薄明かりの部屋。
「どうせだったら最後まで騙して欲しいわ」
裸の胸にシーツを掻き寄せて彼女は呟いた。
何も言わず苦笑したヴァッシュを、そっと上目遣いに睨む。
「騙すも何もないじゃない。君は訊いた事ない、ボクについて」
「あら。訊いて欲しいんですの?」
「そういう訳じゃないよ、でも」
「って事は。今までの女はみーんな根掘り葉掘り訊いたんですね。で、騙した、と」
逞しい腕にそっと頬を預け、メリルは傷だらけの胸に掌を這わせる。
言葉に詰まった男は枕に頭を預け、投げやりに薄暗い天井を仰ぐ。
「だって、そんなの、馬鹿馬鹿しいじゃありませんか」
「何が」
「嘘だと分かっていながら訊く事も。嘘が嫌いな人に言わせる事も」
「…ボクは別に」
「馬鹿馬鹿しいですわ」


嘘をつくくらいなら、何も話してくれなくていい
あなたは去っていくの、それだけは分かっているから


「ボクは君が好きだよ」
にこにこと笑った頬を思い切り容赦なく抓ってやる。
「痛い!」
「そんなありきたりの台詞。何人に言ったのか、知りたいものですわ」
ぷいと顔を背け、メリルはベッドの脇に腰掛けた。床に落ちた服と下着を摘み上げる。裸の背中を後ろから抱き締められて、わざと意地悪く身を捩った。
「…誰にだって言ってなんかないよ。ちゃんと選んでる」
「それでフォローしているおつもり?」
「少なくとも君が想像しているよりは少ない筈だしっ」
間髪入れず、がぶりと太い手首に噛み付いてやる。
腕が怯んで緩んだ隙に、服を抱え、シーツを巻き付けた裸身のままするりと抜け出して立ち上がった。振り返って、ベッドの上の情けない顔に舌を出す。
「博愛主義者」
「はは…」
困った様に笑い、乱れた金髪をぼりぼりやるヴァッシュにようやく溜飲が下がる。
「シャワーから出るまでに、私のためだけの口説き文句を考えておいて下さい」
共犯者の笑みを見せて、メリルはシャワー室の曇り硝子のドアを押し開けた。


見つめ合った私は、可愛い女じゃなかったね。
せめて最後は笑顔で、飾らせて。


「センパイ!?」
「…」
「先輩ったらぁ!!」
大声と共に肩を叩かれ、メリルは飛び上がった。
「は、はい?どうしたのミリィ」
「お茶っお茶!零れてます!」
「…ッ!?きゃああ!」
はっと我に返り、手にしたポットを慌てて持ち上げたが、時既に遅しである。部長のティーカップに熱い紅茶を注いでいた「筈」が。もうもうとした湯気とむせるような紅茶の匂い。下に敷いたお盆だけでなく、給湯室の流し台全域に渡って見事な茶色の大洪水ができあがっていた。
「嘘ー!」
無言でずいと右から差し出された台布巾で、とにかく拭こうと抑える。途端に熱い紅茶が布に染みて手が熱くなり、また悲鳴を上げた。
「あ、熱っ…!」
「ちょっとセンパイっ!何やってるんですかもう!」
ミリィは慌ててメリルの両手首を掴んで流しに引っぱり、蛇口を全開にひねった。袖口が濡れるのも構わずに、とにかく迸る水道の下に赤くなった小さな掌を引きずり込む。
「普通こういうのは水で濡らしてから拭くじゃないですか~もう…」
「あ、ははは。つい焦ってしまって。失敗失敗」
「この紅茶洪水も、ですか?」
ミリィは静かに溜息をつく。見れば紅茶は床のタイルも少々浸食していた。横の戸棚から濡れ雑巾を取り出す。
「部長が一体いつまで紅茶を淹れてるのかですって。驚きました。何ですかぁコレは」
メリルの少し斜め後ろにしゃがみ込み、手にした濡れ雑巾でタイルを軽く拭く。
「あっミリィ、私が拭きますわ」
「いいんです。先輩は手を冷やしてて下さい」
慌てて振り返り手を出そうとしたメリルを、上目遣いに睨む。
「…ありがと」
メリルは大きな目を伏せてうなだれた。狭い給湯室に、蛇口から流れる盛大な水音だけが響き渡る。
一通り適当に拭き、ミリィはよいしょと掛け声をかけて立ち上がった。殊更元気に言う。
「さてとっ先輩!そろそろ手は」
「駄目ですわね私も」
突然はっきりと、明るい声でメリルが遮った。ミリィは、まだ蛇口の下に手を差し出している細い背中を見つめた。
「分かってるでしょ?ミリィ」
「…」
「男が一人居なくなったくらいでこの始末ですわ。笑っちゃうわね」
「そんな」
「情けない女ですわ。ふふ、そう思いませんこと?」
声と裏腹に震える女性らしい華奢な肩。その繊細なラインをミリィが羨んだ事は、一度や二度ではない。
この肩を優しく抱いたあの男は一ヶ月前に消えた。
月の一つに悪夢の様な大穴を残して。
「だからきっとあの人もね。こんな情けない私なんかに話す事なんか何も」
「…先輩」
「いえ、違いますわね。私が訊かなかっただけ。つまらない見栄なんて張って」
「止めて下さい」
「こんな事になるなら。もっと素直に」
「先輩っ!」
ミリィは堪らずに涙を零し、細い肩を後ろから抱いた。
「もういいです!止めて下さい!お願いですから」
この背中を支える役目は自分ではないのは分かっているけれど。
「嫌ね」
静かに微笑んでメリルは目を閉じた。肩に回された優しい手にそっと体を預ける。
閉じた長い睫毛の目尻から一筋、透明な滴が白い頬に滑り落ちた。
「私まで…泣けてしまうじゃありませんか」
悲しみのように迸り、手を濡らす冷水は、指先の感覚をとうに奪っていた。


涙が悲しみを溶かして、溢れるものだとしたら
その滴ももう一度飲み干してしまいたい。
凛とした痛み胸に、とどまり続ける限り
あなたを忘れずにいられるでしょう


「忘れない限り。いつかきっとまた。逢えますわ」
「…え?」
「そんな気がするんですのよ。きっといつも通り、やぁなんて笑って出てくるに決まってるんですわ!」
「…あ。あはは」
「ね?ミリィ」
「…勿論ですよ!だって、あの人ですからね!!」
涙に濡れた顔を見交わして、ミリィとメリルは声を立てて笑った。
「だからね…忘れてなんかやらないの。その日までね」
「はい!!」




許してね、恋心よ
甘い夢は波にさらわれたの
いつかまた逢いましょう。
その日までサヨナラ恋心よ









サウダージ

北野ひ~様

郷愁、というには生々しい彼の記憶。

「どうしてあなたはそうやって自分からトラブルに突っ込んでいくんですの!」
真剣に怒気を含んだ瞳に睨まれて、ヴァッシュは思わず一歩下がる。
「そ、そりゃあその…見ていられないじゃない」
メリルはずい、と一歩前に出る。ヴァッシュの胸倉を掴まん勢いで、
「だからって!こうやって、傷だらけになって!痛い思いして!それでいいの!?」
「よくはないよぅ」
「じゃあ!」
「だって悲しいじゃない。誰かが傷つくの」
ばちん、と派手な音が部屋に響き渡った。ヴァッシュの右頬にメリルの全身全霊を込めたクリティカル・びんたが炸裂である。
「…い、痛~~~っ!」
一瞬よろけたヴァッシュはぶたれた頬を押さえ、涙目でしゃがみこんだ。
「ちょっと酷いじゃないか!今とびきり痛い思いしたぞ!?」
「もうあなたみたいな馬鹿知りませんわ!」
激しい怒りに任せてぷいっと背中を向け、ドアに向かって勢い良く歩き出す。苛立つ。むかつく。冷静でなんて居られない。
「勝手になさい!そうやって何でもかんでも…ッ」
後ろからやんわり抱き締められて、足は勝手に止まってしまった。
ぎゅっと、押し付けるのではなく包み込むように、抱かれる。
「…」
「分かってるよ。心配してくれてるんでしょ?」
耳元で囁かれ、観念して目を閉じた。
「ごめんね」
「謝罪なんかこれっぽっちもいりませんわ!」
「ありがとう」
「感謝は尚更お断り」
「好きだよ」
「よし」
照れ隠しに、勢い良く背中を厚い胸にもたせかける。この程度ではびくともしてくれない逞しい体は、彼が今迄に味わった辛酸が全て刻まれている。
(誰よりも痛い思いをしている癖に)
それでもまだ。
(行くというの?)
「…これっぽっちも分かりませんわ。あなたの考えなんて」
溜息混じりに心底呟くと、冷たい金属の掌が優しく髪を撫でてくれた。
「君になるべく笑ってて貰いたいって考えてるよ」
「…好きな人が傷つくのを笑う女が居るとお思い?」
「好きな女を守れなくて嬉しい男も、なかなか居ないんだよねぇ」
「守ってくれなんて誰も頼んでませんわよ」
優しく苦笑する声が好きだと気が付いたのは、確か出逢ってすぐだった。
「そうだね。じゃあ、次からは一緒に逃げようね。ぴゅ~って」
そんな事できない癖に、という呟きは降りてきたキスに塞がれた。

時を重ねるごとに、ひとつずつあなたを知っていて
さらに時を重ねて、ひとつずつ分からなくなって
愛が消えていくのを、夕日に例えてみたりして
そこに確かに残る      郷愁

着いた街は、うら寂れた小さな田舎だった。
「…そんな事訊いて、あんた達一体どうしようってんだい?」
愛想の良かった雑貨屋の亭主は、「ヴァッシュ」の名前を聞いた途端に酷く嫌そうな眼差しを向けた。
「ですから、ちょっと」
「知りたくもないね疫病神の事なんか。こっちから願い下げだ」
「…そういう言い方はないんじゃありませんか?」
ついかっとなってメリルは叫ぶ。そんなメリルに中年の亭主は、肩を竦めて苦笑した。
「あの『月に穴をあけた男』だろ?知らないね。そんな赤いコートもトンガリ頭も。俺はこの街ずっとだけど、一度も見た事ねぇよ」
「そうですか」
メリルは軽く溜息をつく。8番目の街、流石に落胆は隠せなかった。そんな彼女を上から下まで舐めまわすように見、亭主はテーブルに肘をついて身を乗り出した。好色そうな笑みを浮かべ、顔を突き出す。
「なぁ。見たとこ、ここいらの人間にも見えねぇけど。愛人か何かなのか?あんたいい女なのによぉ。やっぱ違うか?バケモノは」
「…!」
後ろに立ったミリィが前に出ようとするのを、軽く右手で制す。メリルはぐっと感情を堪えて無理矢理微笑んだ。
「…とにかく、何もご存知ないのですね」
「あぁ」
「失礼しました」
すげなく一礼して去ろうとすると、二の腕を掴まれた。
「あんまりその名前、口に出さねぇ方がいいぞ?」
「…」
「確かにな。冗談みてぇな噂だがよ。信じて怖がってる奴は一杯居るんだ。触らぬ神に祟りなし、ってな。忠告だぜ」
ぱしりと腕を振り解き、メリルは振り向きもせずに店を飛び出した。
「センパイ!待ってくださいよぉ」
ミリィも慌てて店を出る。飛び出した人の少ない往来に、小さな姿はもうなかった。必死で周囲を見回すと、駆け足に近い勢いで遠くの角を曲がろうとしているメリルが見えた。後を追って必死で駆け寄る。
「センパ~イ!置いて行っちゃ嫌です」
「…」
硬い表情で唇を噛んで歩くメリルの横に、わたわたと並ぶ。
「全く何考えてるんでしょあのオヤジ!やらしいんだから!スケベ!」
「…」
「絶対水虫ですよ!でねついでに虫歯で、キレ痔で、え~とそれから」
「…」
「今すぐつるつるに禿げちゃえ!」
ついにメリルは爆笑して、歩みを緩めた。
「もう…ミリィ、あなたには敵いませんわね」
「あんな奴、ぶん殴っちゃえばよかったのに!先輩ったら!」
まだ怒りの収まらない様子のミリィを優しく見上げ、メリルは弱々しく笑った。
「何も知らないくせに!ヴァッシュさんのことあんな風に!何も分かってないくせに!」
「仕方有りませんわよ…。あんな礼儀知らずに怒るだけ無駄よ。ね?」
「そうですけどっ」
「あーあ!ここも空振りでしたわ!残念!」
大きく一つ伸びをして、メリルは元気良く歩き出す。白いケープを翻し、顔を凛と上げて。しょげそうになる態度とは裏腹に。
「今夜はこの街に泊まって。明日またがんばりましょうか!」
「はい、センパイ!」
肩を並べて歩くミリィに聞こえない小声で呟いた。
「何にも分かってないくせに、か」
もう日が暮れようとする空を見上げる。日中の熱さとは違う優しい風。オレンジ色の雲がたなびく美しい空は一日の終わりを告げていた。
 いつかあの人と見上げたものと寸分変わらないけれど。
(私だって、何も分かってませんわ)
手の届かない今も、思い出す事など幾らでもできる。刻まれた記憶は遠のいてくれる気配すらない。だけれど、よく考えてみれば彼のことなんて自分だって何も知らない。メリルは先の亭主の言葉を反芻する。
(バケモノ…か)
自分は人類に仇成すモノに、抱かれた女なのだろうか。
だとしたら「愛している」なんて有りふれた一言だって……言えない。

想いを紡いだ言葉まで、影を背負わすのならば
海の底で物言わぬ貝になりたい
誰にも邪魔をされずに、海に帰れたらいいのに
あなたをひっそりと思い出させて

「ふふふ」
「?」
突然、微かに笑ったメリルに、ミリィは歩みを止めて振り向く。大袈裟に顔をしかめ、メリルはブーツの爪先で、道の上の小石を勢い良く蹴飛ばした。
「『やっぱ違うか?バケモノは』…ですって」
「さっきのオヤジですね。全くもう。信じられないせくはらです」
憤懣やるかたなく腕を胸の前で組んだミリィが唸る。
「ええ、違いますわねぇ」
まだこの首筋に残る彼の唇の感触を思い出しながら、メリルはつんと顎を逸らした。
「あなたなんかより数百倍はイイですわよ、って言ってやればよかったわ!」
「ゼロを何倍してもずっとゼロですけどね、センパイ」
一瞬沈黙してから、メリルはいつもの様に声を上げて笑った。
「その通りですわ!」
「センパイ、今夜は嫌なこと忘れてぱーっと飲みましょうか」
「そうね。そうしましょ。じゃあお酒買わなきゃですわね」
二人は肩を寄せ合って朗らかに笑った。ミリィの存在はどれ程救いになっているかメリルには分からなかった。彼女が居てくれる限り、きっと自分は大丈夫だろう。
 それでも微かに胸に留まる慕情を消すことは出来ないのだけれど。
(言葉を求めるほど、一人寝の夜が寂しいほど…子供でもないと思っていたのにね)

諦めて恋心よ、青い期待は私を切り裂くだけ
あの人に伝えて…寂しい…大丈夫…寂しい

 時刻はもう真夜中である。ランプの光が満ちるダブルの部屋。廃棄寸前の古いラジオから、意味のないクラシックが雑音混じりに気怠く流れていた。
 泥酔して幸せそうに眠り込むミリィを苦労してベッドに運び込んだ後、一人メリルはもう一度、グラスにワインを注いだ。小さな丸テーブルに肘をつき、唇を寄せて半分程喉に流し込む。酔いが体に回るのを心地よく感じながら目を細め、グラスの赤い液体を見つめた。すぐ横のランプの光を反射して、ワインは血の様に赤く沈んだ色をしていた。
(見たくない色ですわね)
街角で神経を尖らせるのは何よりも赤い服である。今もあのコートを愛用しているなんて限らないのに、それでも。
 溜息をついてメリルは自嘲気味に笑う。暗い考えにまたしても囚われそうになった自分を誤魔化す様に、ワインを一息に飲み干した。
「繰り返される  よくある話
 出逢いと別れ  泣くも笑うも好きも嫌いも…か」
少し昔に流行した古い歌謡曲をふと思い出し、軽く口ずさんで、空になったグラスの縁を指でなぞった。
 今迄恋は、何度かしたように思う。目を閉じれば思い出さない男も居ないわけではない。だがそれらは皆「よくある話」だった。情熱とは無縁な恋の駆け引き。別れ話はいつも自分から。男も恋もそんなものだと思っていた。そうやっていつか適当な相手と結婚して、人生を普通に平凡に過ごしていくのだ、と。だがしかし。
 出会ってしまった。
彼と過ごした僅かな時間だけは、「よくある話」なんかではなかったのである。
(…だからこんなにも固執しているのかしらね)
 『好きだから』という可能性は、敢えて目を背けておこう。
「だって悔しいし」
「むに~。せんぱひ…」
頬を膨らませてむっつりと呟いた途端、ミリィがころんと寝返りを打った。起こしてしまったかとぎくりとし、ベッドの寝顔を見つめる。
「…おいしくなひでふ」
どうやら寝言だったらしい。涎を垂らさんばかりに口を開けて太平な寝顔に苦笑した。横のワインボトルに手を伸ばし、えいとばかりにグラスに注ぐ。木造の丸い机に零れた雫を無視し、わざと乱暴な仕草でぐっと飲み干す。
「…あんな奴。大っ嫌いですわ」 
吐き出した熱い息と共に呟く。
 けれど、「ありふれない物語」続けるには、あの男が必要なのだ。
 酔いで気持ちよく思考がまとまらないのをいい事に、メリルはにやりと笑った。
(ふん。負けるモンですか)
 先ほど口ずさんだ歌が何時の間にか、偶然、ラジオから流れ出していた。

許してね恋心よ、甘い夢は波にさらわれたの
いつかまた逢いましょう。その日までサヨナラ恋心よ

あなたのそばでは、永遠を確かに感じたから
夜空を焦がして、私は生きたわ恋心と

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