なんだかぼんやりしてしまう。
先程給仕係に持ってこさせた紅茶は香りばかり強くてあまりいただけなかった。
ぼんやりして頭の中の思考が冴えない。
窓を開け放っているのでその香りは疎か適度に調節されていたであろうティーポットの温度すら
今は冷えてしまってきっともうおいしくないだろう。
頭の中がぼんやりすると
心臓と肺の間くらいからムクムクと
なんだか訳のわからない嫌な感情がもやもやとわき出てきて不快だ。
だから何か考えようとする。
アンティークガラスのカップをつまみ上げて口に運ぼうとすると、
その紅茶の冷たさときつめの香りが鼻についた。
とにかく喉を潤すためにカップ傾けたとたんに唇に付いた
冷たいガラスの感触がなんだか不快で
結局口をつけずにカップをソーサーにもどした。
季節は移ろい、涼しげな風が柔らかくほほを撫ぜて行く。
円形のルーフテラスに植えられた美しい花々と愛らしい少女を愛でながら、
ガラス張りの扉を全開にして明るい日差しにゆったりと手触りの良いお気に入りのカウチに腰掛けて
『ああ、この地上に今の私ほど幸せな気分な人間がどれくらいるだろうか?』
…などと悦に浸っているだろう普段なら。
元々私はそう不幸な人間でもないのだ、今特にこれと言ったせっぱ詰まった悩みはないし、
現在置かれている立場上そうそう不快な気分になることも無い。
こう言い切れるのも自分自身が楽しむときは腹の底から楽しみ、悲しむときは勢いよく悲しんで
翌日にはさっぱりするタイプの人間であるのも起因していると思う。
普段なら腹の底から笑いが止まらないほど楽しい時間をすごしている。
なのに・・・・・
・・・おもしろくない。
これほどまでにおもしろくない気分を味わうのは久々の感覚で
何ともおもしろくない気分を十二分に味わっていた。
触り心地の良いカウチにだらしなく肩肘を預け頬杖をついてぼんやりしている。
良い色に馴染んださわさわしたベルベットの感触が手の平に触れるがそれすらもなんだか今は煩わしい。
気ぜわしく足を組み替えたり紅茶のカップをかちゃかちゃといじってみたりする。
そうそう、この際何でこんな気分になるのかは自分でも何となくわかっているのだけれども
ここは敢えてそのことは考えない事にする。
楽しくないことを考えるのはきっと体にも頭にもよくない。
楽しいことを考えよう。
自分の今の状況を払拭できるような打開策もしくはこの気持ちの改善策だ。
目を瞑り考え出すと知らずに眉間に皺が寄ってしまう。
・・・・・・・・・。
そもそもどうして私はこんなに不満な気持ちになったのか?
ちらりと目を開けると楽しそうに笑いながら花束を作る少女と
その傍ら、正確には自分がいるべきスポットになぜか、どうしてこうなったのか
不器用な笑みを浮かべる髭面にピンクのマントを羽織った長身の男…
「あ、これだ」
なぁ~んだそうだったんだ、考えてみれば簡単なことだった。
揺れる暗雲を太陽の光が白い剣となって切り裂くように、
さっと視界が開けてなんだか頭がクリアになった。
絡まった糸が解けてしまえば後は簡単だ。
自分が好きなように、思うように、気の済むように結び直せばいい。
ぐぃと勢いよく手触りの良いカウチから身を起こすと
子供のように駆けていった、愛しい少女の元へ。
花びらを舞い散らしながらダダダッと少女の元へ駆けてくるや否や
そのスピードを落とさないまま走りより、不意を突かれた魔王を勢いよく肘で突き飛ばし花の海へ沈めると、
セルバンテスは満足げににっこりとした笑顔のままサニーの傍らに座って言った。
「ねぇねぇ、私にも花の冠を作ってくれないかな?」
花の海に沈んで全身花びらと花粉まみれになりながらセルバンテスを見る目が半眼の魔王がむくりと起き上がる。
「いったいなんだ、不機嫌そうにしていたかと思ったら見境無くはしゃぎだしたり・・・」
少女を奪われたせいで、手持ちぶさたの両腕を組みしかめっ面でもっともな不満を述べる。
「君の意見はいつも正論だと思うよ。」
でも何でせっかくの休日にサニーちゃんを誘ったら君まで付いてくるのかがわからない。
今日家の扉を開けた時の私の絶望感と言ったら!
魔王ににらまれても動じないセルバンテスは心の中でそうつぶやいた。
サニーの花輪の作成を手伝う彼の表情は先程と打って変わって朗らかで
いささか恐ろしい表現ではあるが今にも歌でも歌いそうなくらいだ。
「そんなことはどうでも良いんだよ。私はサニーちゃんと遊びたいだけなんだから。」
「君には用はないの」
わけがわからん等とブツブツ言いながら魔王は手早く花びらを取り払うと
不機嫌そのものの顔でテラスの奥に引っ込んでいった。
サニーちゃんは面倒見の良い「後見人」が不機嫌そうにテラスを出て行ったことで
不安そうに私の顔とピンクのマントの背中を交互に見ていたけれど。
少しの我慢もできない大人げない大人でごめんねサニーちゃん
でも、これだけは、いつか君にわかってもらえると良いなぁ。
どれだけ私が君のことを思っているのか。
一緒に暮らしているわけでもない私と君の少ない逢瀬を
私がどれくらい、どれくらい楽しみにしているのか。
そして、この気持ちを解ってくれるのはいつの日になるだろうか
私の廃れた心に巡る紅い炎の様なこの…
先程給仕係に持ってこさせた紅茶は香りばかり強くてあまりいただけなかった。
ぼんやりして頭の中の思考が冴えない。
窓を開け放っているのでその香りは疎か適度に調節されていたであろうティーポットの温度すら
今は冷えてしまってきっともうおいしくないだろう。
頭の中がぼんやりすると
心臓と肺の間くらいからムクムクと
なんだか訳のわからない嫌な感情がもやもやとわき出てきて不快だ。
だから何か考えようとする。
アンティークガラスのカップをつまみ上げて口に運ぼうとすると、
その紅茶の冷たさときつめの香りが鼻についた。
とにかく喉を潤すためにカップ傾けたとたんに唇に付いた
冷たいガラスの感触がなんだか不快で
結局口をつけずにカップをソーサーにもどした。
季節は移ろい、涼しげな風が柔らかくほほを撫ぜて行く。
円形のルーフテラスに植えられた美しい花々と愛らしい少女を愛でながら、
ガラス張りの扉を全開にして明るい日差しにゆったりと手触りの良いお気に入りのカウチに腰掛けて
『ああ、この地上に今の私ほど幸せな気分な人間がどれくらいるだろうか?』
…などと悦に浸っているだろう普段なら。
元々私はそう不幸な人間でもないのだ、今特にこれと言ったせっぱ詰まった悩みはないし、
現在置かれている立場上そうそう不快な気分になることも無い。
こう言い切れるのも自分自身が楽しむときは腹の底から楽しみ、悲しむときは勢いよく悲しんで
翌日にはさっぱりするタイプの人間であるのも起因していると思う。
普段なら腹の底から笑いが止まらないほど楽しい時間をすごしている。
なのに・・・・・
・・・おもしろくない。
これほどまでにおもしろくない気分を味わうのは久々の感覚で
何ともおもしろくない気分を十二分に味わっていた。
触り心地の良いカウチにだらしなく肩肘を預け頬杖をついてぼんやりしている。
良い色に馴染んださわさわしたベルベットの感触が手の平に触れるがそれすらもなんだか今は煩わしい。
気ぜわしく足を組み替えたり紅茶のカップをかちゃかちゃといじってみたりする。
そうそう、この際何でこんな気分になるのかは自分でも何となくわかっているのだけれども
ここは敢えてそのことは考えない事にする。
楽しくないことを考えるのはきっと体にも頭にもよくない。
楽しいことを考えよう。
自分の今の状況を払拭できるような打開策もしくはこの気持ちの改善策だ。
目を瞑り考え出すと知らずに眉間に皺が寄ってしまう。
・・・・・・・・・。
そもそもどうして私はこんなに不満な気持ちになったのか?
ちらりと目を開けると楽しそうに笑いながら花束を作る少女と
その傍ら、正確には自分がいるべきスポットになぜか、どうしてこうなったのか
不器用な笑みを浮かべる髭面にピンクのマントを羽織った長身の男…
「あ、これだ」
なぁ~んだそうだったんだ、考えてみれば簡単なことだった。
揺れる暗雲を太陽の光が白い剣となって切り裂くように、
さっと視界が開けてなんだか頭がクリアになった。
絡まった糸が解けてしまえば後は簡単だ。
自分が好きなように、思うように、気の済むように結び直せばいい。
ぐぃと勢いよく手触りの良いカウチから身を起こすと
子供のように駆けていった、愛しい少女の元へ。
花びらを舞い散らしながらダダダッと少女の元へ駆けてくるや否や
そのスピードを落とさないまま走りより、不意を突かれた魔王を勢いよく肘で突き飛ばし花の海へ沈めると、
セルバンテスは満足げににっこりとした笑顔のままサニーの傍らに座って言った。
「ねぇねぇ、私にも花の冠を作ってくれないかな?」
花の海に沈んで全身花びらと花粉まみれになりながらセルバンテスを見る目が半眼の魔王がむくりと起き上がる。
「いったいなんだ、不機嫌そうにしていたかと思ったら見境無くはしゃぎだしたり・・・」
少女を奪われたせいで、手持ちぶさたの両腕を組みしかめっ面でもっともな不満を述べる。
「君の意見はいつも正論だと思うよ。」
でも何でせっかくの休日にサニーちゃんを誘ったら君まで付いてくるのかがわからない。
今日家の扉を開けた時の私の絶望感と言ったら!
魔王ににらまれても動じないセルバンテスは心の中でそうつぶやいた。
サニーの花輪の作成を手伝う彼の表情は先程と打って変わって朗らかで
いささか恐ろしい表現ではあるが今にも歌でも歌いそうなくらいだ。
「そんなことはどうでも良いんだよ。私はサニーちゃんと遊びたいだけなんだから。」
「君には用はないの」
わけがわからん等とブツブツ言いながら魔王は手早く花びらを取り払うと
不機嫌そのものの顔でテラスの奥に引っ込んでいった。
サニーちゃんは面倒見の良い「後見人」が不機嫌そうにテラスを出て行ったことで
不安そうに私の顔とピンクのマントの背中を交互に見ていたけれど。
少しの我慢もできない大人げない大人でごめんねサニーちゃん
でも、これだけは、いつか君にわかってもらえると良いなぁ。
どれだけ私が君のことを思っているのか。
一緒に暮らしているわけでもない私と君の少ない逢瀬を
私がどれくらい、どれくらい楽しみにしているのか。
そして、この気持ちを解ってくれるのはいつの日になるだろうか
私の廃れた心に巡る紅い炎の様なこの…
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