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青空は抜けるように高く、雲ひとつ無い晴天。
我が義娘の門出になんとふさわしい事か、と目を細めて窓の外を見る。
15年。長いようで短かった。
幼かった愛し子は、今日、神の前で愛する者と永遠を誓う。
正直言ってしまえば初めてサニーの口から「結婚」の二文字が出た時には面食らったものだ。
私の中ではサニーは”娘”であったのだから。
だが、弱々しいひな鳥が冬を越え美しい水鳥になるように、サニーは人を愛する事を知る大人になっていた。これは義父としては喜ぶべきなのだろうが…心中穏やかではなかったのは、義理であれ本当の父親であれ一緒だろう。
伴侶として選んだ相手も意外だった。自分の同僚が義娘の夫になるとは夢にも思っていなかったのだから。歳の差が、という言葉が一瞬脳裏を過ぎったが、これまでの自分の生き方を考えると、そんな些細な事を気にする方が滑稽に思えた。
そう、サニーを育てるまでの自分の人生は、華やかであったにせよどこか空虚だ。
当時の自分を否定し後悔する気はさらさら無いが、サニーを育てたこの15年という年月がどれだけ自分に意義のあるものだったかを改めて思う。
隣室の空気が変わった。
サニーの仕度が済んだようだ。
軽くノックをしてからドアを開けると、鏡台の前で振り向くサニーの姿があった。
部屋は暖かな陽射しに満ち溢れ、純白のドレスは光をまとって輝かんばかり。
しかしそれよりもサニーの顔はもっと美しかった。
「お父様。」
「良く似合う。綺麗だよサニー。」
仕度を手伝っていた小間使いたちは微笑みながら部屋を出て行く。気転の利く彼女達も15年間サニーを見守ってきてくれた大事な人間だ。
「決まってしまうと早かったが…なんにせよ良かった。」
「―――――本当に…そう思っていただけますか?」
おや?と思った。
サニーの目は何時になく真剣だ。
「どうしたのかね?今頃そんな事を尋ねるとは?」
サニーは一瞬うつむき、縋るように私の手をとると、
「お父様はこれまで常に私によかれと手を尽くしてきて下さいました。なのに私は…。」
肩が震えている。
現実を目前にして、自分の結婚が”わがまま”に感じられたようだ。
「…サニー。」
私はそっとその柔らかな手を包み込み、サニーの目線まで腰を落とした。
「この15年、私はお前が幸せたれと思って生きてきた。
何故なら、それが私の喜びであり幸せだったからだ。」
今にも涙が零れそうな赤い瞳を見つめ、自分でも驚くほど穏やかに微笑む。
「けれどサニー。私は決してお前を甘やかしたつもりは無い。
子供はいつかは大人になって巣立つ時が来る。
その巣立ちをわがままだと言うのなら…それは究極の”甘やかし”だ。」
サニーの柔らかな頬を撫でると、指先が熱く感じた。
「私は確かにあまり人に自慢できる人生を送ってきた訳では無いが…
お前と過ごし、お前を育て、お前を愛したこの15年間は、私の人生の最良だ。
お前がなんら後悔する事は無いんだよ。」
むしろ、こんな私を父と呼んでくれた事に感謝したいのだ。
サニーの目から美しい雫が零れた。
そっとその涙を指ですくい取ると、柔らかく額にキスを落とす。
「さあこんな素晴らしい日に泣くものでは無いな、サニー?」
「はい…お父様。」
そう答え、微笑んだ顔はどんな大輪の薔薇よりも可憐で美しく。
小間使いに直しを言いつけると、部屋を後にする。
ああ、今日はなんていい天気なんだ。
あまりに陽射しが眩しくて………目に染みる。
熱くなったまなじりに触れた指が濡れていたのは、墓場まで持っていく私の秘密だ。
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サニーちゃんの相手は皆様のご想像で。
【サニーちゃんと結婚ED】も見てみたい。
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