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うろほろぞ
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石で造られた堅牢な建物の中、そこに少年はいた。
彼が産まれ育った土地では中々見ない建造物であるそれは木造の物と違い、とても静かで冷ややかだ。
彼、幽鬼が先程入ってきたドアからずっと奥へ向かい真っ直ぐに敷かれた赤い絨毯の上。
均等の間隔で脇に並ぶ石柱の影や、進む道の先はとても暗くて何だか怖い感じがしたから、繋ぐ手をしっかりと握り締めながら進む。
その奥の暗闇から人影が、バタバタと騒がしい足音を立てながら近付いてきた。
驚きと脅えに身を強張らせる幽鬼を宥めるように、隣に寄り添う初老の男が空いた手で頭を優しく撫でた。
それで気持の昂りはやや落ち着いたが、幽鬼はその身を包む着物の裾をきつく掴んだ。
やっと向かいからやってくる人の姿を認識出来る程の距離になって、相手が随分と大柄な人物だと知る。
図体もでかければ声もでかい男は、まだ随分と距離があるにも関わらず此方の姿を視認すると声をかけてきた。
派手な桃色のマントを翻しながら男は声を張り上げる。

「カワラザキの爺さま、今ご帰還か。予定より少々遅いので心配したぞ」
「おぉ、樊瑞。少々寄り道をしておった故いささか時間を食ったが万事順調だ、問題ない」

今や黒髪より白髪の量が多くなった初老の男がそう言って笑うと、長い黒髪の男も柔らかい表情を浮かべる。
脳裏へ直接伝わってくる二人の心の声を聞いて、その間柄が偽りの友好関係ではない事を察し幽鬼はやや緊張を解いた。
彼が唯一絶大な信頼を寄せる老人に好意的な人物だと分かっただけで、幽鬼にとっては安心できる。
それに何だかこれまで幽鬼の周囲にいた人間よりも、この樊瑞という男から流れ込んでくる感情や思考といった情報の量は随分と少ないようだった。
能力を持つが故に、幽鬼の中には望むと望まざるに関わらず他人の情報が流入してくる。
隣にいるカワラザキと出会って初めて幽鬼は力の制御法を知り、彼を蝕み続けていた力も今では徐々に抑えられつつあった。
それでも未熟な幽鬼には、受信チャンネルを遮断して流れ込んでくる情報の奔流を制限することは出来ないはずなのに。

(まるで、じさまみたいだ…)

不思議に思いながらその顔を見つめていると、視線に気付いたのか樊瑞が幽鬼を見た。
慌てて顔を背けると樊瑞は、ふむと唸る。

「それは何よりだ爺様。ところでその子どもは…?」
「あぁ…ワシが引き取った子でな、幽鬼という」

それまでカワラザキの手をしっかりと握り二人の遣り取りを観察していた幽鬼は、大人達の注意が己へ向けられた事で再び緊張を強めた。
カワラザキが、安心させる為に幽鬼の肩を抱きながら樊瑞の目の前へ引き出す。
樊瑞は物珍しそうに子どもの顔を覗き込み、黄と緑の不思議な色合いを持つその独特な瞳を見つめた。
慣れぬ男の無遠慮な視線に驚いた幽鬼が慌ててカワラザキの体の影に隠れると、一瞬呆気に取られたような顔をした後に樊瑞は破顔した。
豪快に一頻り笑うと、そのままカワラザキへ「また後程」と断ると、何やら機嫌良さそうに去って行く。
幽鬼はただ呆然と、やはり大股で去って行くその背中を見送って、それからカワラザキの顔を見上げた。
ニコニコと、何やら楽しそうな表情のカワラザキに幼い幽鬼は小首を傾げた。





雲一つない青空の下、スーツ姿のコードネーム暮れなずむ幽鬼は立ち尽くす。
それは実に奇妙な光景だった。
片や栗色の髪に真紅の瞳を持つ色白の愛らしい少女、片や怪しげな仮面と帽子で顔の殆んどを覆い隠し煙管を携えたスーツ姿の男。
その二名が、美しい庭園のベンチに腰掛け、あまつさえにこやかに談笑している。

(……何だアレは)

明らかにおかしい取り合わせだった。
少女一人だけであったらその光景はさぞ絵になっただろうが、一面に広がる見事な青空や花々が咲き乱れる庭と、仮面の男・白昼の残月はミスマッチと言う他無い。
そもそもあの男が溶け込める風景など、この世に存在しないだろうが。

現在地から幽鬼が自室へ帰る為の最短ルートはこの庭園を抜ける道で、ここを通ればすぐに着く。
出先から真っ直ぐこの道を通る為に来たのだし、ここを通らない理由など幽鬼にはない。
だから幽鬼は、一度止めた歩みを再び開始した。

(いや…)

踏み出した足を止める。
何か嫌な予感がした。
具体的な何かがあるというわけではないが、虫の知らせとも呼ばれる第六感的な部分からの警告を受け、あの二人とは顔を合わせない方が得策と幽鬼は考えた。
面倒ごとには関わらない事が幽鬼の信条だから、即座に踵を反す。
しかし迂回しようと進路を変えたところで無情にも少女の声が軽やかに響いた。

「あっ、幽鬼さま…!」

彼女、サニーはわざわざベンチから立ち上がり、可愛らしくお辞儀をした。
声をかけられたのに無視をするのも不自然だった。
がっくりとうなだれたい気分になりつつも、幽鬼は平静を保ち少女へ向き直る。
そもそもこの礼儀正しい少女に非はなく、その隣にいる、余計な茶々を入れて来るであろう人物こそが問題なのだ。
今もそのマスクの下から此方の様子を窺っているのだろうが、その表情は幽鬼には見えない。
余り関わり合いにはなりたくなかったのだが、幽鬼は仕方がなくサニーと残月の方へと歩み寄った。

「こんな昼日中に出歩くとは珍しいではないか」

いっそ清々しい程に不遜な態度を崩さず、アンティークな造りのベンチに我もの顔で陣取っている残月が問掛けた。
足を組み右手に煙管を掲げ、不敵な笑みを浮かべている。
人の事を何だと思っているのか知らないが、随分な物言いだった。

「孔明に呼び出されてな、その帰りだ。白昼の、お前こそサニーに何か良からぬ事を吹き込んでいるのではあるまいな」
「人聞きが悪いな、成すべき事を成し暇を持て余している者同士他愛の無い話に興じていただけだ」

口元以外の部分が隠されている為に表情は読めないが、下弦の弧を描く唇を見る限り残月は微笑を浮かべたようだった。
なぁサニーと彼が同意を求めると少女も、はい残月さまと笑顔で頷く。
サニーは樊瑞から与えられている課題を、残月は報告書の提出と上がってきた書類のチェックが終わったらしい。

「私には一緒に遊べるような友人もいませんし…こうして時折、残月さまにお相手して頂いているのです」

そう言って、サニーは少し寂しげに笑った。

「……」

今のサニーには父親のアルベルト、後見人の樊瑞、アルベルトの盟友セルバンテス、十傑集の長老カワラザキ、アルベルトの忠実な部下であるイワン…他にも頼るべき大人は多くいる。
しかし彼女の周りには年の近い友と呼べる存在はおらず、未だ幼い彼女の身の上を考えればその孤独は量り知れない。
幽鬼はそんな境遇のサニーを哀れむ一方で、それでも決して明るさを失わない彼女を眩しくすら感じていた。
彼女の持つその明るさやひたむきさ故に、子供好きのセルバンテスのみならず多くの幹部連中が一人の少女に暇さえあれば寄ってたかって構っている。
少女一人相手に何をしているんだか、と他の十傑集達を白い目で見ながら比較的積極的な関与は避けている幽鬼でも、この少女の暗い表情など見過ごせなかった。
結局幽鬼もやはり彼女が可愛くて仕方がないのだが、どうにもこんな場面で気の利いた台詞を言えるほど器用ではなく言葉に詰まる。

「………サニー」
「そういえば、暮れなずむは幼い頃からBF団に在籍していたと聞くが」

躊躇いがちに声をかけようとした幽鬼を遮って、無遠慮な声が響く。
それまで傍観していた残月が突如割り入ってきた。
しかも残月がその場へ振り込んだ話題が他ならぬ自分自身の事であったものだから、幽鬼は驚いた。
不躾に何を言い出すのかこの男は、と困惑の表情で残月を見る幽鬼とは異なり、興味を持ったのかその言葉にサニーの表情がパッと明るくなる。
寄りに寄ってこの話題に食い付くのかと若干苦々しい思いを抱きつつ、幽鬼は残月を見遣った。

「…確かにそれは事実だが……白昼の、それを誰から聞いたのだ」

新参者に数えられる残月が、10年以上も昔の出来事を知るはずもない。
一つの可能性を考えながら、幽鬼は残月に尋ねた。

「我等がリーダー、混世魔王殿だが?」

しれっと答える残月の回答を受け、全く予想に違わぬその内容に幽鬼は眉間に皺を寄せる。
元より悪い顔色が、益々悪化したようだった。
両眼をぎゅっと閉じ、今も昔も変わらず桃色のマントを羽織った男の姿を思い浮かべその口の軽さを呪った。
幽鬼の様子など気にも留めず…あるいは知りつつ、残月は更に続ける。

「BF団が誇る十傑集の幼少時代…実に興味深いとは思わないかね、サニー」
「えぇ、残月さま」
「………」

やけに連携の取れた遣り取りに、孤立無援の幽鬼は黙殺された。
思いの外絶妙な二人のコンビネーションと、昔話をせがむサニーのキラキラとした瞳に負けて、結局幽鬼は身の上話をする羽目になった。
残月の力技で話題の転換には成功したようだったが今一つ腑に落ちない。
今となっては過ぎた事でしかなく取り立てて神経質になるような話題でもなかったが、かといって特に面白い話でもないような気がする。
だが友と呼べる者もいないサニーの慰めに少しでもなるのならばと、溜め息混じりに幽鬼は口を開いた。
滅多に己の事を語らぬ幽鬼が話す幼き日の話に、サニーは心底嬉しそうな表情を見せる。
そんな少女の様子を見て、幽鬼は暖かい気持ちを抱いた。

(全く、柄でもない…)

それでもやはり満更でもない気持ちになっている自分を自覚して、幽鬼は密かに微笑した。

この三人が会話してる姿を思い浮かべるだけで凄い幸せな気分になれる今日この頃。
この後、幽鬼ちゃんから「余計なことを喋るな」と釘を刺される樊瑞。昔馴染みだからぞんざいな扱いを受ける魔王。リーダーの威厳皆無。
幽鬼はじさまに連れられて8歳くらいからBF団にいて、魔王とバンテスおじさん辺りが当時の様子を知っていると良いなーと。
ピンクマントとクフィーヤに構われる子幽鬼萌え。
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