一年で一番甘い日―――――2月14日。
国ごとの解釈は違えど、世界中が愛を考える日。
…本来世界制服を目論む秘密結社・BF団には無縁の行事の気もするが、
幹部クラスである十傑集のリーダー・樊瑞が後見人を務める少女が現れてから、それは一変した。
少女の名はサニー。
幼いながら次世代のBF団を垣間見る能力の持ち主である。
だがその実力はともあれ、サニーはいかんせん幼い。
そしてこの幼い少女に出来る限りの世間の常識を教えたい、というのが樊瑞の願いであった。
決して善人ばかりでないBF団で樊瑞の意見は初めこそ受け入れられなかったが、
実の父であるアルベルトから縁を切られているという境遇がわかるにつれ、
”あの父では教えられぬ事を教えてやろう”という流れが十傑集内で生まれた。
それ以降、BF団内ではわかる範囲の一般的な行事が行われている。
ハロウィン、クリスマス、お正月…ここ最近では節分まであった。
どこまでを世間の常識とするかは疑問があるが、
サニー自身も最近は自分からあれこれと本を読んで調べ物をするようになり、
冒頭のバレンタインデーという日に行き着いたのである。
※ ※ ※ ※ ※
「バレンタインの…チョコレート?」
休暇中の小さな来訪者から尋ねられた話にヒィッツカラルドは軽く首を傾げたが、
すぐに「ああ。」と気がつくと、
「ニホンの独自文化だな。女性が男性にチョコレートを贈るという…。」
自分もBF団に来て…正確にはレッドと会ってからその奇妙な風習を教えられた事を思い出す。
もっとも、レッドから教えられたのは『チョコを贈る』という部分のみで、
女性から云々はしばらくしてから残月に教えてもらった事ではあるのだが。
「それで、お嬢ちゃんはそのチョコレートを?」
「はい、ぜひ作ってみたいのですが…。」
そう言っておずおずと後ろから一冊の本を差し出した。
かわいらしいピンク調の表紙には、『初めての手作りチョコレート』と題されている。
「ふむ…。」
意外にもサニーとは割と一緒に料理をしてみたりお茶を飲んでみたりしているヒィッツだが、
今回のチョコレート作りに関しては即答する事が出来なかった。
カレンダーの日付を確認し、少々申し訳ない顔をすると、
「作るとするともう少し後の日になるとは思うんだが、
丁度明日から任務が入っていてね。帰還予定は14日の朝なんだ。」
「!…そうなんですか…。」
サニーは少し目を見開き、がっくりと肩を落とした。
アルベルトの屋敷では何となく落ち着かないし、樊瑞の方ではまだ台所を使わせて貰えない。
だからサニーは十傑集の中でも一番料理が上手いヒィッツと一緒に台所に立つことを学んでいたのだが、
それもヒィッツという”大人”がいるからこそである。
いくら利発な少女とはいえ、さすがに幼いサニーだけに台所を使わせる訳にはいかない。
そしてサニーもそれは解っている。
だからこそ余計にどうにかしてやりたいが…と、ヒィッツはあれこれと思考を巡らせていたが、
「―――――そうだな、お嬢ちゃん。イワンと一緒ならこの部屋のキッチンを使って構わないが。」
え、とサニーが目を丸くする。
「ドアの認識にお嬢ちゃんを登録しておく。だから私が留守の間にイワンと一緒にここで作ればいい。」
その方が他の連中に気兼ねせずに作れるだろう?
そう言ってヒィッツは軽く片目を瞑った。
「ありがとうございます、ヒィッツ様!」
そう言って笑ったサニーの顔は眩しい位だった。
※ ※ ※ ※ ※
―――――さて、バレンタインを明日に控えた13日の夜のこと。
ヒィッツは予定より早くなった帰還に気を良くしていた。
任務は順調に完了し、予定していた時間より早く帰路につくことが出来たのだ。
歌でも口ずさみそうな様子で居住棟へ戻り、自分の部屋の前に着いたのだが…。
「………?」
ドアの前で立ち止まる。
部屋に誰かがいる気配がするのだ。
一瞬仮面の男が過ぎったが、それならば気配はあるまい。
そう気がつくと、ああお嬢ちゃんか、と本部を発つ前の約束を思い出した。
それにしても時間がかかったものだ。イワンと都合でもつかなかったのだろうか、と
ドアを開けると、急に鼻を突く甘い匂いと―――――焦げたような臭い。
そして…押し殺すようなすすり泣き。
「お嬢ちゃん?イワン?」
奥のキッチンに声をかけると、ガタン!と何やら立ち上がったような音がして、
「ひ、ヒィッツ…様?」
入口におずおずと顔を覗かせたのは、父譲りの赤い目を更に真っ赤に腫らしたサニーのみ。
さすがのヒィッツもギョッとして駆け寄る。
「どうした?何があったんだお嬢ちゃん?」
「う…ヒィッツさま………!」
緊張が解けたのか、サニーはヒィッツの脚にしがみつくとしゃくりあげながら泣き始めた。
ヒィッツはその栗色の髪を撫でながらイワンの姿を探したが、そこには見当たらない。
よくよく見ればキッチンは燦々たるありさまで、
チョコレートが飛び散っていたり、焦げて固まっていたりしている。
「ほら、落ち着いてお嬢ちゃん。…イワンはどうしたんだ?」
少し落ち着いてきたサニーは、顔を真っ赤にしたまま語り始めた。
予定通り本当は今日イワンとチョコレートの準備をする筈だったのだという。
だが急な出撃命令が下り、イワンは本部を発つ事になってしまったらしい。
そして戻ってくるのは明日以降になってしまうと聞き、
サニーはつい約束を破って、一人でキッチンを使い始めてしまった。
だがやはりまだ幼いサニーには一人で大きなキッチンを使いこなす事は出来ず、
加えて初めてのチョコレート作りで勝手がわからなかったため、
結果として今の惨状が出来上がったのだ。
「どうしても…ヒック!…私、樊瑞おじ様に…グスッ…いつものお礼がしたくて…。
ヒィッツ様と……お約束…。キッチンも…ごめんなさい………ッ!」
チョコレートが作れなかった悲しさと、ヒィッツとの約束を破って一人で作ろうとした罪悪感で、
サニーは一人動く事も出来ず泣き通していたようだ。
ヒィッツはサニーの頭を軽くコツンと小突くと、
「約束を守らずにいたのはお嬢ちゃんが良くないな。」
「はい…。」
「だが、樊瑞にお礼をしたいというお嬢ちゃんの気持ちはわかった。
―――――チョコレートは全部駄目にしてしまったのかな?」
サニーはヒィッツの柔らかくなった口調に少し安堵したようだが、またすぐに顔を曇らせると、
「はい…用意していた材料は失敗してしまって…。」
折角泣き止んだ目に再びじんわりと涙が浮かぶ。
ヒィッツはふむ、とキッチンを眺めて考えていたが、
「…そうだ、お嬢ちゃんにも渡せる『チョコレート』があったな。」
そう言うと、もう一度サニーの頭をあやす様に撫でたのだった。
※ ※ ※ ※ ※
明けて14日。バレンタインデー。
樊瑞は通常のデスクワークの為、執務室に篭ったままであった。
もっとも、今日がそんな『特別な日』などという事を忘れて…
と言うより、縁遠いイベントすぎて知らなかったという方が正しい。
そんな訳で食事もそこそこに、先日完了した任務の事後整理やら報告書やらで、
一人黙々と仕事をしていたリーダーなのであった。
コンコンコン。
そのドアのノックに気づいたのは、さすがに目がチカチカとしてきてモニタから目を放した時。
遠慮がちなそのノックは他の十傑集が叩く音より遥かに軽い。
「誰だ?」
「あの…サニーです、おじ様…。」
「サニー?」
予想もしなかった相手に樊瑞がぎょっとする。
サニーは樊瑞の執務中は邪魔にならないように、とほとんど部屋に来た事がないのだ。
樊瑞が慌ててドアを開けると、はたしてそこには申し訳なさそうに立っているサニーの姿。
同時にふわん、と甘い匂いが漂う。
よくよく見るとサニーは小さなトレーを手にしており、
そこには温かな湯気を立てたコーヒーカップが鎮座していた。
「サニー?これは…。」
「あ、あの…今日はバレンタインという日で、
女の人が男の方にチョコレートを贈る日なのだそうです。」
やはりイベントは日本仕様で覚えてしまったようだが、それを訂正できる人間はいない。
「それで、いつもお世話になっているおじ様にチョコレートを…。」
「チョコレート?」
樊瑞はカップを見、サニーの顔を見つめた。
サニーはほんの少し頬を染め、カップをトレーごとそっと差し出すと、
「ホットチョコレートです。あ、砂糖は少しにしてあります!」
そう、ヒィッツが教えてくれたのはホットチョコレート…いわゆる『ココア』である。
「本当はきちんとしたチョコレートをお渡ししたかったんです。でも失敗してしまって…。」
樊瑞は少しうつむいたサニーの指を見た。
おそらくはその”失敗”のせいであろう傷や薄い火傷が見える。
未だ小さな子供だと思っていた幼子は、自分の知らぬ内に成長していた。
そんな感慨を胸に樊瑞は柔らかく微笑むと、サニーの頭に大きな手を置く。
「いや、その気持ちが嬉しいよ。ありがとうサニー。」
丁度一休みするところだったし、部屋へ入りなさい。
そう言ってサニーの頭を撫でてくれる手は、淹れたてのココアの湯気よりも温かい。
サニーの頬が先程よりもばら色に近く染まる。
そんなサニーを見つめ、樊瑞も素直な少女に育ってくれているその様子に知らず目を細める。
―――――甘い、温かな香りの中、小さなお茶会はゆっくりと時を刻んでいくのだった。
国ごとの解釈は違えど、世界中が愛を考える日。
…本来世界制服を目論む秘密結社・BF団には無縁の行事の気もするが、
幹部クラスである十傑集のリーダー・樊瑞が後見人を務める少女が現れてから、それは一変した。
少女の名はサニー。
幼いながら次世代のBF団を垣間見る能力の持ち主である。
だがその実力はともあれ、サニーはいかんせん幼い。
そしてこの幼い少女に出来る限りの世間の常識を教えたい、というのが樊瑞の願いであった。
決して善人ばかりでないBF団で樊瑞の意見は初めこそ受け入れられなかったが、
実の父であるアルベルトから縁を切られているという境遇がわかるにつれ、
”あの父では教えられぬ事を教えてやろう”という流れが十傑集内で生まれた。
それ以降、BF団内ではわかる範囲の一般的な行事が行われている。
ハロウィン、クリスマス、お正月…ここ最近では節分まであった。
どこまでを世間の常識とするかは疑問があるが、
サニー自身も最近は自分からあれこれと本を読んで調べ物をするようになり、
冒頭のバレンタインデーという日に行き着いたのである。
※ ※ ※ ※ ※
「バレンタインの…チョコレート?」
休暇中の小さな来訪者から尋ねられた話にヒィッツカラルドは軽く首を傾げたが、
すぐに「ああ。」と気がつくと、
「ニホンの独自文化だな。女性が男性にチョコレートを贈るという…。」
自分もBF団に来て…正確にはレッドと会ってからその奇妙な風習を教えられた事を思い出す。
もっとも、レッドから教えられたのは『チョコを贈る』という部分のみで、
女性から云々はしばらくしてから残月に教えてもらった事ではあるのだが。
「それで、お嬢ちゃんはそのチョコレートを?」
「はい、ぜひ作ってみたいのですが…。」
そう言っておずおずと後ろから一冊の本を差し出した。
かわいらしいピンク調の表紙には、『初めての手作りチョコレート』と題されている。
「ふむ…。」
意外にもサニーとは割と一緒に料理をしてみたりお茶を飲んでみたりしているヒィッツだが、
今回のチョコレート作りに関しては即答する事が出来なかった。
カレンダーの日付を確認し、少々申し訳ない顔をすると、
「作るとするともう少し後の日になるとは思うんだが、
丁度明日から任務が入っていてね。帰還予定は14日の朝なんだ。」
「!…そうなんですか…。」
サニーは少し目を見開き、がっくりと肩を落とした。
アルベルトの屋敷では何となく落ち着かないし、樊瑞の方ではまだ台所を使わせて貰えない。
だからサニーは十傑集の中でも一番料理が上手いヒィッツと一緒に台所に立つことを学んでいたのだが、
それもヒィッツという”大人”がいるからこそである。
いくら利発な少女とはいえ、さすがに幼いサニーだけに台所を使わせる訳にはいかない。
そしてサニーもそれは解っている。
だからこそ余計にどうにかしてやりたいが…と、ヒィッツはあれこれと思考を巡らせていたが、
「―――――そうだな、お嬢ちゃん。イワンと一緒ならこの部屋のキッチンを使って構わないが。」
え、とサニーが目を丸くする。
「ドアの認識にお嬢ちゃんを登録しておく。だから私が留守の間にイワンと一緒にここで作ればいい。」
その方が他の連中に気兼ねせずに作れるだろう?
そう言ってヒィッツは軽く片目を瞑った。
「ありがとうございます、ヒィッツ様!」
そう言って笑ったサニーの顔は眩しい位だった。
※ ※ ※ ※ ※
―――――さて、バレンタインを明日に控えた13日の夜のこと。
ヒィッツは予定より早くなった帰還に気を良くしていた。
任務は順調に完了し、予定していた時間より早く帰路につくことが出来たのだ。
歌でも口ずさみそうな様子で居住棟へ戻り、自分の部屋の前に着いたのだが…。
「………?」
ドアの前で立ち止まる。
部屋に誰かがいる気配がするのだ。
一瞬仮面の男が過ぎったが、それならば気配はあるまい。
そう気がつくと、ああお嬢ちゃんか、と本部を発つ前の約束を思い出した。
それにしても時間がかかったものだ。イワンと都合でもつかなかったのだろうか、と
ドアを開けると、急に鼻を突く甘い匂いと―――――焦げたような臭い。
そして…押し殺すようなすすり泣き。
「お嬢ちゃん?イワン?」
奥のキッチンに声をかけると、ガタン!と何やら立ち上がったような音がして、
「ひ、ヒィッツ…様?」
入口におずおずと顔を覗かせたのは、父譲りの赤い目を更に真っ赤に腫らしたサニーのみ。
さすがのヒィッツもギョッとして駆け寄る。
「どうした?何があったんだお嬢ちゃん?」
「う…ヒィッツさま………!」
緊張が解けたのか、サニーはヒィッツの脚にしがみつくとしゃくりあげながら泣き始めた。
ヒィッツはその栗色の髪を撫でながらイワンの姿を探したが、そこには見当たらない。
よくよく見ればキッチンは燦々たるありさまで、
チョコレートが飛び散っていたり、焦げて固まっていたりしている。
「ほら、落ち着いてお嬢ちゃん。…イワンはどうしたんだ?」
少し落ち着いてきたサニーは、顔を真っ赤にしたまま語り始めた。
予定通り本当は今日イワンとチョコレートの準備をする筈だったのだという。
だが急な出撃命令が下り、イワンは本部を発つ事になってしまったらしい。
そして戻ってくるのは明日以降になってしまうと聞き、
サニーはつい約束を破って、一人でキッチンを使い始めてしまった。
だがやはりまだ幼いサニーには一人で大きなキッチンを使いこなす事は出来ず、
加えて初めてのチョコレート作りで勝手がわからなかったため、
結果として今の惨状が出来上がったのだ。
「どうしても…ヒック!…私、樊瑞おじ様に…グスッ…いつものお礼がしたくて…。
ヒィッツ様と……お約束…。キッチンも…ごめんなさい………ッ!」
チョコレートが作れなかった悲しさと、ヒィッツとの約束を破って一人で作ろうとした罪悪感で、
サニーは一人動く事も出来ず泣き通していたようだ。
ヒィッツはサニーの頭を軽くコツンと小突くと、
「約束を守らずにいたのはお嬢ちゃんが良くないな。」
「はい…。」
「だが、樊瑞にお礼をしたいというお嬢ちゃんの気持ちはわかった。
―――――チョコレートは全部駄目にしてしまったのかな?」
サニーはヒィッツの柔らかくなった口調に少し安堵したようだが、またすぐに顔を曇らせると、
「はい…用意していた材料は失敗してしまって…。」
折角泣き止んだ目に再びじんわりと涙が浮かぶ。
ヒィッツはふむ、とキッチンを眺めて考えていたが、
「…そうだ、お嬢ちゃんにも渡せる『チョコレート』があったな。」
そう言うと、もう一度サニーの頭をあやす様に撫でたのだった。
※ ※ ※ ※ ※
明けて14日。バレンタインデー。
樊瑞は通常のデスクワークの為、執務室に篭ったままであった。
もっとも、今日がそんな『特別な日』などという事を忘れて…
と言うより、縁遠いイベントすぎて知らなかったという方が正しい。
そんな訳で食事もそこそこに、先日完了した任務の事後整理やら報告書やらで、
一人黙々と仕事をしていたリーダーなのであった。
コンコンコン。
そのドアのノックに気づいたのは、さすがに目がチカチカとしてきてモニタから目を放した時。
遠慮がちなそのノックは他の十傑集が叩く音より遥かに軽い。
「誰だ?」
「あの…サニーです、おじ様…。」
「サニー?」
予想もしなかった相手に樊瑞がぎょっとする。
サニーは樊瑞の執務中は邪魔にならないように、とほとんど部屋に来た事がないのだ。
樊瑞が慌ててドアを開けると、はたしてそこには申し訳なさそうに立っているサニーの姿。
同時にふわん、と甘い匂いが漂う。
よくよく見るとサニーは小さなトレーを手にしており、
そこには温かな湯気を立てたコーヒーカップが鎮座していた。
「サニー?これは…。」
「あ、あの…今日はバレンタインという日で、
女の人が男の方にチョコレートを贈る日なのだそうです。」
やはりイベントは日本仕様で覚えてしまったようだが、それを訂正できる人間はいない。
「それで、いつもお世話になっているおじ様にチョコレートを…。」
「チョコレート?」
樊瑞はカップを見、サニーの顔を見つめた。
サニーはほんの少し頬を染め、カップをトレーごとそっと差し出すと、
「ホットチョコレートです。あ、砂糖は少しにしてあります!」
そう、ヒィッツが教えてくれたのはホットチョコレート…いわゆる『ココア』である。
「本当はきちんとしたチョコレートをお渡ししたかったんです。でも失敗してしまって…。」
樊瑞は少しうつむいたサニーの指を見た。
おそらくはその”失敗”のせいであろう傷や薄い火傷が見える。
未だ小さな子供だと思っていた幼子は、自分の知らぬ内に成長していた。
そんな感慨を胸に樊瑞は柔らかく微笑むと、サニーの頭に大きな手を置く。
「いや、その気持ちが嬉しいよ。ありがとうサニー。」
丁度一休みするところだったし、部屋へ入りなさい。
そう言ってサニーの頭を撫でてくれる手は、淹れたてのココアの湯気よりも温かい。
サニーの頬が先程よりもばら色に近く染まる。
そんなサニーを見つめ、樊瑞も素直な少女に育ってくれているその様子に知らず目を細める。
―――――甘い、温かな香りの中、小さなお茶会はゆっくりと時を刻んでいくのだった。
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