セルバンテスは、朝からご機嫌だった。何時もならば嫌がるデスクワークも、嬉々としながらこなしている。はっきり言って、かなり異様な光景である。こんな社長は滅多に見られるものではない、おかしい…。『有能』と噂のセルバンテスの秘書が、そんな彼を見逃さない筈はなかった。
「社長?」
「ん、なんだね~?」心なしか声まで弾んでいる。
「今日の午後の予定がキャンセル…とはどういう事でしょうか?」
実は、これもかなり異様なことである。予定をキャンセルした事がではなく、それをわざわざ知らせた事が『異様』なのである。
「今日は誕生日なんでね、プレゼントを渡しに行こうかと思ってるんだよ♪」
「誕生日…ですか?」
さて、誰の誕生日なのか。勿論、社長でもアルベルト様のでもないわね…と、秘書は頭の中で考える。それならば自分が覚えていない筈は無いからである。それでは、一体誰の誕生日なのか―?
「それでね、昨日私がバースデーケーキを焼いたんだよ♪」
その一言で、秘書は一時自分の思考を停止させた。
「社長の…手作りの、ケーキ…?」
社長室から、秘書の怒鳴り声が聞こえて来る。側を通りかかった社員達も、もうおなじみになっているのか、それを気にするような人は一人もいなかった。
ここ、BF団の基地の中に、その場の雰囲気にそぐわない部屋があった。ピンクを基調にした女の子らしい部屋。サニー・ザ・マジシャンの私室である。
その部屋の壁にはカレンダーが掛かっていて、今日の日付を表す所に、ピンクのマーカーで星が書いてある。特別な記念日などでは、勿論、無い。が、その星を書いた人物にとっては大事な日―誕生日だった。それなのに、サニーは一人で自分の部屋にいた。その表情はどこか暗かった。
その日、サニーは珍しく一人だった。何時もならば、樊瑞やカワラザキのじい様がそばにいてくれるのだが。生憎と、その二人は今開発中のGR-ジャイアントロボ―に関係する任務の事で手一杯だった。一人でいる事には慣れていた。だが、自分の誕生日まで一人でいる、と言うのはこれが初めてだった。もう夜も大分更けていたにもかかわらず、明かりもつけていない。部屋の窓から暗くなり始めた外を見つめてはいたが、その瞳は何も移していない。
「たまには…こんなことも、ある、わよね…。」唇から呟きがもれる。今にも泣き出しそうな声音だった。
自分一人の為に、BF団を束ねる十傑集である二人の都合を変えることが、無理だと言う事はわかっていた。それに、自分の父が誕生日を祝ってくれる、と言うことも。頭では、理屈では分かっていても、感情はそうたやすくついては来れない。何ともいえない感情が胸に広がる。意味もなく泣きたくなるというのは、こんな気持ちなのだろうか。力なくソファーにサニーが座り込んだ時、部屋のドアがノックされた。
「はい、どうぞ。」反射的に、びくりとしたが、サニーは返事を返す。
「やあサニーちゃん、誕生日おめでとう!!」
大声とともに入ってきたのはセルバンテスで、その腕にはなにやら色々と抱えられていた。
「え、あ、あの…セルバンテスのおじさま?どうしてここに?」
セルバンテスは普段BF団の基地には居ない。それは彼だけが十傑集の中でオイルダラーという表の顔を持っているからであり、その事情からここに彼がいる事は至極珍しい事だった。
「それは勿論、君の誕生日を祝う為だよ!」そう言いながらも、手にもっていた花束をサニーに手渡す。
他にも、いくつか持っていた荷物をテーブルの上に置く。そして、部屋のカーテンを閉めて周り、電気を付ける。サニーは呆気にとられてそのセルバンテスを見ていた。
「私の誕生日…ご存知だったのですか?」
その問を聞き、セルバンテスはその二つ名に相応しい、微笑を浮かべる。
「私に知らない事はないんだよ♪」酷く楽しそうな声音だった。
それにつられるようにして、サニーの表情が明るくなる。
そんなサニーを眺めながら、セルバンテスは満足そうに微笑んだ。…それは、どこか裏のありそうな笑みでもあったけど、サニーがそれに気付く筈もなくて。
「あの、ありがとうございます。」
打って変わって、嬉しそうな表情を浮かべるサニーを見て、『アルベルトもこれ位愛想が良いといいんだが…それは怖いか。』などと考えているセルバンテスだった。
「いや、いいんだよ。」
と―、廊下を早足で歩いてくる足音が聞こえた。
ためらいがちにドアがノックされる。
「はい。」サニーは、こんな時間に誰だろう、と不思議そうにしていた。
が、セルバンテスには見当が付いていた。
「サニー、起きていたか?」その声とともに、部屋に入ってきたのはカワラザキだった。
「おじい様!」驚いたように、サニーが声をあげる。
「樊瑞の奴もじきに来るそうだ…何でも誰か一緒につれてくると言っておったぞ。」穏やかそうな表情を浮かべながら、十傑集最強と言われる念動力の使い手は微笑んだ。
その笑みは、サニーを酷く安心させると言うことを、カワラザキ本人は知らないのだ。
そして、カワラザキはセルバンテスに眼を向ける。
「おぬしがここに居るとは珍しいの…。どういった風の吹き回しだ?」少々、当惑しているような声音だった。
セルバンテスが口を開きかけた瞬間、部屋の扉がノックされた。
「あ、はい。」サニーはその場の雰囲気を取り繕うように、ドアを開ける。
「サニー、遅くなって済まない…。」
そこに居たのは樊瑞だった。その後には、最近十傑集になった男―白昼の残月…がいた。
心持ち、警戒気味のサニーの様子に気付いたのか、樊瑞は口を開く。
「ついこの間残月と話しておった時に、誕生日の話をしたら、残月もお主の誕生日を祝ってくれると言うのでな。」一緒に連れて来たのだ、と樊瑞は微笑みながら言う。
サニーが残月の方に眼を向けると、彼はサニーに向かって優しく微笑んだ。
「一緒に祝わせてもらえるかな?」
思っていたよりずっと、人当たりの良さそうな彼に向かって、サニーは微笑みながら頷いた。
かくして、日付ももうじき変わると言うような夜更けに、サニーの部屋で誕生日のパーティが開かれた。そこにそろっているのは十傑集の面々で…かなり個性的な集まりだったが、サニーは十分に嬉しかった。
セルバンテスか持ってきたケーキを、サニーが切り分ける。一見した所、何の変哲も無いケーキだったが、そのケーキは驚く位に美味しかった。サニーはやはり甘い物が好きだったが、甘さを控え目にしたそのケーキは、その場の他の面々の口にも合ったようだった。
「このケーキ…セルバンテスのおじ様が作ってくださったのですか?」
そう、明らかにそのケーキは手作りと分かる物だった。
「いや、私の会社の秘書課にね、ケーキ作りの得意な子が居てね…その子の作った物だよ。」
「それにしても、美味しいケーキじゃな。ワシも、普段は普段はあまり甘い物は好かんのだが…これは程好い甘さが良いのぉ。」カワラザキのじい様が言う。
「サワークリームを使った、サワーケーキだと、ウチの秘書課の子は言っていたよ♪」楽しそうにセルバンテスが言う。
「そうなんですか…サワーケーキ…。美味しいケーキですね。」そう言っている途中に、サニーは思わず欠伸をしてしまった。
もうじき日付が変わるような時間である。まだまだ子供のサニーにはかなり遅い時間だ。それを見て取って、カワラザキが口を開いた。
「さて、もう時間も遅いし、…最後にサニーにプレゼントを渡してから、お開きにするとしようかの?」そう言いながら、リボンで飾り付けられた大きな箱を取り出して、サニーに渡す。
「そうですな、じい様。…サニー、これはワシからだ。幸運を呼ぶと言われているものだが…。」樊瑞も、赤い中華風の刺繍が入った絹張りの箱をサニーに手渡す。
「サニーちゃん!これは特別なプレゼントだ!一人で居る時に、見てくれたまえ♪」そう言いながら、セルバンテスが差し出したのは、ビデオテープだった。
「これは…気に入るかどうか分からないが…。誕生日おめでとう。」一番最後に、控え目に小さい包みを差し出したのは残月だった。
「みなさん、ありがとうございます!」心底嬉しそうに、サニーは顔を綻ばせてお礼を言った。
次の日、サニーは皆から送られたプレゼントを開けてみた。
カワラザキのじい様からは…イブニングドレスが送られた。はっきり言って、見当外れなプレゼントである。二十歳にもならない少女に、一体どこに着ていけというのだろうか・・・。樊瑞からは、古銭で出来た亀の置物…とてもではないが、女の子に送って喜ばれるような代物ではない…。
そして、セルバンテスからのプレゼントは何と!自分の石油会社のPRのビデオレターだった。そんな物を貰って、喜ぶ女の子がどこにいるというのだ…。
実は、毎年毎年、この調子で、見当ハズレなプレゼントばかり貰っているサニーである。
それでも、サニーは嬉しかった。何を貰ったか、では無く…自分にプレゼントをくれるほど、気にかけていてくれる人が居ること自体が嬉しくて仕方が無かったのである。
最後に、サニーは残月から貰った小さな包みを開いた。その中から出てきたのは、綺麗な作りの箱だった。表面に彫ってある模様は、サニーの目から見ても美しかった。
「宝石箱…かしら?」そう口にだして、サニーはその箱を開けた。
とたんに、そこからメロディ―が流れ出した。明るく響いているようで、それでいてどこか物悲しげな、人の心の根底を揺さぶるような曲…。
自分でも気付かないうちに、サニーは涙を流していた。頬を伝う水滴に、自分が泣いているのだと言う事に思い当たった。
これからも、ずっと・・・こんな時間が続きますように。そして、毎年誕生日を祝えるような、幸せな日々が続きますように。そして、涙を流す事が無くなりますように、強い自分で居られますように、と。
奇しくも、そのオルゴールに納められていた曲はバダジェフスカの「乙女の祈り」であった。
後日談ではあるが、セルバンテスの手作りのケーキをそれと知らずに食べた、彼の会社の秘書課のメンバー達がそろって体調不良のため、休暇を取った。
そして十傑集の内部で、この誕生日プレゼントの内容により、新参者である白昼の残月が激動たるカワラザキと、混世魔王樊瑞に、一目置かれるようになった、と言う…。
更に言うのならば、その数日後、差出人不明のバースデーカードが、サニーの元に届けられたそうだ。
THE END
「社長?」
「ん、なんだね~?」心なしか声まで弾んでいる。
「今日の午後の予定がキャンセル…とはどういう事でしょうか?」
実は、これもかなり異様なことである。予定をキャンセルした事がではなく、それをわざわざ知らせた事が『異様』なのである。
「今日は誕生日なんでね、プレゼントを渡しに行こうかと思ってるんだよ♪」
「誕生日…ですか?」
さて、誰の誕生日なのか。勿論、社長でもアルベルト様のでもないわね…と、秘書は頭の中で考える。それならば自分が覚えていない筈は無いからである。それでは、一体誰の誕生日なのか―?
「それでね、昨日私がバースデーケーキを焼いたんだよ♪」
その一言で、秘書は一時自分の思考を停止させた。
「社長の…手作りの、ケーキ…?」
社長室から、秘書の怒鳴り声が聞こえて来る。側を通りかかった社員達も、もうおなじみになっているのか、それを気にするような人は一人もいなかった。
ここ、BF団の基地の中に、その場の雰囲気にそぐわない部屋があった。ピンクを基調にした女の子らしい部屋。サニー・ザ・マジシャンの私室である。
その部屋の壁にはカレンダーが掛かっていて、今日の日付を表す所に、ピンクのマーカーで星が書いてある。特別な記念日などでは、勿論、無い。が、その星を書いた人物にとっては大事な日―誕生日だった。それなのに、サニーは一人で自分の部屋にいた。その表情はどこか暗かった。
その日、サニーは珍しく一人だった。何時もならば、樊瑞やカワラザキのじい様がそばにいてくれるのだが。生憎と、その二人は今開発中のGR-ジャイアントロボ―に関係する任務の事で手一杯だった。一人でいる事には慣れていた。だが、自分の誕生日まで一人でいる、と言うのはこれが初めてだった。もう夜も大分更けていたにもかかわらず、明かりもつけていない。部屋の窓から暗くなり始めた外を見つめてはいたが、その瞳は何も移していない。
「たまには…こんなことも、ある、わよね…。」唇から呟きがもれる。今にも泣き出しそうな声音だった。
自分一人の為に、BF団を束ねる十傑集である二人の都合を変えることが、無理だと言う事はわかっていた。それに、自分の父が誕生日を祝ってくれる、と言うことも。頭では、理屈では分かっていても、感情はそうたやすくついては来れない。何ともいえない感情が胸に広がる。意味もなく泣きたくなるというのは、こんな気持ちなのだろうか。力なくソファーにサニーが座り込んだ時、部屋のドアがノックされた。
「はい、どうぞ。」反射的に、びくりとしたが、サニーは返事を返す。
「やあサニーちゃん、誕生日おめでとう!!」
大声とともに入ってきたのはセルバンテスで、その腕にはなにやら色々と抱えられていた。
「え、あ、あの…セルバンテスのおじさま?どうしてここに?」
セルバンテスは普段BF団の基地には居ない。それは彼だけが十傑集の中でオイルダラーという表の顔を持っているからであり、その事情からここに彼がいる事は至極珍しい事だった。
「それは勿論、君の誕生日を祝う為だよ!」そう言いながらも、手にもっていた花束をサニーに手渡す。
他にも、いくつか持っていた荷物をテーブルの上に置く。そして、部屋のカーテンを閉めて周り、電気を付ける。サニーは呆気にとられてそのセルバンテスを見ていた。
「私の誕生日…ご存知だったのですか?」
その問を聞き、セルバンテスはその二つ名に相応しい、微笑を浮かべる。
「私に知らない事はないんだよ♪」酷く楽しそうな声音だった。
それにつられるようにして、サニーの表情が明るくなる。
そんなサニーを眺めながら、セルバンテスは満足そうに微笑んだ。…それは、どこか裏のありそうな笑みでもあったけど、サニーがそれに気付く筈もなくて。
「あの、ありがとうございます。」
打って変わって、嬉しそうな表情を浮かべるサニーを見て、『アルベルトもこれ位愛想が良いといいんだが…それは怖いか。』などと考えているセルバンテスだった。
「いや、いいんだよ。」
と―、廊下を早足で歩いてくる足音が聞こえた。
ためらいがちにドアがノックされる。
「はい。」サニーは、こんな時間に誰だろう、と不思議そうにしていた。
が、セルバンテスには見当が付いていた。
「サニー、起きていたか?」その声とともに、部屋に入ってきたのはカワラザキだった。
「おじい様!」驚いたように、サニーが声をあげる。
「樊瑞の奴もじきに来るそうだ…何でも誰か一緒につれてくると言っておったぞ。」穏やかそうな表情を浮かべながら、十傑集最強と言われる念動力の使い手は微笑んだ。
その笑みは、サニーを酷く安心させると言うことを、カワラザキ本人は知らないのだ。
そして、カワラザキはセルバンテスに眼を向ける。
「おぬしがここに居るとは珍しいの…。どういった風の吹き回しだ?」少々、当惑しているような声音だった。
セルバンテスが口を開きかけた瞬間、部屋の扉がノックされた。
「あ、はい。」サニーはその場の雰囲気を取り繕うように、ドアを開ける。
「サニー、遅くなって済まない…。」
そこに居たのは樊瑞だった。その後には、最近十傑集になった男―白昼の残月…がいた。
心持ち、警戒気味のサニーの様子に気付いたのか、樊瑞は口を開く。
「ついこの間残月と話しておった時に、誕生日の話をしたら、残月もお主の誕生日を祝ってくれると言うのでな。」一緒に連れて来たのだ、と樊瑞は微笑みながら言う。
サニーが残月の方に眼を向けると、彼はサニーに向かって優しく微笑んだ。
「一緒に祝わせてもらえるかな?」
思っていたよりずっと、人当たりの良さそうな彼に向かって、サニーは微笑みながら頷いた。
かくして、日付ももうじき変わると言うような夜更けに、サニーの部屋で誕生日のパーティが開かれた。そこにそろっているのは十傑集の面々で…かなり個性的な集まりだったが、サニーは十分に嬉しかった。
セルバンテスか持ってきたケーキを、サニーが切り分ける。一見した所、何の変哲も無いケーキだったが、そのケーキは驚く位に美味しかった。サニーはやはり甘い物が好きだったが、甘さを控え目にしたそのケーキは、その場の他の面々の口にも合ったようだった。
「このケーキ…セルバンテスのおじ様が作ってくださったのですか?」
そう、明らかにそのケーキは手作りと分かる物だった。
「いや、私の会社の秘書課にね、ケーキ作りの得意な子が居てね…その子の作った物だよ。」
「それにしても、美味しいケーキじゃな。ワシも、普段は普段はあまり甘い物は好かんのだが…これは程好い甘さが良いのぉ。」カワラザキのじい様が言う。
「サワークリームを使った、サワーケーキだと、ウチの秘書課の子は言っていたよ♪」楽しそうにセルバンテスが言う。
「そうなんですか…サワーケーキ…。美味しいケーキですね。」そう言っている途中に、サニーは思わず欠伸をしてしまった。
もうじき日付が変わるような時間である。まだまだ子供のサニーにはかなり遅い時間だ。それを見て取って、カワラザキが口を開いた。
「さて、もう時間も遅いし、…最後にサニーにプレゼントを渡してから、お開きにするとしようかの?」そう言いながら、リボンで飾り付けられた大きな箱を取り出して、サニーに渡す。
「そうですな、じい様。…サニー、これはワシからだ。幸運を呼ぶと言われているものだが…。」樊瑞も、赤い中華風の刺繍が入った絹張りの箱をサニーに手渡す。
「サニーちゃん!これは特別なプレゼントだ!一人で居る時に、見てくれたまえ♪」そう言いながら、セルバンテスが差し出したのは、ビデオテープだった。
「これは…気に入るかどうか分からないが…。誕生日おめでとう。」一番最後に、控え目に小さい包みを差し出したのは残月だった。
「みなさん、ありがとうございます!」心底嬉しそうに、サニーは顔を綻ばせてお礼を言った。
次の日、サニーは皆から送られたプレゼントを開けてみた。
カワラザキのじい様からは…イブニングドレスが送られた。はっきり言って、見当外れなプレゼントである。二十歳にもならない少女に、一体どこに着ていけというのだろうか・・・。樊瑞からは、古銭で出来た亀の置物…とてもではないが、女の子に送って喜ばれるような代物ではない…。
そして、セルバンテスからのプレゼントは何と!自分の石油会社のPRのビデオレターだった。そんな物を貰って、喜ぶ女の子がどこにいるというのだ…。
実は、毎年毎年、この調子で、見当ハズレなプレゼントばかり貰っているサニーである。
それでも、サニーは嬉しかった。何を貰ったか、では無く…自分にプレゼントをくれるほど、気にかけていてくれる人が居ること自体が嬉しくて仕方が無かったのである。
最後に、サニーは残月から貰った小さな包みを開いた。その中から出てきたのは、綺麗な作りの箱だった。表面に彫ってある模様は、サニーの目から見ても美しかった。
「宝石箱…かしら?」そう口にだして、サニーはその箱を開けた。
とたんに、そこからメロディ―が流れ出した。明るく響いているようで、それでいてどこか物悲しげな、人の心の根底を揺さぶるような曲…。
自分でも気付かないうちに、サニーは涙を流していた。頬を伝う水滴に、自分が泣いているのだと言う事に思い当たった。
これからも、ずっと・・・こんな時間が続きますように。そして、毎年誕生日を祝えるような、幸せな日々が続きますように。そして、涙を流す事が無くなりますように、強い自分で居られますように、と。
奇しくも、そのオルゴールに納められていた曲はバダジェフスカの「乙女の祈り」であった。
後日談ではあるが、セルバンテスの手作りのケーキをそれと知らずに食べた、彼の会社の秘書課のメンバー達がそろって体調不良のため、休暇を取った。
そして十傑集の内部で、この誕生日プレゼントの内容により、新参者である白昼の残月が激動たるカワラザキと、混世魔王樊瑞に、一目置かれるようになった、と言う…。
更に言うのならば、その数日後、差出人不明のバースデーカードが、サニーの元に届けられたそうだ。
THE END
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