深夜の喧嘩
気がつけば、遥が布団の中に入っていた。
妙に暖かいと思うのも無理のない。子供というのは体温が高いから、三十も過ぎ、冬の夜は冷える桐生にとって有難い湯たんぽだった。
これ幸いと遥を懐に入れれば、うにゅうにゅと寝言を言ってしがみついてくる。
(警戒心というものがないのか、こいつは)
九歳の子供に警戒されても困るのだが、この間の100憶事件の後だというのにまるで動じた様子がない。
普通なら、トラウマになっていてもおかしくはないというのに。
(……ん?)
おとなしく湯たんぽになっていた遥が、身動きする。
そして、ぱちりと目が開いた。
「………」
抱き締められている事実に、遥は寝惚けた顔で桐生の頬を叩いた。力が込もっているわけではないが、離せという意味だ。
「……おじさん、冷たい」
「遥が入ってきたんだろうが」
「でも、冷たい」
「なら自分の布団で寝ろよ」
その一言に、遥は黙って布団の中に潜り込んだ。
離れたくは、ないらしい。
桐生は大笑いしそうになるのを抑え、布団の中の遥をぽんぽんと叩いた。
「湯たんぽ役、ご苦労」
言うのと、遥が桐生のむこう脛を蹴り上げるのはほぼ同時の事だった。
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