「真島のおじさん?そこで何してるの?」
買い物帰りに立ち寄った雑貨店の角に見慣れた後ろ姿があった。遥が声をかけると、盛大にびくつき振り返る。
「なんや、遥チャンか~。ほんま、びっくりしたわ」
やっぱり見慣れた眼帯男、真島吾朗だ。
だが、どこかよそよそしい。疑わしそうに遥が真島を押しのけて、真島が見ていた方に目を凝らす。すると、そこは最近できたお洒落なカフェ。
通り沿いはガラス張りになっていて、そこにも見慣れた姿が二人、向かい合わせに座っている。
「伊達のおじさんと、桐生のおじさん?」
「しぃーやで!遥チャン!?」
こんなに離れているのだから、絶対聞こえないだろうが真島は遥の口を塞いだ。端から見れば、かなり怪しい男だろう。
「ぷはっ、おじさんはなんで二人のこと見張ってるの?」
遥が問いかけたとき、カフェの中にいた二人が動き出した。
「!?追っかけるで」
「あ、待ってよ~」
追いかけていった先は若者に人気のジュエリーショップ。
二人仲良く店内に入っていく。
「何か買うのかな、っておじさん!?」
真島はこの世の終わりが迫っているような、絶望的な表情で立ち尽くしていた。
慌てた遥がなんとか宥めていると、店内にいた二人が出てきた。
「あれ、もうでてきたね。それに別々に帰るみたい」
その言葉にはっとなった真島が、自宅の方へ続く道を歩いていく桐生をじっと見つめた。
「おじさん?」
「桐生チャンは、桐生チャンは、わしのもんなんじゃぁああぁあぁあああぁぁあ!!!!!!!!」
「ちょ、おじさん!!車道飛び出したら危なっ」
遥の制止も聞かずに、反対側の歩道目指して飛び出す真島。声に気づいて桐生が振り返る。
「に、兄さん!?」
ガバァッ
大きく広げた腕で桐生に抱きつこうとするも、思わず拳がでてしまった桐生によって阻まれた。
「へぶっ!!」
勢いよく後ろに転倒した真島に、追いかけてきた遥が駆け寄る。
「大丈夫?桐生のおじさん、取りあえず真島のおじさんうちに連れて帰ろうよ」
いまいち事態を飲み込めていない桐生だったが、なんだなんだと集まってきてしまったギャラリーに気が付き、気絶した真島をおぶって家に向かうのだった。
真島はいい匂いで目が覚めた。
美味しそうなビーフシチューの香り。
体にかけられていたタオルケットを剥ぎ、起き上がる。
「あ、起きたみたいだよ」
遥が嬉しそうに近寄ってきた。
遅れて、桐生も現れる。その瞬間、昼間のことを思い出して真島はそっぽを向いた。
「桐生チャンなんか、わしに構わずあの元刑事んとこにいきゃーいいんやっ」
そう言うと、遥がころころ笑う。
「おじさん、違うよ。あれはね…」
「いや、俺が話す。遥は夕飯の支度しといてくれ」
桐生が遥に頼むと「つまんなーい」と口を尖らせてキッチンへと消えた。
少し気まずい雰囲気がながれる。
「なんやねん、言い訳でもしよっていうんか」
「兄さん、こっち向いて」
だが、頑として真島は振り向かない。
すると背後の桐生がふっと笑い、なにか袋から取り出す音が響く。
しばらくすると、ヒヤッとしたものが首に触れる。
「っ!?」
「やっぱり兄さんには赤が似合うな」
いつの間にか真島の正面に回りこんだ桐生が満足げに微笑んだ。
首を見ると、シルバーのネックレスが胸元を飾っていた。アクセントに赤い宝石がついており、その宝石にはよく見ると蛇を模した銀細工が絡んでいる。
顔を上げると、桐生の首にも同じデザインのネックレスがしてあった。ただ、宝石は青で蛇ではなく龍が絡んでいる。
「桐生チャン…」
「伊達さんは娘さんにプレゼント買いにきたみたいで、近くで会ったんです。相談して、アクセサリーにしようと決めて。店にでてたこれ、一目で気に入って買ったんです。兄さんにって」
「それに」と言葉を続けたあと、部屋をキョロキョロ見渡して赤くなりながら真島の耳に囁いた。
「…吾朗さんと、同じものつけていたかったから…」
これじゃあ、顔が締まらなくなっても文句は言えない。
体を離そうとした桐生を抱きとめ、
「悪かったな」
と謝罪した。
「でも兄さんが嫉妬してくれたの、嬉しかった」
憎まれ口を叩く桐生にやんわりとキスをして、二人で笑いあったのだった。
「…ラブラブすぎて部屋入れないよぉ」
遥の苦労はこれからずっと続きそうだ。
END
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