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うろほろぞ
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「……泣くんじゃねぇ、うっとぉしい。 俺の気が変わらないうちに消えろ……」
昼下がりの森の中。
殺しに来たはずのギアの少女……ディズィーに結局とどめを刺せず、ソル=バッドガイは小さく吐き捨てて身を翻す。
へたり込んで瞳に涙を浮かべていたディズィーは、ソルの言葉に顔を上げて――

「そおおぉぉぉぉるうううぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!」

彼方から爆煙蹴立てて走ってきた白い人影が、ダッシュからの跳び蹴りでソルを吹っ飛ばし。
ディズィーは、あまりといえばあまりな展開に泣きはらした目を点にした。




 
  ―ELEC-TRIGGER―




出現と同時にソルの側頭部に蹴りを叩き込んで真横に吹き飛ばすという怖い物知らずなことをやってのけた人影――カイ=キスクは、翡翠色の双眸を輝かせてディズィーの手をがっしと握る。
「良かった、無事だったんですねディズィーさん!!」
目が潤んですらいるのは、ディズィーの気のせいだろうか?
「……は、はい……」
まだ呆けたままでディズィーがかくんと首を縦に振ると、途端に全身を脱力させてカイは安堵の息を吐いた。
「本当に良かった…… 結局あいつを止められなかったから、どうなったのかと気が気でなくて……」
あいつ、というのは無論ソルのことである。
「あの、えっと、でも…… あの人、私を見逃してくれようとしてたみたいなんです……」
ディズィーがおどおどと口を挟むと、一度目を丸くしてから――カイは妙に楽しそうな笑みを浮かべた。
「……ははぁ、そうなんですか。 あのソルがね……」
「――て、てめぇ……」
と、そこに地獄の底からのような呻き。 見れば、さっきカイの蹴りで画面3つぶんくらいの距離を吹っ飛び、強制退場させられた主人公。
「あ、ソルさん、でしたっけ…… だ、大丈夫ですか……?」
側頭部にくっきりと靴跡を付けられたソルに冷や汗たらしながら問いかけるディズィー。
「大丈夫ですよ、この程度じゃソルは死にませんし。 ……しかし私に甘いだのなんだの言った割には、なぁソル?」
そのディズィーに向けてさりげなく外道な発言をしてから、横目でソルを見てくすりと笑うカイ。
「……っ野郎……!!」
照れと怒りが入り交じり、顔を赤くして封炎剣を構えたソルだったが、
「メイさん、お願いします」
「了解! てええぇぇぇぇ~~~~~いっっっ!!!」
カイの一言でどこからともなく出てきた快賊少女が、とんでもねぇもんをソルに投げつけた。
「ぐほぉ!?」
メイが投げたそれに押し潰され、肺の空気を全部吐き出し、さすがのギアも一瞬意識がブラックアウトする。 白目を剥いたソルに、重しは短く詫びを述べた。
「すまんな」
……ポチョムキンだった。
「な・ん・で……ツェップと快賊団が坊やと組んでやがる……」
「それは当然利害の一致ってやつさ」
なんとか息を吸い込んで尋ねたソルに答えたのは、茂みをかき分けて現れた快賊団頭領ジョニー。
「……あのぉ~」
「安心するアル。 みんな、アナタのために動いてたアルよ」
さっぱり展開が飲み込めていないディズィーに笑顔を向けたのは、ジョニーの後に続いて現れた中華料理人・蔵土縁紗夢。
「そうですよ~。 何も心配することはありません。 こちらのかたも、ほら」
紗夢の後を引き継いで、空から傘を差した長身の紙袋ことファウストが舞い降りた。 その片腕に、治療済みのテスタメントを抱えて。
「テスタメントさん、無事だったんですね!」
「お前こそ。 良かった」
顔を輝かせるディズィーに、頷いてテスタメントは笑いかけた。
「……でも、本当にどうなってるんですか?」
いきなり知らない人間が大量に押し掛けて、いかに全員カイの知り合いらしいとしても当然何一つ説明されていないディズィーは混乱する。
「……俺も知りたいぞ」
ポチョムキンの下から半眼で睨め上げるソルを見下ろし、カイはにこやかに指を立てる。
「ソル、私を甘く見ないでもらいたいな」


……そもそも、何故こうなったのかは、少し前へと遡る。

数日前のこと。 以前から噂になっていた「無害なギア」に賞金がかけられたと知ったカイは、休暇を取って個人的に動き出した。
本当に無害かつ意志を持つギアがいるのか、そしてそのギアが何を望んでいるのか……それを知るために悪魔の森に訪れ、テスタメントを退けてディズィーと出会った。
そして、本当にディズィーが平穏を望み、テスタメントもそんな彼女を守りたいと思って人間を追い払っていることを知り、二人の存在を受け入れ、そのささやかな望みを叶えたいと思ったのだ。
……だが、それには大きな問題があった。 そう、全てのギアを抹消する使命を己に課している、ソル=バッドガイの存在である。
カイが働きかけてディズィーたちの賞金を取り消すことや、ギアは倒したことにしてしまうという手も考えられたが、それを他の人間はまだしもソルが信じるとは思えない。 カイが関わっていると知った時点で疑いを抱かれるだろうことは、冗談でなく火を見るより明らかだった。
結論として――まず何をおいてもソルを納得させ、納得しなかった場合は力ずくででも追い払う、ということでカイとテスタメントは共同戦線を張る運びになったのだ。
まずはカイが先手を打ってソルを説得する。 もし聞き入れてもらえなかった場合は戦う。 テスタメントはカイが失敗した場合にディズィーを守る。
……まぁソルがディズィーと会っているあたりでもうお分かりの通り、巴里でソルを足止めしようとしたカイは説得を拒絶された挙げ句善戦するも敗退、テスタメントも力及ばず敗北。
ソルがディズィーを殺さなかったので、結果としてはオーライなのだが……当然、カイにそんな未来が分かるはずもない。
ギア二人の身を案じた彼は怪我をおして飛び出し、これは予期しない偶然だったのだが出会ったファウストに事情を話して協力を申し込んだ。
もともと魔の森のギアを救いたいと思っていたファウストはカイの頼みに応じ、カイの傷を癒してお得意の空間移動術で魔の森近辺へと転移。
そこでわあわあと修羅場を演じていたジョニーとメイを発見、二人を取りなすうちに彼らの……特にジョニーの目的がディズィーを救うことであると知り、速攻で彼らを仲間に引き込んだ。
「まさか警察に頼み事をされるなんてな」と言ったジョニーにカイが答えて曰く――「今は休暇中ですから」。 さすがにあっけにとられた、とはジョニーの弁。
さらにポチョムキンと邂逅、元首の命だと語った彼の言葉にぴんときたカイとジョニーはポチョムキンにツェップのガブリエル大統領と連絡を取らせ、ギアを快賊団が保護したいと持ちかける。
これがあっさりと許可され、驚きながらもポチョムキンは次なるガブリエルの言葉を受けてカイ達に協力することになった。
そして最後に紗夢であるが、彼女はもともとディズィーの賞金で屋台のローンを払って店を建てるため、プラス魔の森にあるとされる珍しい食材を料理人として手に入れるために動いていた。
一見ディズィーを守るために動くカイ達とは対立しそうだが――そこでまた、下手に吹っ切れたカイの悪魔の囁きが効果を発揮する。
「それでは、あなたがギアを跡形もなく吹き飛ばしたことにしてしまう、というのはどうでしょう? 大丈夫、私が証人になりますから」
……喜んで応じた紗夢の後ろで、ジョニーたちが顔をひきつらせていたのは言うまでもない。

その後全員結託して魔の森に突入、途中ソルに敗れ倒れていたテスタメントをファウストが介抱し、カイは慌てて森の奥へと走り。
そこで、さっきの矯激な跳び蹴りへと繋がるわけである。


「……成る程な」
ようやく納得、のちふてくされてソルはうめいた。 ちなみに相変わらずポチョムキンに乗っかられたままだ。
「……坊や。 お前キャラクター変わってないか?」
普段のカイの生真面目さを知るもの全員に共通するソルの疑問に、カイは眉一つ動かさずに答える。
「だから今は休暇中だと言っているだろう。 ……それに、この問題を根本的に解決するには、正直形振り構っていられないからな」
カイらしからぬ(特に前半の割り切りっぷり)、しかし後半は現実問題としてはごもっともな答えだった。
ディズィーを殺さないことを前提とする以上、一時的に見逃したところで他の賞金稼ぎがこの森に来るのならばディズィーとテスタメントの心労が続くことには変わりない。
かといって、この森を逃げ出したところで、死亡確認が取れなければ世界的に追われることになる可能性も高い。
ディズィーを守り、かつ後顧の憂いを断つためには、これが現状で考え得る最適の手段だった。
――その手段を躊躇いなくカイがとってのけるというのが、ソルが一番信じられないと思っていることなのだが。
「にしたって、他の奴ならともかく、坊やが陣頭指揮とはな」
「……ソル、私を何だと思ってるんだ」
しつこいツッコミにカイの目が不機嫌に細まる。 それを見上げて、ソルは即答した。
「融通のきかねぇ潔癖性の坊や」
「………………」
絶句したのちに出そうとした大声を呑み込み、カイはふうとため息を零す。
「……私だって……知っているさ。 世の中、綺麗事だけじゃ済まない事ぐらい。 嫌でも……それが分かる生き方はしてきた」
幼子が拗ねるような口調で――小さく呟かれた抗議に、今度はソルが言葉を失う。
そう、ソルだって知っているはずだったのだ。 カイがどういう人生を送ってきたのか。
幼い頃から剣と法力を振るって戦場を飛び回り、16という年端もいかない頃に、偶像などでは到底務まらない聖騎士団の団長になって。
聖戦が終わった後も、警察という、否応なく人の醜さに触れなければいけない場所に身を置いている。
それでも失われることのなかったカイの持ち前の真っ直ぐさと正義感の強さ、そして何より自分に向けられる明らかに制御の効いていない感情に。 確かにソルは、カイを甘く見ていたのかもしれない。
(……さすがに、こればっかりは俺の認識不足だったな)
内心では、少し「坊や」を認めながら。 ……顔には別の不満を浮かべて、もう一度カイを見上げる。
「それは分かったがな、俺に対するこの仕打ちは何だ」
「自業自得」
一秒。
「をい……」
「ひとの話聞かずにはり倒して消えたくせに、信用されるとでも?」
「………………」
反論出来ない。
ディズィーをかばおうとしたカイを甘ちゃん呼ばわりしておきながら、結局ディズィーにとどめをさせなかったソルには、どうもこうも言ってみようがない。
珍しく言い負かされてすっとしない気分を味わっているソルに、まあまあと取りなしながらファウストが声を掛ける。
「貴方も、もうディズィーさんを傷つける気はないのでしょう? ここはひとつ、このまま大団円ということで」
「……っくそ、分かったよ」
ソルの答えに、ディズィーが嬉しそうな笑顔で頭を下げた。
「ソルさん、有り難うございます」
「――フン」
逸らしたソルの目の下が、わずか赤らんでいたことに気付いて。 カイは、胸に満ちる暖かい満足感に笑みを浮かべた。


あとの問題といえば今後のディズィーの身の振り方だったが、それも間もなく解決した。
ジョニーの誘いに応じてディズィーはジェリーフィッシュ快賊団に身を寄せることになり、メイも妹分が出来るとなって喜びに目を輝かせていた。
ディズィーはテスタメントにも共に来て欲しそうだったが、「快賊団は女性専用なのだろう?」と冗談めかしながらテスタメントは森に残ることを選択した。
「悲しむなよ、レイディ。 今生の別れじゃないんだ、いつだって会いたくなれば会えるんだぜ」
ジョニーのその言葉でディズィーの不安も薄れ、名残を惜しみながらも彼女は森を後にした。
「……これで、ディズィーも安心だな」
「言っておくアルが、乙女を泣かせるマネはするものじゃないアルよ?」
見送りながら呟くテスタメントに、横から覗き込むようにしながら、紗夢。
「どういう意味だ?」
「あの子はアナタといつでも会えるって信じてるアルからね。 勝手に何処か行くもんじゃないってことアル」
そう言われて押し黙ったあたり、多少はそういう道を選ぶ気持ちもあったのだろう。 テスタメントは紗夢に念を押された形になってしまった。
「そのうち、彼女と一緒にアタシの店に来るといいアルよ。 賞金のお礼も兼ねておごるからネ!」
見かけに寄らず鋭い中華娘は、ウィンクひとつを残し、存分にあさった食材を抱えて森を去っていった。


少し離れたところからそれを見ていた人影が三つ。
そのうちのひとつ――隻眼隻腕の女が、くわえた葉っぱをぷっと吹き捨てて踵を返す。
「帰るのかい?」
眼鏡の男の問いに、うなずきもせずに女は一言だけ、
「興が冷めちまった」
と言って歩みを早めた。
「んじゃ、俺も帰るか。 あんな光景に水差す野暮はしたかないしな」
扇子をぴこぴこさせながら、眼鏡の男は女の後を追う。
「――って、おい、えっと、あれ!?」
ひとりわたわたと騒いでいたアルビノの青年は、しばし交互に見ていたものと去っていく二人を見比べて。
「お、おい待てよ、待てって!!」
二人を追いかけることを選択し、慌ただしく走り出した。


「つまり、ガブリエル大統領の思惑は、ディズィーさんを保護し消息を隠すことによっての治安維持ではなかったかと思うんです、私見ですけれど」
「成る程、有り得ない話ではない」
ようやく上からどいてくれたポチョムキンとカイとの話を、ソルは黙って聞いていた。
魔の森のギアを狙っていたのは、なにも排除を目的とした反ギア運動や、それによってかけられた賞金目的の輩だけではない。
ジャスティス死亡からこっち不活性状態になっている意志を持たない残留ギアを秘密裏に回収し、あわよくば再起動して自己の戦力に出来ないかと考えている国家や組織もそうだったろう。
わざわざ再起動の必要もない、あらかじめ意志を持つギアをそんな組織が手に入れれば――どんな事態になることか、想像したくもない。
ゆえに、ツェップの大統領ガブリエルは、信頼出来る部下ポチョムキンに命じて秘密裏にディズィーを保護し、争いの火種を消そうと思ったのではないか。
そう考えてみると、飛行艇国家で独自の軍力を保持し、外から内情が知りにくいツェップは、悪用の意図さえなければディズィーが隠れ住むには良い場所のひとつであろう。
となると、知り合った経過こそ不明だがガブリエルにとって信用出来る存在であるらしいジョニーがディズィーを保護したいというのは、彼の思惑にも添う結果であったはずだ。
「私個人としても、あの少女の旅立ちは望ましいことであったと思っている。 幸せになってくれればいいのだがな」
「きっと大丈夫ですよ。 ――ね、ソル」
「……俺に振るな」
いきなり振られて顔を背けるソルを、カイとポチョムキンは笑って見ていた。


「しかしな」
ポチョムキンが辞し、人の気配が希薄になった森の中。 並んで歩きながら、ソルは珍しく自分からカイに話しかけた。
「坊やは、ギアは嫌いなんじゃなかったのか」
ギアであるソルが殺そうとしていた少女を守るために、カイはソルに剣を向けた。 かつて、ギアを滅ぼすための精鋭部隊、聖騎士団の頂点であったはずの青年が。
――ソル自身にも意地が悪いと分かっているその問いに、案の定カイは不満を表した。
「……お前がそういうことを言うのか?」
少し悲しそうですらある反論。 風に白い服の裾をはためかせながら足を早め、少し距離を取ってからソルを振り返った。
わずかばかり伏せられた翡翠色の目が、傷ついたように、先程の言葉と同じ抗議を訴えかける。
「……私に……ギアが必ずしも人を傷つける存在だけではないと……ギアが絶対悪ではないと教えてくれた一人のはずなんだがな、お前は」
分かっていた。
かつて倫敦で、人の手によって生み出された自立型ギアの少女をカイに預けたときに。 自分とジャスティスの戦いを目にし、自分をギアと知っただろうカイが出した答えを。
ソルをギアと知りながら、あくまでソルをソルとして感情をぶつけてきたカイを見れば……分からないはずがない。 分かっていたから、あの少女をカイに任せた。
「変わったな、坊や」
支えにしてきた価値観が崩れたはずなのに、その心は壊れることもなく。 崩壊したものに未練がましくすがることもなく。
「――使い古された言い回しだが、人は変わるものだろう?」
そう言って、カイは曇りのない笑みを浮かべる。
「……それに……ソル、これも、お前から見たら私の驕りなんだろうけど」
黄昏から変わり行く空の下、いつの間にか出ていた月の輝きの下で。 無防備に、踊るように両腕を広げ。
「ディズィーさんのように、人と手を取り合いたいと思うギアがいるのなら、逆があってもいいんじゃないかな。 ……意志を持ち、幸せを望むギアと……手を取り合いたいと思う人間がいても」
――望んで歩いた道程の中出会い、手に入れた答えを。 呆れるほどの真っ直ぐさで見せるカイに――
「……勝手にしろ」
引き込まれるように口の端をつり上げて、たった一言だけをソルは贈った。



「オペ終了、成功デス」
月下をパラソルで舞いながら、ファウストはひとりごちる。 眼下の二人を見守るように、その身にまとう雰囲気は優しい。
癒されぬ傷を負い、孤独に身を置き続けてきた男と。
脆さや弱ささえも自身の原動力と為し、悩みながらも前へ進んでいける強さを持つ青年。
知らずお互いを変え続けていくであろう奇妙なライバル同士を、かつて絶望と狂気を乗り越えた医者は、ただ穏やかに見送っていた。










   ―End.―
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