見渡す先は、雲ひとつない見事な五月晴れ。何処までも澄み切った青い空は見る者の心を浮き立たせる。けれどもメイはその空を目の前にして、心に小さな雨雲を抱いていた。
「メーイーっ?」
風に乗ってエイプリルの声が聞こえたが、自分を探す親友の声を無視して、メイは甲板の上で抱えた膝をさらに引き寄せて縮こまった。
「あー、いたいた。まったく、こんなとこで何してんの?」
「………別にぃ………」
見つけたメイの声には覇気がなく、どこか投げやりに聞こえる。その様子にエイプリルはメイの不機嫌に原因に思い当たって曖昧に笑って見せた。
「もう。せっかくのおめでたい日に、なーに拗ねてるのよ」
「だって…だって今日はボクの---」
「メイ?」
ボク? と唇の動きだけで注意され、慌てて言い直す。
「私の、特別な誕生日なのにさ、ジョニーってばいないんだもん!」
今日は今までの十九回の誕生日とは訳が違うのだ。それなのに朝からジョニーの姿は見当たらない。
「そりゃね、ジョニーが仕事で忙しいのはわかるよ。でもね、今日くらいはボ…私のこと、優先してくれたっていいと思わない?」
「大丈夫だって。大体クルーの誕生日は盛大にパーティーしようって言い出したのはキャプテンなんだから、ちゃんと戻ってくるって」
「う~、ホントに大丈夫かなぁ…?」
「ヘーキ、ヘーキ。
ほら、みんなが待ってるよ。主役がいなきゃ始まらないでしょ」
何となく軽くあしらわれてしまった気がしないでもないが、エイプリルの言っていることももっともだ。
メイは不機嫌を飲み込んで、促されるままに甲板を下りた。
窓の外を流れる景色はすっかり暗くなり、時計の針はあと半周もしないで明日へとなってしまう。
先ほどまで盛り上がっていたパーティー会場は、今は今にも泣き出しそうなメイを中心にして静まりかえっていた。
「……ジョニーの………、ジョニーの……………っ」
感情を押し殺した低い呟き。これは嵐の前兆に他ならない。次の瞬間、メイは盛大に泣き出すか、もしくは手のつけられないほどに暴れ出すだろう。
どちらに転んでも歓迎できない事態を目前にクルー全員が覚悟を決めた時、思いがけないタイミングで件の人物から通信が入った。
『ザッ……、ようみんな、楽しんでるかい?』
「ジョニー!?」
ダダダッと音を立てそうな勢いで、メイが通信機に囓りつく。
「ちょっと、ジョニー! 一体どこで何してるのよ? ボクがどんな思いでねぇ…」
『いやー、絶好のロケーションを探すのに手間取っちまってな』
「どこにいるのよー!!」
『すぅーぐ下だぜ? 見てみな、ベィベェ』
後半のジョニーの台詞が終わる前に、メイは近くの窓へとへばりついた。
「うわぁ……」
眼下に広がるのは大きく丸い月が映った蒼い海。そこで無数のイルカが思い思いに踊っている。
「すごい…キレイ……」
『だろ? これをメイに見せたくて探しに出てたんだが、ちと情報に齟齬があってな』
それでこんなに遅くなってしまったのだという。
とりあえずジョニーを回収するために飛空廷が降下し、メイが甲板まで向かえに出る。
「俺からのバースディプレゼント、気に入って貰えたか?」
「うん! 最高だったよ」
さっきまでの不機嫌はどこへ行ったのか、メイは満面の笑みである。
「そいつはよかった。それともうひとつ…。
HappyBirthday、メイ。これでお前さんも立派なレディの仲間入りだ」
手渡されたのは真っ赤なバラの花束。バラの数はメイの歳と同じ数---二十本。
「レディには赤いバラを送るのが俺の主義だからな」
そう、今日でメイは二十歳になる。これでやっと、愛しい人と同じラインに立てるのだ。
「ジョニー、ありがとう!」
ここからが新しいスタートライン。
待っててね、ジョニー。あなたに釣り合ういい女に、きっと絶対なって見せるから!
思いっきりメイがジョニーに抱きついて、蒼い夜に赤い花びらが舞い散った
「メーイーっ?」
風に乗ってエイプリルの声が聞こえたが、自分を探す親友の声を無視して、メイは甲板の上で抱えた膝をさらに引き寄せて縮こまった。
「あー、いたいた。まったく、こんなとこで何してんの?」
「………別にぃ………」
見つけたメイの声には覇気がなく、どこか投げやりに聞こえる。その様子にエイプリルはメイの不機嫌に原因に思い当たって曖昧に笑って見せた。
「もう。せっかくのおめでたい日に、なーに拗ねてるのよ」
「だって…だって今日はボクの---」
「メイ?」
ボク? と唇の動きだけで注意され、慌てて言い直す。
「私の、特別な誕生日なのにさ、ジョニーってばいないんだもん!」
今日は今までの十九回の誕生日とは訳が違うのだ。それなのに朝からジョニーの姿は見当たらない。
「そりゃね、ジョニーが仕事で忙しいのはわかるよ。でもね、今日くらいはボ…私のこと、優先してくれたっていいと思わない?」
「大丈夫だって。大体クルーの誕生日は盛大にパーティーしようって言い出したのはキャプテンなんだから、ちゃんと戻ってくるって」
「う~、ホントに大丈夫かなぁ…?」
「ヘーキ、ヘーキ。
ほら、みんなが待ってるよ。主役がいなきゃ始まらないでしょ」
何となく軽くあしらわれてしまった気がしないでもないが、エイプリルの言っていることももっともだ。
メイは不機嫌を飲み込んで、促されるままに甲板を下りた。
窓の外を流れる景色はすっかり暗くなり、時計の針はあと半周もしないで明日へとなってしまう。
先ほどまで盛り上がっていたパーティー会場は、今は今にも泣き出しそうなメイを中心にして静まりかえっていた。
「……ジョニーの………、ジョニーの……………っ」
感情を押し殺した低い呟き。これは嵐の前兆に他ならない。次の瞬間、メイは盛大に泣き出すか、もしくは手のつけられないほどに暴れ出すだろう。
どちらに転んでも歓迎できない事態を目前にクルー全員が覚悟を決めた時、思いがけないタイミングで件の人物から通信が入った。
『ザッ……、ようみんな、楽しんでるかい?』
「ジョニー!?」
ダダダッと音を立てそうな勢いで、メイが通信機に囓りつく。
「ちょっと、ジョニー! 一体どこで何してるのよ? ボクがどんな思いでねぇ…」
『いやー、絶好のロケーションを探すのに手間取っちまってな』
「どこにいるのよー!!」
『すぅーぐ下だぜ? 見てみな、ベィベェ』
後半のジョニーの台詞が終わる前に、メイは近くの窓へとへばりついた。
「うわぁ……」
眼下に広がるのは大きく丸い月が映った蒼い海。そこで無数のイルカが思い思いに踊っている。
「すごい…キレイ……」
『だろ? これをメイに見せたくて探しに出てたんだが、ちと情報に齟齬があってな』
それでこんなに遅くなってしまったのだという。
とりあえずジョニーを回収するために飛空廷が降下し、メイが甲板まで向かえに出る。
「俺からのバースディプレゼント、気に入って貰えたか?」
「うん! 最高だったよ」
さっきまでの不機嫌はどこへ行ったのか、メイは満面の笑みである。
「そいつはよかった。それともうひとつ…。
HappyBirthday、メイ。これでお前さんも立派なレディの仲間入りだ」
手渡されたのは真っ赤なバラの花束。バラの数はメイの歳と同じ数---二十本。
「レディには赤いバラを送るのが俺の主義だからな」
そう、今日でメイは二十歳になる。これでやっと、愛しい人と同じラインに立てるのだ。
「ジョニー、ありがとう!」
ここからが新しいスタートライン。
待っててね、ジョニー。あなたに釣り合ういい女に、きっと絶対なって見せるから!
思いっきりメイがジョニーに抱きついて、蒼い夜に赤い花びらが舞い散った
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