001「存在理由
― 50物語はじまるよ! ―」
「あ、ミリアさんだ、やっほー!」
春の訪れを感じながらパリの中心街近くにあるオープンカフェでカフェラテを飲んでいると声を掛けられた。
眼を転じると茶色の髪と茶色の瞳を持ったよく知る少女だ。
「あら、メイじゃないの、久しぶりね?えっと隣の子はエイプリルだったかしら?それからそちらは・・・」
「こっちはこの前新しく友達になったデイジーだよ!」
紹介された友達二人が会釈をする。
「そう、よろしくねデイジー?それから・・・・」
少女たちのなかで頭ひとつ以上背の高い彼の存在はひときわ眼を引く。「あなたもいるなんて、どういう風の吹き回し?」
「・・・どうも、お久しぶりです・・・。」
名乗られなくても知っている。カイとか言う有名人とは先日戦ったばかりだし、それからの顔見知りでもある。
快賊団のメンバーについて歩く警察関係者。ということは私も彼に対してここでは友人として振舞った方がいいのだろう、と判断してにこりと微笑むことにした。
「ん?お知り合いなの?」
メイが私とカイの顔を見比べて尋ねた。
「ええ、ちょっと以前にふとしたことで。ね?」
まぁ現在の私は晴れて自由の身なのだから警察だろうとなかろうとこそこそする必要もないのだが、かといって少なくても現時点では仲良しとはいえない。
「そうですね、あの時はどうも。」
軽く一礼するあたりが謙虚な彼らしいと、思う。
「あ、ねぇねぇ、ミリアさん!ここ座っていい?」
「ええ、勿論よ。」
メイは「わーい」と言いながら近くのテーブルや椅子を友人たちと動かして5人掛けのテーブルを作り出した。
早速店内からボーイがやってきてメニューを渡す。デイジーが隣のエイプリルという子に飲み物の種類と意味を尋ねている。
「ココアって何?」「甘くて美味しいもの」という会話が聞こえた。
「ミリアさんは何を飲んでるの?」
「カフェラテよ?」
「ふーん・・・よーし、じゃぁ私もそれにしよ!カイさんはやっぱり紅茶だよね?」
「そうですね、それにします。」
「よーし決まり!ねぇねぇそっちは?え?ココアとカプチーノで迷ってる?どっちでもいいじゃん、そんなの!」
あいかわらずにぎやかな子だと思う。その明るさが微笑ましくて少しうらやましい。
そう思いながら眺めていると彼と目があう。
「・・・何・・・?」
「あ、いえ。お気を悪くされたのなら謝ります。先日お会いしたときにはロクに喋れなかったので貴方という方がどんな方なのかとおもいまして。」
先日ザトーの件でやりあった。親しく言葉を交わすのも偶然会った今日が初めてだ。
「そうね、私も同じ気持ちよ。貴方の噂はよく耳にしたけどどんな人かを知らないもの。」
「あれ?ミリアさんカイさんとお知り合いじゃなかったの?」
メイが耳ざとく聞きつけた。
「ええ、本当にすれ違い同然の間柄だったの。」
戦ったという事実まで口にする必要はないはず。
「ふーん・・・?あ、えっとね、カイさんってカップを集めるのが大好きで遊びに行くとね、家に棚があってねひとつずつちゃんと飾ってるんだよ?すごいの!もー、さっすがセレブってかんじなの!」
「ティーカップコレクター?」
意外な趣味と快賊である彼女を家に招き入れるという事実の不可解さを混ぜて尋ねるとはにかみながら頷いた。
「・・・あ、ええ。まぁ・・・」
「マイセンとか、ウェッジウッドとか?」
「・・・他にもリモージュとか、シルヴィー・コケ、アピルコ、ロイヤルコペンハーゲンやリチャード・ジノリとか・・・あとはヘレンドとかありますが、ガラが気に入ったものならブランドはそれほど拘らないんですよ。」
ほとんど知らないブランド名を出されたが、陶器にかぎらず基本的にブランドには正直興味がなかったので「ふーん」とだけ返しておく。彼もそれはわかっているのか格別気分を害したようにはみえなかった。
「ミリアさんはねー、ネコが大好きなんだよね~?」
「へぇ、ネコですか。飼っていらっしゃるんですか?」
「いいえ、近所の野良猫を追い掛け回すのが趣味なの。」
その言葉をどう捕らえたのかはしらないがよほど微笑ましく解釈したらしい。「それはそれは」と言って眼を細めている。
無理してこの和やかなムードを壊すこともないだろう、と思いあえて訂正はしないようにする。
「でも意外ね。メイにこんなお友達がいたなんて。いつも彼の家ではどんなことを話しているの?」
「え~?たいしたことは話していないよ?近くに寄ったから遊びに来たとか、珍しいものを見たからその話をしてあげにきたとか?」
「では今日もお土産話をしにいっていたの?」
「ううん、ちがうよ。今日はギルドにきた私たちが道を歩いていたらたまたまカイさんが買い物に来ていたの。で、このあたりでお茶できるとこといったらここかあっちしかないでしょ?だから・・・」
それで私に出くわしたというわけね、納得。
デイジーとエイプリルは私がいるから遠慮しているのかあまり喋ろうとしないようだ。
そろそろ話を振ってあげた方がよいのだろうか?
「そうそう、それでカイさんが先日魔の森に行ったときにへんなロボットに追いかけられたっていう話を聞いたんだよ、ねー?」
「へんなロボット?」
「ええ、私と同じような服を着た、同じ雷系の法術を得意とするロボットで、『みつけたぞ、我輩のレゾンデートル』とか何とか言っていました?」
「・・・れぞんでーとる・・・ねぇ・・・?」
「ええ。何のことやらさっぱりで・・・。」
「心当たりないの?」
「さっぱり」と言うカイの声と重なる用にデイジーが「あ、ソルさん。」と呟き、同時にカイが立ち上がった。
「ですがあの男の存在意義ならわかってます。『私と勝負すること』!!失礼!」
といいながら音速を超えるスピードで私たちの視線の先にいる男のところにダッシュしていった。
「ソル!今日こそ本気で戦ってもらうぞ!」「どっから沸いてきやがった!?」という声が聞こえてくる。
「・・・・????」
呆然としている私の側でメイが苦笑しながら教えてくれる。
「カイさん、ソルさんに本気で戦ってもらって勝利することが人生最大の目標なんだって。ずっとあんな感じで挑戦してるの。」
「・・・・すごいわね・・・」
見た目お坊ちゃんなくせにあんなに熱いとは思わなかったけど・・・。
「ちなみに、メイの存在意義は?」
「私?とーぜんジョニーのお嫁さんよ!」
「そう。ふたりは?」
眼を向けると二人とも困ったように笑う。
「えーっと・・・存在意義ってなんですか?」
「・・・考えたことないなぁ・・・」
そうか、そうよね。存在意義といわれても普通意識して考えることでもないのかもしれない。
「ねぇねぇ、ちなみにミリアさんの存在意義ってなに?」
「わたし?」
そんなの、問われるまでもなく決まってるわ。
「あの男・・・エディとかいう男を殺すことに決まっているじゃない。」
「・・・・・」
「・・・・・」
ね?明白も明白。
だから、どうしてみんな沈黙するの?
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