「ジョニーさんっ!? 戻っていらしたんですか?」
タラップを上がると、驚いた表情をしたディズィーが出迎えた。
「ああ、予定が変わってな。 こっちは変わりはないか?」
「ええ、ありませんけれど… 随分と雨に降られたのですね、今、タオルを…」
辺りを見回したディズィーがタオルを見付けたと同時に、早速とメイが駆け寄って来た。
「ジョニー、おかえりっ! …うわわっ、ずぶ濡れじゃない、風邪引いちゃうよっ!」
身を翻したメイは椅子の背もたれに掛けられているタオルを掴み、ダッシュで戻って来る。 役目を失って立ち尽くしているディズィーに俺は軽く苦笑してみせた。 ディズィーも少しだけ肩を竦めて微笑った。
「はいっ、ジョニー、タオル!」
「ありがとさんよ」
メイから受け取ったタオルで水滴を払う。
「どうしたの? 今日は帰って来れないとか言ってたのに。 もしかして、作戦変更?」
「そういうこった」
「ええ~~っ!? あとは詰めるだけだって言ってたのにぃ? …でも、ジョニーだもん、ミスなんてするはずないし…」
心のままに豊かな表情を見せるメイにひとつ笑い掛ける。
「メ~イ、いいから艇を出す指揮を取ってくれ。 この国を出る」
メイは途端にあどけない表情を潜ませ、真剣な眼差しで頷いた。 メイは俺の声の調子に聡い。
「分かった。 ディズィー、索敵のモニター見ててもらえる? 怪しい影が映らないか見てくれるだけでいいから。 オクティを起こしたくないんだ」
この国の気候が合わないのか、オクティは少し体調を崩していた。 メイはそんなオクティを気遣っている。
「はい、それなら私にも出来ます」
「うん、お願い。 何かあったらすぐに教えて。 エイプリル! 舵、スタンバって!」
エイプリルが小走りに舵に向かうのを確認しながらメイは艇内通信のスイッチを入れた。
「ノーベル、予定変更で艇を出すよ! エンジン上げて、機関のチェックをお願い。 それからスタンバイ、ボクの指示を待って」
メイはキビキビと指令を出し、最後に俺に顔を向けた。
「ジョニー、準備が出来次第、すぐに浮上でいい?」
「それでいい、上げたら安全な高度を保ったまま北西へ向かってくれ」
「北西だね。 了解」
「頼むな、メイ」
「アイ・サー」
ピンとしたメイの立ち姿にひとつ微笑を送って、俺はブリッジを後にする。
メイならこの艇を立派に引き継ぐだろう。 だが、俺はそれを望んじゃいない。 メイには、いずれはこの艇を降りて、良い男と本当の恋をして、普通の結婚をして家庭を持ち、そうして幸せに暮らして欲しい。
メイはイイ女になるさ、赤いドレスは似合わなくても、本当にイイ女にな。 俺が育ててるんだからな。
直に艇はこの国の領空を出る。 次期大統領候補の妻が死んだんだ、警察が五月蝿くなる前にこの国を出るに越したことはない。
しばらくはこの国での仕事は様子見だな。 計画の練り直しが必要だ。
高度を上げた飛行艇の窓から見下ろせば、夜の闇に浮かぶ雨雲が見える。
地上からは見えなかった月はいつものように天に輝いている。
月に似ていると言っていたのはアクセルの野郎だ。
俺がサングラスをするようになったのは何時頃からだったかな。
何故サングラスをするようになったか、そんな理由は忘れちまった。
…多分な。
こうして部屋で独りで居る時は、昔と同じでサングラスなどしていない。
鏡を見れば昔と違う面が映る。 かなりイイ男だとは思うぜ。 当然だな、実際、俺様はイイ男だ。
ガキの頃の面影が残っているのかどうかは、俺には判らねぇ。 生憎と、その辺を指摘してくれるはずの奴はもうこの世にいないんでな。
気に入りのバーボンをグラスに注ぐ。
こんな夜はストレートがいい。
酒を憶えたのは早かったな、見つかっては親父に叱られたもんさ。
親父が死んだのは俺が13 歳の時だった。
俺は他人に心を開くことのないガキで、そんな俺に唯一愛情を注いでくれたのが親父だった。
可愛げのない俺の、どこが良かったのかは知らないが… 無償の愛ってヤツだ。
この歳になって思うが、親って奴はつくづく凄いもんだぜ。
親父を失って、俺はますます自分の殻に閉じ篭った。
いつしか物事を見る眼が出来て、戦争で親を亡くしたのは俺だけじゃないと、そんな当たり前のことに気付いた。
ようやく他人の痛みを知ることが出来るようになって、俺は親父のようになろうと思った。 俺に愛を注いでくれた親父のような男に。
タラップを上がると、驚いた表情をしたディズィーが出迎えた。
「ああ、予定が変わってな。 こっちは変わりはないか?」
「ええ、ありませんけれど… 随分と雨に降られたのですね、今、タオルを…」
辺りを見回したディズィーがタオルを見付けたと同時に、早速とメイが駆け寄って来た。
「ジョニー、おかえりっ! …うわわっ、ずぶ濡れじゃない、風邪引いちゃうよっ!」
身を翻したメイは椅子の背もたれに掛けられているタオルを掴み、ダッシュで戻って来る。 役目を失って立ち尽くしているディズィーに俺は軽く苦笑してみせた。 ディズィーも少しだけ肩を竦めて微笑った。
「はいっ、ジョニー、タオル!」
「ありがとさんよ」
メイから受け取ったタオルで水滴を払う。
「どうしたの? 今日は帰って来れないとか言ってたのに。 もしかして、作戦変更?」
「そういうこった」
「ええ~~っ!? あとは詰めるだけだって言ってたのにぃ? …でも、ジョニーだもん、ミスなんてするはずないし…」
心のままに豊かな表情を見せるメイにひとつ笑い掛ける。
「メ~イ、いいから艇を出す指揮を取ってくれ。 この国を出る」
メイは途端にあどけない表情を潜ませ、真剣な眼差しで頷いた。 メイは俺の声の調子に聡い。
「分かった。 ディズィー、索敵のモニター見ててもらえる? 怪しい影が映らないか見てくれるだけでいいから。 オクティを起こしたくないんだ」
この国の気候が合わないのか、オクティは少し体調を崩していた。 メイはそんなオクティを気遣っている。
「はい、それなら私にも出来ます」
「うん、お願い。 何かあったらすぐに教えて。 エイプリル! 舵、スタンバって!」
エイプリルが小走りに舵に向かうのを確認しながらメイは艇内通信のスイッチを入れた。
「ノーベル、予定変更で艇を出すよ! エンジン上げて、機関のチェックをお願い。 それからスタンバイ、ボクの指示を待って」
メイはキビキビと指令を出し、最後に俺に顔を向けた。
「ジョニー、準備が出来次第、すぐに浮上でいい?」
「それでいい、上げたら安全な高度を保ったまま北西へ向かってくれ」
「北西だね。 了解」
「頼むな、メイ」
「アイ・サー」
ピンとしたメイの立ち姿にひとつ微笑を送って、俺はブリッジを後にする。
メイならこの艇を立派に引き継ぐだろう。 だが、俺はそれを望んじゃいない。 メイには、いずれはこの艇を降りて、良い男と本当の恋をして、普通の結婚をして家庭を持ち、そうして幸せに暮らして欲しい。
メイはイイ女になるさ、赤いドレスは似合わなくても、本当にイイ女にな。 俺が育ててるんだからな。
直に艇はこの国の領空を出る。 次期大統領候補の妻が死んだんだ、警察が五月蝿くなる前にこの国を出るに越したことはない。
しばらくはこの国での仕事は様子見だな。 計画の練り直しが必要だ。
高度を上げた飛行艇の窓から見下ろせば、夜の闇に浮かぶ雨雲が見える。
地上からは見えなかった月はいつものように天に輝いている。
月に似ていると言っていたのはアクセルの野郎だ。
俺がサングラスをするようになったのは何時頃からだったかな。
何故サングラスをするようになったか、そんな理由は忘れちまった。
…多分な。
こうして部屋で独りで居る時は、昔と同じでサングラスなどしていない。
鏡を見れば昔と違う面が映る。 かなりイイ男だとは思うぜ。 当然だな、実際、俺様はイイ男だ。
ガキの頃の面影が残っているのかどうかは、俺には判らねぇ。 生憎と、その辺を指摘してくれるはずの奴はもうこの世にいないんでな。
気に入りのバーボンをグラスに注ぐ。
こんな夜はストレートがいい。
酒を憶えたのは早かったな、見つかっては親父に叱られたもんさ。
親父が死んだのは俺が13 歳の時だった。
俺は他人に心を開くことのないガキで、そんな俺に唯一愛情を注いでくれたのが親父だった。
可愛げのない俺の、どこが良かったのかは知らないが… 無償の愛ってヤツだ。
この歳になって思うが、親って奴はつくづく凄いもんだぜ。
親父を失って、俺はますます自分の殻に閉じ篭った。
いつしか物事を見る眼が出来て、戦争で親を亡くしたのは俺だけじゃないと、そんな当たり前のことに気付いた。
ようやく他人の痛みを知ることが出来るようになって、俺は親父のようになろうと思った。 俺に愛を注いでくれた親父のような男に。
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