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うろほろぞ
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どんな奴でも…子供だった頃があるもんだ。

俺も…今は空を飛び回る空賊・ジェリーフィッシュ快賊団団長…なぁんてことをやってるわけだが、確かに、子供の頃があった。

時々ふと、その頃を思い出す。幸せ…というものがあるとすれば、あの時がそれだったと思う。シティから遠くはなれた静かな街で、静かに暮らす日々がただ続いていた。幸せというものは…案外近いとこにあるもんだったんじゃあないか、と思った。今の生活が詰まらねぇというわけじゃあない…だが今の生活とは違う幸せは…俺の手に戻ることは二度とないだろう。

…こんな話がある。

聖戦時代、ある一定の土地にはギアの攻撃を避け静かな生活の続いている場所があった。
そこに住む人達はギアの存在を知りながら、心のどこかで ここには来ないだろうという思いを抱きつつ日々過ごしていた。それは、ある人物の存在によって保たれていたにすぎないごく簡単に崩れ去るものであった…。

その人物は、丘の上にかまえた家に一人の子供と静かに暮らしているらしかった。街へは夜に見掛けることは時々あったが、普段は旅と称して飛び回っていると街の人々は言う。
詳しい生い立ちは知られていないのだが…知らず知らずのうちに、街の人々はその男をたよっているのだった。


街の人々がその男を頼るようになっていた理由はごく単純なことだった。男の容姿が強そうに見えた。噂で昔は聖騎士だったらしい。いつも黒い服を身につけている。短めの金髪、青い瞳、笑みを絶やさない余裕さ。…この男は…強いに違いない。ギアだろうが何だろうが倒してくれる。
そんな身勝手な人々の思いが、聖戦時代に隠れた哀しみを作りだすのだった。
この男の真実を知るただ一人の人物は、まだ幼さ残る少年しかいない。
彼は13歳。その男は彼の良き父親として今でも深く尊敬している。街の人々の噂する父親の容姿は確かに当てはまっていたが、どうも強そうには見えなかった。
黒いコートをなびかせる姿はかっこいい。だが家に帰ってくるとその整った顔は、満面の笑顔へとかわる。
「I’m home!元気だったかいっ!マァ~イサン~!」
ばんっ!と勢いよくドアが開いた。

「元気だったかい?」

そう言ってにっこりと微笑むとやさしく頭をなでた。それの答えるように少年も微笑む。徐に男のほうから口を開いた。

「・・聞いたかい?近くの街にギアがきたってハナシ。」

「・・!」

生体兵器ギア。その強さと非道さは全世界を恐怖させ、聖騎士団でさえ制圧することが出来るかどうかわからなくなってきていると言う。そのギアが近くの街まで来ているということは・・・。

「心配か?お前には俺がついてるから大丈夫さ!ここはどこの街からもあまり知られていないからねえ・・ま、問題ないさ。街の人たちも普通に暮らしてるしな」

この街にギアはこない。人々がそう思っている理由が自分の存在であることを男は知らなかった。

「そうだ・・マイサン。悪いがまたでなきゃいけなくなっちまってな・・昔のよしみで・・ちょっと、な」

また出かけるらしい。いつものことだから特に言うこともなくこくりとうなずいた。

「すまない。なあに・・ギアなんてきやしないさ!おとなしくまってなよ!」

そういいのこして彼はまた出かけていった・・・。しばらく歩いて、くるりと振り返ってにっこり微笑んだ。
大丈夫、きっとまたいつものように帰ってくる。心配することなんかないんだ。・・何故だろう?いつものことなのに今回ばかりはいやな予感がする・・。
いつの間にか彼の姿はなかった。

その日の夕方だったろうか・・ギアがきたと叫ぶ人々の声が街中に響き渡って自分の住んでいる丘の上まで聞こえてきたのだった。

ギアはついにこの街にもやってきてしまった・・・。静かだった街は突然に火の海と化した。煙に巻かれて逃げ惑う人々。ギアに襲われ苦しむ人々。

これは・・・夢じゃないのか?

あの人はいない。自分を守ってくれるあのひとは・・いないのだ。自力で逃げなければ。

殺されてしまう。

この街で一番高い土地であったこの丘はギアにとっては階段を一段あがるのと同じくらい簡単にあがれるものだった。トカゲににた顔のギアは住み慣れた自分の家を軽々と燃やしつくした。
雄たけびをききながらあの人を思い出した。

短く切られた金髪。青い瞳。黒いコートをはためかす姿は人々を安心させた。
強いに違いないという人々の意見が正しかったのかはわからないが、自分にとってはちょっと頼りない父親だった。

「いてて!!頼むからそっとやってくれよ・・・・」

いつだったか女の人に思いっきりひっぱたかれて帰ってきたことがあった・・。
「いいか?レィディってのは結構デリケートにできてるんだ。おまえも気をつけなよ?」
なあんていってたこともあった。

「そうだ!お前は俺に似てナイスガイだからきっともてるぜえ・・髪のばしたらもっとイイかもな!」
じゃあなぜ髪のばさないのときいてみた。
「んんー俺はいいの。これ以上もてたら他の男に悪いだろ?」
一体その自信はどこから来るんだろう?

そんなこと今思いだしたところで、仕方がない…。
地響きが、近付いてくる……!

「おぉっと…それ以上先にはいかせないぜ!」

俺は耳を疑った。彼は帰ってきた。また何事もなかったかのように。
「さあ…スマートにおわらせようか…」
彼の手元から光の筋がのびていく。あれは…サーベル…いや、何か木のように見える…?
瞬間、辺りを金属同士があたる高い耳なりのような音が響きわたった。それと同時にギアたちの雄たけびが死の宣告をうけ、それは断末魔へとかわっていった。あたりはいつしかもえさかる炎に包まれていった…。
その様子をただ呆然と見ていた俺に、彼が声をかけた。
「I’mhome…マイ…サン。平気か?待たせちまったな…ゴメンな…」
ふっとたよりげない笑みをうかべ、頭に手をぽんとおく。
いつもと同じ微笑みだった…。それはいつしかこの炎が消え、再び平穏な日々が訪れることを示すと言っても過言ではなかった。そう思っていた次の瞬間に、それは消え去っていた。
「…おっと…まだ安心するのは気が早いぜ?」
すっと立上がり、振り返ると…。
「……!?」
まさか。さっき倒したはずのギア…血まみれではあるが…眼はギラギラとこちらを睨み付けている。これがギア……勝てるのか…さすがに彼も息があがっている。
俺は…ただ怯えるしかできない…。
「…よくきけ。マイ…サン。」振り返らずに静かに告げた言葉は。
「逃げろ。」


「…え…?」
「逃げろ、と言ったんだ…あそこに木戸があるだろう?」
静かに指差した先に腰の丈ほどの薄汚れた木戸が見えた。普段からどこに通じているか気にはなっていたが、あえて通ることはなかった。
「あれを通り、ずぅっと進めば必ず教会へ辿り着く。さすがにもう聖騎士団が集っているだろう…だから…」
顔だけこちらを向いて、また微笑んだ。疲れているだろうに…傷もあるだろうにこの人は…。
「ほら、早く行きな!大丈夫~俺も後から追いつくからさ!」
そんな傷だらけで息もあがっている人に、微笑まれても…逆に不安になる…。
そう、今度こそ…あの平穏な日々にピリオドがうたれてしまうのでばないか、と。
それが俺の顔に出ていたのだろう…また微笑みを浮かべて言った。
「…心配かい?それなら…こうしよう。」
と、おもむろに着ていたトレードマークの黒いコートを脱ぎ、俺の肩にかけた。
「それ、俺が追いつくまで預かってくれよな!知ってるだろ?俺のお気に入りなんだから破いたりすんなよ~?」
今の状況を明らかに無視して、彼のペースにのせられて木戸の前まできてしまう。またギアとの間をつめていく。信じていいのか…?不安は拭いきれない。ふと彼が振り返る…

振り返った彼は眩しいほどの微笑みを浮かべていた。そして指でいつもしているサインをする。人差し指と中指を絡めるサイン。
「GOODLUCK!!」
こちらにそう告げ、煙る奥に消えた。
幸運を祈る、という意味のあるサインだった。彼なりに心配しているらしい。
あの満面の微笑みが頭からはなれない。自信ありといったところか…そうだ、きっと。心配しなくても帰ってくる。それに彼はコートを預けた。これはかなりのお気に入りだったし、間違いない。
さっき示された木戸を開き、一気に駆け降りた。結構がたがたの道程だったが、言う通りに教会にでる。すると、聖騎士団らしい服の男たちがかけよってきた。
「子ども…?…!おい、大丈夫か!?」
まだあのひとが、上にいる…と伝えようと燃え盛る丘指差したが、そのまま気を失ってしまった…。

次に眼がさめたのは教会の中の廊下だった。なんだかとてもながい夢を見ていたようだった。まわりには街の人々も集まってざわついていた。
ふと、視界が白になった。何かと思い上を見上げると、さっき倒れこんでしまった聖騎士団の団員だった。何かをいいたそうにこちらをみている…

団員の男は、目線の高さをこちらにあわせて静かに言った。
「きみの…お父さんが奥の礼拝堂で待っているから…さあ、おいで…」
手をひかれて付いて行くと、日曜にいつもお祈りにきていた見慣れた礼拝堂の扉があった。
この中に、彼がいる…約束どおり、帰ってきたんだ…。
「さあ、入って…きっとまちわびているよ」
つないでいた手をはなし扉をおす。軋んだ音をたてて開いていく。赤いけれどくたびれて薄汚れた敷き物を一歩、また一歩と進んでいく。まだ彼の姿は見えない。
後ろから扉の閉まる音がした。誰かが話をしているようだったが、気にせず先へ足を進める。

「…言ったのか?」
「いや…いずれ…わかることさ…」

椅子に座っているのだろうか…左右の長椅子を見回してみるが、人影らしいものはない。だんだんと十字架が近付いてくる。ステンドグラスからさす光でますます神々しく輝いている。
段差の前までくると、何気なく目線を十字架から下へと移した。

刹那、黒く大きな何かが目に入った。
再び、わが目を疑うしかなかった。恐ろしく時間がスローモーションのように流れているようだった。
誰か、俺に言ってくれ。これは、夢だよ、と。


嘘だ…こんなの。…そうさ、きっといつものジョークなんだ。
そう言い聞かせようと必死に頭を巡らせている自分がいた。
黒い箱…棺桶…その中には、身動き一つしない彼、らしき人物がいた。静かに目をとじ、胸より少し下に手を置いている。よく身に付けていたコートと同じ黒いスーツ。棺桶いっぱいの花。
おそるおそる近付いてみる。
ほら、もうこんなに近くにきたぜ…もうバレてるよ…さあ…いつものように得意のジョークで笑わせて…。

バン!と物凄く響く音に驚き振り返った。扉の開く音だった。ばらばらと数人の男達がこちらへ近付いてくる。何が起こったかわからず、ただ眼だけを動かしていくと、棺桶の前でぴたりと止まった。男の一人が口を開いた。
「ぼうず…父さんとのおわかれは済んだのかい?」
「……………」
「悪いが…怪我人が増えちまったからここもあけなきゃならないんでな…棺をださせてもらうよ。」
そう告げると指で他の男達に指示し、手際よく蓋を閉め、担いでいってしまった…。
…一体何が起こったのだろうか?確かにここに彼がいたのに…今からいつもどおりの展開になるはずだったのに…。
そうか、きっと外に、家に帰っているんだ…。止まっていた足を駆け足にかえ、礼拝堂を後にした。


いるとすればもうあの家しかない。
一気に走り、建物をすりぬけ、丘への階段を駆け上がる。こげたようなにおいがして徐々に焼け野原がひろがりはじめた。これがあの美しかった丘だろうか…すべて焼け落ち、ただ広い空間だけがそこにあった。
夢じゃない…これは現実…。唇をかみしめ、更に上へと急ぐ。
すると誰かが降りてくるのが見えた。あの人…ではなかった。さっきの男達…。
そんなことよりも上に急がねば…!声ひとつかわさずとおりすぎる。
「…あの子ども…泣いてすらいなかったな…親だったんだろ、あの人」
「まあそういうなよ、まだ子どもなんだ…理解するのに時間がかかるんだろうよ…」
5分ほどですぐたどり着いた。見慣れ、住み慣れた家は跡形もなく燃え尽きていた。あたりを見回しながら彼を探した。人らしきものも棺もない。ふと、夕日に反射して光っているものが目に入った。ゆっくりと近付いてみると、鉄の棒のようなものに見える。完全にそれの前にきて気付いた。これは…さっき戦ったときに持っていた…。
サーベルではない…見慣れない剣だ。刃はギアの血がところどころついている。
その剣のささっている地面をみる。土がこんもりとしている。


「……。」
…わかっていたことだった。この下にあの人がいるということは…。
変わりようのない事実…だが、彼は確かに言った。
「後から追いつくからそれ預かっててくれよな!」
愛用の黒いコート…。ほら、早く取りにくればいいじゃないか…。さっきより近くにいるんだから。早く取りにこないと汚しちゃうかもしれないぜ…。どうしたんだよ…こんなに…こんなにすぐ側にいるのに、届かないなんて。触れることすらかなわないなんて。
もう二度と、あの微笑みもくだらないジョークすらきけやしないなんて。
何故だろう…さっきはちっともでなかったのに。眼から冷たい雫が頬へ次々とつたっていく。
ギアに彼が殺されたということよりも、彼がここにいないことが…何よりも哀しい…。
誰か、救ってください。この哀しみから、寂しさから。

誰か……。

その夜静かな街に狼の遠吠えにもにた、慟哭が響きわたったという…。
とある静かな街の丘には、英雄と呼ばれる人の墓がある。かつての聖戦時代にギアの襲撃をうけたその街は、その英雄によって救われ、今再び静けさを取り戻している。

あれから随分と時が流れた。少年は青年になり、そして今は義賊の頭をやっている。
あのときの哀しみを忘れたことはない。あの日と同じ日がくるたびに、同じ哀しみが襲ってくる。あの日すべてがそっくり帰ってくるように、彼の死ぬ場面が夢となって現れ、俺を飛び起きさせる。その日は必ず汗びっしょりになって目覚めるのだ。
俺は、まだあの日を引きずっているのか…。

「…はぁ…」
「どうしたのジョニー?元気ないね…」
「…!!…メイ…か…脅かすなよ…」
甲板にたっていた俺の後ろから、オレンジ色の服を着たメイが声を掛けた。油断していたこともありビックリしてしまった。
「なんでもないからお前さんは気にせんでよろしい…。ところで何か用かな?」
「ううん、別に。ジョニー元気ないから…」
「そっか…お前さんに心配されるとはね…。ま、その気持ちはありがたくもらっておくよ」
ぽん、と頭に手を置き、メイを背に甲板を後にした。
今日は…あの日。あの人に会いにいくために、クルーには休暇をだしている。メイは何故か残っているみたいだが…他のメンバーは思い思いに出かけていったようだ。
俺もそろそろいくとしよう…。


誰にも気付かれないように艇をおりなければならない…。一番厄介なのは…メイ。
確か…今風呂入ってくるとか言ってたはずだ。レディはなんか知らんがやたら長く入っているのが普通らしい…出るなら今…!
あながち間違いではなかったが、彼はあることを計算にいれていなかった。そのことはいずれわかるであろう…。

「…よ~し…ジョニー…行ったみたい。絶対ついていくんだから!」

ジョニーの思惑を余所に、静かにメイが動き出した…。降りた先は海の近い街だった。小高い丘は珍しい木々が生い茂っている。街並みも綺麗で一際目立つのは教会の鐘がある塔。どうやら信仰は深いようだ。
その街の影から影へ身を潜め、ターゲットを追う少女メイがいた。
「むっ…ジョニーめ…お花なんか買って…!きっとまたナンパする気なんだ…」
更に尾行を続けていくと…だんだん街からとおざかっていくではないか。隠れる場所もなくなってきている。仕方無く距離を多く取ることにしたが…背の高い草でなかなか進まずに距離は遠のいていく。
どれくらい歩いただろうか…。小さな少女の肩は大きく上下にゆれ、口はカラカラに渇き、立っているのが不思議であった。この際見つかってもいい、とにかく進むことにした。

歩き続け、やっと見慣れた人の後ろ姿が見えた。いつの間にか丘の頂上にきていたようだ。空は晴れ渡りますます青く、また緑の木々は更に深くなっていた。その素晴らしさは稀にみる自然と言えるだろう。
とはいえ具合よく身を隠すものが無くなっているため、近くに行くことはできない。なるべく身を低く構え、息を殺す…。
「…久しぶりだな…。花…すぐ枯れちまうと思ったが…置いておくぜ。」
聞こえるか聞こえないかというくらいの小さな声だったが、そう言ったようだった。
さっき買っていたのはこのためだったのか…と内心自分の嫉妬深さが醜く思えた。
「……いつまでそこにいる気だ?…メイ。」
突然黒いコートがはためき、青い瞳がこちらを見た。自分の名前を呼ばれたと認識するまで少しかかってしまうほど、その瞳は哀しげであった。
「…あっ…えーと…その…ごめんなさい…。」
「…ふぅ。まあいい。…こっち来な。」
少し進み、何かの手前で足を止めた。白い石…これは墓…だろうか?
「…これは…俺の父親の墓だ。」
「ジョニーの…父さま…?」
そういえば…ジョニーの親のことや生い立ちは聞いたこともなければ聞こうと思ったこともなかった


他のクルーに関しても同じことがいえるほど、彼の過去を知らなかった。誰しも語りたくない過去はある。それを無理にきこうとは思わない。
今目の前にある小さな石と男は…何かを言いたそうに自分をみているのだった。
「…俺はあの時、何も出来なかった。ただ怯え、逃げることしかできなかった…。それは仕方の無いことだったと頭ではわかっているさ…。」
消えてしまいそうな声が哀しくて、今すぐ手を握ってここから立ち去りたい衝動に駆られたが、すぐに思い止どまった。聞かなければならない。彼の口から。
手のひらをつよく握り締める音がする。ギリギリという音が耳に痛い。いつしか血がしたたりだす。
「わかっているつもりだった…だが…何時になっても俺は、何故…何故俺は何も出来なかったのか、何故何もしなかったのか…!そればかりが頭から消えないんだ…!」
地に響く声は静寂を切り裂いてますます響きわたっていった。
少女は男の瞳から光るものが零れ落ちるのをみたような気がした。踵をかえし、また小さく言った。
「…ふ…俺もヤキがまわったみたいだな…。…帰るぞ。」
ずんずんと元来た方へと進んでいってしまった。だが止めなければ。このまま帰ってもまた繰り返すだけ…。刹那、辺りに閃光がはしった。


「…くっ!?何だ…敵か…いや違う…?!」
余りの眩しさにただ立っていることしかできない。それと同時に焼け付くような熱気が襲ってきた。たくさんの煙と燃え盛る炎の渦が、男に降り注ぐ。
「…これは一体…。メイ…メイは!?」
自分を心配し後を付けて来た、まだ幼さ残るあの少女は…。まさか…。
嫌なことばかりの想像を振り切ろうと辺りを走りまわる。しかし少女はどこにもいない。
突然煙が裂け、巨大な何かが立ちふさがった。
「…お…お前は…」
それはかつて此の地を焼き付くし、大切な人を奪い去ったギアであった…。確かにあの時、倒したはずだ…あの人が。
「…逃げろ、と言ったんだが?」
……まさか…忘れたことなどありはしない…この声は…!
「…と…う…さん?」
懐かしさと混乱がごちゃごちゃした中で、何とかそれだけの言葉を紡ぎ出した。
「…あのねぇマイサン?いーからここは俺様にまかせちゃって!ほら、行った行った!」
くるりと向きを変えられて、街へ続いている木戸の前に移動させられてしまった。しかし素直に降りるわけにはいかない。
「大丈夫!俺も後から追いつくからさ!」
これは…あの時…?
ならば……今こそ…!

今があの時ならば、俺はやらねばならない。今こそあの時の悔しさと哀しさすべてにケリをつけるとき…!
「…あんたは下がっててくれよ…。ここは俺がやる…!」
あの日と同じ姿のあの人を後ろに追いやり、ギアのすぐ目の前に立つ。
「…お前…どうして…」
あの人が不思議そうに俺を見つめて呟いた。背格好からおおよその年の数は他人からみれば同じに見えるのだろうか…。
「お前…強くなったようだな…。はは…こんなにでかくなっちまって…。髪…俺が言ったとおり、長い方がハンサムだぜ…!」
そういって、俺の背中を勢いよく叩いた。かわらない微笑みを浮かべて…。
「マイサン…俺にはわかってる。お前のしたいことが…。何故そんな姿になっているのかも、な。」
「…俺も…わかってるさ。こうでもしなきゃ俺は一生あんたに顔向けできやしない!だから…手は出すんじゃねぇぞ!」
その台詞を合図にギアに向かって走りだす。あっちも長い爪を振り、口から障気を吐き出して突進してくる。爪をかわして腕に一太刀食らわせる。叫びを上げたがすぐに体制をたてなおす。
地面に着地した瞬間、反対方向の爪が襲ってくる。が、間一髪で避けた。再び跳び上がり、今度はギアの顔の正面にきた。……今だ……!!

確実にギアをとらえ、攻撃はヒットした。ギアは叫びをあげて倒れた。

「…やったぜ…やっと俺は…守れたんだ…」
かつて力も技もなく、あっさりと散らせてしまった父親を…。
「…ありがとう…マイサン…。けどな…。」
すぐ後ろに立っていた父親のゆっくりと指さした先には、さっき倒したはずのギアが再び立っているのだった。
「…やはり駄目なのか…俺は…結局何一つできやしないただのガキだったっていうのか…!」
「…いや…お前さんは随分強くたくましくなってるさ。ただ…次元が違う者同士では仕方がないのさ…」
すっと自分を追い越し彼が前に立つ。またあの日は繰り返されるというのか。所詮自分はただ見ているしかできないのか…。
「なあ、まだ俺のコート…持ってるか?」
「…ああ。もちろん」
無くすはずがない。着てはいないが大切にしまってある。あの日のまま。
「…帰ったら…ポケットあさってみな。いいもんでてくるかもよ?」
そういってにっこり微笑み、ギアに向かって走り出した。それと同時に炎が勢いをまし、煙が辺りをうめつくしていった。「…父さん…!行くな…!行かないでくれ…!!」
自分でも不思議なくらい大きな声で叫んでいた。いつしか意識は遠のき、辺りが真っ白になった。


日が高くなり、やがて傾きはじめ、辺りはすっかり朱色に染まりだしていた。
突然倒れてしまったジョニーを抱え、ただ目覚めるのを待つしかできない少女は戸惑うしかなかった。時折口にする唸り声と、父さんという言葉。一体彼の身に何が起こったというのだろうか…。
「…ジョニー…お願い、早く目を覚まして…!」
今にも泣き出しそうなのを堪えながら彼の名を呼ぶ。ふいに身体がびくりと痙攣した。するとゆっくりと瞼が開いていく…。青く潤んだ瞳が空ろに空間を見つめている。
「ジョニー!よかった!ボクがわかる?わかるよね?」
「…ここは…?メイ…どうして…」
一体何がどうなっているというのか…。さっき確かにあの人に会って話をしていたはずなのに…。そうか…あれは幻。こえることの許されない場所だったんだ。今の俺が何をしようと終わってしまった過去を変えようなんて傲慢なことだった…。ならば何故俺はあそこに行くことができたのだろうか…?
「ねぇ何があったの…?大丈夫なの…?」
「…父親に…会ったんだ…でもまた何も出来なかった。俺は…どうして何も出来ないんだ…?どうして…」
いつになくうちひしがれる彼が哀しくてついに涙がこぼれてしまった。彼もうつむいて…泣いていた。

ジョニーが…泣いている。
メイは今の今まで彼が涙する姿は見たことがなかった。彼はいつだって余裕たっぷりで自信があって、そして強くたくましい人だった。それが今は、驚くほど小さく見える。その姿は少女の瞳に何ともいえず哀れなものに映った。
自分はかつて、目の前の男のように哀れな時があった。父と母を亡くし、途方にくれた日々があった。呆気なく時間は過ぎ去り、何をするわけでもなくただ生きていた頃。彼も同じような虚ろな日々があったのだ。
そんな日々を打ち破り、眩い世界に連れ戻してくれたのは他でもない彼である。今その彼が再び哀しみに疲れている…ならば、今度は自分が彼を連れ戻す番だ…!

「泣いて…いいんだよ…。ジョニーが泣いても平気な様に一緒に泣くから…」
「…メイ…お前…」
「わかるんだ…ジョニーはジョニーの父さまを助けたかった…。過去に戻ってでも…」
「…ああ、だがそんなことできやしなかったのさ…。今更あの人を救うなんて、……」
「…確かに…事実は変わらなかったけど…でもジョニーの父さまは今のジョニーが助けにきてくれたこと、きっと喜んでくれたよ…!」
彼は一瞬空を見上げ、少女を見つめた。
あの人の声、懐かしかった。変わらない微笑み。確かにあの人にあった。…あったんだ。


懐かしかった。変わらない微笑み、変わらない言葉遣い。すべてがあの時のままだった。
あの日、何もできなかった自分が嫌だった。かえられるなら今の自分がかえたかった。しかしそれもできなかった…。
あの人はただ微笑み、再び消えてしまった。死んだ事実だけを残して…。「でかくなっちまって…それに強くもなったみたいだな…」
確かそんなことを言われたような気がする…。
「…嬉しかったかな…?こんな無力な俺が会いにいったってのに…」
「ジョニーは…?嬉しくなかった…?」
「…俺…は…」
もう二度と会うことのないはずの人物。例え幻でも…俺は…。
「ああ…うれしかった…最高にうれしかった…」
「それと同じだよ…!ね…!ジョニー…!」
すっと手がこちらにのびてきた。頬をつたう涙をやさしくぬぐっていく。
「帰ろう…きっとみんな心配してるよ」
「…そうだな…長居しちまった…」
朱く染まっていた景色はすっかり夜空に姿をかえていた。月の光の中を二人の薄い影が遠く小さくなっていった…。

「遅いね…あの二人…」
艇にはすでにメンバーがそろって、帰らぬ二人を待ちわびていた。
「一体どこをほっつき歩いてんのかねぇ…」
と、艇の出入り口が開く音が響いてきた。
「帰ってきた!!」

「お帰りなさあ~い!」
全員の声が見事にはもり、艇内に響きわたった。見慣れた黒コートをはためかせながらジョニーが現れた。
「おぅ、すまねぇな遅くなっちまって…」
ぴっと指をたてて空をきり、中へと足を進めていく。何やら背中に抱えているのか、もう片方の手は後ろにまわしている。よくよく見ると…それはぐっすりと深い眠りについたメイであった。
「一体…何かあったんですか…?」
「なぁに、遊びすぎて途中でくたびれちまってな…。心配ないさ」
「なぁんだもぉ~なんかあったかと思っちゃったじゃんか!この~」
眠っているメイをちょっとつつく。幸せそうに寝息をたて、全く気付く気配はなかった。
「ったく呑気な子ねぇ…さて、みんなそろそろ寝ましょ!」
「そーですわねぇ…ふあ~」
緊張がとけたのか、次々と欠伸をしはじめた。時計を見るとすっかり深夜であった。やがてそれぞれ自分の部屋へと戻っていった…。

ジョニーは抱えていた少女をベッドへ寝かせて、静かに部屋を後にした。まだまだ幼さ残る少女、メイは今ごろどんな夢を見ているのだろうか…。そんなことを考えながら自分もベッドに横になった。
今日は…あの日の夢をみるのだろうか…?みないのだろうか…。薄れゆく意識の中でそんなことを思いながら、静かに落ちていった……。


「I’m home!」
聞き覚えのある声が部屋いっぱいに響きわたった。少しうとうとしていたおれはその声に起こされた。
「なぁんだまだ起きてたのか…子どもは寝る時間だぜぇ?」
確かに時計を見ると夜中の1時をすぎていた。しかしこんな時間に帰ってくる方も問題じゃないか?と心の中で思った。
「ん…さては…俺の帰りを待っててくれたんだな?ん~いい子だねぇお前さんは♪」
頭をなでながらおれの隣りに座る。本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。街の人達はこの人のことを強いらしいとか言ってるときいたことがある。確かに黙ってキリッとしていたら強そうにみえてしまうかもしれないが…。
本当の姿を知ったら街の人は何ていうんだろう…?
「…ん?なんだ?なに笑ってんの?」
「…な、なんでもない」
街の人はさぞかしがっかりして呆気に取られるんだろうなと思うとなんだかおかしくてつい笑ってしまった。
「なんだよ~気になるな~…教えろよ~」
「…やだよ」
「どうしてもか?」
「…うん」
「…仕方ないなあ…」
腕を組んでうつむいてしまった。諦めたのだろうか…と思った瞬間、組まれた腕が解けてこちらの身体をしっかりとらえた。うつむいていた顔はにんまりとした顔にかわっていた。
「…っわ…!や、やめろぉ!」
「残念でした~もう捕まえたもんね!」
にやにやしながら思いっきりくすぐりだしたのだった!たまらずに笑いがこぼれだし部屋いっぱいに響きわたっていった…


二人の笑う声があたりいっぱいに響いていたかと思うと、いつの間にか静けさがひろがる見慣れた部屋にかわっていた。
さっきのは…そうか…夢だったのか。
しばらくしてやっと静かなこの部屋が自分の寝室であり、そこで眠っていたことに気付いた。
いつもこの日の夢はあの人が目の前で死んでゆく夢しか見なかったのに…。
「中にいいもん入ってるから探してみな!」
ふと、あの日に還ったときに彼が言った台詞を思い出した。愛用していた黒いコートに何かを入れたと言っていた…。ベッドから跳ね起き、クロゼットの奥にしまってあるコートをひっぱり出した。念入りにポケットや縫い目を調べてみると、裏についていた小さな胸ポケットに何か入っていた…。
「…写真…?」
それはかつての自分自身と彼が映った古びた白黒写真だった。おどけながらピースサインをした彼を半ばあきれてみている自分が写っている。いつ撮ったのかよく思い出せないが、彼が突然撮ろうと言い出したのだ。その後すっかり忘れていたのだが…。
何気なく裏をめくってみると何か走り書きがしてあった。
「Dear my…」
『親愛なる我が息子。この身が天にめされてもお前を永久に愛する』
「…天にめされても…」
彼は何時何処にいてもこれをもち歩いていた、そして自分を想っていてくれた…。そして今この時も自分を想っていてくれる…。


彼が死んでから自分はただ絶望と哀しみだけを抱えて生きていた。今こうして何ごともなかったように生活しているどこかで、まだ彼のいないことを哀しんでいた。
しかしそれは違っていた。彼は確かに死んでしまったが、死んだからといって彼が自分を忘れてしまったことにはならない。愛していなかったことにはならないのだ。死んでしまったら彼は自分を忘れてしまうと想いこんでいたのだ。
それが今はっきりと間違いとわかった。
彼は今でも自分を気にかけ、愛し、見守ってくれている…。
あの日は変えることはできなかった。けれどそのことを悔やむことはもうしなくてもいいのだ。何故なら今でも彼は自分を愛していると信じていればいいからなのだ…!
「俺はどこかであんたを恨んでた。死んでしまったのがあまりにも信じられなくてすべてを疑って…。だからあんたを助けて生きていてくれれば恨まずに疑わずにすむと思った。死んだ人間は黄泉還らない、もっとしっかりしろと…そういいたかったんだろ…?」
懐かしい香りが残る黒いコートをそっと抱く。あの人の手が頭をなでてくれたような気がした。
そんな…気がした。

部屋のドアを何気なく開と、見慣れたオレンジ色の服を着た少女が立っていた。いつも元気な顔で笑っているのだが、憂いた瞳でこちらを見ている。あれだけみっともない姿をみせてしまったのだから仕方のないことなのだが…。


「…あのさ…ジョニー…もう平気なの…?」
真っ赤にはれた目でこちらを伺いながら、小さく言った。きっと自分の目も同じようにはれてしまっているのだろうが…。「…もう平気さ…お前さんのお陰でな」
「…え…ボクのお陰…?」
きょとんとした顔でこちらをみる。ぽんと頭に手を置き、少女の目線にあうよう腰をおとす。置いた手を肩へとうつしそっと背中にまわした。軽く自分の方へと引き寄せる。
「あの日の俺の分まで泣いてくれたからさ…」
「…ジョニー…」
「俺はなんて幸せ者なんだろうなぁ…俺の為に泣いてくれる人がいるんだから…な」
回した手にゆっくりと力をいれ強く抱き締めた。小さく少女の耳に囁く。
「…ありがとう…」
「……!…」
少女は再びこぼれた涙を静かにぬぐった。自分もそっと彼の背中に手をまわし抱きしめた…。

それから数日立ち、艇は再び慌ただしさをとりもどした。義賊としての活動を再開したのだ。メンバーは忙しく走り回り、毎日が飛ぶようにすぎていった。
「いっくよ~!みんな!次のターゲットはでかいよ!」
「のぞむところだぜ!!」
「念入りに作戦たてたんだからきっとうまくいくわよ!」
「さぁて…みんな準備はO.K.かな?」
「おぉ~!!!」
騒がしくも楽しい日々の中、義賊集団の団長ジョニーはふと、遠いあの日を想いだす。かつてのわだかまりはすべて捨て、今を生きている。ふだんよりも空が青くすんでいる。雲一つない空をいくかの空艇が、その空の向こうへと小さく消えていった…。




追話

「親愛なる我が息子…っと」
まだ幼い自分の息子を説得してやっと撮った一枚の写真。その裏へ万が一のために書き残すメッセージを考えていた。
「うーん…書きたいことはたくさんあるんだけどなあ…」
持っているペンで頭をちょっと掻く。見掛けによらず文才はあまりないのは自分がよく知っている。
「ここはストレートに…永久に愛する…とかにしようかな…うーん…」
ぶつぶつつぶやきながらあれでもないこれでもないと悩みに悩み、結局ストレートに書くことにした。改めて書いてみると何だか気恥ずかしいものだ。たった一人の家族…本当に一人になってしまったとき、この子にしてやれることはただ一つ…。
「あ~でも…もしかしたら気付かず捨てちまうかもなあ…。例え見つけても手遅れだったりして…」
いろいろな悪い結果が頭をよぎっていく。何せまだ幼いうえに片親だ。苦労するに違いない…。
「なんてな!大丈夫!なんせお前はこの俺の息子!元気よく力強く成長すると信じてるぜ!」
と、自信満々にメッセージを書き、お気に入りの黒いコートへしまった。
不思議なものだ…自分は近いうちに死ぬとわかっている。最愛の息子を一人残して…。
だが怖くはない。愛するものを守れるのだから。
そのことを何も知らない少年は…静かな寝息をたてて眠りつづけていた。


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