「ジョニーっ!?」
一人の少女が甲板を駆けていく。
「ジョニぃぃぃ~どこ~!?」
―Birth Day―
探し人を追いかけて甲板を降りようとしていた少女がふと立ち止まる。
「あ、メイ」
“ジョニー”を探しているらしいその少女は、“メイ”と呼ばれると振り向いた。
「ディズィー!ジョニー知らない?」
ディズィーは、大きな羽根と尻尾を揺らしながら、ジョニーからの伝言を伝える。
「先ほど出かけられました…ちょっと出てくるからメイに伝えといてくれ…って」
「そんなぁ…」
今にも泣きださんばかりに、自分の服の裾を掴む。
其の服は、そんなメイの表情とは裏腹に明るく綺麗な橙色をしていた。
「ジョニーってば、今日が何日だと思ってるのさぁ~……」
赤くした頬を膨らませて、甲板から降りていく。
「あ…あの…メイ!それでですね…」
もう、ディズィーの言葉は耳に入らなかった。
「それで…あの…夜には帰ってくるって…云ってたんですケド…聞こえてませんね…」
―――“たんじょうび”
ボクの“たんじょうび”は、ただの“たんじょうび”じゃないんだ。
ベッドに転がり込んだメイは、ぼすっ…と頭を枕に埋めた。
「ただの…たんじょうび…ってだけじゃ…な・い・ん・だ、ぞー!」
枕元にあるジョニーの写真の入ったフォトスタンドのガラスを爪で弾く。
「はーあ…」
しかしながら、いくら写真に物言いしても、写真は写真。
大きくため息をついた。
「ジョニーの…ばぁーか…」
ボクのたんじょうびは、ボクが、“ただ生まれた日”じゃないんだ。
ジョニーがボクを見つけてくれた日。
ジョニーがボクを拾ってくれた日。
ジェリーフィッシュ快賊団に連れて行ってくれた日。
ジェリーフィッシュ快賊団のメイが生まれた日。
…ジョニーがボクに“メイ”って名前をくれた日。
と く べ つ な 日 。
誰にも譲れない。
いちばん大切な日。
なのに…
なのに。ジョニーは。
「ぅえ~ん……」
部屋の隅の見えないところまで放り投げてしまいたかったフォトスタンドを、そうすることもできずに、抱きしめた。
次にメイの目に入った物は、暗い部屋と窓から射しこむ月明かりだった。
「あれ…もぅ夜か…」
あれから泣き寝入りしてしまったらしい。
涙が流れた跡のある少しピリピリする皮膚と、赤くなってるであろう目をこする。
「何時だろ…」
惰性的に呟く。
だって、ジョニーが居ないなら、今が何日の何時でも別に構わないのだから。
ハタとそのことに気づくと、時計にのばしかけた手を止め、ベッドの上に無造作に投げ出した。
「あーぁ…」
そうため息をついて寝返りをうったときだった。
そこにある筈のない、黒い大きな影が目に入る。
「………」
暗闇の中で目を凝らすと、ベッドサイドにジョニーが座っていたのだ。
「…ジョ、ジョニー!?」
「……ん…」
さっきまで気配もなく微動だにしなかった影が、のっそりと動き始める。
―――ああ…起きたかぃ。
そんな風にメイに目をやって、自らも眠気を覚ますように大きく伸びをした。
「お前さんがどんなに首を長くして待ってるかと思って帰ってきてみればァ…」
「気持ちよさそ~うに寝てるから、俺様もついウトウトしてしまってな」
そう云って、メイの頭をポンポンっと叩く。
小さい子をなだめるようにジョニーの手はメイに置かれたままだ。
メイは、口をへの字に曲げると、恨みがましそうな瞳でジョニーを見上げた。
―――寝てたんじゃない。
気持ちよさそうに寝てたわけじゃない!
ジョニーが居ないから…。
なんで、よりによってボクの誕生日に出かけるの?
ジョニーのばか!
「………」
もっともっと云いたいことはあったのに、当のジョニーを前にすると何も言えなくなってしまう。
「どうした?」
そう聞かれても
「なんでも…ない」
そう答えることしかできずに、しょんぼりと肩を落とした。
「…そうか」
「………」
あからさまに元気のないメイにジョニーは困ったような表情をしながら、未だ頭に乗せてあるその手に力をいれる。
くっ…と。
少しだけメイの頭が、額が上を向く。
「…あ……」
ひたいにかすかなくちびるのかんしょく。
「はっぴー…ばーすでぃ」
ジョニーが耳元で囁いた。
メイは真っ赤になって、さっきまでジョニーの唇が触れていた場所に手をあてる。
「ああ……あ・ありがと…」
メイはそのまま恥ずかしそうに俯くだけだ。
「“額じゃイヤ!”とか云わねーんだなァ、今日は」
「ん…」
メイは自分でも不思議に思ったが、
―――なんだか今日は、今はこの方が嬉しい。
「で。何が欲しいんだ?お姫様」
ジョニーが床に膝をつくと、メイの方が微かに背が高くなる。
窓越しの月の光を浴びたジョニーが、メイを見上げた。
「なんに…しようかな」
いつもと違う角度だと、なんだかジョニーもいつもと違うように見えて、どこか照れくさい。
その表情さえもが違って見える。
「なんでも。お姫様のお気に召すままに」
明るい月光のためにサングラスの奥がはっきりと見えないことに、メイは少しホッとした。
少し考えてから、メイはにっこりと微笑むと、両手を差し出して言った。
「抱っこ。それから、ジョニーの子守歌!」
意外な答えに、ジョニーがきょとんとして聞き返す。
「…そんなのでいいのかぃ?」
思わず聞き返しちまった…そんなジョニーの意外そうな顔に頬をふくらませると、
何も云わずに差し出した両手で、改めて催促をする。
「はいはい…」
苦笑しながらメイの躰を引き寄せると、十分に躰を預けられるようにしっかりと支えた。
何時もは、「子ども扱いしないでよぉ~!」と喰ってかかるのに…
―――やれやれ。レェイディーは複雑だ。
そんな風に肩をすくめた。
ジョニーの腕の中で、メイはあの日を思い出していた。
街は、見える全てが瓦礫の山で、感じられるものは、血と何かが焦げる臭いだけ。
どんより重くたれ込めた空と、其れを染めようとする赤い火。
どこか寒かったあの日。
どうしたらいいのかわからずに、
どうすることもできずに、
ただうずくまっていた。
そこに差し伸べられた大きな手。
自分を抱きしめてくれた大きな腕。
そのときから、それが世界の全てになった。
「ジョニー…」
ジョニーの肩に頭をもたげて、メイが呟く。
「ジョニー…ありがとう」
ジョニーの静かな子守歌が、メイを再び優しく包んだ。
一応、「お子さま扱いしてるけど、ジョニーは一番メイが大切&好き。でもそれを認めたくない」がうちのラインです。
でも今回はメイが異様にロリっぽいです。ガキどころか幼児並みです。年の差大好きですがやりすぎたかな。
シリアスでもメイシューズのピコピコが鳴るのを考えると洒落にならんけど楽しいな、とかつい考えてます。
ここまで読んで下さってありがとうございました。感想などお聞かせ願えれば幸いです。
一人の少女が甲板を駆けていく。
「ジョニぃぃぃ~どこ~!?」
―Birth Day―
探し人を追いかけて甲板を降りようとしていた少女がふと立ち止まる。
「あ、メイ」
“ジョニー”を探しているらしいその少女は、“メイ”と呼ばれると振り向いた。
「ディズィー!ジョニー知らない?」
ディズィーは、大きな羽根と尻尾を揺らしながら、ジョニーからの伝言を伝える。
「先ほど出かけられました…ちょっと出てくるからメイに伝えといてくれ…って」
「そんなぁ…」
今にも泣きださんばかりに、自分の服の裾を掴む。
其の服は、そんなメイの表情とは裏腹に明るく綺麗な橙色をしていた。
「ジョニーってば、今日が何日だと思ってるのさぁ~……」
赤くした頬を膨らませて、甲板から降りていく。
「あ…あの…メイ!それでですね…」
もう、ディズィーの言葉は耳に入らなかった。
「それで…あの…夜には帰ってくるって…云ってたんですケド…聞こえてませんね…」
―――“たんじょうび”
ボクの“たんじょうび”は、ただの“たんじょうび”じゃないんだ。
ベッドに転がり込んだメイは、ぼすっ…と頭を枕に埋めた。
「ただの…たんじょうび…ってだけじゃ…な・い・ん・だ、ぞー!」
枕元にあるジョニーの写真の入ったフォトスタンドのガラスを爪で弾く。
「はーあ…」
しかしながら、いくら写真に物言いしても、写真は写真。
大きくため息をついた。
「ジョニーの…ばぁーか…」
ボクのたんじょうびは、ボクが、“ただ生まれた日”じゃないんだ。
ジョニーがボクを見つけてくれた日。
ジョニーがボクを拾ってくれた日。
ジェリーフィッシュ快賊団に連れて行ってくれた日。
ジェリーフィッシュ快賊団のメイが生まれた日。
…ジョニーがボクに“メイ”って名前をくれた日。
と く べ つ な 日 。
誰にも譲れない。
いちばん大切な日。
なのに…
なのに。ジョニーは。
「ぅえ~ん……」
部屋の隅の見えないところまで放り投げてしまいたかったフォトスタンドを、そうすることもできずに、抱きしめた。
次にメイの目に入った物は、暗い部屋と窓から射しこむ月明かりだった。
「あれ…もぅ夜か…」
あれから泣き寝入りしてしまったらしい。
涙が流れた跡のある少しピリピリする皮膚と、赤くなってるであろう目をこする。
「何時だろ…」
惰性的に呟く。
だって、ジョニーが居ないなら、今が何日の何時でも別に構わないのだから。
ハタとそのことに気づくと、時計にのばしかけた手を止め、ベッドの上に無造作に投げ出した。
「あーぁ…」
そうため息をついて寝返りをうったときだった。
そこにある筈のない、黒い大きな影が目に入る。
「………」
暗闇の中で目を凝らすと、ベッドサイドにジョニーが座っていたのだ。
「…ジョ、ジョニー!?」
「……ん…」
さっきまで気配もなく微動だにしなかった影が、のっそりと動き始める。
―――ああ…起きたかぃ。
そんな風にメイに目をやって、自らも眠気を覚ますように大きく伸びをした。
「お前さんがどんなに首を長くして待ってるかと思って帰ってきてみればァ…」
「気持ちよさそ~うに寝てるから、俺様もついウトウトしてしまってな」
そう云って、メイの頭をポンポンっと叩く。
小さい子をなだめるようにジョニーの手はメイに置かれたままだ。
メイは、口をへの字に曲げると、恨みがましそうな瞳でジョニーを見上げた。
―――寝てたんじゃない。
気持ちよさそうに寝てたわけじゃない!
ジョニーが居ないから…。
なんで、よりによってボクの誕生日に出かけるの?
ジョニーのばか!
「………」
もっともっと云いたいことはあったのに、当のジョニーを前にすると何も言えなくなってしまう。
「どうした?」
そう聞かれても
「なんでも…ない」
そう答えることしかできずに、しょんぼりと肩を落とした。
「…そうか」
「………」
あからさまに元気のないメイにジョニーは困ったような表情をしながら、未だ頭に乗せてあるその手に力をいれる。
くっ…と。
少しだけメイの頭が、額が上を向く。
「…あ……」
ひたいにかすかなくちびるのかんしょく。
「はっぴー…ばーすでぃ」
ジョニーが耳元で囁いた。
メイは真っ赤になって、さっきまでジョニーの唇が触れていた場所に手をあてる。
「ああ……あ・ありがと…」
メイはそのまま恥ずかしそうに俯くだけだ。
「“額じゃイヤ!”とか云わねーんだなァ、今日は」
「ん…」
メイは自分でも不思議に思ったが、
―――なんだか今日は、今はこの方が嬉しい。
「で。何が欲しいんだ?お姫様」
ジョニーが床に膝をつくと、メイの方が微かに背が高くなる。
窓越しの月の光を浴びたジョニーが、メイを見上げた。
「なんに…しようかな」
いつもと違う角度だと、なんだかジョニーもいつもと違うように見えて、どこか照れくさい。
その表情さえもが違って見える。
「なんでも。お姫様のお気に召すままに」
明るい月光のためにサングラスの奥がはっきりと見えないことに、メイは少しホッとした。
少し考えてから、メイはにっこりと微笑むと、両手を差し出して言った。
「抱っこ。それから、ジョニーの子守歌!」
意外な答えに、ジョニーがきょとんとして聞き返す。
「…そんなのでいいのかぃ?」
思わず聞き返しちまった…そんなジョニーの意外そうな顔に頬をふくらませると、
何も云わずに差し出した両手で、改めて催促をする。
「はいはい…」
苦笑しながらメイの躰を引き寄せると、十分に躰を預けられるようにしっかりと支えた。
何時もは、「子ども扱いしないでよぉ~!」と喰ってかかるのに…
―――やれやれ。レェイディーは複雑だ。
そんな風に肩をすくめた。
ジョニーの腕の中で、メイはあの日を思い出していた。
街は、見える全てが瓦礫の山で、感じられるものは、血と何かが焦げる臭いだけ。
どんより重くたれ込めた空と、其れを染めようとする赤い火。
どこか寒かったあの日。
どうしたらいいのかわからずに、
どうすることもできずに、
ただうずくまっていた。
そこに差し伸べられた大きな手。
自分を抱きしめてくれた大きな腕。
そのときから、それが世界の全てになった。
「ジョニー…」
ジョニーの肩に頭をもたげて、メイが呟く。
「ジョニー…ありがとう」
ジョニーの静かな子守歌が、メイを再び優しく包んだ。
一応、「お子さま扱いしてるけど、ジョニーは一番メイが大切&好き。でもそれを認めたくない」がうちのラインです。
でも今回はメイが異様にロリっぽいです。ガキどころか幼児並みです。年の差大好きですがやりすぎたかな。
シリアスでもメイシューズのピコピコが鳴るのを考えると洒落にならんけど楽しいな、とかつい考えてます。
ここまで読んで下さってありがとうございました。感想などお聞かせ願えれば幸いです。
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