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夕焼けをくぐって



君の瞳に映りこむ世界の持つ色彩を

僕もいつか感じ取れるのだろうか

















クソ博士から何か命令を言われたような気もするが、

そんな言葉を聞く気分じゃなかった。

だから街をふらふらと当ても無く歩いていたら、あの子に出会った。

彼女の視界を遮る程の大荷物に翻弄され、あっちへふらふらこっちへふらふら

危ないな、とぼんやりとその様を見ていたその時

「あ・・・あー・・・!!!」

ぐらり、と紙袋から覗いていた赤い林檎が一つ地面へ転がり落ちたのを皮切りに

中の荷物達が大洪水を起こしそうだったその瞬間

自分の身体はしっかりとそれを食い止めていた。

「コンナニ一度ニ持ッテハ、コウナル事ハ眼に見エテイルダロウ。」

呆れたようにそう言った自分の言葉を少女は気にも留めず、

ロボカイ今日和と呑気な笑顔で挨拶をくれた。











「だって、仕方無いんだ。

みんなそれぞれ忙しくって、誰も買出しにいける状況じゃなくてさ。

それに僕、案外力持ちだから一人でも平気だし。」

そう言ってメイは、半分の量になった荷物を軽々と頭上へ持ち上げた。

もう半分は、自分がしっかりとバランスが崩れぬよう両手で抱えている。

「力ガ在ロウガ無カロウガ、貴方ノ手ハ二本シカ無い。

ソレニバランスを崩シタラ、ドウシヨウモナイダロウ?」

そりゃあそうなんだけど、と今度は笑顔が拗ねたような表情に取って代わった。

本当にこの少女の表情はくるくると回転木馬のように変わるものだと

ロボカイⅡは内心、感嘆の溜息をつかずにはおれなかった。

「それより、ロボカイは何をしてたの?お散歩?」

ぱっちりとした瞳が、興味の対象を今度はこちらへと向けてきた。

何をしていたのかなど、そんなのこっちが問いたい。

一体自分は何をしているのだ。この金属のような無機質な世界に作り出されて。

「・・・・ねぇ、ロボカイってば。」

考え込んだ為、だんまりだった自分の態度が御気に召さなかったか、

メイの口調には不満がありありと含まれている。

「・・・・マァ、ソンナトコロダ。」

これ以外的確な回答を自分の思考回路は、はじき出してはくれなかった。

「・・・それじゃあさ、折角だから僕とお散歩の続きでもしない?」

軽い口調でそう言ったメイの科白に、

今度はその役立たずな思考回路が、瞬時に一つの言葉をはじき出してくれた。

これぞ即ち『デートのお誘い』

「喜ンデ!!」

ヒートアップして微かに赤くなった顔で何度も頷くと

「じゃあ、こっちだよ。」

メイは自分の硬い手を取ると、ある方向へと引っ張っていった。





最近ノ婦女子ハ随分ト大胆ナノダナ・・・

どんどん人気の無い方向へと進む、メイの背中を見つめつつ

しばらく至福の時を過ごした自分が連れ出された場所は

何も無い、ただ一面短い草の生える少しだけ小高くなっている小さな丘だった。

「・・・・ココハ?」

訝しげに問い掛けた自分にふわりと微笑むと、メイは一歩自分の前に出た。

「ほら、見てロボカイ・・・・陽が沈むよ。」

それは自分の問いに対しての答えでは無いのは考えずとも明白で

それでも自分が黙ってメイの視線を追うと

目の前には今日一日世界を照らした太陽が、

燃え尽きるように西の空へと傾いていく赤い光景が広がっていた。

「・・・ソレハソウダ、太陽ガ西ノ空ヘト沈ムノハ当たり前ダロウ。」

「・・・もう、解ってないなぁロボカイは!そんな当たり前の事、僕だって知ってるよ!」

研究所で学んだ「一般教養」としての言葉を述べた自分に

メイは酷く不満げな顔でこちらを軽く睨んできた。

「僕が言った意味はね、その様子が綺麗だなぁって君に同意を求めたの!」

「・・・・綺麗・・・・?」

その言葉に、もう一度目の前に光景に視線をやった。

太陽、赤、染まる街並み

ただそれだけが情報として、視神経から人工頭脳へと伝えられていく。

だがそこに、「綺麗」という感情の情報は含まれてはいない。

何故?この少女と自分の目の前には全く同じ光景が広がっている筈なのに。

「僕ね、秋の夕暮れ時ってすごぉく好きなんだ。胸がきゅん、て締め付けられて

まるで恋をしている時と同じような気持ちになるの。」

そう呟く彼女の大きな瞳には、赤い色に染まり行く光景が映りこんでいて

でも彼女はそこに、自分とは違う何かの情報を得ているのだ。

それは一体何なのだろうか?それが理解出来ない自分のポンコツさに酷く腹が立った。

「・・・・悔シイ・・・・」

思わず言葉として溢れ出たその感情に、メイが些か驚いたような表情でこちらを振り返った。

「貴方ト同ジモノヲ見テイルノニ・・・同ジヨウニ感ジラレナイ自分ガ悔シイ・・・。」

夕陽を美しいと思える感情のデータは自分の回路の中には流れていない。

それが自分は人間よりも劣っていると言われているような気がして、酷く歯痒かった。

一体メイの感じているその感情は何なのだろう、何という感情なのだ?

自分だって人並みの感情を持っている。それでも理解し得ない難解なモノ。

そんなモノがこの小さな少女には理解出来るのに、何故自分には解らない。

不意に俯いた自分の手を取る、優しい熱。

見上げると、だいだい色に染まったメイの笑顔があって

とても「綺麗」だと思った。

「ロボカイ・・・いいんだよ、物の見方なんて千差万別なんだから。

君は自分の感じたいように、感じればいいんだ。

無理に綺麗だなんて思う必要は無いんだから。

それにね、全ての事柄に理論や理屈なんて必要ないんだよ。」

メイの言葉がじんと胸に染みた。

そうか

そうだったんだ

自分のこの感情も、存在理由も全て説明付ける必要は無いのか

彼女に向けられた、このなにやら温かい気持ちにも

きっと言葉は要らないんだ。

「ゴメンね、ロボカイにとってはこの場所はつまらない場所だったかな。

そろそろ行こうか?」

そう言った彼女を思わず引き止めて自分はこう言っていた。

「モウ少シ・・貴方ト夕陽ヲ眺メテイタイデス・・・・」

どうしてそんな事を口走ったのかは解らない。

それでも嬉しそうに微笑んだ彼女の笑顔が

何故かとても嬉しかったから、深く考えるのは止めた。

もしかしたら人間は、こういう感情を「幸せ」と呼ぶのかもしれない。

そんな事を想いつつ、沈みゆく夕陽をぼんやりと眺めていた。




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