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募るばかりで
ぶつけられない

口にしても
この心は癒されない

ねぇ

こっちを向いてよ……



「メイさん…どうかなさったんですか?」
ある森の中、小鳥と戯れていたディズィーは、突然の訪問者に目を丸くしていた。訪問者は、ジェリーフィッシュ快賊団のメイ。彼女は、いつもは見せない少し寂しそうな顔をしていた。とさ、とディズィーの傍に腰を下ろし、ゆらゆらと体を揺らす。
「どうしよう、ディズィー。ボク、ジョニーに嫌われちゃうよ。」
「え……?」
メイの言葉があまりに理解不能で、ディズィーはつい聞き返した。あの温厚なジョニーが、どこをどうしたら怒ってしまうと言うのだろう。きょとんとしているディズィーを一目見たメイは、小さく苦笑した。
「ごめんね、急にこんな話。忘れちゃって。」
えへへ、と笑う彼女を見て、ディズィーは胸が痛むのを感じた。こんなに幼いのに、いや、実際自分の方が下なのだが、とりあえずメイに無理をさせるべきではない。そう判断したディズィーは、腕を軽く上げて小鳥を放した。あとでね、と優しく語りかけ、改めてメイの方に目をやる。
「私でよければ、話を聞かせて下さい。力になれるかも…。」
「あっ、いいよ。ほんと、大丈夫!ね?」
腕を振り回すメイを、ディズィーは黙って見つめる。その瞳の真剣さに押されたのか、メイはしばらく笑顔を浮かべたままだったものの、すぐにそれを掻き消した。
 ちらりと彼女が目をやった方向に、きっと船が止まっているのだろう。距離までは測れないのだが、多分そう遠くない。その方向をじっと見つめたままで、メイはゆっくりと唇を開いた。
「ジョニーに、好きだって言っちゃったんだぁ…。」
「……?それでどうして嫌われちゃうんですか?」
わけが分からず首を傾げるディズィー。そんな彼女に、メイは全てを語って聞かせた。いつものように、ジョニーに懐いていって。いつものように好きだって言って。「いい女に成長したら」と、ジョニーもいつもの返事を返してきて。だが、その後が少し違ったのだ。
 自分でも、何をそんなに焦っているのか分からない。早くこの思いを伝えないと、好きになってもらわないと、という想いがはやって、メイのアタックは猛烈なものになっていって。いつもは苦笑するだけで終わるジョニーも、つい顔に出てしまったのだ。眉間にしわを寄せて、その唇からは溜め息さえも漏れた。それで、メイは嫌われると思ったのだ。
「もう嫌われちゃってるかもしれないね。あんまりボクがしつこいから…。」
「メ、メイさん…。」
泣きそうになったメイの肩を、ディズィーは慌てて自分の方に引き寄せた。その胸に抱き寄せて、優しく髪を撫でてみる。メイが少しでも落ち着けるように、という配慮からだったのだが、メイはますます落ち込んでいく。ディズィーの胸に頬を寄せて、彼女はぼんやりと目を細めた。
「…ディズィーって、いい女だよね。」
「そ、そんな事…。」
戸惑うディズィーの顔を見上げ、メイは表情を歪めた。幼いながらに、その表情は誰かに想いを寄せる女性のもので。思わず息を呑んだディズィーに微笑みながら、メイは彼女から体を離した。ごしごしと、目に浮かびかけた涙を腕で拭い、くるりと背を向ける。
「ボクなんかより、ディズィーの方がずっと美人だし。」
「…メイさん…。」
「優しくて、大人びてて、…可愛くてさ。」
「そんな、だってメイさんも。」
「ごめんディズィー!ボク、もう船戻るから!」
唇を噛み締めながら、メイは走り出した。言うだけ言って走り去るなんて、最低な事をしていると頭では分かっている。自分からディズィーを訪ねておいて、勝手に興奮状態になって。ディズィーは何も悪くない、悪いのは全部自分なのに、ディズィーは怒らないでいてくれて。それがかえって、メイの心に重くのしかかっていた。どうしてこんなに子供なんだろう、と自分を責めてしまうから。自分とディズィーを比べてしまうから。
 やがて彼女は、ある事に気がついて足を止めた。考え事をしながら走っていたせいで、道が分からなくなってしまったのだ。ここは確かに光もよく当たるし、穏やかな森だが、決して広くないわけではなく。寧ろ広すぎるくらいある森の中で迷ってしまっては、帰るのにどのくらいかかる事か。メイは、途方に暮れながらその場に座り込んだ。体操座りをし、その膝に顎を乗せて、瞳を伏せる。
「…ディズィーにも、嫌われちゃったかも…ボク。」
怒らないでいてくれた。でも、後から考えたら、ひどい事をされたと気付ける程度の知能を、彼女は持っている。そのせいで、メイは嫌われてしまう。ぽろりと、彼女の目から涙が零れ落ちた。
「ボクの想いなんて…ただの重荷なんだ…!」
ジョニーが大好きだから嫌われるような事をしてしまった。ディズィーにも、わざとではないにしてもひどい事をして傷つけたかもしれない。優しい彼女の事だから、きっと思い悩んでいるだろう。それはつまり、間接的にテスタメントさえも困らせる事になりはしないかと、メイは気付いた。本当に、どうしようもない子供だ。こんなもので、ジョニーに釣り合う人間になどなれるわけも無いのに。つい、彼女の口からは諦めにも似た溜め息が漏れてしまっていた。
 が、彼女がそのまま諦めついでにまどろみの中にでも入っていこうとする前に、その目前に黒い衣服が見えた。驚いて顔を上げれば、漆黒の長い髪を揺らしながらこちらを見つめている青年がいた。あ、と口から声が漏れる。テスタメントだ。知っている人間に出会えた安堵感と、それでもディズィーを傷つけたかもしれないと言う罪悪感の中で、メイは揺れていた。そんな彼女の前に膝をついて、テスタメントが口を開く。
「こんな所にいたのか。皆心配していた…帰れ。」
「……皆?」
テスタメントが開口一番発した言葉に、メイは目を丸くした。てっきり、「ディズィーに何をした」というのが一番かと思っていたのに。いや、その前に、一体どれだけの時間が経っていたというのか。その考えを悟ったのか、テスタメントの目が剣呑に細められる。
「ディズィーが気にするなと言った。だから、問わないだけだ。」
ディズィーと言う名前、どうしても聞き慣れているのに心臓が跳ね上がる。それより、テスタメントがこう言ったという事は、ディズィーは少なからず落ち込んだ顔をしていたと言うことだろう。目を伏せて明らかに落ち込んでいるメイを怪訝な目で見ていたテスタメントは、それでもとりあえず見つけたのだから、とでも言うように彼女の体を片脇に抱えた。女性を持つ姿勢ではないものの、メイはそのままされるがままになる。今更、言い返す気力も無いのだ。そんな彼女を横目に、テスタメントはそっと言葉を紡いだ。
「…ジョニーが、血相変えて私を呼びに来たから、何かと思ったのだが。」
「ジョニー…?」
「ああ。…しかも、一緒にいたディズィーまでが慌てだす始末だ。」
メイが一方的に走っていってしまったのに、ディズィーは彼女を心配し、船に戻ると言っていたのに、と自ら捜索を申し出たのだ。それを見て、ジョニーも森の奥に進んでいき、成り行き上テスタメントも一緒に探す事になったのだと言う。そして、結果彼が一番にメイを見つけたと言う事になるのだが。
 考えてみれば、何の連絡手段も持たない彼が、「見つけた」と知らせる術は無く。テスタメントは、口を閉ざして困惑の表情を浮かべた。申し訳ないと思いつつ、メイは小さく笑う。そんな彼女を不愉快そうに一瞥したテスタメントには首を竦めて見せ、メイはその腕をすり抜けた。落としたか、と慌てたテスタメントを見上げ、メイはひょっこりと頭を下げる。
「皆に心配かけてごめんなさい。ついでに迷惑分も。」
メイの謝罪に、テスタメントは表情を歪めた。ディズィーとはまた違った謝罪の仕方だ。こんな風に軽く、楽観的な謝罪の仕方ができればディズィーももう少し明るくなれるかも知れないのに。そんな的外れな事を考えていたテスタメントの顔を覗き込み、何を考えているのか分からないだけに不安そうな目をした。
「ね、怒ってる?」
「……?私がか。何をだ?」
「だって、顔怖いんだけど…。」
メイが恐る恐る言うと、テスタメントはその無表情を崩した。怒り出すのかと身を硬くした彼女の目の前で、珍しく声を出して笑い出す。え、とそれこそわけの分からなくなったメイの頭に、テスタメントの手が置かれた。その顔はまだ笑ったままで。
「心配するな。ディズィーの事を考えていただけだ。」
「それで何で笑うのさ。」
メイが不満そうに頬を膨らませると、テスタメントは口元を穏やかに緩めたままで優しく言った。
「私もお前も、誰かを想っているのは同じだと言う事だよ。」
一瞬、メイの思考回路が停止した。テスタメントに心を読まれた気分になったのだ。確かに、ジョニーへの想いのせいでこんな事になったのだが、それをテスタメントに話した覚えは無い。でもそれをあっさり話題にされたのだから、驚かないわけも無い。
 メイは、いつの間にか何事も無かったかのように歩き出したテスタメントの後を追いかけ、その服の裾を引っ張った。引っ張られて前に進めなくなったテスタメントは、困惑の色を織り交ぜた無表情でメイを見下ろす。メイは、唇の端を悪戯っぽく吊り上げて言ってみた。
「誰かを想うって、苦労するよね。」
メイが言った言葉に、テスタメントは僅かに表情を変えたが、すぐに静かな笑みを浮かべて「まったくだ」と呟いた。まさか肯定の言葉が返って来るとは思わなかったメイは、心の中にわいて出た嬉しさに任せてテスタメントに最初から話す事にした。今なら、テスタメントが話を聞いてくれそうだったから。珍しく優しいテスタメントが、怒らずに最後まで事の次第を聞いてくれる事を祈って、メイはテスタメントの名前を呼んだ。
 数分に渡って話を聞いたテスタメントは、少し不機嫌にはなったものの、メイの正直さに免じて許してくれる気になったらしく。話さなかったら許してもらえなかったんだろうか、という素朴な疑問を持ち始めたメイは、とりあえずテスタメントの優しさに感謝した。


そして。


「ジョニー!!」
テスタメントに案内された先で、メイは目にとまった人物の名を呼んだ。その横には、ディズィーの姿もある。二人とも、メイの声を聞いた瞬間に振り返って、その表情を明るくした。どうして二人揃っているのかとテスタメントに尋ねたところ、二人の気配が一緒のところにあったからそこに移動しただけなのだとか。その鋭さに感服しつつ、メイはジョニーの胸の中に飛び込んだ。それを拒まずに、ジョニーは優しくその体を受け止めてくれる。その暖かさに安心しながら、メイはジョニーの胸に頬を摺り寄せた。大きくて、いい香りのするジョニーの体。そこに抱かれて、幸せを感じる。
 メイが幸せに浸っていると、ジョニーが彼女の頭に手を添えてきた。少しは怒られる覚悟をしていたメイが身を硬くすると、その手は優しく下へと降りてきて、メイの頬をなぞった。見上げれば、サングラス越しにジョニーの瞳が覗き込んできているのが見えて。彼は、優しい手つきでメイの頬を撫でた。
「全くうちのお姫様は、どれだけ心配させれば気が済むのかねぇ…。」
「ご、ごめんね、ジョニー。」
肩を竦めていると、後ろから伸びてきた手がメイの体を包んだ。抱きしめられた、と気付くより先に、抱きしめた張本人、ディズィーが口を開く。
「無事でよかった、メイさん。」
「ディズィー…ごめんね、怒ってないの?」
「私が?…いいえ。ちょっとびっくりしたけど。」
にこりと微笑まれて、メイはまた胸の中が熱を帯びるのを感じた。ここで泣いたら負けだ、というわけの分からない思いを抱きながら、自分を取り巻く三人を順に見ていく。テスタメントは相変わらず無表情で、ディズィーは優しく微笑んでいて、ジョニーはと言うと…。
「…メイ、俺はお前の想いを拒む気なんざねぇよ。いつでも、かかってきな。」
「……。いい女になるまで待ってくれる?」
「もとよりそのつもりだぜ?お前さんが勝手に飛び出すような奴でなけりゃぁな。」
「むぅ~!絶対、いい女になってやるからね!!」


そんなやり取りを、テスタメントとディズィーは少し離れてみていたのだが。


「……他所でやってくれないか……。」
「フフ。いいじゃないですか。何か、見てて嬉しいです。」
ディズィーがあまりに穏やかに言うので、その愛しさに、テスタメントは思わず彼女を抱き寄せていた。驚いたディズィーは、それでもテスタメントを拒むような事はせず、ふんわりと抱きしめ返した。
「…メイさんって、ちょっとテスタメントさんに似てます。」
「な…に?」
「何かとっても優しいの。ふんわりしてて、誰かを本気で想ってる目をしてる。」
テスタメントさんは誰を想ってるの、と悪戯っぽく言われ、テスタメントは僅かに苦笑した。はにかむディズィーを抱きしめながら、その髪に頬を埋める。これで分かるだろう、といえば、ディズィーは顔を真っ赤にして俯いてしまった。彼女の背中で翼となっているネクロとウンディーネには嫌なものを見せ付けているかもしれないと思いつつ、テスタメントはもうしばらくこのままでいる事にした。少し離れた所では、またジョニーとメイが何かを言い合っている。至極、楽しそうに。
 それを未だかつて無いほどに優しい目で見つめながら、テスタメントはディズィーの髪に指を絡めて遊んでいた。ディズィーがくすぐったそうなのは、敢えて気にしない。

こうして、強すぎる想いから起こった一騒動は幕を閉じた……。



ひたすら募る思いを貴方に

届かないなら待っていよう
いつか届く日のために
大きく大きく育てながら

そして貴方の優しさに

甘えていられる日の夢を
心の中で噛み締めて……



                                           fin
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