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うろほろぞ
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生まれたばかりでもあるまいに、まるで雛の刷り込みだ。



「おった!まーごー!」
「見つかったか…」

背中から聞こえる声に観念して、孫市は絡みつく腕を離しつつ、お姉さま方に笑いかける。

「悪ィけど、今日はやめとくわ」
「ええ?」
「ここまで来て、冗談でしょう?」
「子ども付きじゃあどうしようもねぇって。今度な」

大変名残惜しいが輪の中から抜け出て、声の主の元へと向かう。
彼女が昼寝をしている最中にこっそり抜け出てきたのだ。全くいいところで、と思う反面、目を覚ます前に帰るつもりだったのに余計な心配をかけちまったと一人ごちた。
ガラシャは孫市のそばまで来ると弾んだ息を整えて、今一度声を上げた。

「孫!捜したぞ!」
「悪かったお嬢ちゃん。だがな、ここ辺りには来ちゃ駄目だって言わなかったか?」
「他所を全部回ったが、孫がいなかったのじゃ。仕方なかろう」

にぎやかな大通りを一歩入った細道には、いわゆる遊女に当たる、体を売る女たちが身をおく宿が並んでいる。少女の知るべき世界ではないと足早に通りへと追いやるが、ガラシャはすれ違った女を興味津々とばかりに肩越しに見やった。

「色っぽくて、綺麗じゃのう…」
「そうだなー」
「わらわもあんなふうになれるかのう」
「そうだな…って、お嬢ちゃんが?」

孫市の脳裏には、先の戦いで判明した父親の姿が浮かんだ。
帰ってきた娘が風俗に染まっていました      なんてことになった日には、確実にグサァ!とやられるに決まっている。
孫市は、冷たい汗が背中を流れていくのを感じた。

「ならなくても、今だってお嬢ちゃんは十分可愛いさ!」
「まことか?」
「ああ!本当の本当!」
「女たらしの孫が言うと、説得力があるのう」
「女た……」

誰だそんなことを言ったのは。秀吉か、よし、次にあったときみてろよあの野郎。
指を鳴らす孫市の心境を知らず、ガラシャはきょとんとしている。その顔を見ているとなんだか毒気が抜かれて、思わず苦笑をこぼした。

「…ま、いいか。だったら何遍でも言ってやるよ」

赤毛をくしゃくしゃと撫でたら、ガラシャが大きな目を嬉しげに細めた。
これは親愛の証だ。
父のように、兄のように、孫市はガラシャを想っている。肉親にも近いそれは、決して色恋ではないと断言できるのに。

(刷り込まれたのは案外、俺の方かもしれないな)

冗談にもできず、軽口もたたけず、戯れにも口説けない。



おまえはかわいいよ。




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