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BD1
「いいか、2月14日というのは女が男にチョコレートを捧げねばならん日なのだ」

突然呼び止められて何を言い出すのかと思ったら・・・。

「チョコレートを?どうしてですか?ねぇレッド様」

「どうして?・・・どうして・・・そんなことはどうでもいい。とにかくチョコレートだ。いいな、私は酒が入ったのは好かぬ、白いのも好かぬ、それ以外ならピーナッツが入ったのは大歓迎だありがたく受け取ってやろう。いいか2月14日だ、忘れるなよ」

レッドは忍者らしく霞のようにサニーを残して消え去った。

「2月14日って・・・どうしよう、もう明後日なのに」







「そりゃあサニーちゃん『バレンタインデー』ってやつだよ」

「『ばれんたいんでー』?」

セルバンテスの執務室で出された大きなモンブランを頬張りながらサニーは初めて聞く言葉に首をかしげた。

「起源はかなり古くって遡れば古代ローマ帝国の時代らしい、チョコレートが出てくるのは最近になってからでヨーロッパで恋人がチョコを贈るという習慣をもとに他の地域でも広まった。中でも東洋の島国である日本で何故か非常に受け入れられてね。よっぽど製菓メーカーが上手く宣伝したんだろうねぇ」

アジアや日本での活動を頻繁に行うレッドがバレンタインという習慣を知っているのもうなずける。しかしサニーにチョコレートを請求するところをみるとチョコをどういった意味を込めて贈るのかまでは知らなかったらしいとセルバンテスは苦笑した。

「日本では女性が大切で大好きな男性にあげるのが「本命チョコ」と言って・・・それが一番なのだろうけど、最近は「義理チョコ」って言って好きじゃないけど日頃お世話になってるから付き合いで贈る場合も多いそうだよ。この義理っていう道義はいかにも日本的かもしれないね」

セルバンテスが視線を前に向ければサニーは何か考えている様子だ。

「ん?もしかしてサニーちゃん誰かにチョコをあげるのかい?」

「はい!いつもお世話になっている皆さんにです。もちろん「本命チョコ」です!」

きっぱり言い切ったサニーにセルバンテスは大笑いした。


オムレツを作れるようになったサニーがチョコレートも手作りで、と思うのは当然の流れでセルバンテスはサニーのために高品質のカカオを使ったチョコレートペーストや砂糖、作るのに必要となる諸々の材料や道具を全て用意してやることにした。





次の日の早朝。

明日をその日に控えてサニーは真っ白いフリルがついたエプロンを戦闘服にしてキッチンに仁王立ちになる、そう、彼女はやるき満々。セルバンテスが「大変だろう?おじ様も手伝おうか?」と気を利かせてきたが彼女はやんわりと断った。バレンタインのチョコ作りを男に手伝ってもらっては女がすたる、バレンタインの意味を知った以上まだ子どもであっても彼女の「女としての意地」がそうさせたのだ。

アルベルトが任務で不在だったので彼の屋敷のキッチンを借りて、セルバンテスに用意してもらった材料や道具を並べてみる。手作りチョコの基本がわかるお菓子の本も開いて準備万端。

「ええと十傑集の皆様に・・・イワンと孔明様と・・・」

数が多いが絶対手は抜かない。普段自分が周りから大切にされているのをよくわかっているからこそこんな時には気持ちを込めてお礼をしたいとサニーは考えていた。

贈る人に合わせて心を込めてそれぞれ異なるチョコを作るつもりでいるので大変な作業となるだろう。それは望むところで一日中キッチンに篭城する気で彼女は腕をまくった。




最後の一個のラッピングが終えたのが夜の10時を過ぎた頃。樊瑞にはアルベルトの屋敷に泊まると伝えてあるので今日は父親のアルベルトのベッドに潜り込んだ。お風呂に入っても自分の身体からほのかに香るチョコの甘い香り、そして父親の葉巻の香りに包まれてサニーは直ぐに眠りに落ちていった。




当日。




「はい、セルバンテスのおじ様」

「いやぁ!これはこれは!ありがとうサニーちゃん」

「おじ様が一番最初ですよ?だっておじ様のお陰で作ることができたのですもの」

「本当かい?ははは嬉しいねぇ」

サニーが上手くチョコを作れるかどうか心配してはいたが手にある籠には山盛りいっぱいのチョコレートを思わしき袋や箱。子どもであるのに良くコレだけのことを成し遂げられるものだと正直彼は驚いた。

サニーから手渡されたのは銀箔の模様が入った白い包装紙に青い花のコサージュがつけてあるバレンタインチョコ。

「なんだかワクワクするねぇ」

丁寧に開けてみるとホワイトチョコを被ったトリュフが4つ、その一つを取って口に放り込んだ。丹念に裏ごしを重ねたのがわかるほど滑らかな舌触り、大きく抱擁するようなおおらかな甘さ。それは作った人間の心根が表れているのかふくよかで優しい味わいのチョコだった・・・。

「ホワイトチョコはセルバンテスのおじ様をイメージしてみたんです、どうですか?」

「私にはもったいないくらい美味しいチョコだよ。味もさることながらサニーちゃんの気持ちが伝わる本当に美味しいチョコだ。しかし、ついこの前まで私の腕に小さく収まっていたと思っていたが・・・オムレツといいサニーちゃんは素敵な女性になっていくね・・・私は嬉しいよ」

「良かった・・・おじ様にそう言って頂けると自信を持って皆さんに配ることができます」

セルバンテスにクフィーヤで包み込むような抱擁を受けて賞賛してもらう。俄然自信が湧いてきたのか重いはずなのに山盛りの籠を力強く抱えなおし、サニーはセルバンテスの執務室を後にした。

一人残ったセルバンテスはもう一個チョコを口にいれ、青い花のコサージュをスーツの胸ポケットに差し込んだ。そして背伸びをひとつ、面倒なペーパーワークだがチョコを味わいながらであれば鼻歌混じりで彼は取り掛かり始めた。






「執務室にいらっしゃらなかったのできっとココだと・・・あ、十常寺のおじ様も」

本部の図書室の一番奥、壁一面を覆う本棚を前に木製の脚立に腰掛けながら残月が分厚い量子力学の本を読んでいた。その下には十常寺が床に腰を降ろし、何が書かれているのかわからない巻物を背中を丸めて読んでいる。

「やあ、サニー。私に用かな?」

「残月様と十常寺のおじ様にバレンタインチョコレートを・・・」

「ばれんたいん・・・とは?」

頭を捻ったのは十常寺だった。

「そうか今日は2月14日だったな。バレンタインとは一般的には女性が好意もしくは感謝の念を込めて男性にチョコを贈る習慣日のことだ。十常寺は知らなかったのか?」

「ふむ・・・斯様な習慣あるとは。されど我が人生、一度たりとも「ちょこれいと」を女子より貰った試し無し」

「じゃあ私が最初なんですね?はい!十常寺のおじ様、私の手作りです」

十常寺が手にしたのは錦模様の巾着、中を広げてみればひとつひとつラミネートに包まれた美しい新緑色の抹茶の生チョコが3つ。彼は物珍しそうに見つめてから恐る恐る口にしてみた。まず抹茶の香りが広がり、ゆったりとチョコの甘さが舌に溶けていく。普段洋菓子の類を食べつけない彼でもすんなりと染み入る味だった。

「斯くも美味なる菓子があったとは・・・むむむ」

目を見開いて驚く様に苦笑しながら残月もまたサニーから貰ったチョコを開けてみる。濃紺のリボンがついたシャンパンゴールドの筒状のケースの中にはアーモンドスライスが乗っかった薄い板状のチョコが6枚。噛み砕けばアーモンドの香ばしさに上質なカカオの風味、それに甘さを控えたややビターな味わいが残月の好みにマッチした。

「ふむ、これが手作りとは驚きだ。凄いなサニー」

「ありがとうございます!・・・でもバレンタインチョコを貰うの、残月様はきっと初めてじゃないですよね?うふふ」

「ん?さて・・・どうだろうな、ふふ」

少女の嬉しそうな悪戯っぽい笑みに同じ笑みを返してやる。

「もちろんお2人とも「本命チョコ」ですよ!ではこれで失礼します」

再び籠を抱え直し、サニーは次のターゲットを探しに行く。

「白昼大人、『ほんめいちょこ』とはこれ如何に」

「世の男にとって「光栄の極み」ってところだ」

男2人はチョコを口にしてサニーの小さいながらも頼もしい背中を見送った。











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