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BD2
サニーが次に向かったのは温室だった。
いつだったかこっそり林檎を失敬しようとした幽鬼の温室。相変わらず中は手入れの行き届いており、あらゆる植物が実を実らせ葉を生い茂らせている。中央の最も日当たりが良い場所に幽鬼が身をかがめてなにやら作業をしていた。

「幽鬼様」

「ん?お嬢ちゃんか、調度良かったイチゴを今収穫していたところだが・・・好きだったろう?一つ食べてみるか?」

「わぁ、大きいイチゴですね」

土で汚れた手の中でみずみずしいイチゴが宝石のように輝いている。側の水道で軽く洗って幽鬼はサニーに手渡してやった。

「良かった、私も幽鬼様にお返しができます」

差し出されたのは萌黄色(もえぎいろ)で同色の刺繍のような模様が薄っすら入った円形のケース、結ばれているのは真っ白なリボン。「いや今手が汚れているから」と遠慮しようとしたが「構いませんよ」とサニーに手渡されたそれを促されるまま開ければ・・・ピンク色のハート型のチョコレートが5つ入っていた。

「今日はバレンタインですから、頑張って手作りしました」

「ふふふ、参ったなお嬢ちゃんから貰えるとは」

しかし食べようにも手が少々汚れている、洗おうかと思ったら先にサニーが中から一つ摘んで幽鬼の口に差し出した。

「まさか・・・ちょ、お嬢ちゃん待っ・・・!」

明らかに「あーん」の体勢に幽鬼は怯んでしまったがサニーは何ら躊躇することなく幽鬼の口に入れてやった。甘酸っぱさを残したイチゴペーストが入ったストロベリーチョコ、イチゴの香りも豊かで手作りの温もり伝わる優しい味わい。

「『本命チョコ』です!」

「ほ・・・ん・・・んんん!!?」

思いがけない発言に幽鬼はうっかりチョコを喉に詰まらせてしまう。

「イチゴ、ありがとうございました」

「ほ・・・本命チョコを食べてしまった・・・」

呆然とする男を残してサニーは温室を駆け抜けていった。








薄暗いワインセラーは幽鬼の温室を抜けたすぐ近く。
酒類が好きなヒィッツカラルドが秘蔵のワインを寝かせている場所で、彼はそこで試飲を楽しんでいた。

「私と一杯やりに来たのかい?」

相変わらずの調子でグラスを片手にサニーを出迎えるヒィッツカラルド。
グラスには赤い色のワインが踊っていた。

「今日はヒィッツカラルド様に手作りのバレンタインチョコをプレゼントしに来ました」

サニーが籠から取り出したのは白い小さな薔薇のコサージュが飾られて、光沢のあるワインレッドの包装紙に包まれた長方形の箱。

「ヒィッツカラルド様はたくさんの女性からチョコを貰われるのでしょう?」

「いやいや、こんな哀れで惨めな男にチョコレートを恵んでくれる慈悲深い女性はお嬢ちゃんただ一人だけだよ」

その言葉にサニーは笑い、ヒィッツカラルドも肩を揺らせて笑う。
丁寧に中身を開けると横に4つ、トリュフチョコが並んでいる。一口食べてみるとトリュフの中でも高級な黒トリュフの欠片が入っているのか非常にリッチな香りが口いっぱいに広がった。

「これはいい、ワインに良く合うチョコだ。私の好みを知っているとは、お嬢ちゃんも男の口説き方を心得ているらしいな、ふふふ。」

「もちろん『本命チョコ』ですよ」

「ははは!本命とは嬉しい。よし、それならお嬢ちゃんがもう少し大きくなったら私と一杯付き合ってくれないか?」

サニーは上機嫌のヒィッツカラルドに「もちろんです」と笑顔で答えた。






ヒィッツカラルドから怒鬼が執務室にいると聞いたので本部内の大回廊を歩いていたら珍しく孔明と樊瑞が肩を並べて歩いていた。しかし孔明が胸をそらせ樊瑞が肩を落としているあたり・・・樊瑞は孔明からチクチクと嫌味か愚痴の攻撃を受けているらしい。

「まったく、もう少し十傑集のリーダーとして威厳と落ち着きが欲しいものですな。あの程度の緊急事態で慌ててもらっては困ります」

「・・・・・・すまん」

「アルベルト殿が速やかに対処してくださったから良かったものの・・・ん?サニー殿、私に何か御用ですかな?」

声をかけていいものか足をとめて悩んでいたら孔明がサニーに気が付いた。

「あの・・・お2人にバレンタインチョコを・・・」

「サニー殿、バレンタインなどと俗なことに時間を割いている場合ではござりませぬぞ。貴女はいみじき十傑集が一人娘、将来は我がBF団の・・・」

「おお!サニー!この私にバレンタインチョコをくれるのか」

喋りが長くなりそうな孔明を喜色満面の樊瑞が押しのける。後見人の勢いに圧されつつもサニーは籠からふたつの箱を取り出しそれぞれに手渡した。

孔明が貰ったのは金刺繍の模様が入った紫色の巾着、中を見ればスティック状のチョコが6本。それぞれの先には金粉が付いている。

「これはサニー殿、貴女がお作りになられたので?」

「はい、孔明様のお口に合えば良いのですが・・・」

相手が手厳しい孔明なのでサニーは孔明がチョコを口にするのを緊張して見ていた。

ポキンと気持ちの良い音を立てて孔明はチョコを食べた。子どもが作る味にまったく期待などしていなかったが・・・ややビターだが苦味が先走らず残る後味はまろやかな甘さで孔明が好むところ。何よりもカカオの香りが前面に押し出され精神的に気持ちがリラックスする。

かなり高級な素材を使っていることくらい彼の舌ならすぐわかる。
しかし単純にそのためで美味しいチョコができたわけではない。
食べる側の人間を想い気遣う意図が見え隠れしているからこそ味わい深い。

「どうだ孔明、サニーが作ったチョコは美味かろう」

「・・・・・・・・・・・・」

押し黙ってしまった孔明。
その横で樊瑞は彼のマントと同じ色のリボンを解いた、小さな藁で編まれた籠はまるで鳥の巣のように細い紙切れが敷かれ、その中に卵のような3つのチョコ。見つめていれば愛しくなるその形を一つ摘んで口に放り込んだ。中は甘いミルクとほろ苦いビターな部分が二層になっており口の中で転がせばそれぞれの味が程よく混ざり合う。

不思議とサニーと共にいた今までの時を思わせる味。

「ううむ・・・とても・・・とても美味しいぞサニー」

上手く言葉にはできないがサニーが自分を想って作ってくれたことはよくわかる。大きな手でサニーの頭を撫でてやると、まだ幼いと実感させるあどけない笑顔を向けてきて樊瑞は目を細めた。

「召し上がってくださってありがとうございました。それでは私はこれで失礼いたします」

丁寧にお辞儀をしてサニーは籠を持ち直して大回廊を左に歩いていった。

「・・・サニー殿にはいずれ十傑集にと思っておりましたが考えが変わりました」

しばらく黙り込んでいた孔明がようやく口を開く。

「そうか、うむ!それがいいぞ孔明。やはりサニーは普通の女の子として・・・」

「いいえ、貴方の次に十傑集リーダーとなっていただきましょう」

「はぁ!?」

ひらり、と白羽扇をそよぐ。
孔明は満足げな笑みを浮かべて去り行くサニーの背中を見送った。

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