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BD3
「怒鬼様なら先ほどカワラザキ様に誘われて茶室に向かわれました」

怒鬼の執務室に誰もおらずどうしたものかと思っていたらたまたま居合わせた血風連の一人がこう教えてくれた。茶室・・・カワラザキが所有する日本の「茶道」を嗜むための小さな和風の家屋で広大な本部の中庭でも日本風庭園風に造られたその一角に存在する。サニーも何度かそこでカワラザキから様々な「作法」を教えてもらったことがある。

「あ、そうだ。血風連の皆様にもと思ってバレンタインチョコを作ったのですが・・・でも失礼ですが私、皆様がいったい何人いらっしゃるのかわからなくって・・・」

30個で足りなかったら本当にごめんなさい、とサニーは一粒ずつラミネートに包まれ丁寧に黄色のリボンで結ばれたバレンタインチョコを籠から取り出す。中には大粒のアーモンドが入った一口サイズのチョコレート、長方形の粒の上にはハートの模様が入っている仕事の細かさだった。

「な、なななんと・・・バレンタインチョコを我らのような者にまで下さると仰られるのですかサニー様・・・しかも30個もお作りになられて・・・」

「本命チョコ」と聞けば尚更で血風連A(仮名)はサニーから手渡された30個のチョコが入った紙袋を手に、滂沱の涙を流して曇る視界でサニーを見送った。


ちなみにこの後・・・30個の「本命チョコ」を血風連200名(未確認情報)で重軽傷者を多数出すほどの取り合いとなった。でも実際は29個のチョコで、Aが仲間に差し出すよりも先に1個食べたということは彼だけの秘密。








サニーは竹でできたそれが「ししおどし」という名のモノであるとは知らない。
静寂の庭園中「コーン!」と心地よい音が響き渡った。
大人なら身体を小さくしてかがめないと入れない茶室特有の狭い入り口。
サニーも頭を低くして「失礼します」と一言、カワラザキの茶室に潜り込んだ。

「おおサニー。さあせっかくだから、怒鬼から茶をいただきなさい」

「はい」

無骨な武芸者とは思えない繊細な手つきで怒鬼は茶筅(ちゃせん)を扱う。所作にも無駄はなく清浄な空気が彼の周囲に漂うのがわかるほどそれは見事な手前で・・・サニーはその様を何度見るたびにいつか自分も、怒鬼のような茶を人に点てられるようになりたいと密かに思っていた。

心のこもった茶で出迎えてもらいサニーはバレンタインチョコを取り出した。

「あの、この場でチョコは合わないかもしれませんが・・・」

「いや、そんなことはない。茶菓子にいいではないか、のう怒鬼。バレンタインチョコか・・・貰うのはいったい何十年ぶりになるかのう」

身体をゆすってカワラザキは笑いながらサニーから手渡されたチョコを手にする。
それが「本命チョコ」と聞けばおおらかな笑いを彼は返した。
和紙で包まれ赤く染められた麻の紐で結ばれたその中身は真四角のチョコが5つ。

「ふむ・・・」

何も入っていないミルクチョコレートだ、まったく奇をてらわないチョコらしいチョコと言える。しかし返ってあれこれ混ぜなかったためか濃厚なミルクの優しい風味が素直にカワラザキの舌に届いた。年を重ね本質というものを知るに至った彼にとってそれはシンプルだけでは説明できないやはり本質の味。

----サニーに料理を勧めたのは正解だったかもしれん

もちろん花嫁修業の意味も少しは込めていたかもしれないが・・・それよりも豊かな感覚を養うと同時に食べる相手の気持ちを考える心遣い、料理を通じて少しでもサニーに得て欲しいとカワラザキは考えていたのだ。
そしてその結果の味に彼は満足した。

「この味はワシにぴったりだ、ありがとうサニー」

その横で怒鬼は相変わらず無言のままチョコの包みを開いていた。藍染の巾着の中身は楕円形のチョコが4つ、彼は少し珍しげに見つめたあとおもむろに口にした。

「・・・・・・・・・・」

彼にとってチョコは少々不思議な味だったのか確かめるように舌の上で味わっている。中はホワイトとビターとミルクが何層も重なっており味わうごとに様々なチョコが現れる。一粒で二度も三度も美味しい仕組みに怒鬼は目を見開いた。

「美味い」

「・・・・・!」

サニーは初めて聞く怒鬼の言葉に驚いてしまった。

「ははは、怒鬼がそう口にするのだからよっぽどだと言うことじゃよサニー」

「サニー殿、斯様な菓子をかたじけない」

「あ・・・い・・・いいえ!お口に合って本当に良かったです怒鬼様!」







茶室を後にしてサニーは再び本部の大回廊を歩いていた。すると突然床から溶け出すように黒い液体がにじみ出てそれはすぐさま獣の形となった。

「アキレス様!」

黒い獣、アキレスは駆け寄って来たサニーに艶のある身体を猫のように摺り寄せる。十傑集と同格とも言える気高き彼がそんな態度を示すのはサニーくらいかもしれない。

「アキレス様にもチョコをって思っていたんですよ?でも・・・アキレス様はチョコをお食べになられるのかと・・・」

少し申し訳無さそうに一粒のチョコを差し出す。黒いビターチョコの中身はイチゴの甘酸っぱいピューレが入っていてアキレスをイメージしたようだ。アキレスは臭いを嗅ぐ素振りを見せたがあっさりとそれを口に入れた。

満足のいく味だったのかペロリ、とサニーの頬を長い舌で舐めてやる。

「うふふ、アキレス様に喜んでいただけて良かったです!あ、そうだ、あの・・・私ビッグ・ファイア様にもチョコをお渡ししたいのですが・・・まだ一度もお会いしたことが無くて。もしよろしければビッグ・ファイア様にお渡しいただけないでしょうか」

アキレスは小さくうなずくとサニーから手渡された綺麗な水色の包装紙で包まれ、銀色のリボンで巻かれた筒状のケースを口に咥えた。そして足元の影に沈みこむようにアキレスは地面へと溶けていった。


ちなみに中身はホワイトチョコでラムレーズンが入っている。
そのサニーの手作り「本命チョコ」がビッグ・ファイアの口に入ったかどうかは・・・・








「ふう・・・」

サニーは朝からチョコが入った重い籠を持ちながら本部内を歩き回ってさすがに疲れていた。ようやく一息つこうとガラス張りの向こうに中庭が望める大回廊の突き当たりで立ち止まった。側にある休憩用のソファに身を沈めため息を一つ。

「あとは・・・そういえばレッド様はいったいどこにいらっしゃるのかしら。執務室にはおられなかったし、今日は任務の無い日のはずなのに・・・」

いよいよ残るチョコレートは三つ。
言いだしっぺのレッドにイワンと父親のアルベルトの分。

中庭からの温かい日差し、疲れて少しうとうとしかけたその時。

「おい!貴様!チョコだチョコ!!」

「きゃあ!」

気配無しになんと天井からさかさまにぶら下がって現れた赤い仮面の男にサニーは思わず悲鳴を上げてしまった。

「おおこれか、三つも用意するとはなかなか気が利くではないか」

「あ!レッド様っだめです!それはイワンとお父様のぶんで・・・」

「なんだ、そんなのどうでも良いではないか三つとも私によこせ」

「良くありません!もう・・・レッド様のはこれです」

レッドが手渡されたのは顔くらいのサイズはあるだろうか、それはそれは大きなハート型のチョコレートで赤い銀紙に包まれている。甘党のレッドはまずその大きさに満足するが・・・

「ふん、どうせ『魔法』とやらいう便利な能力でホイっと出したのであろう」

「・・・・!そんなこと私はしません!ちゃんと自分で作りました!」

能力の使い方に関しては樊瑞に幼い頃から厳しく言われている。
もっと小さな頃、自分が欲しいモノを『魔法』で生み出そうとして生まれて始めて樊瑞に叩かれた。そしていつもは優しく穏やかな樊瑞に本気で叱られたことをサニーはよく覚えている。

その時はどうして怒られるのかわけがわからなかったが・・・

「っは!どうだなかぁ。そんなこと何とでも言える。実際なんでもかんでも「魔法」で出せるのだから羨ましい話だ」

「そんな・・・」

レッドは腰をかがめ、ニヤニヤしながらサニーを覗き込む。耐えながらも今にも泣き出しそうなサニーの表情が面白いらしい。いつもならここでもう一押しすればあっさりと大泣きするところだったのだが・・・


パチーン!!!


キっとサニーが口を結んで睨んだかと思った瞬間、レッドは思いっきり引っ叩かれてしまった。女、しかも子どもからの平手打ちは生まれて初めてで、おまけにいつも大人しいサニーから受けるとはまったく予想しておらずレッドは一瞬何が起こったのかわからない。

「もうレッド様にはチョコを差し上げません!!それは「義理チョコ」ですからっ」

サニーは言い放つと籠を持って走り去っていった。

頬を腫らせて今だ呆然としているレッドの手にはチョコレート。
それは甘い物好きのレッドのために大きな大きなハート型、そして本人からの要望にきっちりこたえてピーナッツがふんだんに入っていた。







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