「アルベルト今戻ったか、サニーのチョコは美味かったぞ」
「お嬢ちゃんに「ホワイトデーを楽しみにしていてくれ」と言っておいてくれ」
「おい衝撃の、あのガキに・・・いや何でもない」
「サニーちゃんからバレンタインチョコは貰ったかね?今日は君の屋敷にいるはずだから早く帰ってあげたまえ」
本部に帰還するなりアルベルトは出会う同僚たちから次々と声を掛けられる。
ほとんどの者が娘への賞賛と感謝の言葉を口にする。
----なにがバレンタインだチョコだ
----サニーのやつめくだらんことばかり覚えおって
適当に返事してアルベルトは自分の執務室にこもった。そしてイワンと2人がかりで溜まっていた書類の整理と決済を行うため仕事は深夜にまで及んだ。
「ア、アルベルト様・・・これはもしやサニー様からの・・・」
深夜12時を前に屋敷に戻った二人、そこでイワンが驚いた表情を見せたのは屋敷に戻って必ず通る応接間のテーブルにそれが置いてあったからだ。一つは白い水玉模様が入った黄色い包みに緑のリボン、もう一つは黒い光沢のある包みに真っ赤なリボン。それが娘からのバレンタインチョコであるとアルベルトはすぐにわかった。
----やれやれ、チョコか・・・
深く眉間に皺を寄せたが・・・アルベルトはスーツの上着をソファに放り投げると黄色い包みの方をイワンに投げてよこした。
「どうやらそれが貴様の分だ。今日はもういい、帰れ」
「しかし夜食のご用意を・・・」
「いやいい、このまま寝る。朝は遅く取るから8時に来い、ご苦労だったなイワン」
「はっかしこまりました。サニー様には後ほどお礼を申し上げておきます」
イワンはアルベルトに深々と礼の形をとるとサニーからのチョコを大切そうに持って屋敷を出て行った。
一人屋敷に残ったアルベルトはネクタイを緩めシャワー室へ向かう。
疲れを流してガウンを羽織り、濡れた髪を上質のコットンタオルでふき取りながら再び応接間に足を踏み入れた。自然と視界に入る娘からのバレンタインチョコ。
「・・・・・・・・・・・・」
それを掴み取ると二階にある自分の寝室に向かった。
「な・・・・・・・」
寝室に入った途端アルベルトは目を丸くしてしまった。
サニーがちゃっかり父親の、自分のベッドで眠っていたのだ。
父親たちの帰りを待っていたが昼間の疲れに負けてしまったらしい。
「来客用のベッドがあるだろうに、まったく・・・」
アルベルトは髪を拭いていたタオルとチョコの箱をサイドテーブルに置くと、自分のベッドに眠る我が娘の安らかな寝顔をそっと覗き込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・」
年を重ねるごとに亡き妻の面影が色濃くなっていく娘。
アルベルトは誰もいないはずの部屋なのに辺りを見回して人の気配が無いのを確認すると、おもむろに眠る娘の柔らかい頬を指の背で撫でる。
じんわりと伝わる娘からの確かな命のぬくもりに彼は心の底から安堵した。
「随分と大勢の男どもに『本命チョコ』とやらを配り歩いたようだな」
娘が女の株を上げることができて実は・・・こっそり嬉しい。
妙に頼もしさを感じてしまい自然と笑みが漏れる。
安らかな眠りから覚まさないよう、そっとロイヤルミルクの柔らかい巻き髪を撫でてやれば長いまつげがわずかに揺れる。
小さな結晶は何の夢を見ているのか幸せな微笑みを返してきた。
「ふ・・・いつのまにかこんな物を私によこす年になったか・・・」
ベッドのサイドテーブルに置いてある娘から貰ったチョコレート。
小さな手で結んだであろう赤いリボンを丁寧にほどいて光沢ある黒い包装紙を静かに開ける。中には真四角のチョコレートが4つ、その一つを彼は口に入れた。
----そういえばあれが私によこしたチョコもこんな味だった
甘ったるいものを好まない彼の好みを母親が知っていたが・・・娘も知っていたらしい
口で溶けるそれは砂糖がほとんど入っていない苦味が強いビターチョコだったが
娘の寝顔を眺めながら味わえば、彼には少々甘すぎた。
END
「お嬢ちゃんに「ホワイトデーを楽しみにしていてくれ」と言っておいてくれ」
「おい衝撃の、あのガキに・・・いや何でもない」
「サニーちゃんからバレンタインチョコは貰ったかね?今日は君の屋敷にいるはずだから早く帰ってあげたまえ」
本部に帰還するなりアルベルトは出会う同僚たちから次々と声を掛けられる。
ほとんどの者が娘への賞賛と感謝の言葉を口にする。
----なにがバレンタインだチョコだ
----サニーのやつめくだらんことばかり覚えおって
適当に返事してアルベルトは自分の執務室にこもった。そしてイワンと2人がかりで溜まっていた書類の整理と決済を行うため仕事は深夜にまで及んだ。
「ア、アルベルト様・・・これはもしやサニー様からの・・・」
深夜12時を前に屋敷に戻った二人、そこでイワンが驚いた表情を見せたのは屋敷に戻って必ず通る応接間のテーブルにそれが置いてあったからだ。一つは白い水玉模様が入った黄色い包みに緑のリボン、もう一つは黒い光沢のある包みに真っ赤なリボン。それが娘からのバレンタインチョコであるとアルベルトはすぐにわかった。
----やれやれ、チョコか・・・
深く眉間に皺を寄せたが・・・アルベルトはスーツの上着をソファに放り投げると黄色い包みの方をイワンに投げてよこした。
「どうやらそれが貴様の分だ。今日はもういい、帰れ」
「しかし夜食のご用意を・・・」
「いやいい、このまま寝る。朝は遅く取るから8時に来い、ご苦労だったなイワン」
「はっかしこまりました。サニー様には後ほどお礼を申し上げておきます」
イワンはアルベルトに深々と礼の形をとるとサニーからのチョコを大切そうに持って屋敷を出て行った。
一人屋敷に残ったアルベルトはネクタイを緩めシャワー室へ向かう。
疲れを流してガウンを羽織り、濡れた髪を上質のコットンタオルでふき取りながら再び応接間に足を踏み入れた。自然と視界に入る娘からのバレンタインチョコ。
「・・・・・・・・・・・・」
それを掴み取ると二階にある自分の寝室に向かった。
「な・・・・・・・」
寝室に入った途端アルベルトは目を丸くしてしまった。
サニーがちゃっかり父親の、自分のベッドで眠っていたのだ。
父親たちの帰りを待っていたが昼間の疲れに負けてしまったらしい。
「来客用のベッドがあるだろうに、まったく・・・」
アルベルトは髪を拭いていたタオルとチョコの箱をサイドテーブルに置くと、自分のベッドに眠る我が娘の安らかな寝顔をそっと覗き込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・」
年を重ねるごとに亡き妻の面影が色濃くなっていく娘。
アルベルトは誰もいないはずの部屋なのに辺りを見回して人の気配が無いのを確認すると、おもむろに眠る娘の柔らかい頬を指の背で撫でる。
じんわりと伝わる娘からの確かな命のぬくもりに彼は心の底から安堵した。
「随分と大勢の男どもに『本命チョコ』とやらを配り歩いたようだな」
娘が女の株を上げることができて実は・・・こっそり嬉しい。
妙に頼もしさを感じてしまい自然と笑みが漏れる。
安らかな眠りから覚まさないよう、そっとロイヤルミルクの柔らかい巻き髪を撫でてやれば長いまつげがわずかに揺れる。
小さな結晶は何の夢を見ているのか幸せな微笑みを返してきた。
「ふ・・・いつのまにかこんな物を私によこす年になったか・・・」
ベッドのサイドテーブルに置いてある娘から貰ったチョコレート。
小さな手で結んだであろう赤いリボンを丁寧にほどいて光沢ある黒い包装紙を静かに開ける。中には真四角のチョコレートが4つ、その一つを彼は口に入れた。
----そういえばあれが私によこしたチョコもこんな味だった
甘ったるいものを好まない彼の好みを母親が知っていたが・・・娘も知っていたらしい
口で溶けるそれは砂糖がほとんど入っていない苦味が強いビターチョコだったが
娘の寝顔を眺めながら味わえば、彼には少々甘すぎた。
END
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