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うろほろぞ
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頭が痛い。
起きたくない。
目を覚ましたら、きっといやなことばかりが待っているの。
だめ。
いや。
「…サニー?」
かけられた声に、唐突に意識がはっきりする。
見上げた景色はベッドの天蓋。
…何度か見たことがあるわ。
おじ様の部屋の、天蓋。
「サニー、目が覚めたか?」
深い声。
いつも私を安心させてくれる声。
ゆっくり首を回すと戸惑ったようなおじ様の顔が見えた。
「は…、い」
声が掠れる。
どうして?
どうして?どうして?
何故おじ様はそんなに痛ましい顔でいるの?
起き上がろうとすると、何故だか身体中がぎしぎし音をたてるよう。
目の前に水の入ったコップを差し出され、私はそれを飲んだ。
ああ、どうしてかしら。
こんな感じはとても久しぶり。
「痛いところはないか?」
困ったような、怒ったような顔のおじ様。
「あ、りませんわ。ど、う…」
無意識にテレパスで父上を探し、答えの無いことに言葉を失う。
死んではいない、とずっと感じていた。
それなのに…!
トン、と断ち切られたような感覚。
その先には何もなく空虚。
いない。
父上はもう、いない。
私の手の届く所にはいらっしゃらない。
お母さまのところへ…行ったのね…。
ぱたり、と涙が布団へ落ちる音。
「サニー…」
おじ様が、私の頬を拭う。
一瞬にして私が置かれた立場を悟ってしまう。
父上はもういない。
「…おじ様、私…どうなるのですか?」
「…どうもせん。わしがついておる」
ずっと、今まで何度もそうしてくれたように、おじ様の腕がやさしく私の肩を引き寄せ、胸に抱いてくださる。
私、…私は、
「でも、…でも、それでは、おじ様に、ご迷惑を…」
「何を言う。お前は…わしの娘同然だ」
娘。
でも本当のおじ様の娘ではないわ。
おじ様がそう言ってくださるのはとっても嬉しいのだけれど。
おじ様の立場と、今の私の立場を考えれば…どれだけおじ様が苦悩なさっているのかがわからないほど、子供でもないの。
「今は何も考えずともよい。身体をいとえ」
ぎゅ、と抱き締めて髪を撫でてくださる。
最初はお母さま。次はセルバンテスのおじ様。そして父上。
おじ様も、私の手の届かないところへ行ってしまわれるのかしら?
「…そんなこと…」
させないわ。
思わず小さく呟きが漏れる。
背筋が少し寒い。
絶対に、させないわ。
絶対に。
「どうした?サニー…どこか具合が悪いのか?」
おろおろと、少し困った顔でおじ様が私を覗きこむ。
「…大丈夫ですわ、おじ様。…ごめんなさい、少しお腹が減ったの」
「そうか。食欲があるのはいいことだ。すぐ用意させよう」
お腹が減ったのは本当。
でも、半分は嘘。
ぱっと、ほっとした顔になったおじ様に、私もほっとしてしまう。
おじ様の首に腕を回して、ぎゅっとしがみつく。
「おじ様、私、早く大人になりますわ」
呟くと、おじ様は少し驚いたよう。
「…急がずとも、いずれは大人になるものだ」
「それでも、早くなりたいのですわ」
私の大切な人はもういなくなってしまった。
私が子供なばかりに、何の手立てもできないままに。
おじ様もそうさせてしまうなんて、絶対にいや。
「早くおじ様のお役に立ちたいの」
ぎゅっと、更に強く抱きつくと、おじ様の小さな溜息。
「では、とりあえず体調を戻すことだ。…役に立つ立たぬなど、子供の心配することではない」
やんわり私の腕をほどいてベッドにまた寝かせてくださる口調は、やっぱり優しい。
食事の用意ができたらまた起こすから、と言い置いて、おじ様は私の額を撫でた。
「おじ様、…大好き」
泣きたくなる。
目が熱いから、多分閉じた目蓋の下から涙が出てるかもしれない。
やさしく笑う気配がしたけれど、おじ様は黙ったままだった。

---------

十傑集裁判でもないのでしょうけれど、私はおじ様がたが「私を今後どう扱うか」を論じる席につかされた。
とは言っても、ずっと樊瑞のおじ様が側にいてくださるから怖くなんてない。
「わしはサニーの後見人だ。今後はわしの元で養育しよう」
「…異存はない。好きにすればよかろう」
「問題が出れば処分するまでのこと」
「で、お主の意思はどうなのだ?」
カワラザキのおじ様と残月のおじ様が頷くと、レッドのおじ様が私を見て訊ねてくださった。
私を心配して、というより、おもしろがってらっしゃる。
「私は、おじ様がたのお役に立てるなら、それで…ッ」
「お役に?ならば順繰りに夜の相手でもしてみるか?」
一瞬で私の目前に迫り、視線を合わせて下品に笑う。
「この…!」
「イヤッ!!」
夜の相手って何かしら?と思うよりレッドのおじ様の笑顔が怖くて、思わず押しのけようと勢いよく腕を伸ばすと、ゴオッっという風の音がして、すごい音とともに向側の壁が広範囲に抉られ、吹き飛び、廊下の向こうの壁が半壊しているのが見えた。
レッドのおじ様は、もちろん無傷で元の位置に戻ってらっしゃった。
…今のは、私が?
「―――見ての通りだ。サニーには充分な素質がある。…わしの手元に置くのに文句はあるまい」
樊瑞のおじ様は溜息をひとつついて、レッドのおじ様を睨みつけた。
その視線の先で、レッドのおじ様はとても楽しそう。
「確かに、おもしろそうだ」
声に出して笑う。
「朴念仁の樊瑞が光源氏を気取るなぞ、一生に一度見れるかどうかだろうな!」
「レッド!貴様…このわしを愚弄するか!」
ヒカルゲンジって、なんでしょう?
とにかく樊瑞のおじ様を挑発されていることはわかる。
ジャキン、と銅銭の剣を手にする樊瑞のおじ様に、レッドのおじ様はクナイを手にした。
「やめておけ、くだらん」
カワラザキのおじ様が溜息をついて首を振る。
「―――」
「あ、おい、何だ怒鬼、ここからが面白いってのに…」
怒鬼のおじ様がレッドのおじ様の腕を掴んでクナイを取り上げる。
樊瑞のおじ様は…、私が思わずマントを掴んで引いたのに気づいたのか、それとも最初から本気ではなかったのか、剣を納められた。
「…では、サニーの件はわしの預かりでよろしいな」
念を押すように樊瑞のおじ様が言うと、おじ様がたは一様に頷かれた。
レッドのおじ様だけは少し不機嫌そう、かしら。
では解散、ということになってそれぞれが部屋を後にし始めると、レッドのおじ様が私を振り向いた。
樊瑞のおじ様が警戒して私を引き寄せマントに隠そうとするのに構わず、私に顔を寄せてくる。
「サニー・ザ・マジシャン、また遊ぼうな!」
何故だかとっても楽しそうに笑う。
けれど、怖い笑顔。
負けるつもりはないわ。
「…ええ、レッドのおじ様。私、頑張ります」
笑い返すと、レッドのおじ様はきょとんとした顔。
首をかしげて樊瑞のおじ様を見て、それから怒鬼のおじ様を振り返る。
「…俺、おじ様?」
…何か、違ったかしら?
怒鬼のおじ様は無言で頷き、私に向かってほんの少しだけ笑った。
レッドのおじ様はやはり憮然とされて、私に向き直った。
「覚えておけ、サニー。俺は、オニイサマだ!…うん、レッドのお兄様。なかなかいい響きだ」
樊瑞のおじ様の溜息が頭の上で聞こえる。
レッドのおじ様は大威張りで宣言すると、悦に入ったように笑って去って行かれた。
…子供みたい。
怒鬼のおじ様も樊瑞のおじ様に小さく会釈してレッドのおじ様の後を追っていく。
ぽん、と大きな手が肩に触れる。
「気にするな。あやつにしてはあれで好意的だ」
諦め顔の樊瑞のおじ様を見上げて、思い出したことを聞いてみる。
「おじ様、ヒカルゲンジってなんでしょう?」
「う、…それは…」
困ったような、怒ったような顔をするおじ様の後ろから笑い声。
「それはわしやレッドの故郷の…そうさな、昔話に出てくる人だよ」
カワラザキのおじ様がにこりと笑う。
その後ろでは残月のおじ様がぷかりと煙管をふかし、幽鬼のおじ様はぼんやりこちらを見ている。
「どんな人なのですか?」
「小さな女の子を引き取って、自分の好みの女性に育てて恋人にする男、というところか…」
ちらりと樊瑞のおじ様を見て、カワラザキのおじ様が笑う。
「樊瑞なら、その心配はあるまい」
「あら、私、樊瑞のおじ様のお好みなら知りたいですわ。だって大好きですもの」
今おじ様のことで知っているのはお茶の好みくらいかしら?
何故だかいっせいに私に視線が集まる。
「…これは大胆だ。どうする樊瑞?」
「ぬ、いや、子供の言う事だ」
「幽鬼もそう言ってわしの元に来た事だしの。子供ゆえに語彙が足りんのだろ」
「…違う、ような…」
何だか、とっても子ども扱いされていることだけはわかる。
私は確かに子供だけれど、なんだかひどいわ。
「わしはどうかの、サニー。好きかね?」
ん?と首を傾げてカワラザキのおじ様が私に尋ねる。
「もちろん、好きですわ」
「では、残月は?幽鬼は?」
順に指を指すごとに「好きです」と答える。
「では、樊瑞は?」
「大好きです」
…どうしてこんなことを訊ねるのかしら?
おじ様がたが顔を見合わせる。
「良かったではないか、樊瑞」
「うむ、ちと違う事はわかったのう」
「…だから言った…」
黙り込む樊瑞のおじ様とは対照的に、他のおじ様がたが笑う。
「…あの、私、何かおかしなことを言ったのでしょうか?」
「いや、ちっともおかしくない」
残月のおじ様がきっぱりおっしゃるのがとっても嬉しい。
「…お主、面白がっておるだろう」
苦虫を噛み潰したような…って、こういうのかしら?そんな顔で樊瑞のおじ様が残月のおじ様を見る。
「樊瑞のおじ様、私、頑張ります」
力をコントロールできるようになって、レッドのおじ様にからかわれないようになって、そして樊瑞のおじ様の側にいても恥ずかしくないように。
私が言うと、やっぱり樊瑞のおじ様以外が笑う。
「…帰るぞ、サニー」
諦めたように溜息をついて歩き出す樊瑞のおじ様の背を追う前に、おじ様がたを振り向く。
「おじ様がた、失礼いたします。…また、以前のようにお茶を飲みにいらしてくださいませね」
以前のように。
父上が…、父上たちがいらした頃のように。
「うむ、是非」
「楽しみにしている」
「…」
やさしい返事にほっとしてお辞儀を返し、樊瑞のおじ様を追いかける。
おじ様のピンクのマントは随分遠くなっていたけれど、やはり立ち止まって私を待っていてくださった。
「ごめんなさい、おじ様。お待たせしました」
「いや。…随分夜更かしさせてしまったな。眠くはないか?」
先ほどの集まりは10分ほどで終わったのだけれど、始まった時間は夜の10時で、私はいつもならとうに眠っている時間。
「いいえ、ちっとも」
小さな頃から顔見知りのおじ様がたとはいえ、BF団の正式な場に出るなんて初めてですもの。
どきどきして眠くなんてないわ。
「そうか。では、帰ろうか」
「はい」
差し出される大きな手に手を差し伸べる。
父上は、私の手を取ろうとはしなかった。背中を向け、それでも私がようやく追いつけるくらいの速さでゆっくり歩いてくださった。
セルバンテスのおじ様は、私の手を取り、抱き上げて歩いてくださった。
お母さまは、私と歩くことすらできなかった。
…私は大丈夫。
ちゃんと歩けるわ。
こうして樊瑞のおじ様が手を取ってくださるから。
大丈夫。
おじ様の手をぎゅっと握る。
「…おじ様、私、頑張ります」
「…そうか」
何だか困ったような顔でおじ様が頷く。
「サニー、お前はお前の出来る事をやればいいのだ。無理をしてはいかん」
「はい、おじ様」
温かく優しい手が包んでくれる。
私は大丈夫。
でも、おじ様の手のあたたかさに安心してしまったのか、ちょっとだけ眠い。
それとも緊張して疲れたのかしら。
あんな能力を使ったのも初めてだわ。
小さくあくびをかみ殺したけれどおじ様に聞こえてしまったかしら?
「…やはり急ぐか。おいで」
「…すみません」
広げられた胸に腕を伸ばすとふわりと抱き上げられる。
おじ様の胸に頭を寄せればとても温かくて、幸せな気持ちで眠ってしまいそう。
「眠りたければかまわんぞ」
おじ様の声が胸から低く優しく響く。
マントにくるまれる感触にもう一度、すみません、と言おうとしたけれど、目蓋が重くて。
きちんと言えたかどうかはわからないままだった。


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