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十傑集リーダーたる混世魔王樊瑞は重大な事実に気づきつつあった。
後見人として手元に引き取ったサニー・ザ・マジシャン。
彼女がこれからぐんぐん”女性”へ成長するという事実に。
「重々承知の上と思っていたが」
ぷかりと煙を吐き出し、白昼の残月は意外そうに呟いた。
樊瑞の屋敷の応接室。
暖炉でぱちぱちと薪木の燃える明るさだけが夜も更けた部屋を照らしていた。
長身の彼らをもしっかりささえ包み込むようなソファが暖炉へ向き合う形で並べられ、二人の間に置かれたテーブルには、ウィスキーの入ったグラスが各々置いてある。
「無論、頭ではわかっておったさ」
顎鬚を撫で、暖炉の火を眺めながら樊瑞は物憂げに応じる。
喫煙の類はとうにやめたはずが、こんな時には妙に手持ち無沙汰に感じた。
「後悔しているのか?」
表情を窺い知ることのできない仮面の下、残月の言葉は常に容赦がない。
「まさか…!後悔などしてはおらん。…ただ、な…」
言葉を濁し、樊瑞は困ったような、遠くを見る目をした。
残月は首をかしげる。
「ただ何だと言うのだ、樊瑞」
「うむ…」
言葉を探すように樊瑞が言い淀む。
と、ドアの向こうからぱたぱたと軽い足音。
ノックの音とともに「おじ様、よろしいでしょうか?」とサニーの声がした。
「…ああ、おいで」
樊瑞の返事を聞きドアが開けられると、白いネグリジェのレースの裾がふわりと揺れた。
「失礼します。…あら、残月のおじ様!」
「お邪魔している」
煙管を片手に残月が振り向くと、サニーはかすかに頬を染めた。
少女は残月の傍らに寄り挨拶のキスを送る。
「こんな恰好で、ごめんあそばせ」
「いや、眼福というもの」
上等なやわらかな生地に豪華なレース飾りがほどこされたネグリジェは、胸元からたっぷりとAのラインを描くように裾が広がっている。そこから伸びる腕も足も白く細い。洗い髪を乾かしたままの栗色の髪は、ふわふわと細いうなじを飾っていた。
人形のようなかわいらしさの中に、少女らしい、色気のような危うさがあるな、と残月は思う。
すっかり和んだ声で残月が言うのに少女は頬を染めたまま笑う。
「まあ!いやだわ、おじ様ったら」
「ふふ、おじ様か」
サニーの言葉に残月は小さく声に出して笑った。年齢なら十傑集の中でも一番近いはずだが、と心中で苦笑する。
「サニー、もう寝る時間かね」
「はい。お休みのご挨拶に」
樊瑞の声にくるりと少女が振り向くと、裾が風をはらんでふわりと揺れる。
暖炉の光に浮かび上がる少女の陰影はどこまでもやわらかい。
その様子に目を細め、樊瑞は小さく溜息をついた。
「…おやすみ、サニー」
「…おやすみなさい、おじ様。残月のおじ様も」
少々不満げに少女は唇をとがらせるが、大人しく踵を返す。
サニーのシャンプーの香りを残しドアが閉じられると、樊瑞はずるりと少しばかり深くソファへ埋もれた。
それを横目で見、残月は呟く。
「おやすみのキスが欲しかったようだが」
「…それはやめさせた」
「なるほど」
残月は小さく笑った。
樊瑞が”頭ではわかっていた”と言う意味を理解したのだ。
「馬鹿馬鹿しい話だが、我が身を信用し切れんのだ」
苦々しげに樊瑞が呟く。
細い首、やわらかな唇。無防備に伸ばされる腕。
大人になりきっていないしなやかな身体が、何故抱き締めてくれないのかとなじるようだった。
忍耐力を試されている気までしてくるが、それは己の勝手な受け取りようなのだ。少女は”おじ様”を信頼しきっているからこそ無防備な姿を晒しているに過ぎない。
「しかし、彼女は望んでいる気がするが…」
幼いとはいえ、あれでは無防備に過ぎる。
首をひねる残月に、樊瑞は肩をすくめた。
「例えそうだとしても、だ。サニーが分別のつけられる歳になる前にどうにかなってしまっては、アルベルトに申し訳が立たん」
セルバンテスのような真似をする気はないのだ、と遠くを見る目をする樊瑞に、残月はわずかばかり同情の眼差しを送る。
今の言いようでは、サニーが樊瑞の言う”分別のつけられる歳”ならばどうにかなりそうだと言っているようなものだ。
サニーは分別なら既についているのでは、とも思ったが残月は口にはしなかった。
言ったところで、十を幾つか過ぎたばかりの少女相手では慰めにもならない。
「だが、手放す気はないのだろう」
「当然だ」
渋い顔で樊瑞が黙り込む。
後見人としては目の届く所へ置きたいし、かわいいものはかわいい。
苦悩の種であろうとも手放したいわけがない。
「…幸せの苦しみといったところか」
ぷかりと煙を吐いて残月が呟く。
望む所だ、と樊瑞の口の中で呟かれた言葉は部屋の暗がりへ溶けて消えた。



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