寂しいと思った事はないけれど。
欠けていると思ったことはあった。
「サニーちゃん」
久しぶりだね、と言った大作は少しはにかんで、滑らかな頬を赤くしていた。あれから4年だが、大作は随分大きくなったとサニーには思えた。この頃の子供達はどちらかというと女の子の方が早熟だが、サニーが4年という年月を歩いてきたのなら、大作も4年という年月を生きている。父が居ない4年間を生きている身寄りの無い少年は、それでもサニーよりも満たされている様に見えた。
「今日もお父さんのお見舞い?」
「…ええ、父の」
大怪球との死闘により、サニーの父は瀕死の重傷を負った。口の悪い人間に言わせれば自業自得との事だが、サニーはそうせざるを得なかったのだと知っていた。温度を失っている父の心には時に酷く燃え上がるものがあり、その為ならば文字通りに全てを投げうつ事が出来るのだ。
……つまり自分も、その中の一つに過ぎなかった。分かっていたが、改めてそうと思うと足先がズンと冷えていく様に思う。
「……今日も、会えなかったけれども」
「残念だったね」
サニーちゃんは毎日来ているのに、と大作は続ける。言わなくてもちゃんと気付いてくれている人がいると思うと、心の何処かにぽっと暖かいものが灯るのを感じたが、肝心の人には通じていないのだと思うと、途端に冷え込んでいった。衝撃も分かっているのだと、樊瑞は言ってくれたものの、事実は変わりはしない、がんとしてそこに在る。
「大丈夫です」
「サニーちゃん?」
サニーは下を向いて、こつこつと歩いていく。自分はいずれ十傑集の一員となるのだから、国際警察機構の人間と馴れ合っておくことなど出来ないのだと言い聞かせると、すたすたと歩いていく。肩に掛けたケープが冷たい風をはらんで、微かに揺れる。今日は寒くはならないだろうと言っていたのに、何故か酷く肩や足や手の先が冷たくて感覚を失っている。
「あの、サニーちゃん」
あの声はもう喜んで聞けないのだ、と思いながら目を閉じたサニーは、呼びかけと同時にどんと暖かいけど重たいものにぶつかった。
「楊志さんにぶつかるよ」
……少し、遅かった。サニーは危うくつんぞり返る所だった。危うく抱き留められてなんとか、ひっくり返らずに済んだ。
「あはは、ごめんよ。アンタがあの衝撃の娘かい。話には聞いてるよ」
自分の速度で歩いたのだから大した事は無かったが、それでも人にぶつかるなんて事を滅多にしないサニーはその事実に落ち込んでいた。しかも相手は女性だ……もっとも、十傑集の大概の者より彼女は大柄で、女性にぶつかった時の申し訳なさは少しだけ小さかった。真っ青な肌は一種異様だが、笑っている姿は不思議と暖かで好感の持てるものだった。
「こんな可愛い娘さんがいるのに、あの阿呆は……」
え、と小さな悲鳴がサニーの口から漏れた。父の誇り高さは知っているが、それ故に困難が多い事も知っている。妥協が出来ない、という事がサニーには未だ良く分からないが、
それ故に生じる問題はサニーの心を密かに痛めている。正しく評価されるべきものなのだから。
「あの……父が……何か?」
「正確に言うと、『ここで』うちの旦那と死合おうとしたんだ」
あの馬鹿、と楊志は顔を顰めた。
大作がはぁ、とぽかんとした息を吐き出した……戴宗については、小さなものだがトラブルがちょくちょくと起こっているのは知っている。院内飲酒で放り出されかけた事2回、女性看護師についついセクハラをした事3回、ちょっとした諍いに参加して激しく大きくして強制退院寸前になった事4回。
ちなみに4回目が、今日、本日、つい今し方。サニーがやって来る30分前。
もれなく楊志に手痛い説教を喰らっている。入院しているのは幾らか楊志が原因でもあるが、何処ぞの3回については、もう少し死にかけると思っていたのに残念残念というか本気で反省しないと次は死ぬぞ、と無慈悲な感想を貰った事がある。
早い話が、全て自業自得。本日はそれにアルベルトが巻き込まれた。もっとも、アルベルトが発生させたものだから、体よく纏めてぽいとされたとも言える。つまり戴宗とセットで説教された訳だ。
説教と言っても、文字通りの説教が聞くとハナから楊志は思っていないので、問題解決も含めて文字通り窓の外にぶん投げた所、ふたつでひとつだったので一緒に窓の外に飛んでいった。取っ組み合っていた所を投げればそうもなろう。当の楊志に、何となくもう一人分程度は重たくなかったのかと言えば、『そんな事考えている場合じゃなかったんだよ』と答えられただろう。なにしろ衝撃破と噴射拳が発動する寸前だったのだ。
「人様の病院で死合うな、この馬鹿。少しそこで頭を冷やしときな」
そう怒鳴ってぴしゃんと締めた窓の向こう。
九大天王の一人と十傑集の一人は、予想に反して見事に受け身も取れずに墜落していた。ちょっと軽めに思いたい複雑骨折が増えたのは、ちょっとした気の迷い程度でいいだろう。
「戴宗さんったら……」
ついこの間、『もうしません』って言ったばかりなのに、と大作ははぁ~ともう一度気の抜けた息を吐き出した。『間違った大人にはしたくない』と何度も言われたが、どうにも戴宗自身の行動とはつじつまが合わず呉学人に相談した所、呉は困った顔をして告げた。
『あ~……つまり、反面教師というものですかね』
分かりやすく言うと、『なってはいけない見本』らしい。戴宗の事は好きだし尊敬しているが、だからといって同じような事は絶対にしたくないなぁと思っている大作には、少し困った所でもある。
一方、サニーは一気に縮み上がった。アルベルト様は無茶をされるものだからサニー様、せめてお顔を見てきて頂ければとイワンに請われたものの、行っても会えないか、一言二言交わして終わってしまう事ばかりだ。せめてヒィッツカラルドの様にもう少しでも弾んだ会話が出来たら、と思わずにはいられない……そうすれば、そんな事もしなかったかもと思いながらも、矢張り仕方ないのだとも思う。
「すいません、父が御迷惑をかけました」
廊下の真ん中でサニーは小さく頭を下げる。細い肩が更に縮こまって、今にも消えてしまいそうだ。大作は暢気な自分とは対照的に沈む混んでいる少女に、いささか心配になってくる。衝撃のアルベルトの娘としてしっかりしなくては、と何時でも思っているサニーは、いっそ痛々しい程に彼の誇りを重んじている。
「でも父は……」
「分かってる、でもそこはアンタが謝る所じゃないよ」
楊志は困った様な笑いを浮かべて、くしゃくしゃとサニーのくせっ毛を撫でた。実はあまりそうされた事の無いサニーはきょとんとして、大作と同じ年としてはいささか幼く見えて、微かに楊志を心配させた。
「……親の責任を子供がしょいこむ事は無いんだよ、それに自業自得だ。あの年で、していい事と悪い事が分かってないわけじゃないんだから。
後、謝るんならスタッフに謝っておくれよ。アタシも旦那の事を謝らなきゃいけないんだしさ」
分かっていたらBF団に入っていない気もするけれど、楊志さんの言うことはもっともだよなぁ、と大作が考えていると、ぎゅ~と小気味の良い音を立ててお腹が鳴った。学校が終わった後でここに来ているのだから、もういい夕ご飯時だ。
「あはは、大作。そんなにお腹がすいてんのかい?」
「え、いいえ……」
言葉とは裏腹に、お腹はもう一度鳴った。今はサニーちゃんの前なのに何してんだよ、と大作は顔を赤くして、きょとんとこちらを見るサニーに気付いて更に顔を赤くする。
「あ、あの、いや、だって……」
「今日はアタシの家で飯喰うかい?」
やっぱり一人ってのはどうにも味気なくてね、と笑う楊志は矢張りそれなりに旦那を心配しているのだ。やはり帰っても一人の大作は、ほんの少しだけ考えてからハイと頷いた。
「御馳走になります」
「アンタはどうするんだい?」
ことん、とサニーが振り返った。明らかに自分に対しての言葉だったが、戸惑いの方が大きかった。だってつい先程であったばかりの人間から、しかも敵方の人間から食事に誘われるなんてありえない事だ。きっと父は怒るだろうし、周囲もいい顔はすまい。
「……でも……」
「誰か家で待ってくれてるのかい?」
サニーは首を振った。今日はイワンも樊瑞も仕事で手が空かない。何時もの事で、もう随分と慣れきっている。こまめなイワンは毎度自分が居ない時には準備してくれているが、イワンがいない以上は自分で暖めて、自分で食べて、自分で片付けるしかない。屋敷にあるシンクは未だ少し大きすぎて、水道に手を伸ばす時に少し難しいのは、誰にも言っていない。
「じゃあウチで喰いな」
だからそれが、とサニーは言い掛けて、再び頭をくしゃくしゃと撫でられた。何しろ父を投げ飛ばしてしまう人なのでもっと乱暴かと思ったが、存外柔らかくて暖かい。何となく気恥ずかしくなってそれ以上の言葉が出なくなった所で、優しく肩を抱かれた。
「子供がいちいち遠慮するんじゃないよ。そんなに小さく小さくなってたら、大きくてちゃんとした大人になれやしないよ」
多分アンタはねぇ、と言い掛けた楊志は珍しく口ごもった後で、代わりに声を出した。そこは中々微妙な所だ、特に本日は。
「じゃあ大作は食べるね、何でもいいかい?」
「はい」
大作が元気よく返事する。
「サニー、好き嫌いはないね」
「は、はい」
好き嫌いはしてはいけないと、これでも頑張っているのだが、実はサニーは食が決して豊かな方ではないし、食べれないものも多い。
「ま、嫌いって言っても食べて貰うけどね。大体、好き嫌いしてたら大きくなりやしないんだから。おばさんが美味しいものを作ってやるよ。
その前に、詰め所だけれどね」
謝っておかなきゃあ、と笑った楊志に、サニーも釣られて笑った。
欠けていると思ったことはあった。
「サニーちゃん」
久しぶりだね、と言った大作は少しはにかんで、滑らかな頬を赤くしていた。あれから4年だが、大作は随分大きくなったとサニーには思えた。この頃の子供達はどちらかというと女の子の方が早熟だが、サニーが4年という年月を歩いてきたのなら、大作も4年という年月を生きている。父が居ない4年間を生きている身寄りの無い少年は、それでもサニーよりも満たされている様に見えた。
「今日もお父さんのお見舞い?」
「…ええ、父の」
大怪球との死闘により、サニーの父は瀕死の重傷を負った。口の悪い人間に言わせれば自業自得との事だが、サニーはそうせざるを得なかったのだと知っていた。温度を失っている父の心には時に酷く燃え上がるものがあり、その為ならば文字通りに全てを投げうつ事が出来るのだ。
……つまり自分も、その中の一つに過ぎなかった。分かっていたが、改めてそうと思うと足先がズンと冷えていく様に思う。
「……今日も、会えなかったけれども」
「残念だったね」
サニーちゃんは毎日来ているのに、と大作は続ける。言わなくてもちゃんと気付いてくれている人がいると思うと、心の何処かにぽっと暖かいものが灯るのを感じたが、肝心の人には通じていないのだと思うと、途端に冷え込んでいった。衝撃も分かっているのだと、樊瑞は言ってくれたものの、事実は変わりはしない、がんとしてそこに在る。
「大丈夫です」
「サニーちゃん?」
サニーは下を向いて、こつこつと歩いていく。自分はいずれ十傑集の一員となるのだから、国際警察機構の人間と馴れ合っておくことなど出来ないのだと言い聞かせると、すたすたと歩いていく。肩に掛けたケープが冷たい風をはらんで、微かに揺れる。今日は寒くはならないだろうと言っていたのに、何故か酷く肩や足や手の先が冷たくて感覚を失っている。
「あの、サニーちゃん」
あの声はもう喜んで聞けないのだ、と思いながら目を閉じたサニーは、呼びかけと同時にどんと暖かいけど重たいものにぶつかった。
「楊志さんにぶつかるよ」
……少し、遅かった。サニーは危うくつんぞり返る所だった。危うく抱き留められてなんとか、ひっくり返らずに済んだ。
「あはは、ごめんよ。アンタがあの衝撃の娘かい。話には聞いてるよ」
自分の速度で歩いたのだから大した事は無かったが、それでも人にぶつかるなんて事を滅多にしないサニーはその事実に落ち込んでいた。しかも相手は女性だ……もっとも、十傑集の大概の者より彼女は大柄で、女性にぶつかった時の申し訳なさは少しだけ小さかった。真っ青な肌は一種異様だが、笑っている姿は不思議と暖かで好感の持てるものだった。
「こんな可愛い娘さんがいるのに、あの阿呆は……」
え、と小さな悲鳴がサニーの口から漏れた。父の誇り高さは知っているが、それ故に困難が多い事も知っている。妥協が出来ない、という事がサニーには未だ良く分からないが、
それ故に生じる問題はサニーの心を密かに痛めている。正しく評価されるべきものなのだから。
「あの……父が……何か?」
「正確に言うと、『ここで』うちの旦那と死合おうとしたんだ」
あの馬鹿、と楊志は顔を顰めた。
大作がはぁ、とぽかんとした息を吐き出した……戴宗については、小さなものだがトラブルがちょくちょくと起こっているのは知っている。院内飲酒で放り出されかけた事2回、女性看護師についついセクハラをした事3回、ちょっとした諍いに参加して激しく大きくして強制退院寸前になった事4回。
ちなみに4回目が、今日、本日、つい今し方。サニーがやって来る30分前。
もれなく楊志に手痛い説教を喰らっている。入院しているのは幾らか楊志が原因でもあるが、何処ぞの3回については、もう少し死にかけると思っていたのに残念残念というか本気で反省しないと次は死ぬぞ、と無慈悲な感想を貰った事がある。
早い話が、全て自業自得。本日はそれにアルベルトが巻き込まれた。もっとも、アルベルトが発生させたものだから、体よく纏めてぽいとされたとも言える。つまり戴宗とセットで説教された訳だ。
説教と言っても、文字通りの説教が聞くとハナから楊志は思っていないので、問題解決も含めて文字通り窓の外にぶん投げた所、ふたつでひとつだったので一緒に窓の外に飛んでいった。取っ組み合っていた所を投げればそうもなろう。当の楊志に、何となくもう一人分程度は重たくなかったのかと言えば、『そんな事考えている場合じゃなかったんだよ』と答えられただろう。なにしろ衝撃破と噴射拳が発動する寸前だったのだ。
「人様の病院で死合うな、この馬鹿。少しそこで頭を冷やしときな」
そう怒鳴ってぴしゃんと締めた窓の向こう。
九大天王の一人と十傑集の一人は、予想に反して見事に受け身も取れずに墜落していた。ちょっと軽めに思いたい複雑骨折が増えたのは、ちょっとした気の迷い程度でいいだろう。
「戴宗さんったら……」
ついこの間、『もうしません』って言ったばかりなのに、と大作ははぁ~ともう一度気の抜けた息を吐き出した。『間違った大人にはしたくない』と何度も言われたが、どうにも戴宗自身の行動とはつじつまが合わず呉学人に相談した所、呉は困った顔をして告げた。
『あ~……つまり、反面教師というものですかね』
分かりやすく言うと、『なってはいけない見本』らしい。戴宗の事は好きだし尊敬しているが、だからといって同じような事は絶対にしたくないなぁと思っている大作には、少し困った所でもある。
一方、サニーは一気に縮み上がった。アルベルト様は無茶をされるものだからサニー様、せめてお顔を見てきて頂ければとイワンに請われたものの、行っても会えないか、一言二言交わして終わってしまう事ばかりだ。せめてヒィッツカラルドの様にもう少しでも弾んだ会話が出来たら、と思わずにはいられない……そうすれば、そんな事もしなかったかもと思いながらも、矢張り仕方ないのだとも思う。
「すいません、父が御迷惑をかけました」
廊下の真ん中でサニーは小さく頭を下げる。細い肩が更に縮こまって、今にも消えてしまいそうだ。大作は暢気な自分とは対照的に沈む混んでいる少女に、いささか心配になってくる。衝撃のアルベルトの娘としてしっかりしなくては、と何時でも思っているサニーは、いっそ痛々しい程に彼の誇りを重んじている。
「でも父は……」
「分かってる、でもそこはアンタが謝る所じゃないよ」
楊志は困った様な笑いを浮かべて、くしゃくしゃとサニーのくせっ毛を撫でた。実はあまりそうされた事の無いサニーはきょとんとして、大作と同じ年としてはいささか幼く見えて、微かに楊志を心配させた。
「……親の責任を子供がしょいこむ事は無いんだよ、それに自業自得だ。あの年で、していい事と悪い事が分かってないわけじゃないんだから。
後、謝るんならスタッフに謝っておくれよ。アタシも旦那の事を謝らなきゃいけないんだしさ」
分かっていたらBF団に入っていない気もするけれど、楊志さんの言うことはもっともだよなぁ、と大作が考えていると、ぎゅ~と小気味の良い音を立ててお腹が鳴った。学校が終わった後でここに来ているのだから、もういい夕ご飯時だ。
「あはは、大作。そんなにお腹がすいてんのかい?」
「え、いいえ……」
言葉とは裏腹に、お腹はもう一度鳴った。今はサニーちゃんの前なのに何してんだよ、と大作は顔を赤くして、きょとんとこちらを見るサニーに気付いて更に顔を赤くする。
「あ、あの、いや、だって……」
「今日はアタシの家で飯喰うかい?」
やっぱり一人ってのはどうにも味気なくてね、と笑う楊志は矢張りそれなりに旦那を心配しているのだ。やはり帰っても一人の大作は、ほんの少しだけ考えてからハイと頷いた。
「御馳走になります」
「アンタはどうするんだい?」
ことん、とサニーが振り返った。明らかに自分に対しての言葉だったが、戸惑いの方が大きかった。だってつい先程であったばかりの人間から、しかも敵方の人間から食事に誘われるなんてありえない事だ。きっと父は怒るだろうし、周囲もいい顔はすまい。
「……でも……」
「誰か家で待ってくれてるのかい?」
サニーは首を振った。今日はイワンも樊瑞も仕事で手が空かない。何時もの事で、もう随分と慣れきっている。こまめなイワンは毎度自分が居ない時には準備してくれているが、イワンがいない以上は自分で暖めて、自分で食べて、自分で片付けるしかない。屋敷にあるシンクは未だ少し大きすぎて、水道に手を伸ばす時に少し難しいのは、誰にも言っていない。
「じゃあウチで喰いな」
だからそれが、とサニーは言い掛けて、再び頭をくしゃくしゃと撫でられた。何しろ父を投げ飛ばしてしまう人なのでもっと乱暴かと思ったが、存外柔らかくて暖かい。何となく気恥ずかしくなってそれ以上の言葉が出なくなった所で、優しく肩を抱かれた。
「子供がいちいち遠慮するんじゃないよ。そんなに小さく小さくなってたら、大きくてちゃんとした大人になれやしないよ」
多分アンタはねぇ、と言い掛けた楊志は珍しく口ごもった後で、代わりに声を出した。そこは中々微妙な所だ、特に本日は。
「じゃあ大作は食べるね、何でもいいかい?」
「はい」
大作が元気よく返事する。
「サニー、好き嫌いはないね」
「は、はい」
好き嫌いはしてはいけないと、これでも頑張っているのだが、実はサニーは食が決して豊かな方ではないし、食べれないものも多い。
「ま、嫌いって言っても食べて貰うけどね。大体、好き嫌いしてたら大きくなりやしないんだから。おばさんが美味しいものを作ってやるよ。
その前に、詰め所だけれどね」
謝っておかなきゃあ、と笑った楊志に、サニーも釣られて笑った。
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