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 ぱたぱたと愛らしい走る音が廊下に響いた。時折転びそうになりながらも、必死に走る。
「あのっ、主上は!?」
「正寝におりますよ。私用で劉将軍とお会いしているようですが」
「ありがとう正頼!」

 手をふって走り去る幼い台輔の姿に顔をほころばせながら、正頼は後姿を見送った。両手には二つの小箱が握られている。

「うまくいくとよろしいのですが」

 事の真意を知る一人として、誰にも聞こえないぐらいの小声で呟いた。



「主上、李斎!」
「どうした嵩里」

 書面を広げ話し合っていた二人だが、駆け込んできた泰麒に驚いて振り返る。

「よ、よかった……」
「どうなさいましたか台輔」

 息をきらす泰麒の背をさすり、李斎は湯飲みに水を入れ差し出した。小箱を懐にしまい、湯のみを受け取って飲み干し、はあと大きく息を吐いた。

「そんなに慌ててどうした」
「あの、あの二人だけの時に渡したくて」
「二人だけの時とは」
「ええと、ええと」 

 懐からまた小箱を取り出して、一つを主に一つを李斎に手渡した。

「これは……指輪か」
 銀色に輝く、彫り物もない銀で作られた指輪。
「こちらも同じ物です」
 見事に磨きぬかれた指輪は、わずかな光を含んで輝いていた。金には劣るものの、十分の代物だった。

「これは」
「あの蓬莱では誓いの証なんです」
「誓い……?」

 わけがわからず李斎は首を傾げた。

「ああ、そうか。嵩里が前に話してくれたな」

 納得するように驍宗は頷いて、李斎の手にある指輪を手に取った。左手に触れ、指に指輪をはめた。

「しゅ、主上?」
「蓬莱では婚姻の契りにもなるらしい」

 言われて李斎は顔を真っ赤に染めた。

「そ、そんな」
「私にもはめてくれ」
「恐れ多い……」
「李斎……」

 悲しげに目を伏せる泰麒の視線に、李斎は困り果てたが、しぶしぶと指輪を取り驍宗の指に指輪をはめた。

「そんなに嫌か、李斎」
「そうではなく……その」
「あともう一つあるのだけれど」
「台輔」

 ねだる声に逆らえない。

「誓いの口づけとかあるんです」
「な」
「恥かしいものですか?」
「私は構わんがな。李斎が困っている」

 苦笑して驍宗は泰麒の背を押した。

「そろそろ勉学の時間だろう。正頼がまた怒るぞ」
「え、あ、はいっ!」

 慌てて駆け出していく泰麒。来る時も去る時も慌しい。

「李斎」

 恥かしさで頬を紅く染めた李斎。その姿がおかしかった。

「李斎」
「は……んくっ」

 口を塞がれて軽くうめいた。わずかな抵抗も薄れて、甘い口づけを与えられて、より頬を赤く染めた。

「……これでいいか」
「主上……」
「袖が長いのだからそう目立ちはしないだろう。詮索する者もいないだろうからな」
「ですが」
「嫌か?」

 深紅の瞳で見つめられて、そんなことはと慌てて手を振った。

「あの私は」
「もう誰もいないぞ」
「そうですが。でも、その」
「慌てるな」

 髪に触れて驍宗は低く笑った。

「真面目すぎるぞ、李斎。いつも言っているがな」
「私は……主上が嫌いではなく」
「恐れ多いと思うのだろう。だが」

 抱き寄せて耳元で囁く。

「私が惚れこんだだけだ、李斎が萎縮する必要はない」
「それでは私は」
「それを受け止めてくれたのだから、無理強いはしない。偶然嵩里には知られたが、祝福をしてくれている」
「嬉しいことですけれど……」
「やっと出たな、本音が」

 もう一度深く口づける。舌を吸い寄せては口内を堪能していく。

「……素直になればいい。もう一度言うぞ……誰も、いない」

 甘い吐息交じりの声に、ぞくりと体が震えた。それは悪寒ではなく、女としての感情。その声が心地よくて。



 返答として震えながら、口づけを返した――。






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