忍者ブログ
Admin*Write*Comment
うろほろぞ
[496]  [495]  [494]  [493]  [492]  [491]  [490]  [489]  [488]  [487]  [486
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



 良い口実だ、と思った。官の一人から泰麒の行く先を伝えられた。念のために耳に入れておこうと思ったのだろう。
 だがそれは行動を起こすために、好都合すぎた。気を使わせないよう、静かに尋ね扉を開けた。
 そこには臥牀の上に座る李斎と、膝の上で寝息をたてる泰麒の姿があった。うつらうつらと首を動かす李斎を見て、長い間膝枕をしていたことを悟る。
 かろうじて夜中の室内を照らすのは、蝋燭の明かり。女官が点した物だろう。

「母子のようだな」

 ふっ、と目の前の二人の主である驍宗は笑いを零した。

「さすがに解放せねばな」

 この体勢で眠っていては、李斎は体を休めることはできないだろう。ゆっくりと泰麒を抱き上げる。起こさないよう気をつけて。

「……しゅ……じょう?」
「すまん、起こしたか?」

 気を使った相手は泰麒だけではない、疲弊した李斎もまた気遣った。

「いえ、その……申し訳ございません……」
「何を謝る? 嵩里を休ませていたのだろう。礼は私が言うべきだが」
「そうではなく、寝ぼけておりまして……」

 少し呂律の回らない口調で言い訳を募らせる。数回瞬きをし、意識を切り替える。ようやく目が覚め始めて頭を下げた。

「主上」
「どうした?」

 頭をあげ、主を見つめる視線は真面目で真剣だった。それを受け止め、李斎の横に座る。

「稀にでもよろしいのですが、そしてこれは甘えかもしれませんが」
 眠る幼い台輔の顔を覗く。瞼の下がわずかに赤みを帯びていた。

「台輔は胎果の生まれです。やはり蓬莱の家族が恋しいようです……台輔としてはそれは甘えかもしれません。ですが……聞いてしまったので」
「聞いた?」
「眠っておられる時、無意識に母に会いたいと願う言葉が漏れておりました。まだ二度と会えぬ別離を頭では理解はしていても、心のどこかで会いたいと願う……」
「そうかもしれんな」

 漆黒の髪に触れてうつむく。少し考え思いついたように、驍宗は突然李斎の唇を奪った。

「んっ――主上……」
「主である関係を崩すことはできないが、そして家族にはなれんが、寂しさを癒す愛情を注げばいい。注いで欲しい」

 心が晴れやかになることを願って、驍宗は言い放った。

「部下としてでも、兄弟でも、母でもいい。接してくれ、愛情をもって」
「主上は……」
「無論私も注ごう。まだ別離の傷は癒えん。癒えるまで……頼みたい」
「それはもちろんです、けれどあの……」
「母のほうがいいな。私は父になろう。勝手なここだけの取り決めだが……夫婦になる」
「主上……」

 わずかに驍宗は照れて、顔を近づけて口づけた。李斎のほどいた髪がまとわりつく。手は幼い麒麟に貸している。

「近いうちに夕餉を共にしないか? 嵩里も交えて」
「それはお喜びに……」
「李斎はどうだ?」
「私でございますか?」
「嬉しくはないか」
「そんなことはございません……嬉しい、です……」

 胸のうちで勇気を生み出す。ほんの少しでいい。
 生み出されたことを確信して、李斎は頬に軽く口づけた。驚いて驍宗は目を見開く。

「李斎」
「主上の愛を一心に、一方的に受け止めるのではなく、私も」

 行動に移したい。目の前の主は気を最大限に使っている。真面目な性格を汲み取って、決して己から愛を求めようとしない。それを恐れ多いと思い、頭では取り払ったものでも、それでも体は拒んでいた。


「う……ん、おかあ……さん……」

 伸ばされた手は、李斎の布地をつかむ。

「台輔」
 決して滑らかではなく、鍛えられた手でそっと包み込むように泰麒の手を握る。
「本当に嬉しいです……」


 台輔の喜ぶ顔を思い浮かべるだけで、今二人きりでいられることもまた嬉しくて。


 だが李斎にとっては。


 やっと自ら主を、いや愛しい男と認識し、身分など考えず、ただ好きだと求められたことに大きな喜びを感じていた――。





PR
gpoi * HOME * gggopiu
  • ABOUT
うろほらぞ
Copyright © うろほろぞ All Rights Reserved.*Powered by NinjaBlog
Graphics By R-C free web graphics*material by 工房たま素材館*Template by Kaie
忍者ブログ [PR]