冬の月が最も美しい。
冴えた漆黒の闇の中で浮いた白銀の光。
そして、冬の残月もまた最も美しい。
残月
「ああ、残月でございます。」
「ん」
先ほどまで腕の中にいた女は起き上がり、閨の窓を見た。
朝議までまだ程遠い時である。
諸官達もまだ眠っているであろう。
中途半端に目覚めた自分も彼女を抱いて惰眠を貪りたい。
「驍宗様?」
「何だ、李斎…もう少し眠らせろ。」
「…ええ。しかし残月がとても美しいのでございます。」
「そうか…置きだす頃まで月は残っていよう。」
驍宗は李斎を抱き寄せる。
身体は泰の冬の寒さに晒されて、王宮の中ですら、体が冷えている。
「李斎、体が冷たいぞ」
「そうかもしれませぬ…布団の中は暖かい…」
「女官が起こしに来るまで随分と時間はある。」
「では二度寝を致しましょう。」
「ああ、」
冬の朝は辛い。
暖かい布団の中から出る事は実に勇気と忍耐がいることである。
それゆえ、時間が許す限り直前まで寝台の中へもぐりこんでいる。
ふと、李斎が見ていた窓を見る。
薄暗い空に浮かんだ残月。
やがて、山々は暁光を照り返し地平は赤く染まるであろう。
地平の赤に
空の灰蒼色
地平と空の境界に白銀の月。
明けに有る月とはよく言ったものだ。
「共に残月を見よう仲となろうとは。」
「…ん…なんでございます…か…」
「なんでも、ない。」
遠くで鳥の鳴く声がする。
夜明けは近い。
しかし、今しばらくの夜を楽しませてもらおう。
Fin.
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