合流したのは想像していたよりずっといい女だった。
「あなたがキャンベルさん?よろしくね」
赤い髪を揺らし、頬に小さいえくぼを浮かべて挨拶する。
女らしい華やかさはいまいち足りないが、すべすべしてそうなきれいな肌に整った顔立ち……野暮ったい野戦服はいただけないが戦場に舞い降りた天使、と表現しても差し支えないだろう。
「ああ……しかし驚いたな、こんな素敵な女性がスネークの主治医で、おまけに一流の医者だなんて」
無邪気で可愛い笑顔だが俺にとっては刺激的すぎた。にやつきそうになるのをこらえ、顎を撫でてごまかす。こんな事になるならむさ苦しい髭くらい暇をみつけて剃っておけば良かった。
「それを言うならあなたもね。一緒に行動している人にこんなハンサムな人がいるなんてスネークからは聞いてなかったもの」
思わず食いつきたくなるようなピンク色の唇も素敵だ。しかし目の前の美女に気を取られてばかりではまずい。これからあるかもしれないチャンスもモノにできず見送る事になるかもしれない。俺はトラックに乗り込んだ彼女に半島各地で失敬した医療キットや薬を見せた。
「縫合キットに注射器、麻酔薬、鎮痛剤に解熱剤、生理食塩水……これだけ揃っていればたいしたものよ」
段ボール箱の中身を手に取りながら確認し、満足そうに頷く。どうやらお気に召したようだ。
俺はトラック内のシートに腰掛け、タバコに火をつけ……ようとしたのだが、目の前の天使の手にそれを阻止されてしまった。
「体に悪いわよ、そんなもの」
タバコの代わりにしろとバックパックの中の中から取り出したのは、キャンディーだった。タバコを吸うくらいなら飴でも舐めてろって事か。
俺は貰ったキャンディーを包みから取り出し、口に放り込んだ。可愛いピンク色のキャンディーはしっかり甘いシナモン味で、舌の上でゆっくり溶けてゆく。
……しかし、いい女だなあ。
腕や体つきを見る限りそれほど鍛えているようでもないし、衛生兵ってわけでもなさそうだ。どちらかというと研究室に籠っていたりするのが似合いそうな先生だ。
それがこんなやばい場所に来たって事は……やっぱりスネークとはいろいろな事情がある仲、なんだろうか。
ダンボールに詰め込んでいた中身の仕分けを手伝いながらそんな事を考えている俺に、彼女はとんでもない事を言い始めた。
「さてと、一通り終わったわね……じゃ、そろそろ服、脱いでもらえる?」
ぎょっとする台詞に思わず間抜けな笑みしか返せなかった。藪から棒に何言ってるんだ、この先生は。
「恥ずかしがる事ないわよ。白衣を着てないけれど私はれっきとした医者なのよ?……ああ、下もね」
何でこんなトラックの中で今さっき会ったばかりの先生にまっ裸に剥かれなきゃならないんだ。これはもしかして……誘われてるんだろうか。
医者だからって言いつつアレコレされちまうんだろうか。見た目清純そうな女性とはいえあのスネークの知り合いという事を考慮してみると……だんだんやりかねない気がしてくるから困る。
それに胸を張って自慢する事じゃないが、女性からこんなに大胆に誘われるなんて事、初めてなのでいまいち判断に苦しむ。
「いやいや、俺は大丈夫だ」
脚も折れてるのに何が大丈夫なんだか言っている俺自身も良く分からないが、とりあえずそんな言葉が口から出た。我ながら根性がない。
でもアレだ。この先生と好き勝手にアレコレして後でスネークと気まずい雰囲気になるのも得策じゃない気がする。ここは引いておくのが妥当な選択だろう。
要は安全な道を選んだだけだ!と、俺は自分に言い聞かせた。
だが、目の前の女はそんな俺の繊細かつ慎重な気持ちなどお構いなしのようだった。
「いいから、黙って言う通りになさい」
腰に手を当て、呆れた顔で俺を見る。
「まったく、いい歳してじれったいわね。早くしないと脱がせるわよ」
俺の煮え切らない態度に腹が立ったのか、ついにベルトに手がかかった。ここまでくると拒むのも逆に失礼な気がしてできない。ままよ!という気持ちで俺はそのまま彼女に任せた。
「なあ、いいのか?こんな汚い車の中で……」
一応俺にもそのくらいのデリカシーはある。
「ああ別に……大丈夫よ、安心して。自分で言うのもなんだけれどどんな場所であれ上手くしてあげる自信あるから。確かに非衛生ではあるけれど、ここじゃ仕方ないでしょう?」
上手いのか、そうかそれなら安心してもいいか……しかし上品な先生に見えるのにあっちはかなり上手いだなんて、それってある意味反則じゃないか?これから続くであろうめくるめく行為への期待に思わずごくりと喉が鳴ってしまう。
「あなたは寝てるだけでいいわ。その代わりちゃんとおとなしくしててくれなきゃ嫌よ?」
トラックのシートに寝かせ、ずるずると俺の服を脱がせていく。慣れているのかあっと言う間にまっ裸に剥かれた。
「そんな顔しないでよ、痛くしないから」
痛く?……男ってアレの時、普通痛いなんて事あるか?痛くするのが好き、なんて事はないよな。痛くするのが好みだなんてそんな医者、俺は嫌だ……ああ、俺の怪我の事を言ってるのか、そうか。
「怪我の痛みなんて慣れてる」
「そう、良かった」
にこりと笑って彼女は手の甲で俺の額を撫でた。
俺も大概、誘惑に弱いな……こうなってくるともう後の事なんてどうでもいい気がしてきた。
「んっ……な、なあちょっと待ってくれ……待ってってば」
この先生、案外乱暴だ。
「何よ、もう少しなんだから我慢なさい」
背中の傷の痛みと掛けられた液体の冷たさに顔がひきつる。箱の中に入っていたオキシドールをかけられたみたいだった。
「……っ……!」
じわりと焼かれるような痛みが背中に広がる。痛みの範囲から考え、傷は思ったよりも大きいのかもしれない。
「ろくな手当て受けてなかったみたいね。ちょっと化膿してる」
自分で見えない部位の怪我ってのは嫌なもんだ。ひりひりする小さな痛みだけで実際にはどうなっているのか分からないのがまた嫌な感じだ。かちゃかちゃと医療器具がトレーに当たる耳障りな音だけが聞こえてくる。
「あんた、外科医なのか?」
「免許は持っているけれど、自分で患者を診るのは久しぶり」
ぞっとしない台詞を吐きつつ手際よく包帯を巻いていく。手当てはもう終わったようだ。
立ってみると、しっかりと固定された足は前よりもずっと痛みが楽になっている。俺も応急処置はしたがやっぱりプロのするそれとは歴然の差があった。
「ありがとう、おかげでかなり快適だ……なあ、そろそろ服着てもいいか?」
体中の怪我を手当てしてもらえたのは嬉しかったが、いつまでも裸のままというのは心もとないもんだ。
「ああ、どうぞ」
お互い正面を向いて一糸纏わぬ全裸の体が見えているってのに笑顔で服を渡されてしまった。男の裸なんてそうとう見慣れてるのかもしれない。
「映画、好きだって言ってたよな。本国に戻ったら一緒に見に行かないか?」
この先生にちょっと興味が出てきた。手当てのお礼も兼ねてと申し出たのだが、彼女は頬にえくぼを作って俺の顔を見返すだけだった。
「仕事も溜まっているし、帰国したらすぐに机に直行よ。当分休みも取れそうにないから約束は難しいわね」
8割方成功してきた俺の口説きのテクニックも通じないみたいだ。実に残念だ。
まあいい、この任務は予定よりもずっと長くなりそうだ。仲良くなる機会はまだまだあるだろう。そんな事を考えながら俺はある事を思いついた。
「なあ、まだ名前聞いてなかったな……あんたの名前は?」
その問いに彼女は俺の顔をちらりと見て、今までと違う不敵そうな笑みを唇に浮かべ、言った。
「パラメディックよ。パラシュートでかけつけるメディック……私にそれ以上の名前はないわ」
「あなたがキャンベルさん?よろしくね」
赤い髪を揺らし、頬に小さいえくぼを浮かべて挨拶する。
女らしい華やかさはいまいち足りないが、すべすべしてそうなきれいな肌に整った顔立ち……野暮ったい野戦服はいただけないが戦場に舞い降りた天使、と表現しても差し支えないだろう。
「ああ……しかし驚いたな、こんな素敵な女性がスネークの主治医で、おまけに一流の医者だなんて」
無邪気で可愛い笑顔だが俺にとっては刺激的すぎた。にやつきそうになるのをこらえ、顎を撫でてごまかす。こんな事になるならむさ苦しい髭くらい暇をみつけて剃っておけば良かった。
「それを言うならあなたもね。一緒に行動している人にこんなハンサムな人がいるなんてスネークからは聞いてなかったもの」
思わず食いつきたくなるようなピンク色の唇も素敵だ。しかし目の前の美女に気を取られてばかりではまずい。これからあるかもしれないチャンスもモノにできず見送る事になるかもしれない。俺はトラックに乗り込んだ彼女に半島各地で失敬した医療キットや薬を見せた。
「縫合キットに注射器、麻酔薬、鎮痛剤に解熱剤、生理食塩水……これだけ揃っていればたいしたものよ」
段ボール箱の中身を手に取りながら確認し、満足そうに頷く。どうやらお気に召したようだ。
俺はトラック内のシートに腰掛け、タバコに火をつけ……ようとしたのだが、目の前の天使の手にそれを阻止されてしまった。
「体に悪いわよ、そんなもの」
タバコの代わりにしろとバックパックの中の中から取り出したのは、キャンディーだった。タバコを吸うくらいなら飴でも舐めてろって事か。
俺は貰ったキャンディーを包みから取り出し、口に放り込んだ。可愛いピンク色のキャンディーはしっかり甘いシナモン味で、舌の上でゆっくり溶けてゆく。
……しかし、いい女だなあ。
腕や体つきを見る限りそれほど鍛えているようでもないし、衛生兵ってわけでもなさそうだ。どちらかというと研究室に籠っていたりするのが似合いそうな先生だ。
それがこんなやばい場所に来たって事は……やっぱりスネークとはいろいろな事情がある仲、なんだろうか。
ダンボールに詰め込んでいた中身の仕分けを手伝いながらそんな事を考えている俺に、彼女はとんでもない事を言い始めた。
「さてと、一通り終わったわね……じゃ、そろそろ服、脱いでもらえる?」
ぎょっとする台詞に思わず間抜けな笑みしか返せなかった。藪から棒に何言ってるんだ、この先生は。
「恥ずかしがる事ないわよ。白衣を着てないけれど私はれっきとした医者なのよ?……ああ、下もね」
何でこんなトラックの中で今さっき会ったばかりの先生にまっ裸に剥かれなきゃならないんだ。これはもしかして……誘われてるんだろうか。
医者だからって言いつつアレコレされちまうんだろうか。見た目清純そうな女性とはいえあのスネークの知り合いという事を考慮してみると……だんだんやりかねない気がしてくるから困る。
それに胸を張って自慢する事じゃないが、女性からこんなに大胆に誘われるなんて事、初めてなのでいまいち判断に苦しむ。
「いやいや、俺は大丈夫だ」
脚も折れてるのに何が大丈夫なんだか言っている俺自身も良く分からないが、とりあえずそんな言葉が口から出た。我ながら根性がない。
でもアレだ。この先生と好き勝手にアレコレして後でスネークと気まずい雰囲気になるのも得策じゃない気がする。ここは引いておくのが妥当な選択だろう。
要は安全な道を選んだだけだ!と、俺は自分に言い聞かせた。
だが、目の前の女はそんな俺の繊細かつ慎重な気持ちなどお構いなしのようだった。
「いいから、黙って言う通りになさい」
腰に手を当て、呆れた顔で俺を見る。
「まったく、いい歳してじれったいわね。早くしないと脱がせるわよ」
俺の煮え切らない態度に腹が立ったのか、ついにベルトに手がかかった。ここまでくると拒むのも逆に失礼な気がしてできない。ままよ!という気持ちで俺はそのまま彼女に任せた。
「なあ、いいのか?こんな汚い車の中で……」
一応俺にもそのくらいのデリカシーはある。
「ああ別に……大丈夫よ、安心して。自分で言うのもなんだけれどどんな場所であれ上手くしてあげる自信あるから。確かに非衛生ではあるけれど、ここじゃ仕方ないでしょう?」
上手いのか、そうかそれなら安心してもいいか……しかし上品な先生に見えるのにあっちはかなり上手いだなんて、それってある意味反則じゃないか?これから続くであろうめくるめく行為への期待に思わずごくりと喉が鳴ってしまう。
「あなたは寝てるだけでいいわ。その代わりちゃんとおとなしくしててくれなきゃ嫌よ?」
トラックのシートに寝かせ、ずるずると俺の服を脱がせていく。慣れているのかあっと言う間にまっ裸に剥かれた。
「そんな顔しないでよ、痛くしないから」
痛く?……男ってアレの時、普通痛いなんて事あるか?痛くするのが好き、なんて事はないよな。痛くするのが好みだなんてそんな医者、俺は嫌だ……ああ、俺の怪我の事を言ってるのか、そうか。
「怪我の痛みなんて慣れてる」
「そう、良かった」
にこりと笑って彼女は手の甲で俺の額を撫でた。
俺も大概、誘惑に弱いな……こうなってくるともう後の事なんてどうでもいい気がしてきた。
「んっ……な、なあちょっと待ってくれ……待ってってば」
この先生、案外乱暴だ。
「何よ、もう少しなんだから我慢なさい」
背中の傷の痛みと掛けられた液体の冷たさに顔がひきつる。箱の中に入っていたオキシドールをかけられたみたいだった。
「……っ……!」
じわりと焼かれるような痛みが背中に広がる。痛みの範囲から考え、傷は思ったよりも大きいのかもしれない。
「ろくな手当て受けてなかったみたいね。ちょっと化膿してる」
自分で見えない部位の怪我ってのは嫌なもんだ。ひりひりする小さな痛みだけで実際にはどうなっているのか分からないのがまた嫌な感じだ。かちゃかちゃと医療器具がトレーに当たる耳障りな音だけが聞こえてくる。
「あんた、外科医なのか?」
「免許は持っているけれど、自分で患者を診るのは久しぶり」
ぞっとしない台詞を吐きつつ手際よく包帯を巻いていく。手当てはもう終わったようだ。
立ってみると、しっかりと固定された足は前よりもずっと痛みが楽になっている。俺も応急処置はしたがやっぱりプロのするそれとは歴然の差があった。
「ありがとう、おかげでかなり快適だ……なあ、そろそろ服着てもいいか?」
体中の怪我を手当てしてもらえたのは嬉しかったが、いつまでも裸のままというのは心もとないもんだ。
「ああ、どうぞ」
お互い正面を向いて一糸纏わぬ全裸の体が見えているってのに笑顔で服を渡されてしまった。男の裸なんてそうとう見慣れてるのかもしれない。
「映画、好きだって言ってたよな。本国に戻ったら一緒に見に行かないか?」
この先生にちょっと興味が出てきた。手当てのお礼も兼ねてと申し出たのだが、彼女は頬にえくぼを作って俺の顔を見返すだけだった。
「仕事も溜まっているし、帰国したらすぐに机に直行よ。当分休みも取れそうにないから約束は難しいわね」
8割方成功してきた俺の口説きのテクニックも通じないみたいだ。実に残念だ。
まあいい、この任務は予定よりもずっと長くなりそうだ。仲良くなる機会はまだまだあるだろう。そんな事を考えながら俺はある事を思いついた。
「なあ、まだ名前聞いてなかったな……あんたの名前は?」
その問いに彼女は俺の顔をちらりと見て、今までと違う不敵そうな笑みを唇に浮かべ、言った。
「パラメディックよ。パラシュートでかけつけるメディック……私にそれ以上の名前はないわ」
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