特に何もすることがないので家でごろごろとしていたら、どこからか宅急便が届いた。
贈り主は風間新太郎。しかもけっこう大きな箱が3つも届いた。どれも、軽くて桐生を呼ぶまでももなく、居間へと俺だけで運ぶ。
「おい、何か風間から届いたぞ」
宛名は桐生と遥と何故か俺だ。
品名を見ると「衣類」となっている。何で風間が俺達に服なんて送って来るんだ? と不思議に思っていたら、遥が率先して包みを開けだした。
「わあー! 可愛いーー!」
中に入っていたのは、黒のワンピースと赤いリボンと黒猫のぬいぐるみとシンプルな靴だ。
ぬいぐるみは針金か何かが入っているのか、遥の肩に止まらせて固定ができる。
本当に黒猫が遥の肩に止まっているみたいで、可愛い。
遥がワンピースを胸元に当ててくるりと回ってみる。サイズはぴったりのようだ。
どこかで見たことのある服だなー。と思って眺めてたらぴんときた。急いで庭に走って使い込んだホウキを持って来て手渡したら、もう間違いなかった。
「これ、キキじゃねえか!! 魔女の宅急便!」
「本当だー! わかった! 今日ハロウィンだから風間のおじさんからのプレゼントだよ」
なるほど。さすが、風間。なかなかイキなことする。
遥のワンピースは素材もなんだかすごくスベスベしたよさそうな奴で、ハロウィンだけでなく、普段着でも着られそうなものだった。気がきいている。
「あ、手紙が入ってる。『みんなで遊びに来て下さい』だって」
「みんな?」
そういえば俺と桐生にも箱が届いているのだ。桐生は知らない間に箱を向うの部屋に持って行って着替えているようだった。どうもあいつにしてみたら通年の儀式のようだ。
「おい、桐生、何が入っていた」
隣の部屋をひょっこりと覗くと、そこにはダースベイダーがライトセイバーを構えて不気味な呼吸音を響かせながら立っていた。
「近づくんじゃねえ!!」
思わずテレビの上に置いてあった赤べこを投げつけそうになる。
だが、桐生の箱に入っていたのものがその衣装だったようだ。
ていうか、何の疑問もなくそんな格好をする桐生がよく分からないし、風間も何故こんなものを送って来たのか分からない。
「うわー! おじさん、きまってるねえ」
俺がこっちに来た間に遥もキキに着替えていた。遥はものすごく可愛いのだが、桐生は真剣、暗黒面だ。
ライトセイバーをフォン! フォン!! と振り回してカッコつけているが、ここが日本家屋というのを忘れてもらいたくない。
「ねえねえ、伊達のおじさんは開けてみないの?」
と遥がくいくいズボンの裾を引っ張って来るが、はっきり言って何が入ってるか分かったもんじゃねえし、恥ずかしい仮装とかだったら嫌なので、このまま開けずおくことに決めた。
その時、ポケットの携帯電話が鳴った。着信は風間からだ。だが、通話に出たのは柏木だった。
「もしもし?」
「ああ。伊達さん? 荷物は届きましたか?」
「届いた。でも、わざわざ確認の――」
「だったら至急それらを身に着けてこっちに来て下さい!! 数か足りねえ!!」
柏木はものすごく切羽詰った様子で、電話も唐突に切れた。
一体何なんだ?
とりあえず、遥と桐生に事情を説明して、車に乗った。
途中、桐生が話かけてくる。しかし、ダースベイダーのお面をかぶったままなので、話しにくそうだった。
「ダテ、サン(シュコー)。キイテ、クレルカ?(シュコー)」
「いや、聞いてやってもいいけど、お前、話す間だけはそれ外した方がいいんじゃねえか?」
「実は風間の親っさんはこういう仮装パーティーみたいなイベントが好きなんだよ」
「まあ、そうじゃねえとこんなもん送ってこねえよな」
「で、ハロウィンは毎年構成員が仮装で盛り上がるんだが……いつもそこに親っさんの命を狙おうって輩が紛れ込むんだ。俺達はパーティーを成功させるために、その輩を退治しなくちゃならねえ……」
「お前、そんなの俺と遥は関係ねえだろ!? 勝手に人数に入れんなよ!」
「それ以外に、親っさんにお菓子をもらう方法はねえ!」
「そんなことねえだろ! 他の選択肢あるだろ!! 大体そんな危なっかしい場所に遥を巻き込む気がしれねえ!」
「大丈夫だ! 俺が遥と伊達さんを必ず守る! さあ、お菓子をもらいに行こうぜ!」
桐生はやる気まんまんだし、遥も後部座席で「お菓子v お菓子」と節をつけて歌っている。なんだか引き返せない状況だ。
嫌だなあと思いつつ風間組到着。しかし外観は特に変わったことはない。
再びダースベーダーと化す桐生を戦闘に事務所に突入すると、フロアでは、チンピラどもをジェイソンが鉈でぼかぼか殴っていた。背格好からしておそらく新藤だと思うのだが、ジェイソンの仮装が完璧すぎて、ちょっと自信がない。
しかも新藤は鉈を振るう度に「ヌハァ!」とか「フヌー!!」とか奇声を発するので、すごく気持ち悪い。
「えーと? 新藤か?」
控えめに声をかけると、新藤はホッケーマスクを上にずらした。やっぱ新藤だった。
「ああ。これは伯父貴に伊達さんに遥さん」
「新藤、今年、お菓子何?」
桐生もマスクをずらして声をかける。しかし質問間違ってねえか。
「アレです。芸能人のやってる牧場の生キャラメルセット」
「マジで? 遥、よかったなあ」
「わーい! キャラメル! キャラメル!」
新藤は気絶した構成員達を部屋の隅に片しだした。
「いやあ、今年も風間の親爺を亡き者にしようとする輩が多くて困りますよ。風間の親爺はうちの親父と仲悪いですけど、親に変わりは無いからお守りしなくちゃだしねえ」
「あ? 錦山も来てるのか?」
だが、風間を嫌ってる錦山にしてみたら、これは暗殺のチャンスの状況なのでは? 新藤だって、錦山に協力して、邪魔者を排斥しただけにすぎないし。
うわ、大変なところに来てしまった。知ってしまった以上は見過ごせねえ。
「桐生、錦山を探すぞ!」
「ああ、キャラメルを独り占めされるかもしれねえ!」
「エイエイオー!」
遥が激を入れてくれたので、3人で風間のいるはずのフロアに行く。
そこにもここにも、雑魚のように幾多の構成員が潰されていた。
「大丈夫かな? 風間のやつ……」
そう言った瞬間に、観葉植物の陰から人影が飛び出した。桐生に庇われ後ずさる。
「遅かったですね? 桐生の伯父貴……」
「荒瀬?!」
黒いスーツ、黒いサングラス、黒いネクタイ、黒い靴に二丁拳銃を構える荒瀬。
いつもと服装が違うが、危険な雰囲気はそのままだ。
桐生がライトセーバーをヴン! と構える。
「いやいや、俺はここであんたがたと争う気はありませんよ。あくまでも、風間の親爺の命を狙う輩だけをヤってるんです」
銃をくるくると回す荒瀬。
「さて、ここで問題です! 俺の仮装は誰でしょうか? 正解したら通ってくれて構いません」
荒瀬が再び銃をビシリと構える。
桐生が面をいったん外して荒瀬をしげしげ見て言った。
「『あぶない刑事』の舘ひろし!」
「ブー! 伯父貴はもう回答権なし」
「ええ?」
遥が荒瀬をじっと眺めて応える。
「『リターナー』のときの金城武」
「ブー! お嬢ちゃんももうダメー!」
二人の目が俺に注目する。気まずい。これは外せない。ダメもとで適当に答える。
「『レザボア・ドッグス』のMr.ホワイト』
「ピンポンピンポン! お通り下さい!」
「ええ? マジかよ? ダメもとだってのに」
「じゃあ、俺は次のチャレンジャーのために隠れます」
そう言って荒瀬は今度は柱時計の中に隠れだした。どういうしくみかは知らないが、振り子を外してそのスペースに身を縮こまらせて隠れる。今だけこの時計は荒瀬時計になっている。
とりあえず、風間の無事を確認しなくては、廊下を進み、あともう少しで風間の部屋というところで、一人の剣客がスーツの男と闘っていた。
よく見ると剣客は錦山だった。もうわけがわからない。
錦山は髪を一本に束ねてくくり、袴姿で闘っている。男が銃を抜きかけたが、それを柄の部分で殴り落とし、刀の峰で男を殴り倒した。
「錦山さんすごーい!」
遥が小さく拍手する。
「何だ? 来てたのか?」
錦山は男をけり倒すと俺達の方を見た。
「堀部安兵衛?」
と聞くと、
「そ、そんないいモンじゃねーよ! 人斬り以蔵だよ!」
と答える。峰打ちしてたけど。
「途中柏木さんから電話入って急いで来た」
と桐生が会話に入って来る。
「ああ。俺らの方が早かったんだな。ったく、毎年毎年まいるよな」
どうやらこいつらにとってはこれがいつもの行事のようだ。なんだか巻き込まれたのがすごく不本意だ。
「遥、とりあえずお菓子もらって帰るか?」
「そうだね」
風間の部屋のドアを開けると、風間が背を向けて座っていた。俺達の気配を感じて椅子ごと振り返る。頭には帽子、そして高そうなパイプ。
「地球か……何もかもみな懐かしい……」
風間は沖田十三の格好をしていた。
あまりの仮装っぷりに、俺はその場にへたりんでしまったが、桐生と錦山は割りと普通だった。
「親っさん、今年沖田艦長かぁ」
「あん? 去年、999の車掌だったろ? 松本零士でかぶってね?」
「ねえねえ、風間のおじさん何の格好してるの?」
「ああ、遥はわかんねえだろうなあ……とりあえず、菓子でも喰うか?」
蟻のようにキャラメルに群がる3人。
何だよ、けっこう錦山も仲よさそうにしてんじゃねえか、心配して損した、とか思ってたら、ふと風間がこちらを見て言った。
「伊達さん? 俺が送った森雪の衣装は着てもらえなかったでんすか?」
「俺、森雪だったのか?……」
やはり開けなくてよかった。心の底からそう思ったところで錦山がキャラメルをもちゃもちゃ噛みながら言った。
「ふーん。伊達さん森雪か? じゃあ、俺が古代進やろう」
「何ッ!」
「すっこんでな、ジジイ」
「てめえ……錦山……古代君がいつそんな口の聞き方をした?」
いきなり険悪になる錦山と風間。
とうか、そこで何故険悪なるのかが理解できない。遥達は食べるだけ食べると遊びだした。
「おじさん、ライトセーバと勝負だー! とうとう!!」
「(シュコーシュコー)」
結局錦山はもちゃもちゃとキャラメルを食う間ずっと風間にからんでいた。森雪が酸欠で死んだことさえも持ち出していた。
森雪は関係ねえだろうに。
ハロウィンってこんな祭りなのだろうか。違う気がして仕方がない。
でも、生キャラメルはうまかった。
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one-peace
未だわずかに夕焼けの余韻を残す空の下。
普段より少し早く、桐生は自宅の扉を開いた。
待ちかねたように遥がこちらに駆けてくる。
晩ご飯、ちょうど今できたところだよ。早く一緒に食べようよ。
そう言いながら少女は男の腕を掴んで、ぐいぐいと引っ張った。
古いちゃぶ台を囲み、出来たばかりの夕食を二人で食べる。
白いごはんと豆腐のお味噌汁。それに焼き魚。
おかわりもあるからね、と身を乗り出して遥が言う。
少女はいつも食事をしながら、その日学校で起きた他愛もない出来事を楽しそうに話す。新しくできた友達の話、体育の授業でマラソンをがんばっていること、次の学年からはクラブ活動が始まるけれど、どのクラブに入ろうか迷っているという話。小学生の、よくある世間話だ。
しかし桐生は、遥の話を聞くのが好きだった。
くるくる変わる表情を見ているのも好きだった。
ちょっとした事でこぼれる彼女の笑顔を見るのが、一番の幸せだった。
桐生がごはんのお代わりを頼むと、遥がいそいそと山盛りによそってくれる。
自分の娘のような年の少女と、どこにでもいる親子のように、ごく当たり前の、ごく平凡な生活を送る。それだけの事が彼にとっては何もかもが夢のようだった。
もう忘れてしまいそうなくらい昔ーーそう、遥と同じくらいの年の頃は、彼もそれなりに平凡な生活を送っていた。但し親父は怠惰なチンピラで、稼ぎはほとんど無く、年中外で飲んだくれていた。代わりに母親が毎日働き、時折思い出したように戻ってくる父親に金を渡していた。一馬少年にとって父は憎むべき男だったが、父を憎む以上に母が好きだった。
毎日休まず朝早くから夜遅くまで外で働いていた母と話が出来るのは、大抵夕食の時だけだった。母親は大人しい女性で、一馬の腕白に少し困った顔をしながらも、息子の武勇伝をいつも楽しそうに聞いてくれた。
今は自分が親の役割だな。
娘のような少女を見ながら一馬は思った。遥の今の境遇は昔の自分に似ている。そして遥の過去は当時の自分など比べ物にならぬほど過酷な物だった。そんな彼女が今、楽しそうに自分に微笑みかけてくれる事が嬉しい。
遥を二度と悲しませたくない。ずっと笑顔でいて欲しいと、心からそう思う。
いつの間にか、食事を進める手をとめて、深く考え込んでしまっていたらしい。
「おじさん、怖い顔してるよ…お魚、生焼けだった?それとも焦げてたかなぁ」
目の前の少女が首をかしげた。長い髪がさらりと揺れる。大きな瞳がこちらを見ている。
「あ、あぁ、なんでもない」
桐生は、自分の考えを見透かされたような気がして急に気恥ずかしくなり、あわててごはんをかきこんだ。
そして、むせた。
「おじさん、大丈夫!?」
なかなか咳がおさまらない桐生の背中を、遥が一生懸命さすってくれる。
「…すまない」
桐生は少し情けない気分だった。
少女は『おじさん』の様子が落ち着いてきたのを見て炊事場に走り、水を汲んできてくれた。
それを飲んで、ようやく一息つく。
「もー、私がいなきゃ全然ダメなんだから!」
人さし指を立てて、いたずらっぽく微笑んだ。
「そうかもしれないな」
そして顔を見合わせて、声をあげて笑った。
食事を終え、洗い物や風呂も済ませ、ゆったりとした時間が流れる。
新聞を読んでいた桐生に遥が話しかけた。
「おじさん。今度のお休み、忙しい?」
「いや。…どこか行きたいところがあるのか?」
「おかずが少なくなったから、スーパーに行きたいの」
それくらい、俺が買ってくると答えたが、遥は大きくかぶりを振った。
「いいの、おじさんと一緒に行きたいの」
「なら、それは帰りにしよう」
「?」
遥はきょとんとしている。
「ほかに行きたいところはないか?」
どこでも好きなところに連れていってやる。そう続けると、遥が目を大きく見開いた。
「本当?」
「本当に決まってるだろう」
「やったぁ!」
遥は満面に笑みを浮かべて、しばらくあそこでもない、ここでもないと一人考えていたが、急に何か思い付いたらしく顔をこちら向けた。
「…あのね、私、おじさんと一緒に映画を見たい!」
「映画か…長い間見てないな」
神室町にも映画館はあったはずだが、全く、気にも留めた事がなかった。
「友達がね、この間家族で初めて映画館に行ってね、おーっきな画面で、すーっごく面白かったんだって!」
画面の大きさをあらわすように腕を広げ、目をキラキラ輝かせて力説した。余程うらやましかったらしい。
「じゃあ、今度の休みはどれでも遥の好きな映画を見に行こうか」
「ありがとう、おじさん!」
遥はバンザイして跳ね上がらんばかりに喜んだ。
その様子を見ていると、桐生まで心が躍り出すのを感じた。
「じゃあ、今度の日曜日、ね!」
壁にかけたカレンダーに、遥がペンで大きく赤丸をつけた。
下に『えい画』と書いてからこちらに振り向き、「約束だよー」と言って、笑った。
「もちろんだ」
「指切り!」
右手の小指を絡ませて指を切ってから、しばらく自分の指を見つめた。
指切りなんてするのは、いつ以来だろう。
なんでもないような、小さな約束に胸を躍らせていたのは、いつ頃までだったろう。
過去の記憶をたぐりながらふと目線を移せば、遥はもう休みの日に着る服を選んでいる様子だった。
薄い水色のワンピースを胸に当てている。
「遥は気が早いな」
「だって楽しみで、楽しみで待ちきれないんだもん!」
「そうだな…」
自然と口がほころぶ。俺も楽しみだ、と心の中でつぶやいた。
ずっと、この幸せが続けばいい。
毎日がありきたりで穏やかに、つつがなく続けば。
それは、自分には大それた願いかもしれないとも思いながら。
「one-piece」 了
朝自宅にて遙と
「おじさん、おはよう♪」
妙に機嫌が良い。
「??元気だな、おはよう」
「あのねあのね」
「…あっ、ああ」
「お夕飯、弥生のおばさん家で食べよう」
「…………なに??」
驚き。
「もう。だから今日のお夕飯は弥生の」
「いや、それは分かったが…あね、会長の自宅でって事か?」
それはつまり、関東最大極道組織『東城会本部』。
「うん、そう。おばさんがご飯作ってくれるんだって♪」
「はっ!?会長が??」
「おばさんのご飯美味しいんだよ~」
「…………なんだって??」
ちょっと待て。
「あのね、おばさんのケーキとか混ぜご飯とか卵焼きとか」
メニューばらばら。
「……遙」
「なに??」
小首かしげ。
「今までも会長のトコでメシ食べた事あるのか?」
「うん」
「………」
絶句。
「たまにねおばさんが電話くれて、今日はウチで昼どうだい?って。夜の時もあるけど」
凄く嬉しそう。
「………でんわ??」
「おばさん、メール可愛いんだよ♪♪」
「……えっ?!」
「最近はねぇ、デコメールって使うんだけどね」
携帯を取り出しぽちぽち。
「…でこめーる…」
でこっぱち??
はげ??
「ほら、可愛いでしょ」
画面を大公開。
なにやらちらちら動く可愛い動画と文面。
「………最近のメールはカラフルだな…」
理解が出来ません。
「おじさんだけだよ~。文字だけのメールくれるの」
ちょっとだけ不満げ。
「…すまん…」
しゅん。
「真島のおじさんも、大吾おにいちゃんも、龍司おにいちゃんもあと」
「まだ居るのか???」
どびっくり!
ちらりと顔見て、うふふ。
「後は、内緒」
女の子ですから。
「おい、遙…」
ぱぱはショックです。
「学校終わったらメールするね。今晩は夜のお仕事入れちゃ駄目だよ」
約束。
「あ、ああ。…分かった」
「やった。じゃ、私学校行ってるね」
「気をつけてな」
「はぁ~い。おじさんも気をつけてね」
行ってきます。
がちゃり、ぱたん。
「……会長の料理?」
どうにも微妙。
「にしても、遙のメール相手…」
もやもや。
午前中、東城会本部にて
とことこ。
「会長に礼でも…」
「桐生さんっ」
ばたばた。
「…ん?ああ、大吾」
驚き。
「悪い、今晩のたんっ…」
慌てて口を押さえ。
「??今晩の??」
どうしたんだ?
「…い、や…なんでもねぇよ」
あからさまに知らんぷりぷり。
「…大吾…」
眉寄せてむっ。
「人を呼び止めておいて、言いかけるのまで止めるったぁどういう事だ?」
「……んな、怒るなよぉ」
困りました。
「なんだってんだ?」
「ごめんっ。ホント何でもねぇんだよ」
平謝り。
「なんて言うか、言葉のあや??」
「…今晩のって、言いかけただろう?」
許しません。
「っぁ…。…だからホントに何でもねぇんだって」
勘弁してくれよぉ。
「俺と遙が夕飯を会長のトコで食わせてもらう事か?」
「…夕飯?…っ、え、あ。…そうそう」
盛大にうんうん。
「俺も一緒に食うはずだったんだけど、外せねぇ打ち合わせが入っちまってさ」
「お前も忙しいからな」
「そうなんだよ。絶対に今晩は何も入れるなって言ってあったはずなんだけどさ」
「…?。まぁ、仕事だから仕方ねぇだろう」
「そうなんだけどさ!でも、ほらやっぱり今日だからっ」
「は?今日??」
「そう今日って……いっ、いや…別に…」
思わず後ずさり。
「…変だぞ、大吾…」
「んな事ねぇよ?至って俺は普通」
うんうん。
「そうか??」
「そうそう。まぁ、とにかくそういう訳でさ」
「ああ、遅れるって事だな」
「そう。で、今からちょい買い物して打ち合わせの準備して、で、打ち合わせして…」
「買い物まで組長のお前がやるのか?…代わりに俺がしておくぞ?」
何を買うんだ?
「はぁっ?駄目駄目!」
「どうしてだ?」
「だって、き…………とにかく、これは俺が買うんだ」
きっっぱり。
「一体なんなんだ?」
何時にもまして変だぞ。
「…そんなに俺、何時も変か?」
しょんぼり。
「…い、や…んなことねぇが…」
拙い。
「……」
物凄く不信な眼差し。
「……とにかく、夕飯に遅れる事は会長に俺から伝えておく」
「…ん、頼んだぜ桐生さん。ほらおふくろ、そういうトコうるせぇからさ」
ま、いいやと溜息。
「ガキの頃なんて夕飯に遅れただけで食わせて貰えなかったんだぜ」
「まぁ、メシの時間なんてそういうモンだろう。ひまわりでもそんな感じだったからな」
「俺もそうだし、親父もさ。…ま、っても親父は女のトコしけこんでて遅れるってぇのが多かったから…」
自虐ネタ?
妙に気まずい空気。
「……とっ、とにかく。俺遅れるけどさ、絶対行くからな!」
力こもってます。
「あっ、ああ。分かった…」
何をそんなに??
「楽しみにしてるぜ、桐生さん」
にこにこ、嬉しそう。
「??分かった。俺も楽しみにしてる」
「んじゃ、また夜にな」
手をぱたぱた振って走り去る。
「………夕飯だろ?」
なんだか変な気合。
「そんなに会長は、遙のためにメシに気合を入れてくれてるのか?」
昼前、東城会本部正面玄関
「この時間まで待ったが会長は帰らない、か…」
煙草ぷかぷか。
「今晩の礼を、言いたかったんだが、仕方ないな」
灰皿で煙草消す。
だだだだと足音。
「んっ?」
「桐生ちゃんっ!発見や!!」
腕がしっ。
「はっ!?兄さんっっ??」
ええええ??
「捕獲完了やぁ~~~」
楽しそう。
ずるずる引きずり。
「ちょっ、何するんですか?兄さんっっ」
状況判断が出来ません。
「ええからええから。今日は夜まで、いや明日の朝までわしに付き合ってやぁ~」
「はいっ!?」
「車待たせとるから、ほな行こか」
にかり。
「駄目ですっっ。今晩は遙と約束が」
無理矢理立ち止まり。
「ほなら、嬢ちゃんも一緒でええわ」
うんうん。
「そういう問題じゃないんですよ」
「………あれやろ?」
かなりいやいや口調。
「会長とぼんとめし」
「…良く知ってますね?」
驚き。
「嬢ちゃんからメール来たからなぁ…」
頭ぼりぼり、微妙な顔。
「遙から?」
「今晩の…」
「今晩の??」
顔をじぃっと。
「……なっ、なんですか?」
動揺。
「今日で、今晩、や」
「??今日の今晩は…夜、ですよね?」
確かにその通り。
大きな溜息。
「ちゃうわ。今日で今晩、が大事なんや。ま、今日なら何時でもええけどな」
「今日で今晩で、今日なら何時でも??」
どういう事??
「今日ゆう日が、大事なんや」
「………どうしてですか?」
「どうしてやと思う?」
ぐいと顔を覗いてにやり。
「……わ、かりません、が…」
「なんで?」
「なんで、と言われまして、も…」
しどろもどろ。
二度目の盛大な溜息。
「あんなぁ…わし、桐生ちゃん大好きやで」
いきなり告白。
「…はっ?なんですか突然??」
驚き。
「したら今日は独り占めしたいやん?」
「…はぁ?…」
だから今日って何?
「せやけどなぁ、わし桐生ちゃんが大事にしとる嬢ちゃんに嫌われたないねん」
これも本音なんです。
「ありがとう、ございます…」
「ちゅう事は、あれやあれ」
仕方ないなぁ。
「あれ?ですか…」
なにがあれ?
「今晩はわしが折れるわ…」
「…はぁ…」
もう何がなんだか根本から分かりません。
「ほんま珍しいんやで、わしが折れるいうんわ」
確かに珍しい。
「ほなら、また夜な?」
「…え??兄さんも会長と夕飯を?」
本当に??
「楽しみにしとるで?」
にやにや。
「は、い…。俺も、楽しみにしてます」
「ま、期待しとってやぁ」
「何をですか?」
「今晩わしが用意するもんに、や」
「兄さん、料理でも作るんですか?」
それは相当意外。
「わし、料理するなら桐生ちゃんがええなぁ」
「……俺を料理してどうするつもりなんですか?」
眉寄せてむっ。
くすくす。
「そら、料理したらする事一つやろ?」
「……」
「美味しくいただくだけ、や」
耳元で囁き。
「…っ!兄さん、そういう冗談やめてくださいっ」
「何時でもわし、本気なんやけどなぁ」
にやにや。
「兄さんっっ!」
「はいはい。ほな本気で怒られんウチに退散するわ~」
手を振って歩いていく。
見送り。
「全く。…しかし楽しみに?俺が??」
なんで??
午後、堂島組事務所にて
ぴんぽーん。
どかどか。
人の話し声。
ばたばたと階段を上がる音。
「……なんだ?」
ドアこんこん。
「どうした?」
がちゃり。
「すみません、叔父貴。あの、これ宅急便です」
はいどうぞ。
10センチ四方程度の箱。
「は?俺に??」
受け取り。
「じゃ、失礼します」
がちゃ。とんとん。
「……俺に?」
あて先は桐生一馬様。
「誰からだ…」
差出人は無記名。
不審…。
「爆弾とかじゃ、ねぇだろうな…」
耳をつけて確認。
無音。
「……」
ぶんぶん振ってみる。
特に変化なし。←危険行為。
「…ったく、なんだってんだ」
がさがさ。
かぱ。
「??」
クッション材が一杯。
「????」
ごそごそ。
細長いネックレスの箱と薄い箱。
「はぁ??」
とりあえず開けてみましょう。
「…金の、ネックレス??」
なんだか妙に見覚えがあるような。
「で、こっちは……大阪行きの新幹線チケット??」
もう1人しか居ません。
携帯取り出し、ぽちぽち。つつつつつつつ、かち。
「てめぇ」
『ああ、桐生はん。届いたんか?』
くすくす。
「お前なぁ、なんだアレは」
『気に入ってもらえませんでしたか?』
指で摘んでネックレスぶらぶら。
「これか、それともチケットか?」
『勿論、両方ですわ』
「誰が気に入るか」
『アレですか?もっと太いほうが良かったですか?』
「…龍司…。冗談は」
『見覚え、ありますやろ?』
くすり。
「……てめぇと同じ、型、だろ?」
『ああ良かったわ。忘れられてたら泣こうか思いましたわ』
「…忘れてれば良かったな…」
『つれないわぁ、桐生はん』
あはははは。
「で、これは送り返しても良いんだな?」
盛大な溜息。
『そない事言わんと貰ってや』
「貰ういわれがねぇ」
『………ぷっ』
吹き出し。
「なんだ?何笑ってる??」
眉寄せて不機嫌。
『ほんま嬢ちゃんの言うとおりやなぁ、と思いまして』
「遙の?」
なんだって?
『今晩、東条で夕飯やる言う事らしいですが』
「なに?どうしてお前が??」
『一応、嬢ちゃんからお誘いきましてん』
「お前に?」
それはびっくり。
『せぇっかくのお誘いやったけど、流石にこっちからは行けん言う事で断ったんやけど』
「そりゃ当然だ」
『代わりにプレゼントだけ送らせてもらいましたわ』
にこにこ。
「…だから、どうして断るが俺へのプレゼントになるんだ?」
げんなり。朝から訳が分からない…。
『…内緒、ですわ』
「お前も内緒か…」
『ちゅうわけで、お願いがあるんやけど』
ふふふふと妙に不審な笑い声。
「…なんだ?」
『嬢ちゃんにしっかり桐生はんへプレゼント贈った言う証拠に、今晩だけでええからネックレス着けて行ってもらえませんか?』
「なにぃ?」
冗談じゃない。
『せやけど、そうやないとわし嬢ちゃんとの約束破った事になってまうわ』
「俺が知るか」
『頼むわ桐生はん。嬢ちゃん、悲しませたくないやろ?』
伝家の宝刀。
「…………分かった、今晩だけだぞ」
しぶしぶ。
『ほなら良かった。じゃ、また』
「あっ、おい。このチケット」
ぷち。つーつーつー。
「あの野郎…」
溜息。
「仕方ねぇなぁ…」
遙の為ですから。
夜、東条会本部○○会場。
テーブルにはいかにも手作りなパーティ料理。
「おじさん、お誕生日おめでとう~」
うわぁい。
「遙ちゃんから聞いてね、内緒で用意したんだよ」
にこにこ。
「…遙、会長…」
びっくり。
「ごめんね、おじさん驚かせたかったの」
天使の笑顔で小首かしげて。
「いや、そんな事ないぞ。ありがとう、遙」
嬉しいよ。
「良かった。でも大吾おにいちゃん遅くなるんだよね」
「ああ、仕事でって事だ」
「真島のおじさんはもうすぐ来るって」
「兄さんもか」
「プレゼント持ってくるって♪大吾おにいちゃんも」
「プレゼント…」
昼間の2人の不審な言葉の意味。
「ああ、それで…」
くすり。なんだか嬉しい。
「龍司おにいちゃんは送るって言ってたけど」
「ああ、龍司からはこれを貰ったぞ」
首の金の鎖、ちゃり。
「あ、ホントだ。綺麗だね。似合うよ、おじさん」
「……そうか、…ありがとう…」
微妙。
「来たでぇ~~~」
闘技場並みに派手な登場。
ぱんぱかぱぁ~ん。
「あ、おじさん~~」
「嬢ちゃん、お待たせやぁ~。桐生ちゃんも、………」
どかどか、ぴたり。
「…なんです?兄さん???」
顔が怖いです。
「……兄さん??」
「…なんや、それ?」
「はい?」
指差し。
「そないモン、しとったか?」
金の鎖のネックレス。
「あ、ああ。もらい物ですよ」
郷田龍司からの。
「……………外した」
「綺麗だよね、ネックレス」
にこにこ光線発射。
「…うっ。……そ、そや、な…」
これ以上の言葉は言えない。
「おじさんに似合うよね?そう思わない、真島のおじさん♪」
「…………似合うとる…かも、しれん、な…」
遙は恐らく最強です。
「桐生さんっ!」
どかりとドア開け。
「あ、大吾おにいちゃん」
「ああ、遙。速攻で仕事終わらせて来たぜ」
「すごいすごい」
きゃぁ。
「おい大吾。ホントに大丈夫なのか…」
「ああ、大丈夫。しっかり終わらせて来たぜ…って、真島の叔父貴、顔怖いけどどうしたんだ?」
ちらり。
「…いや、俺にも良く…」
「顔が般若に見えるけど…。まぁ、イイか。それより、俺か…………って」
視線がぴたり。
「どうした??」
「……桐生さん、これ…なんだよ?」
「ん?ああ、貰いモンだ」
郷田龍司からの。
「…………んなモンはずしっ」
「大吾おにいちゃんも、これおじさんに似合うと思うでしょ?」
二発目にこにこ光線発射。
「………………うっ。……た、たぶん……」
もう一度言いますが、遙は最強です。
そうして般若の隣に不動明王。
双方共に、顔が怖いです。
「…なんだ?どうしたんだ??」
「えへへへへ」
「遙?」
「ま、そういう事だね」
「会長??」
なにがどうしてそう言う事?
「だってねぇ、おばさん」
「そうだよ。あの2人を揃えたら五月蝿いに決まってるからね」
「…はい?」
「みんなで楽しくおじさんの誕生日を祝いたかったの」
「でもあれが揃ったら難しいからねぇ」
「??」
「だから大人しくさせるなら、っておばさんが教えてくれたの」
「近江のぼんにはちょっと協力してもらったのさ」
亀の甲より年の功。
「でもちょっと可哀相…」
ちらり。
「そうだねぇ。灸を据えすぎたかねぇ」
溜息。
「ええと…」
「おじさん、2人からプレゼント貰ってきなよ」
ほらほら。
「そうすりゃ少しは治るだろうよ」
行きなよ。
「あ、っ。…はい、それじゃ…」
いまいち意味が分からないけれど。
見送って、2人でくすくす。
「真島のおじさんも、大吾おにいちゃんも、可愛いよね」
「まぁ、男なんてぇのは単純な生き物だからね」
「桐生のおじさんもかなぁ?」
「あれは…鈍感って言うんだよ」
「あはは、そうかも。でも…大好き…」
誰よりも。
一番。
きっとずっと。
こっそりと隠したプレゼントを手に持って。
「後で私も渡すんだ♪」
「きっと一番喜ぶよ」
「ホント?そう思う?」
「当たり前だろ。大事な遙からのプレゼントだ」
「うん」
大好きな大好きな、貴方の大切な日に心を込めてプレゼントを
終わり
「おじさん、おはよう♪」
妙に機嫌が良い。
「??元気だな、おはよう」
「あのねあのね」
「…あっ、ああ」
「お夕飯、弥生のおばさん家で食べよう」
「…………なに??」
驚き。
「もう。だから今日のお夕飯は弥生の」
「いや、それは分かったが…あね、会長の自宅でって事か?」
それはつまり、関東最大極道組織『東城会本部』。
「うん、そう。おばさんがご飯作ってくれるんだって♪」
「はっ!?会長が??」
「おばさんのご飯美味しいんだよ~」
「…………なんだって??」
ちょっと待て。
「あのね、おばさんのケーキとか混ぜご飯とか卵焼きとか」
メニューばらばら。
「……遙」
「なに??」
小首かしげ。
「今までも会長のトコでメシ食べた事あるのか?」
「うん」
「………」
絶句。
「たまにねおばさんが電話くれて、今日はウチで昼どうだい?って。夜の時もあるけど」
凄く嬉しそう。
「………でんわ??」
「おばさん、メール可愛いんだよ♪♪」
「……えっ?!」
「最近はねぇ、デコメールって使うんだけどね」
携帯を取り出しぽちぽち。
「…でこめーる…」
でこっぱち??
はげ??
「ほら、可愛いでしょ」
画面を大公開。
なにやらちらちら動く可愛い動画と文面。
「………最近のメールはカラフルだな…」
理解が出来ません。
「おじさんだけだよ~。文字だけのメールくれるの」
ちょっとだけ不満げ。
「…すまん…」
しゅん。
「真島のおじさんも、大吾おにいちゃんも、龍司おにいちゃんもあと」
「まだ居るのか???」
どびっくり!
ちらりと顔見て、うふふ。
「後は、内緒」
女の子ですから。
「おい、遙…」
ぱぱはショックです。
「学校終わったらメールするね。今晩は夜のお仕事入れちゃ駄目だよ」
約束。
「あ、ああ。…分かった」
「やった。じゃ、私学校行ってるね」
「気をつけてな」
「はぁ~い。おじさんも気をつけてね」
行ってきます。
がちゃり、ぱたん。
「……会長の料理?」
どうにも微妙。
「にしても、遙のメール相手…」
もやもや。
午前中、東城会本部にて
とことこ。
「会長に礼でも…」
「桐生さんっ」
ばたばた。
「…ん?ああ、大吾」
驚き。
「悪い、今晩のたんっ…」
慌てて口を押さえ。
「??今晩の??」
どうしたんだ?
「…い、や…なんでもねぇよ」
あからさまに知らんぷりぷり。
「…大吾…」
眉寄せてむっ。
「人を呼び止めておいて、言いかけるのまで止めるったぁどういう事だ?」
「……んな、怒るなよぉ」
困りました。
「なんだってんだ?」
「ごめんっ。ホント何でもねぇんだよ」
平謝り。
「なんて言うか、言葉のあや??」
「…今晩のって、言いかけただろう?」
許しません。
「っぁ…。…だからホントに何でもねぇんだって」
勘弁してくれよぉ。
「俺と遙が夕飯を会長のトコで食わせてもらう事か?」
「…夕飯?…っ、え、あ。…そうそう」
盛大にうんうん。
「俺も一緒に食うはずだったんだけど、外せねぇ打ち合わせが入っちまってさ」
「お前も忙しいからな」
「そうなんだよ。絶対に今晩は何も入れるなって言ってあったはずなんだけどさ」
「…?。まぁ、仕事だから仕方ねぇだろう」
「そうなんだけどさ!でも、ほらやっぱり今日だからっ」
「は?今日??」
「そう今日って……いっ、いや…別に…」
思わず後ずさり。
「…変だぞ、大吾…」
「んな事ねぇよ?至って俺は普通」
うんうん。
「そうか??」
「そうそう。まぁ、とにかくそういう訳でさ」
「ああ、遅れるって事だな」
「そう。で、今からちょい買い物して打ち合わせの準備して、で、打ち合わせして…」
「買い物まで組長のお前がやるのか?…代わりに俺がしておくぞ?」
何を買うんだ?
「はぁっ?駄目駄目!」
「どうしてだ?」
「だって、き…………とにかく、これは俺が買うんだ」
きっっぱり。
「一体なんなんだ?」
何時にもまして変だぞ。
「…そんなに俺、何時も変か?」
しょんぼり。
「…い、や…んなことねぇが…」
拙い。
「……」
物凄く不信な眼差し。
「……とにかく、夕飯に遅れる事は会長に俺から伝えておく」
「…ん、頼んだぜ桐生さん。ほらおふくろ、そういうトコうるせぇからさ」
ま、いいやと溜息。
「ガキの頃なんて夕飯に遅れただけで食わせて貰えなかったんだぜ」
「まぁ、メシの時間なんてそういうモンだろう。ひまわりでもそんな感じだったからな」
「俺もそうだし、親父もさ。…ま、っても親父は女のトコしけこんでて遅れるってぇのが多かったから…」
自虐ネタ?
妙に気まずい空気。
「……とっ、とにかく。俺遅れるけどさ、絶対行くからな!」
力こもってます。
「あっ、ああ。分かった…」
何をそんなに??
「楽しみにしてるぜ、桐生さん」
にこにこ、嬉しそう。
「??分かった。俺も楽しみにしてる」
「んじゃ、また夜にな」
手をぱたぱた振って走り去る。
「………夕飯だろ?」
なんだか変な気合。
「そんなに会長は、遙のためにメシに気合を入れてくれてるのか?」
昼前、東城会本部正面玄関
「この時間まで待ったが会長は帰らない、か…」
煙草ぷかぷか。
「今晩の礼を、言いたかったんだが、仕方ないな」
灰皿で煙草消す。
だだだだと足音。
「んっ?」
「桐生ちゃんっ!発見や!!」
腕がしっ。
「はっ!?兄さんっっ??」
ええええ??
「捕獲完了やぁ~~~」
楽しそう。
ずるずる引きずり。
「ちょっ、何するんですか?兄さんっっ」
状況判断が出来ません。
「ええからええから。今日は夜まで、いや明日の朝までわしに付き合ってやぁ~」
「はいっ!?」
「車待たせとるから、ほな行こか」
にかり。
「駄目ですっっ。今晩は遙と約束が」
無理矢理立ち止まり。
「ほなら、嬢ちゃんも一緒でええわ」
うんうん。
「そういう問題じゃないんですよ」
「………あれやろ?」
かなりいやいや口調。
「会長とぼんとめし」
「…良く知ってますね?」
驚き。
「嬢ちゃんからメール来たからなぁ…」
頭ぼりぼり、微妙な顔。
「遙から?」
「今晩の…」
「今晩の??」
顔をじぃっと。
「……なっ、なんですか?」
動揺。
「今日で、今晩、や」
「??今日の今晩は…夜、ですよね?」
確かにその通り。
大きな溜息。
「ちゃうわ。今日で今晩、が大事なんや。ま、今日なら何時でもええけどな」
「今日で今晩で、今日なら何時でも??」
どういう事??
「今日ゆう日が、大事なんや」
「………どうしてですか?」
「どうしてやと思う?」
ぐいと顔を覗いてにやり。
「……わ、かりません、が…」
「なんで?」
「なんで、と言われまして、も…」
しどろもどろ。
二度目の盛大な溜息。
「あんなぁ…わし、桐生ちゃん大好きやで」
いきなり告白。
「…はっ?なんですか突然??」
驚き。
「したら今日は独り占めしたいやん?」
「…はぁ?…」
だから今日って何?
「せやけどなぁ、わし桐生ちゃんが大事にしとる嬢ちゃんに嫌われたないねん」
これも本音なんです。
「ありがとう、ございます…」
「ちゅう事は、あれやあれ」
仕方ないなぁ。
「あれ?ですか…」
なにがあれ?
「今晩はわしが折れるわ…」
「…はぁ…」
もう何がなんだか根本から分かりません。
「ほんま珍しいんやで、わしが折れるいうんわ」
確かに珍しい。
「ほなら、また夜な?」
「…え??兄さんも会長と夕飯を?」
本当に??
「楽しみにしとるで?」
にやにや。
「は、い…。俺も、楽しみにしてます」
「ま、期待しとってやぁ」
「何をですか?」
「今晩わしが用意するもんに、や」
「兄さん、料理でも作るんですか?」
それは相当意外。
「わし、料理するなら桐生ちゃんがええなぁ」
「……俺を料理してどうするつもりなんですか?」
眉寄せてむっ。
くすくす。
「そら、料理したらする事一つやろ?」
「……」
「美味しくいただくだけ、や」
耳元で囁き。
「…っ!兄さん、そういう冗談やめてくださいっ」
「何時でもわし、本気なんやけどなぁ」
にやにや。
「兄さんっっ!」
「はいはい。ほな本気で怒られんウチに退散するわ~」
手を振って歩いていく。
見送り。
「全く。…しかし楽しみに?俺が??」
なんで??
午後、堂島組事務所にて
ぴんぽーん。
どかどか。
人の話し声。
ばたばたと階段を上がる音。
「……なんだ?」
ドアこんこん。
「どうした?」
がちゃり。
「すみません、叔父貴。あの、これ宅急便です」
はいどうぞ。
10センチ四方程度の箱。
「は?俺に??」
受け取り。
「じゃ、失礼します」
がちゃ。とんとん。
「……俺に?」
あて先は桐生一馬様。
「誰からだ…」
差出人は無記名。
不審…。
「爆弾とかじゃ、ねぇだろうな…」
耳をつけて確認。
無音。
「……」
ぶんぶん振ってみる。
特に変化なし。←危険行為。
「…ったく、なんだってんだ」
がさがさ。
かぱ。
「??」
クッション材が一杯。
「????」
ごそごそ。
細長いネックレスの箱と薄い箱。
「はぁ??」
とりあえず開けてみましょう。
「…金の、ネックレス??」
なんだか妙に見覚えがあるような。
「で、こっちは……大阪行きの新幹線チケット??」
もう1人しか居ません。
携帯取り出し、ぽちぽち。つつつつつつつ、かち。
「てめぇ」
『ああ、桐生はん。届いたんか?』
くすくす。
「お前なぁ、なんだアレは」
『気に入ってもらえませんでしたか?』
指で摘んでネックレスぶらぶら。
「これか、それともチケットか?」
『勿論、両方ですわ』
「誰が気に入るか」
『アレですか?もっと太いほうが良かったですか?』
「…龍司…。冗談は」
『見覚え、ありますやろ?』
くすり。
「……てめぇと同じ、型、だろ?」
『ああ良かったわ。忘れられてたら泣こうか思いましたわ』
「…忘れてれば良かったな…」
『つれないわぁ、桐生はん』
あはははは。
「で、これは送り返しても良いんだな?」
盛大な溜息。
『そない事言わんと貰ってや』
「貰ういわれがねぇ」
『………ぷっ』
吹き出し。
「なんだ?何笑ってる??」
眉寄せて不機嫌。
『ほんま嬢ちゃんの言うとおりやなぁ、と思いまして』
「遙の?」
なんだって?
『今晩、東条で夕飯やる言う事らしいですが』
「なに?どうしてお前が??」
『一応、嬢ちゃんからお誘いきましてん』
「お前に?」
それはびっくり。
『せぇっかくのお誘いやったけど、流石にこっちからは行けん言う事で断ったんやけど』
「そりゃ当然だ」
『代わりにプレゼントだけ送らせてもらいましたわ』
にこにこ。
「…だから、どうして断るが俺へのプレゼントになるんだ?」
げんなり。朝から訳が分からない…。
『…内緒、ですわ』
「お前も内緒か…」
『ちゅうわけで、お願いがあるんやけど』
ふふふふと妙に不審な笑い声。
「…なんだ?」
『嬢ちゃんにしっかり桐生はんへプレゼント贈った言う証拠に、今晩だけでええからネックレス着けて行ってもらえませんか?』
「なにぃ?」
冗談じゃない。
『せやけど、そうやないとわし嬢ちゃんとの約束破った事になってまうわ』
「俺が知るか」
『頼むわ桐生はん。嬢ちゃん、悲しませたくないやろ?』
伝家の宝刀。
「…………分かった、今晩だけだぞ」
しぶしぶ。
『ほなら良かった。じゃ、また』
「あっ、おい。このチケット」
ぷち。つーつーつー。
「あの野郎…」
溜息。
「仕方ねぇなぁ…」
遙の為ですから。
夜、東条会本部○○会場。
テーブルにはいかにも手作りなパーティ料理。
「おじさん、お誕生日おめでとう~」
うわぁい。
「遙ちゃんから聞いてね、内緒で用意したんだよ」
にこにこ。
「…遙、会長…」
びっくり。
「ごめんね、おじさん驚かせたかったの」
天使の笑顔で小首かしげて。
「いや、そんな事ないぞ。ありがとう、遙」
嬉しいよ。
「良かった。でも大吾おにいちゃん遅くなるんだよね」
「ああ、仕事でって事だ」
「真島のおじさんはもうすぐ来るって」
「兄さんもか」
「プレゼント持ってくるって♪大吾おにいちゃんも」
「プレゼント…」
昼間の2人の不審な言葉の意味。
「ああ、それで…」
くすり。なんだか嬉しい。
「龍司おにいちゃんは送るって言ってたけど」
「ああ、龍司からはこれを貰ったぞ」
首の金の鎖、ちゃり。
「あ、ホントだ。綺麗だね。似合うよ、おじさん」
「……そうか、…ありがとう…」
微妙。
「来たでぇ~~~」
闘技場並みに派手な登場。
ぱんぱかぱぁ~ん。
「あ、おじさん~~」
「嬢ちゃん、お待たせやぁ~。桐生ちゃんも、………」
どかどか、ぴたり。
「…なんです?兄さん???」
顔が怖いです。
「……兄さん??」
「…なんや、それ?」
「はい?」
指差し。
「そないモン、しとったか?」
金の鎖のネックレス。
「あ、ああ。もらい物ですよ」
郷田龍司からの。
「……………外した」
「綺麗だよね、ネックレス」
にこにこ光線発射。
「…うっ。……そ、そや、な…」
これ以上の言葉は言えない。
「おじさんに似合うよね?そう思わない、真島のおじさん♪」
「…………似合うとる…かも、しれん、な…」
遙は恐らく最強です。
「桐生さんっ!」
どかりとドア開け。
「あ、大吾おにいちゃん」
「ああ、遙。速攻で仕事終わらせて来たぜ」
「すごいすごい」
きゃぁ。
「おい大吾。ホントに大丈夫なのか…」
「ああ、大丈夫。しっかり終わらせて来たぜ…って、真島の叔父貴、顔怖いけどどうしたんだ?」
ちらり。
「…いや、俺にも良く…」
「顔が般若に見えるけど…。まぁ、イイか。それより、俺か…………って」
視線がぴたり。
「どうした??」
「……桐生さん、これ…なんだよ?」
「ん?ああ、貰いモンだ」
郷田龍司からの。
「…………んなモンはずしっ」
「大吾おにいちゃんも、これおじさんに似合うと思うでしょ?」
二発目にこにこ光線発射。
「………………うっ。……た、たぶん……」
もう一度言いますが、遙は最強です。
そうして般若の隣に不動明王。
双方共に、顔が怖いです。
「…なんだ?どうしたんだ??」
「えへへへへ」
「遙?」
「ま、そういう事だね」
「会長??」
なにがどうしてそう言う事?
「だってねぇ、おばさん」
「そうだよ。あの2人を揃えたら五月蝿いに決まってるからね」
「…はい?」
「みんなで楽しくおじさんの誕生日を祝いたかったの」
「でもあれが揃ったら難しいからねぇ」
「??」
「だから大人しくさせるなら、っておばさんが教えてくれたの」
「近江のぼんにはちょっと協力してもらったのさ」
亀の甲より年の功。
「でもちょっと可哀相…」
ちらり。
「そうだねぇ。灸を据えすぎたかねぇ」
溜息。
「ええと…」
「おじさん、2人からプレゼント貰ってきなよ」
ほらほら。
「そうすりゃ少しは治るだろうよ」
行きなよ。
「あ、っ。…はい、それじゃ…」
いまいち意味が分からないけれど。
見送って、2人でくすくす。
「真島のおじさんも、大吾おにいちゃんも、可愛いよね」
「まぁ、男なんてぇのは単純な生き物だからね」
「桐生のおじさんもかなぁ?」
「あれは…鈍感って言うんだよ」
「あはは、そうかも。でも…大好き…」
誰よりも。
一番。
きっとずっと。
こっそりと隠したプレゼントを手に持って。
「後で私も渡すんだ♪」
「きっと一番喜ぶよ」
「ホント?そう思う?」
「当たり前だろ。大事な遙からのプレゼントだ」
「うん」
大好きな大好きな、貴方の大切な日に心を込めてプレゼントを
終わり
はぁ、とついたため息は桐生のせい。
今日は休みと言っていたくせに、急な呼び出しだとか言っちゃって。朝早くから出ていってしまった。
明日は一緒に動物園にでも行こうねって、約束していたのに。
お弁当だって、昨日の晩から用意していたのに。
「おじさんの馬鹿…」
ベットに身を投げ出して、恨み言を言ってみる。
けれど、桐生が一生懸命堅気の仕事で頑張っているのは自分のためだと知っているから、直接言うことはできなかった。
それでもまだ子供だから…桐生を仕事にとられて、腹が立つ。
本当に腹が立つのは桐生じゃなくて、桐生の仕事。
いっそ友達と遊びに行こうか、とも思ったけれど。
電話をかけても、留守か親と出かけるか。こんな日に限っていつも遊ぼうと言ってくる男の子でさえ、友達と何処かに出かけてしまったらしい。
ついてない日は、本当についてない。
「一人でデパートにでも行こうかなぁ…お洋服見て、苺サンデー食べて…」
前に桐生と行ったとき、とても楽しかったのを覚えている。
けれど…隣に誰もいなくてはつまらない。
「あーあ…暇だなぁ…」
携帯を放り投げて、ゴロリと仰向けになる。そのまま桐生が帰ってくるまで寝ているかなと目を瞑りかけて、はっと身を起こした。
微かに震える携帯が、着信を知らせてしる。
遥は急いで携帯をとると、その相手にドキリと胸を高鳴らせた。
『着信:真島』
『よぉ、遥ちゃん』
「どうしたの?こんな時間から」
いたって冷静に応える振りをしているけれど、心臓は爆発寸前。
ちょっと、まずいくらいに。
真島はそんなことに気づくはずもなく、電話の向こうでヘラヘラしている。
『いま暇やねーん。ちょっと遊んでぇな』
「………暇って、今日から現場だって言ってたのに」
だから、あえて電話しなかった。
仕事の邪魔をして、うっとおしい奴だと思われたくなかったから。
『ええねんええねん。ワシの分までみんな頑張っとるから』
だから遊ぼうやぁ、と真島は笑った。
こんな人でも舎弟たちは、命を捧げるが如く慕っている。それはもう、カリスマ並に。
だからちょっと可哀想…と思いながらも、大丈夫かと遥はもう何も言わなかった。
それに…せっかく、真島は自分に誘いをかけてきてくれたのだから。
「うん、いいよ!いまどこ?」
『現場の近くの公園や。こないだ言ったとこ、覚えとるか?』
「うん、大丈夫!じゃあいまから行くね」
『おう!…あ、そんでな…』
「うん?」
『桐生ちゃんも、一緒に来れるかなぁ?』
シン、と時間が止まったような気がした。
わかってはいたことだけれど、心臓が痛い。苦しい。
桐生と会う口実が、いつも自分と遊ぶことだと…遥が気づいていないはずがなかった。
少し、手に力が入る。
「ごめんね?おじさん、今日は急な呼び出しがあって。お仕事に行っちやったの」
『…さよか。残念やなぁ』
「私だけだけど、いい?」
『ええ?!遥ちゃん何言うとんの!!もともと遥ちゃん誘ったんやないか!』
当たり前やろ、といい言葉が、嬉しくて…辛い。
でも、それでも。
「うん!じゃ、すぐ行く!」
一番のお気に入りのワンピースを着て、薄いピンクのリップを塗って。
髪止めはいつもとは、違うやつにした。
好きな人と会うから、少しでも綺麗に見せたくて。
例え、その人の心がこちらへ向かなくとも。
あの人が買ってくれた赤い自転車に乗って、いま、会いに行く。
嘘をついた日
ver.2
「おじさん、嘘ついてるでしょう?」
遥がそう言う度に俺はまたかと思い、これ以上ない居心地の悪さを感じる。
ため息をついた俺はいつものようにこう返事をした。
「嘘なんて何もないぞ」
「嘘! ぜーったい嘘! だっておじさんのいつもの癖が出てるんだもん」
‘癖’とは遥曰く、俺が嘘をついている時に必ずするある仕草の事らしいのだが…
「おい遥。まず言っとくが俺はお前に嘘をついてなんかないぞ。それを断っといた上で聞くが、どんな癖のことを言ってるんだ?」
遥はぷいとそっぽを向き、
「…教えない」
と一言だけ呟いた。
「教えろ…遥」
「駄目」
「遥」
「ダメダメダメダメぜーったい駄目!」
遥は首を大きく振った。
「だっておじさんにそれを教えるとするよ、そしたらその癖をしないようにって気をつけるでしょう?」
当たり前だ。
「おじさん不器用だから気をつけようってしたらね動きがあやしくなって余計に嘘ついてるってバレちゃうよ? それでもいいの?」
大の男を小馬鹿にするにも程がある。
俺はため息混じりに、
「もう勝手に言っとけ…」
と遥に何か言い返す気力さえ失った。
「で、今日はどんな嘘をついてるのかなぁ…」
その言葉を残しながら遥は立ち上がり、俺の反撃を待たずに自分の部屋へと去ってしまった。
さて、ここからが俺の‘嘘’の始まりだ。
しばらくしてから押し入れの上、遥の手の届かない所に隠してあったものを取り出した。
それを机の上にコトンと置き、今日の主役がやってくるのを待つ。
ガチャリとドアが開くとその人物は目を丸くしながらこちらに近付いてきた。
「何これ?」
机の上を指して遥が聞く。
「…お前にだ」
遥はその言葉に驚き、赤いリボンがかかった箱を大きな瞳でしげしげと見つめた。
「私に?」
まるで仕掛けられた罠でもあるように少し遠回りに眺めていた遥だったが急に足取りをはやめて机の前にちょこんと座り込んだ。
「誕生日おめでとう」
すぅと息を吸い込み決心した俺は、滅多に言わない祝いの言葉を遥に送る。
「ありがとう」
遥の素直な返事がいやに身に染みた気がした。
「これを隠そうとして嘘ついてたんだね…おかしい」
くすくすと笑いながら遥はプレゼントを開けていく。
「遥…これ以上俺を馬鹿にするな…」
「馬鹿にする訳がないでしょう?」
そう言って見つめてきた瞳がいたずらな光を見せたかと思ったら遥は軽くウィンクをした。
俺はふっと鼻で笑うしかなかった。
「でもこういう嘘は嬉しいな… また来年もお願いしようかなぁ…」
「調子のいい奴だな…」
俺は少しあきれて遥の頭をぽんと叩いた。
遥とこれからまた一年を楽しく過ごせるようにと改めて思える今日は彼女の生まれてきた日。
あわよくば来年の今頃には癖が直って嘘がばれないようにとも祈ったが、さてどうなる事やら…
同じように居心地が悪くなっても下手な嘘をつかなければいけない日となるのだろうか。
でも楽しい一日には変わりないだろう。
そう思った俺は改めて遥に向き合いこう言った。
「これからまた一年よろしくな…」
すると返事はこうだった。
「うん、いいよ」
なんだそのそっけない返事は?
俺はあまりの事に眉間に皺を寄せた。
人を馬鹿にするにも程があるぞ…
だが俺の眉間の皺は遥の喜ぶ顔に徐々に消されていく。
この笑顔をまた一年、傍で見られるようにと願う今日は嘘をついた日。
Fin
2007.6.22