冬の空はどこまでも青く広がっている。遥は大きく息を吐いた。
高校生の制服。首から下げられた箱。それはまだとても熱くて、抱きしめる事も出来ない。
「はい、こちらに並んでください」
葬儀場の係の人が遥の腕を引っ張った。よろけつつも、遥は言われた場所に立つ。隣に、位牌を持った弥生が、逆側に遺影を持った大吾が立った。
ここまで、一瞬だったと遥は思った。一瞬で、桐生は箱に入ってしまった。
「それでは、お車にどうぞ」
言われて、遥は我に帰る。東城会の黒塗りの車があった。弥生が助手席に、大吾と遥は後部座席に乗った。
焼き場から、本部に帰るのだ。
膝の上の箱が熱いと遥は思った。もう、涙も出なかった。
「遥」
声を掛けられて、遥は顔を上げた。大吾が心配そうな顔をしていた。
「お前、これからどうするんだ。一人じゃないか。当分、俺んトコロにいろ」
ぶっきらぼうな言い方だが、目が真剣だった。遥は小さく笑った。
「大丈夫。一人じゃないから」
「一人じゃない?」
問われて、遥は俯いた。
「赤ちゃん、いるの。おじさんには言えなかったけど。もう四ヶ月なの・・・だから、一人じゃないの」
「遥、それって・・・」
「うん。だから大丈夫」
言った瞬間、大吾が肩を抱き寄せた。
「大丈夫じゃねえよ。どうするんだよ、ガキが生まれるっていうのに」
「大丈夫だよ」
「ダメだ。お前は俺の所に来い。生まれてくるガキもまとめて面倒見てやる」
捕まれた肩が痛い。遥は静かに目を閉じた。
「大吾さん・・・大丈夫だから」
「俺が側にいれば大丈夫になるんだ。分かったな。お前は、元気なガキを産むんだ」
温かい手の感触。涙が、また視界を曇らせる。
「大丈夫・・・」
大吾の優しさが辛かった。遥は、桐の箱を抱きしめた。
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