「各自出航まで自由にしてよーし!」
頭領であるジョニーの宣言に、操舵室に集まったジェリーフィッシュ快賊団のクルーである少女たちから、わっと歓声があがる。
とある港、停泊2日目のことだった。
飛行艇での生活に不自由はないとは言ってもやはり制限があり、燃料や食料などの資材補給で地上に降りる時を利用しての束の間の散策を皆楽しみにしていた。が、何所に行っても他より"少しばかり"有名で、他より"いくらか"目立っているジェリーフィッシュ快賊団のメンバーは、義賊とはいえ立派な犯罪者でありお尋ね者である。だから但し、とジョニーも念を押すことを忘れない。
「あー、うちのレディ達に限って心配ないとは思うが、念のため言っておく。必要のない揉め事はノー・サンキューだ。一般の皆さんに迷惑をかけるなんてえ野暮もなし。それから、出航時間にゃ遅れるんじゃあないぜ。オーケイ?」
了解、はーい、と口々に応えるクルーたち。頷くジョニーの耳に、でもー、という声が届いた。
「でも、どした?」
「んー…あたしたちは大丈夫だけど、団長がねー」
「なんだあ?俺か?」
「そうそう」
「団長は前科があるもんね~」
ねー、という合唱。ええっとね、と情報通を自認するエイプリルが指を折っていく。
「今年に入っても、確実に判ってるだけでまず警察に3回、しつこい賞金稼ぎに追いかけられて2回、」
おいおい、そいつは不可抗力ってヤツだろうと苦笑いするジョニーに構わず、エイプリルは続ける。
「女の人口説いてて遅刻、5回」
「………」
「…エイプリル、ナンパで遅刻は7回だよ」
すかさず訂正し、メイは上目遣いに恨めしそうな視線をジョニーに向けると、確実に、判ってるだけで、と強調した。
「そうだよね、ジョニー?」
「………」
「ジョーニーーィー?」
「………」
無言のままジョニーはクルーに背を向け、そのままゴホンとわざとらしい咳払いを一つする。まったく、こいつらの情報収集能力も侮れねえなぁと胸中で呟きつつ、
「えー、以上で解散。我がジェリーフィッシュ快賊団のレディ達、気をつけて、行ってらっしゃい」
背中越しにひらひら手を振ってみせると、
「もうっ、すぐそうやって誤魔化そうとする!」
案の定メイが食いついて来た。
「んー?どうしたよ。もう解散だぜ、ベイビィ?」
「ジョニーーーーーっ」
「ねえメイ、自由時間なくなっちゃうよ」
「エイプリル、待って!まだボクはジョニーに言いたいことがあるんだから!」
「もー、団長のアレは病気みたいなものでしょ。ほら、早く行こうよ」
「病っ…ちょっと、それはヒドイんじゃない、エイプリル!!そりゃホントの事だけど…って、わあん、もうっ、ジョニーのバカーっ!」
エイプリルに引きずられるようにして大騒ぎのメイ退出。見慣れた光景を笑いをかみ殺しながら見守っていた他の団員たちも、彼女たちに続いて操舵室を出て行った。
病気だバカだと好き勝手言われたジョニーは、やれやれと首を振る。
「いつもの事だがまるでハリケーンだな、ありゃあ」
呟いてブリッジに向かう廊下に自らも出た。自分を呼ぶ小型だがイキのいいハリケーンの、賑やかな声が通路の奥から届く。そういえばハリケーンには女の名前が付けられるんだったなと思い出し、サングラスに隠れたのブルーの瞳が微笑んだ。
PR