JOY TO MY LIFE
ジョニーは打ちのめされていた。今まで生きてきた、決して長くもないが
短くもない人生の中でもベスト3にランクインするほどに。
「……俺と、したことが……」
苦々しくうめいて宙を仰ぐ。
と、ジョニーを打ちのめした元凶が、どこか緊張感の欠けた可愛らしい声で
「あのぉ……どうかしたんですかぁ?」
と尋ねてくる。しかし、ジョニーは敢えて無視を決めこんでいた。
何より、返す言葉がない。
「このジョニー……一生の不覚だ……」
それでも、のほほんとした声は降ってくる。
「途中で剣筋が鈍ったから、ウチはラッキーだったけど……
どこか具合でも悪いんですか?」
悪意がなく、あくまでもジョニーのことを案じているその言葉に観念し、ジョニーは
深く深く嘆息して、ゆっくりと顔を上げた。
視界に飛び込んできたのは、誰もが認める極上の美少女だった。蜂蜜色の髪は
太陽の光を浴びて眩しいほどに輝いており、
水色の瞳は澄んだ湖のようなきらめきを放っている。
彼女は心配そうにこちらをうかがっていた。座り込んでしまっているこちらに合わせて
屈んでいる様は、可憐の一言に尽きた。
それでも、その美貌はジョニーの心を動かすことはできなかった。
何故なら──
「お前……男だろ」
「はい。そーですよ」
やっとの思いで口にした衝撃の事実をあっさりと肯定され、がっくりと肩を落とす。
「男を……口説いちまうとは……あまりにも不覚だ」
「ああ、この格好にはちょっとワケがありまして」
自らの衣装を見下ろした美少女……もとい、少年はぴっと人差し指を立てた。
しかし、そんな彼の言葉も、ジョニーの耳にはロクに入っていない。
「も、いい。わかったから……消えてくれ」
ジョニーにしては切実な懇願も、少年にとっては機嫌を損ねるものだったらしい。
「……先に剣を向けてきたのはそちらですよ?」
あどけなさの残る愛らしい顔で睨まれてもまるで迫力はないが、彼がどうやら怒っている
らしいことはわかった。確かに、抜き身の刃物を突きつけられて、いい顔をできる人間はいないだろう。
「判った……俺が悪かった。悪かったから、勘弁してくれ」
とにかく目の前の小悪魔──脳裏にひらめいた言葉があまりにもぴったりすぎることに、
改めてげんなりするがそれは置いておいて──に立ち去ってほしい一心で詫びる。
修道女(シスター)のような格好をした少年は、今ひとつ納得できずに首を傾げていたが、
幸運なことにジョニーの心意気は伝わったようだ。
「別に、もう気にしてないからいいですけど……。じゃあウチ、もう行きますよ?」
「ああ。……おっと、このことはくれぐれも他言無用にな」
胸をなでおろしつつもしっかり釘を刺すのは忘れない。
ジョニーにいつもの調子が戻ってきた証拠である。
「あのぉ……」
「ん?何だ、坊主」
「だから……さっきのクルーにならないかって話、お断りしますね」
少年が真顔で言ったのを聞き、ジョニーはかくんと顎を外した。
「そんなの当たり前だ。ウチは女子のクルーしか認めてねぇからな」
ふと、この少年があのセーラー服を着たら可愛いかもしれない、などと考えてしまったことは、
後々墓まで持っていこうと誓う一時の気の迷いである。
しかし、少年は次の瞬間、ジョニーにとって最も衝撃的な一言を言い放った。
「じゃあ、あなたは女の人しか救わないんですね」
その言葉に──冗談でなく全身の血の気が引いていった。
少年に他意はないのだろう。純真無垢に見えるその笑顔からは皮肉の色は見て取れない
──これが悪意に満ち満ちた言葉であるのなら、一体この世の中の何を信じたらいいのか。
否。だからこそ、なおのことジョニーの胸を鋭くえぐった。
「なん……だって?」
「だって、あなたは救いたいって思う人をクルーに誘うんでしょう?
女の人しかクルーとして認めないって言ったじゃないですか」
それって、そういうことですよね?
直球ストレートで尋ねられ、ジョニーの頬を冷や汗が流れる。
「あ~それは、だなあ……」
「ああ、別にいいと思いますよ。人それぞれ、考えてることとか信念とか違いますし。
ウチだって、よく不幸だって言われますけど、ホントにホントに、そんな風に
思ったことなんて一度もないんです」
あっけらかんと、そんな風に言い切ってしまえるこの少年は、強い。少年が望み、
手に入れた強さとは、強靭な鋼のような、堅さ──そういうものだった。
しかし。
すべてを失ったあの日、差しのべられたたくましい腕にジョニーが見たものは、
それとは異なる強さだった。
包み込むような慈愛と、しなやかさを兼ね備えた、強さ。
それこそジョニーが憧れ、目指し続けた先にあるものだ。
だというのに──
『ディズィーを、頼む……』
そう告げた、断腸の思いでそう言わねばならなかった男の顔を思い出す度、
ジョニーはいたたまれなくなる。
本当に、あれで良かったのかという後悔が、未だ胸を苛むのだ。
ディズィーがあの森で、静かに暮らし続けることを望まず、暖かな家族と共に
生きていくことを選んだのは紛れもない事実だ。
しかし
彼女を守り続けることを贖罪として生きることを誓った男から、その生きがいを──
生きる活力を奪ってしまったこともまた、事実だ。
しかし、ジョニーは彼、テスタメントをクルーの一員として迎えようとはしなかった。
理由は、ある。
いくらジョニーのメイシップでも、一度に二体──二人のギアを抱え込むことなど
不可能だったし、もしそのようなことになったら、ツェップや警察機構も、
彼らを見逃してはくれぬだろう。
こうするより他に、なかったのだ。そのことに、偽りはない。
しかし
救いを求めていたのは、ディズィーだけではなかったはずだ。
テスタメントもまた、己の望まぬ力に振り回され、傷ついてきた。その彼がようやく
たどり着いたひとすじの光明──希望。
奪ったのは、俺だ。
胸中でうめいた言葉はあまりにも苦く。
それでも、後悔を覚えることは許されず。
答えは未だ、出ない。
不意に、口の中に広がる錆びた鉄の味。
「……おっと」
いつの間にか、強く噛みしめすぎた唇から血が流れ出している。
「どうか、したんですか?」
少年は、まだ辛抱強くこちらを見上げてきている。あるいは、ジョニーが物思いに
ふけっていたのは、存外短い時間だったのかもしれない。
「いいや」
大きく頭を振って、黒髪の男の顔を意識して頭の中から追い出す。「そういえば、お前さん、
そのカッコには何やら事情があるって言ってたな」
「ええ」
少年はこくん、と頷いて話し始めた。
彼の名はブリジットといい、双子の兄がいるのだという。彼が生まれた村には、男児の
双子には災いがあるといわれ、苦渋の末、彼の両親はブリジットを女の子として
育てたのだという。
「ごめんねっていうのが両親の口癖だったんです」
ブリジットはちょっと笑う。その笑みは、すこしだけさびしそうだ。「ウチは不幸だなんて
思ったこと、一度もないのに。父様と母様と、兄様と暮らせるだけで十分幸せだったのに。
でも、ウチがいくらそう言っても、父様も母様も信じてくれなかったんです」
「だから賞金を稼いで、両親を安心させようとしてたのか」
「ハイ」
「だがな、残念ながら、うちのクルーにはもう賞金はかかってないんだ。あきらめてくれ」
「そのようですね。ご迷惑をおかけしました」
ぺこりっと頭を下げるブリジットに、少しだけ罪悪感を覚えるが、まあ、知らぬが仏と
いう言葉もあることだし、ここは、自分が賞金首であることは伏せておく。
「だから、ウチはこれから第二の人生を歩むにふさわしい道を探そうと思うんです」
「そうだな」
「だから、ジョニーさんも落ち込んじゃだめです。何があったか知らないけれど、ジョニーさんが
決めたことなら、きっと間違ってないんです。少なくとも、ジョニーさんにとっては。
だから、もっと胸を張らないと」
ジョニーはまじまじとブリジットを見つめた。わずか14歳の少年に説教をされてしまった。
しかし、今日はそんなことすら痛快だ。
「そう、だな。ありがとうよ、ブリジット」
「いえいえ。どういたしまして」
ジョニーが手を差し出すと、ブリジットは握手に応じる。その手は小さくてやわらかかったが、
たしかに少年の、そして戦う戦士のものだった。
「じゃあ、今度こそウチ、行きます」
言って、ブリジットはとんとん、とつま先で地面を叩いた。
「ああ」
「また、会えるといいですね」
「……そうだな」
返答に微妙な間があいてしまったのは、何というか、複雑な男心というヤツである。
「さよなら。ジョニーさん!」
言うが早いか、ブリジットは、くるりとジョニーに背を向けて走り去っていった。
その後姿を見送りながら、ジョニーはため息をひとつ。
しかし、それは決して苦いものではなかった。
「やれやれ。何ていうか……暴走(スタンピード)ってカンジの坊やだったな」
つぶやいて空を見上げると、愛しのメイシップが大空を美しく泳いでいた。
「ジョニー、手紙が来てるよ」
メイシップの自室でくつろいでいたジョニーの元に、そう言って手紙を持ってきたメイは、
明らかに不機嫌だった。
「おお、サンキュ。んん~どうしたハニー?可愛い顔が台無しだぜ」
「だってそれ、絶対女の子からだもん!!」
叫んで、ジョニーに手渡したばかりの手紙を指差す。
確かに、可愛らしいカンジの封書だったし、書かれている文字は丸文字。
メイが誤解するのも無理はない。
しかし
ジョニーは笑って手を振った。
「あ~あ~違う違う。こいつぁな、そうだな……ダチってところか」
「え~!!絶対女の子からだよ。誤魔化そうとしたって、ボクにはわかるんだからねっ」
しつこく詮索してくるメイに、ジョニーは苦笑するしかない。その手紙には、
差出人のところにブリジットと書かれてあった。
おそらく、あの、ブリジットだろう。
中身を覗き込もうとするメイを上手くあしらい、ジョニーは封を開けた。
中には、便箋と、写真が一枚ずつ。
『新しい居場所を見つけました』
几帳面な丸文字でそれだけを綴った手紙に苦笑し、写真を見て口笛を吹く。
そこには、カメラに向かって大きくVサインを出しているブリジットと、彼に腕をとられて
バランスを崩している金髪の青年が映っていた。
こうして並んで映っていると、まるで本物の兄弟のようだ。
「なぁるほど……そうきたか」
思わず笑って口にすると
「ジョニー!やましいところがないなら、メイにも見せてよ~!!」
「だめだ」
「そーゆーこと言うなら、今晩はジョニーだけ晩御飯ヌキだからね!!」
焦れたメイが、最終手段を持ち出す。
「おいおい、そりゃ卑怯だろ」
「ふん、ジョニーなんて、知らないんだから!」
頬をふくらませて怒るメイの頭を優しくなでて、ジョニーは目を細めた。
これが、俺の幸せってヤツだ。
じんわりと胸が暖まるのを感じながらジョニーは、とりあえずどうやって
メイのご機嫌をとろうか考え始めた。
ジョニーは打ちのめされていた。今まで生きてきた、決して長くもないが
短くもない人生の中でもベスト3にランクインするほどに。
「……俺と、したことが……」
苦々しくうめいて宙を仰ぐ。
と、ジョニーを打ちのめした元凶が、どこか緊張感の欠けた可愛らしい声で
「あのぉ……どうかしたんですかぁ?」
と尋ねてくる。しかし、ジョニーは敢えて無視を決めこんでいた。
何より、返す言葉がない。
「このジョニー……一生の不覚だ……」
それでも、のほほんとした声は降ってくる。
「途中で剣筋が鈍ったから、ウチはラッキーだったけど……
どこか具合でも悪いんですか?」
悪意がなく、あくまでもジョニーのことを案じているその言葉に観念し、ジョニーは
深く深く嘆息して、ゆっくりと顔を上げた。
視界に飛び込んできたのは、誰もが認める極上の美少女だった。蜂蜜色の髪は
太陽の光を浴びて眩しいほどに輝いており、
水色の瞳は澄んだ湖のようなきらめきを放っている。
彼女は心配そうにこちらをうかがっていた。座り込んでしまっているこちらに合わせて
屈んでいる様は、可憐の一言に尽きた。
それでも、その美貌はジョニーの心を動かすことはできなかった。
何故なら──
「お前……男だろ」
「はい。そーですよ」
やっとの思いで口にした衝撃の事実をあっさりと肯定され、がっくりと肩を落とす。
「男を……口説いちまうとは……あまりにも不覚だ」
「ああ、この格好にはちょっとワケがありまして」
自らの衣装を見下ろした美少女……もとい、少年はぴっと人差し指を立てた。
しかし、そんな彼の言葉も、ジョニーの耳にはロクに入っていない。
「も、いい。わかったから……消えてくれ」
ジョニーにしては切実な懇願も、少年にとっては機嫌を損ねるものだったらしい。
「……先に剣を向けてきたのはそちらですよ?」
あどけなさの残る愛らしい顔で睨まれてもまるで迫力はないが、彼がどうやら怒っている
らしいことはわかった。確かに、抜き身の刃物を突きつけられて、いい顔をできる人間はいないだろう。
「判った……俺が悪かった。悪かったから、勘弁してくれ」
とにかく目の前の小悪魔──脳裏にひらめいた言葉があまりにもぴったりすぎることに、
改めてげんなりするがそれは置いておいて──に立ち去ってほしい一心で詫びる。
修道女(シスター)のような格好をした少年は、今ひとつ納得できずに首を傾げていたが、
幸運なことにジョニーの心意気は伝わったようだ。
「別に、もう気にしてないからいいですけど……。じゃあウチ、もう行きますよ?」
「ああ。……おっと、このことはくれぐれも他言無用にな」
胸をなでおろしつつもしっかり釘を刺すのは忘れない。
ジョニーにいつもの調子が戻ってきた証拠である。
「あのぉ……」
「ん?何だ、坊主」
「だから……さっきのクルーにならないかって話、お断りしますね」
少年が真顔で言ったのを聞き、ジョニーはかくんと顎を外した。
「そんなの当たり前だ。ウチは女子のクルーしか認めてねぇからな」
ふと、この少年があのセーラー服を着たら可愛いかもしれない、などと考えてしまったことは、
後々墓まで持っていこうと誓う一時の気の迷いである。
しかし、少年は次の瞬間、ジョニーにとって最も衝撃的な一言を言い放った。
「じゃあ、あなたは女の人しか救わないんですね」
その言葉に──冗談でなく全身の血の気が引いていった。
少年に他意はないのだろう。純真無垢に見えるその笑顔からは皮肉の色は見て取れない
──これが悪意に満ち満ちた言葉であるのなら、一体この世の中の何を信じたらいいのか。
否。だからこそ、なおのことジョニーの胸を鋭くえぐった。
「なん……だって?」
「だって、あなたは救いたいって思う人をクルーに誘うんでしょう?
女の人しかクルーとして認めないって言ったじゃないですか」
それって、そういうことですよね?
直球ストレートで尋ねられ、ジョニーの頬を冷や汗が流れる。
「あ~それは、だなあ……」
「ああ、別にいいと思いますよ。人それぞれ、考えてることとか信念とか違いますし。
ウチだって、よく不幸だって言われますけど、ホントにホントに、そんな風に
思ったことなんて一度もないんです」
あっけらかんと、そんな風に言い切ってしまえるこの少年は、強い。少年が望み、
手に入れた強さとは、強靭な鋼のような、堅さ──そういうものだった。
しかし。
すべてを失ったあの日、差しのべられたたくましい腕にジョニーが見たものは、
それとは異なる強さだった。
包み込むような慈愛と、しなやかさを兼ね備えた、強さ。
それこそジョニーが憧れ、目指し続けた先にあるものだ。
だというのに──
『ディズィーを、頼む……』
そう告げた、断腸の思いでそう言わねばならなかった男の顔を思い出す度、
ジョニーはいたたまれなくなる。
本当に、あれで良かったのかという後悔が、未だ胸を苛むのだ。
ディズィーがあの森で、静かに暮らし続けることを望まず、暖かな家族と共に
生きていくことを選んだのは紛れもない事実だ。
しかし
彼女を守り続けることを贖罪として生きることを誓った男から、その生きがいを──
生きる活力を奪ってしまったこともまた、事実だ。
しかし、ジョニーは彼、テスタメントをクルーの一員として迎えようとはしなかった。
理由は、ある。
いくらジョニーのメイシップでも、一度に二体──二人のギアを抱え込むことなど
不可能だったし、もしそのようなことになったら、ツェップや警察機構も、
彼らを見逃してはくれぬだろう。
こうするより他に、なかったのだ。そのことに、偽りはない。
しかし
救いを求めていたのは、ディズィーだけではなかったはずだ。
テスタメントもまた、己の望まぬ力に振り回され、傷ついてきた。その彼がようやく
たどり着いたひとすじの光明──希望。
奪ったのは、俺だ。
胸中でうめいた言葉はあまりにも苦く。
それでも、後悔を覚えることは許されず。
答えは未だ、出ない。
不意に、口の中に広がる錆びた鉄の味。
「……おっと」
いつの間にか、強く噛みしめすぎた唇から血が流れ出している。
「どうか、したんですか?」
少年は、まだ辛抱強くこちらを見上げてきている。あるいは、ジョニーが物思いに
ふけっていたのは、存外短い時間だったのかもしれない。
「いいや」
大きく頭を振って、黒髪の男の顔を意識して頭の中から追い出す。「そういえば、お前さん、
そのカッコには何やら事情があるって言ってたな」
「ええ」
少年はこくん、と頷いて話し始めた。
彼の名はブリジットといい、双子の兄がいるのだという。彼が生まれた村には、男児の
双子には災いがあるといわれ、苦渋の末、彼の両親はブリジットを女の子として
育てたのだという。
「ごめんねっていうのが両親の口癖だったんです」
ブリジットはちょっと笑う。その笑みは、すこしだけさびしそうだ。「ウチは不幸だなんて
思ったこと、一度もないのに。父様と母様と、兄様と暮らせるだけで十分幸せだったのに。
でも、ウチがいくらそう言っても、父様も母様も信じてくれなかったんです」
「だから賞金を稼いで、両親を安心させようとしてたのか」
「ハイ」
「だがな、残念ながら、うちのクルーにはもう賞金はかかってないんだ。あきらめてくれ」
「そのようですね。ご迷惑をおかけしました」
ぺこりっと頭を下げるブリジットに、少しだけ罪悪感を覚えるが、まあ、知らぬが仏と
いう言葉もあることだし、ここは、自分が賞金首であることは伏せておく。
「だから、ウチはこれから第二の人生を歩むにふさわしい道を探そうと思うんです」
「そうだな」
「だから、ジョニーさんも落ち込んじゃだめです。何があったか知らないけれど、ジョニーさんが
決めたことなら、きっと間違ってないんです。少なくとも、ジョニーさんにとっては。
だから、もっと胸を張らないと」
ジョニーはまじまじとブリジットを見つめた。わずか14歳の少年に説教をされてしまった。
しかし、今日はそんなことすら痛快だ。
「そう、だな。ありがとうよ、ブリジット」
「いえいえ。どういたしまして」
ジョニーが手を差し出すと、ブリジットは握手に応じる。その手は小さくてやわらかかったが、
たしかに少年の、そして戦う戦士のものだった。
「じゃあ、今度こそウチ、行きます」
言って、ブリジットはとんとん、とつま先で地面を叩いた。
「ああ」
「また、会えるといいですね」
「……そうだな」
返答に微妙な間があいてしまったのは、何というか、複雑な男心というヤツである。
「さよなら。ジョニーさん!」
言うが早いか、ブリジットは、くるりとジョニーに背を向けて走り去っていった。
その後姿を見送りながら、ジョニーはため息をひとつ。
しかし、それは決して苦いものではなかった。
「やれやれ。何ていうか……暴走(スタンピード)ってカンジの坊やだったな」
つぶやいて空を見上げると、愛しのメイシップが大空を美しく泳いでいた。
「ジョニー、手紙が来てるよ」
メイシップの自室でくつろいでいたジョニーの元に、そう言って手紙を持ってきたメイは、
明らかに不機嫌だった。
「おお、サンキュ。んん~どうしたハニー?可愛い顔が台無しだぜ」
「だってそれ、絶対女の子からだもん!!」
叫んで、ジョニーに手渡したばかりの手紙を指差す。
確かに、可愛らしいカンジの封書だったし、書かれている文字は丸文字。
メイが誤解するのも無理はない。
しかし
ジョニーは笑って手を振った。
「あ~あ~違う違う。こいつぁな、そうだな……ダチってところか」
「え~!!絶対女の子からだよ。誤魔化そうとしたって、ボクにはわかるんだからねっ」
しつこく詮索してくるメイに、ジョニーは苦笑するしかない。その手紙には、
差出人のところにブリジットと書かれてあった。
おそらく、あの、ブリジットだろう。
中身を覗き込もうとするメイを上手くあしらい、ジョニーは封を開けた。
中には、便箋と、写真が一枚ずつ。
『新しい居場所を見つけました』
几帳面な丸文字でそれだけを綴った手紙に苦笑し、写真を見て口笛を吹く。
そこには、カメラに向かって大きくVサインを出しているブリジットと、彼に腕をとられて
バランスを崩している金髪の青年が映っていた。
こうして並んで映っていると、まるで本物の兄弟のようだ。
「なぁるほど……そうきたか」
思わず笑って口にすると
「ジョニー!やましいところがないなら、メイにも見せてよ~!!」
「だめだ」
「そーゆーこと言うなら、今晩はジョニーだけ晩御飯ヌキだからね!!」
焦れたメイが、最終手段を持ち出す。
「おいおい、そりゃ卑怯だろ」
「ふん、ジョニーなんて、知らないんだから!」
頬をふくらませて怒るメイの頭を優しくなでて、ジョニーは目を細めた。
これが、俺の幸せってヤツだ。
じんわりと胸が暖まるのを感じながらジョニーは、とりあえずどうやって
メイのご機嫌をとろうか考え始めた。
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