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少しばかりのノイズ交じりに相手の声を聞く。
『奴等、ヤクの取引についてはがっちり手綱を握ってやがる。 規制が厳しくなったっていうかな。 安い紛いモンが出回らなくなって庶民が困ってるぜ、アンタ、助けてやったらどうだい?ジョニー』
「フ、バカ言ってんじゃねぇよ」
相手の冗談に低く笑った。
「で、殺しの仕事は相変わらずか?」
『ああ、引き受けた仕事はきっちりやってるぜ。 だが、依頼は何でも請け負うってワケじゃあなくなったみたいだな。 相当数断ってると聞く』
「ヤクには規制を掛けて殺しの依頼は選別するか。 それじゃあ金が入って来ねェだろうなァ」
『ところがそうでもない様なんだな。 ヤクじゃねぇが、奴等は市場に大きな影響を持ち始めてる』
「市場?」
『投機だよ。 この世は未だに『戦後』だ、物でも土地でも価格の変動が激しい。 奴等のやり方がこれまたえらく巧妙でな、一気に頭角を現してからは短期間であれよあれよという間にだ』
「成る程な、投機で資金調達、おまけに市場の価格変動に影響力も持つか。 奴さん達にとっちゃ二重の利点があるってワケだ。 考えやがったなァ」
『ま、財界への影響が大きいってことは芋蔓に政界への影響も大きいってこった。 これまでとは別の意味で脅威に成りつつあるぜ』
「インフレーションでも誘動されたらそりゃ企業家も政治家もたまったモンじゃないだろうからな。 おっかないねェ」
『奴等にその気があるんだかどうかは知らねぇが、前より怖いかも知れねぇってオレらの間じゃ囁かれてるぜ。 前みたいに頭ごなしでも力ずくでもねぇし、こっちがちゃんと筋を通せばずっと物分りの良い相手なんだけどよ、だからって調子こいてると痛い目に合う。 それはもう、確実にな。 筋と交わした約束を守ってる分には前より自由も利くし保護もしてくれるイイ相手なんだが、それを外れたら容赦がねぇんだ。 前は頭ごなしだった割には金詰むなり女渡すなりすりゃ結構なぁなぁで抜け穴もあったが、今じゃそういうの通じねぇしよ』
「ふぅん、気を付けな。 アンタがいなくなったらこっちも困るんでな」
『オレはそんなヘマはしねぇよ』
「ま、そうだろうな。 じゃ、報告ありがとよ。 またヨロシクな」

通信機をオフにして、新しい煙草に火を着ける。
ゆっくりと煙を吐き出しながら情報屋の言葉を頭の中で巡らせる。
…やってるな、奴さん。
アサシンのお人形さんはやはりただの操り人形じゃなかったか。

投機か。 お前さん、そういうゲームは得意そうだな。
暗殺者から華麗なる投機家に転身出来ればお前さんも楽なんだろうが、そうもいかないんだろうな。 相変わらず人を殺してるんだろう? お前さんには似合わないがな。

あの日、艇が波止場へ着いた時にお前さんが突っ立ってたのには驚いたぜ。
何の用かと訊けばディズィーとメイに詫びに来たと言う。
メイはともかく、ディズィーは怖がるかと思ったが…
「私、行きます」
そう言ってディズィーはお前のところへ進んだ。
ディズィーを前にしたお前さんは紳士よろしく片膝を地に突いた。
何を話したかは知らないが、戻って来たディズィーはひどく辛そうな顔をしていた。
「ディズィー、どうしたの? アイツにヤなコト言われたの? ボク、行って来る!」
「ち、違っ…」
メイの奴、ディズィーの言葉を待たずにぷんすかとお前のとこへ行ったっけな。
「ディズィー、どうした?」
「あの人… 哀しい人です。 あんなに優しい瞳をしているのに… どうして…」
「…ああ、そうだな」
組織の暗殺者で人殺しのお前。

「そんな顔も見せない奴に謝られたって、ボク、嬉しくないよ!」
メイの奴は大声だからな。 離れてても筒抜けだ。 強気に言うメイのその声は動揺していた。
言われてお前さんは前髪を掻き上げた。
「殴っていい?」
おいおい、お前に殴られたらソイツ、二度と見られない顔になるぜ? と思ったが…
振り下ろしたメイの右手がお前さんの頬を叩くことはなかった。 髪を掠っただけで。
「殴ったよ。 だから、これで帳消しにしてあげるっ!」
そう言ってメイは走って戻って来た。
ゆっくりと立ち上がったお前さんは俺達に向かって一礼すると、静かに去ったな。

「メイ、本気じゃなかったんだな」
少し息を切らせたメイはふくれっ面を残したまま言った。
「本気だったよ。 殴った方がアイツの気が済むと思ったんだ。 でも、当たんなかったのっ」
「そうか」
「…あんな真っ直ぐに見つめられて、素直に目を閉じられたらさ… ボク、出来なかったよ。 手が震えちゃって… 殴られるよりもっとアイツの心は痛そうだったから…」
「良い子だな、メイ」
メイの肩をポンポンと叩いて言うと、メイはついと肩を避けた。
「子供扱いしないでよ、ジョニー…」
うちのお姫さんもいつの間にか大人への階段を上っているらしい。
どうせならもう少しおしとやかなレィディに育って欲しいが。

まったく、律儀で礼儀正しい暗殺者がいるもんだ。
ソルのとこへも詫びに行ったとは知らなかったぜ。

お前さんが女だったら、この艇のクルーにしてやってもいいんだが…
まぁ、無理はするな。 無理はしなきゃやってられないにしても。
お前さんに頼んだライター、まだ貰ってないしな。
この前の借りも返しちゃいない。 俺は借りは返す主義なんだ。

冷めかけたコーヒーを口にする。
お前さんの伝言どおり、クルーのココアは買ったぜ。 ミルクと砂糖入りのヤツな。
このコーヒーは俺の自腹だ。 安心しろ。



毎日、新聞の賞金首の報告欄を確認するのが日課。
毎日、貴方の名前が削除されていないことに安心する。
賞金首のリストに名前があるのを見て安心するなんて可笑しなことだけど。

昨日、出掛けた途中で猫を見かけたわ。
出窓に置かれた鉢植えの隣に佇むロシアン・ブルー。
ガラス越しに目が合ったの。
細っそりとしていて、銀を帯びたブルーの毛並み。 首に青いリボンが付いていて。
瞳の色は違うけれど、貴方に似ていると思ったわ。
ロシアン・ブルーは穏やかで優しい猫。

私は猫を飼うのが夢だった。
置いて逝ったら可哀相だから飼うことはなかったけれど。
組織を抜けてからは追われる生活だったし…
そうね、落ち着いたら猫を飼うのも良いわね。
アビシニアン、ソマリ、アメリカン・ショートヘア、スコティッシュ・フォールド…
どれもカワイイわね。
でも、ロシアン・ブルーは辞めておくわ。 だって、何だか滑稽でしょう。

久し振りに美味しい紅茶が飲みたいと思って、紅茶の缶を買ったわ。
でもね、何度淹れても貴方が淹れるようには美味しくならないの。
貴方に美味しい紅茶の淹れ方を教わっておけば良かったわね。

『どうぞ、ミリア』
カタリ、と置かれた陶磁のティー・セット。 苺のヴァレーニエが添えられている。
懐かしい。 ヴァレーニエなんて良く見つけて来たものだと思う。
『イングランドではレモン・ティーをロシアン・ティーと言うのですよ。 御存知でしたか?』

優しい声、優しい指先。 遠い日に彼と交わした会話。

ヴェノ、今度は、これからは、貴方が殺して来た自分を生かしてあげて。
そして、もしも貴方が少しでも私のことを思ってくれるのなら、生きていて。
もう会うことはないのでしょう、それでも、もしも今度貴方に会ったら…
その時には私に「ごめんなさい」と言わせて。
その時には、きっと私にも言えるから。 言えるようになってみせるから…
ねぇ、ヴェノ…
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