5.流れ星に願いを
地球から20数光年離れた、星しか無いこの世界を、男はよく訪れました。
その時は宇宙船の音楽も全て止めて、ただただ、その光を見るのです。
少女は彼と一緒に、同じ光を眺めることをしながら、その男の事を考えるのでした。
男の体と心は、もはや男のものではなく、人としての暖かさを持ってはいませんでしたが、
あの光の中では、そんな未来など知りもしないまま、幸せに笑っている人間としての彼が居るのです。
少女は男や自分の悲しい人生を運命なんて言葉で片付けたくはありませんでしたが、この光を見て、
隣にいる男を見ると、男の言う通り、「運命は動かし難い必然」で出来ているのかもしれないと、
少し悲しくなりながら思うのでした。
未来のことが決まっていると思いながらもその実、何も解っていない20数光年先の人々と、
これから光の中の彼らが、どんな運命を辿るか知って眺める、今の自分たちを考えると、思うのです。
運命は予め定められて、抗えないものなのかもしれないと。
少女はひょっとしたらここから更に数光年先に未来の自分が居て、今の自分を眺めているのかもしれないと、
くるりと後ろを振り返ってみました。そこには綺麗な星々が、光の渦を作っているだけなのでした。
少女は流れ星のようなその光をじっと見つめ、そしてゆっくりと視点を戻し、叶わないと想いながらも願うのでした。
光の中のあなたが、どうか幸せに暮らしますよう。あなたの未来が、どうか救いあるものでありますよう。
あなたにはこれから、想像を超える絶望が訪れるでしょう。身も心も凍えるような、深い闇を見るでしょう。
暗く爛れた悲愴と憎悪から這いずり出てきた時、かつて自分を蔑み哂い、過去のものとして斬り捨てるでしょう。
でも、笑顔と幸せを忘れないで下さい。例え人の心は移ろいやすいものでも、その気持ちは確かに在った事を。
その感情は確かに本物だったということを、思い出して下さい。20数年前のあなたの為に祈りましょう。
今のあなたの為に願いましょう。
光の中の男には、周りがとても美しく、当たり前のようなものだから、
宇宙に瞬く星の一つが、まさか男のためだけを思って淡く輝いているなどと、気付くわけもありません。
でも、少女はそれでも構いませんでした。男のために想わずにはいられなかったのですから。
何故なら隣にいる男は、不思議な表情を湛えたまま、切ないくらいまっすぐにその光を見つめるのですから。
強い想いには力があります。それはまじないに変わって男に届き、少しでも彼の闇を照らし、癒せるかもしれません。
それが出来るのならば、少女は何を惜しむでしょうか。
少女はゆるく目を閉じます。そして心の中で、今も呼びかけるのです。
伯爵、わたくしの声が聞こえましたか?今のわたくしの声が聞こえますか? と。
地球から20数光年離れた、星しか無いこの世界を、男はよく訪れました。
その時は宇宙船の音楽も全て止めて、ただただ、その光を見るのです。
少女は彼と一緒に、同じ光を眺めることをしながら、その男の事を考えるのでした。
男の体と心は、もはや男のものではなく、人としての暖かさを持ってはいませんでしたが、
あの光の中では、そんな未来など知りもしないまま、幸せに笑っている人間としての彼が居るのです。
少女は男や自分の悲しい人生を運命なんて言葉で片付けたくはありませんでしたが、この光を見て、
隣にいる男を見ると、男の言う通り、「運命は動かし難い必然」で出来ているのかもしれないと、
少し悲しくなりながら思うのでした。
未来のことが決まっていると思いながらもその実、何も解っていない20数光年先の人々と、
これから光の中の彼らが、どんな運命を辿るか知って眺める、今の自分たちを考えると、思うのです。
運命は予め定められて、抗えないものなのかもしれないと。
少女はひょっとしたらここから更に数光年先に未来の自分が居て、今の自分を眺めているのかもしれないと、
くるりと後ろを振り返ってみました。そこには綺麗な星々が、光の渦を作っているだけなのでした。
少女は流れ星のようなその光をじっと見つめ、そしてゆっくりと視点を戻し、叶わないと想いながらも願うのでした。
光の中のあなたが、どうか幸せに暮らしますよう。あなたの未来が、どうか救いあるものでありますよう。
あなたにはこれから、想像を超える絶望が訪れるでしょう。身も心も凍えるような、深い闇を見るでしょう。
暗く爛れた悲愴と憎悪から這いずり出てきた時、かつて自分を蔑み哂い、過去のものとして斬り捨てるでしょう。
でも、笑顔と幸せを忘れないで下さい。例え人の心は移ろいやすいものでも、その気持ちは確かに在った事を。
その感情は確かに本物だったということを、思い出して下さい。20数年前のあなたの為に祈りましょう。
今のあなたの為に願いましょう。
光の中の男には、周りがとても美しく、当たり前のようなものだから、
宇宙に瞬く星の一つが、まさか男のためだけを思って淡く輝いているなどと、気付くわけもありません。
でも、少女はそれでも構いませんでした。男のために想わずにはいられなかったのですから。
何故なら隣にいる男は、不思議な表情を湛えたまま、切ないくらいまっすぐにその光を見つめるのですから。
強い想いには力があります。それはまじないに変わって男に届き、少しでも彼の闇を照らし、癒せるかもしれません。
それが出来るのならば、少女は何を惜しむでしょうか。
少女はゆるく目を閉じます。そして心の中で、今も呼びかけるのです。
伯爵、わたくしの声が聞こえましたか?今のわたくしの声が聞こえますか? と。
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