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 その日エデの部屋を訪ね、ふと壁を見ると…
 鞭が掛かってあった。

■Q. die Qual/試練、責め苦

 多少戸惑ったが微笑を浮かべ、ゆっくりと問題の品を指してエデに訊ねる。
「エデ…。あれは何だ?」
「鞭ですよ。」
 少女は儚げに微笑みながらもはっきりと答える。
 …それは解る、そうじゃなくて…いや違う、私の質問がおかしいのか。
「何故ここに鞭があるのだ?」
「テレザから頂きましたの。」
 テレザ。……ルイジ・ヴァンパの情婦だな。獲物をいたぶる事が趣味のサディスティックな美女だ。
 ルナでの冒険劇で悪役を演じさせた時、男爵がもう少し遅かったらアルベールは間違いなく傷物だっただろう、演技でも何でも手加減が出来ない女だから。私が内心どれ程慌てたかあの少年二人は解っていないに違いない。パリに着てからもヴァンパ一味には復讐の仕込みをある程度任せているし、屋敷に時折出入りしているのも知っている。が、何故にエデへ鞭など贈ったのだろうあの女は。
「鞭がどういう用途で使われているか知っているのか?」
「動物の調教道具、罪人への拷問具、中世の貴族には躾として用いた事もあるとか。テレザはそれを快楽の為に使うと言っておりました。」
 そこまで理解していて掛けてあるのか。呆然とエデの顔を眺め、鞭を眺める。少女がコレを嬉しそうに振るう姿とか全然想像が出来ない。私の想像力が貧困というより、意図的に想像することを止めているのだろう。そんな私の背中にエデがまた説明をかぶせる。
「少し手ほどきを受けたのですが、とても難しくて話にならず、彼女に笑われました。…今度は短い鞭を持ってきてくれると約束して頂きましたの、その服では振るいにくいからと、コルセットも作ってくださるそうですわ。」
 丁重にお断りなさい。服は自分の個性を理解してこそ映えるもので、お前には心底似合わないと思う。首を回る音が聞こえてきそうなくらいゆぅったりとエデに顔だけ向けて、本題に入る。
「何故、鞭の手ほどきなど?」
 すると少女は伯爵を穏やかに見つめながら、ゆっくりと答えた。
「『アンタは受身過ぎるから、いつか伯爵が逃げてしまうよ。体の良いように可愛がられ理屈をつけられ最後には捨てられるんだ。あのデコの怪物にも一度徹底的に痛い目、遭わせてやりな。』と。テレザはわたくしを心配して、わたくしに自己を表現する術を教えようとしたのでしょう。」
 ぼんやりとその説明を反復させる。言葉を紡ぐエデの表情の、何と消え入りそうな事か。
 成る程、テレザの言う事は間違いではない。少女も彼女の言葉が真実だと解っているのだろう。
 宜しい、宜しい。全て解ったよ愛しい子。しかしすまないが巌窟王と私は同じ身体に入っているので『徹底的に痛い目』に遭うのは一緒なのだよ。
「で、お前は私にコレを使いたいのか?」
「まさか、わたくしは使いません。」
 エデは年不相応の決意を滲ませた声で答えた。
「伯爵は本当に心を決めた時、きっとわたくしが何をしようと受け入れて下さらないでしょうから。」
 縛ろうが叩こうが、閉じ込めようが何をしようが、誰も彼を留めて置けないのだ。彼自身ですら。
「貴方の心の中にある鈍く光る刃の鋭さ、冷たさ、そして強靭さ。わたくしは解っているつもりです。」
 伯爵は何も答えない。彼は黙って、姫君の言葉を聞いている。
「この果てにあるものは決して穏やかな幸せではないことも理解しています。それに向かい歩む事が傍目からどんなに痛々しく映るかも。けれどそれで良いのです。わたくしは運命に沿いたいのではなく、貴方に添ってゆきたいのですから。」
 嗚呼。なんというかわいそうな子だろうか。あまりの痛々しさに目を細める。
 14歳。たったの14歳だ。だのにこの悲痛なまでの決意はなんだ。
 不幸は少女を、歪みにすら近い形で大人にしてみせた。でもそれすら、自分と共にあれるのなら不幸ではないと、事ある毎に微笑んで言って来る。それはとても哀しく痛々しい、だからこそ愛おしく、己の愚かさを認めていながら傍らに置くのだろう。
 ありがとう。お前の存在は、お前が考えている以上に私にとってかけがえのないものだよ。
「…それが望みなら、いくらでも側にいるが良い。」
 胸の内に溢れる言葉は口にすると随分素っ気無いものだった。
 しかし少女は、全てを解っているとでも言うように、嬉しそうに微笑むのだ。



「でも折角教わったのですから、ちょっと苦しい事があった時に試しにしてみようかとも思いますね。」
 …そうだな、そのくらいの遊び心は必要だ。だが試しでヒトをしばくものではないぞ。
 伯爵は一層青褪めた顔で微笑み、無言のまま、「止めて」とエデに訴えた。

***********
 伯爵はエデがどんな運命にも負けない子になって欲しいとは思うだけれど、
 彼女にとっては復讐鬼として生きる伯爵こそが「とんでもない運命」なので、
 何と言うか愚かで愛しくて哀れで、せめて強く在って欲しいと考えるけど、
 だからって鞭で男を手懐けるような女にはなって欲しくない複雑な心境。
 …だと、良いな。もうそろそろオフィシャルの原型留めていません(元々☆)

25/07/2006.makure
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