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うろほろぞ
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1.ほんのりと紅い

 どこのホテルに長期滞在をするにしても、この気紛れな大富豪、モンテ・クリスト伯爵の行動は一緒だった。
 一番高い階を丸ごと買い上げ、元など解らないくらい改装してしまう。古代西洋を中心に、ありとあらゆる贅を尽くしたその場所だけ、物語の王宮から抜けでたような、夢のような美しさを誇る。バティスタンはその徹底ぶりに毎度の事ながら口笛を吹いてしまうくらいだ。

 何かと秘密主義で放任主義でもある伯爵家では、例えホテルだろうと、家来にも奴隷にも部屋が個別に与えられている。エデは与えられたその部屋で、ゆったりと美しい曲線を描く椅子に腰かけ、ただただ琴を奏でていた。ふと気配を感じて扉の方を見やると、主人が佇んでいた。仕事から帰ってきていたらしい。淡く、消え入りそうな微笑を浮かべ少女は囁く。
「お帰りなさいませ、伯爵。」
「相変わらず美しい調べだな、エデ……。」
 やや疲れが堪っているのか、伯爵の声には美しさはあれど冴えはなかった。エデはそれを悲しく思ったがあれこれ問いただすことは無く、少しでも主人の安らぎになればとまた琴を奏でる。それがありがたくもあるのだが、同時に辛く思うこともあった。
 不運な彼女の境遇を作ったのはフェルナンだが、彼女を傍目人形の様に扱っているのは自分で…少女から自由を奪っているのに間違いなく加担しているのだ。自分に心を許してくれているのも解る、そして進んで自分の人形になろうとしている事も。彼女と共にパリへ降り立つ日が来たなら言ってみようか、自由に生きてご覧と。命令ではない自分の意志で。私には未来は無いのだから。
 だがそれも、幼い彼女にはまだ先の話…。
「エデ。」
 もう一度声をかけて近寄る。不思議そうに見上げるエデの前に、ふわりと赤い薔薇の花が舞った。伯爵が買ってきたらしい(買わせたのかもしれないが、まぁそんな事はとりあえずどうでも良い)。
「まぁ…!」
 幻想的で美しいその光景に少女が目を見張ると、主人の真紅と黄金の瞳がうっすらと微笑む。
「綺麗だろう?お前の国ではあまり見られない花だと思ったが。花言葉はhaidee…お前の名と同じ意味だ。」
 それを聞いてふわーとエデがほんのり紅くなる。その可愛らしさに、演技ではなく口元が綻んだ。
「エデ、外には素晴らしい世界がある。お前はまだ曇りない目を持っている。今は私と一緒でも、いつか…」
「伯爵。」
 くい、とエデが伯爵の袖を持つ。か弱い力ではあったが、強い意志が伝わった。そして笑う、人形のように美しく。でも瞳には意思の色を湛えて。
「わたくしは伯爵にお遣え出来て幸せなのです。」
 ああ、だからいけないというのに。仕方ないなと苦笑をしながら、こちらを真っ直ぐに見つめてくるエデの額に、伯爵は軽い口付けを落とした。


****************
「エデ(heidee)」と言う名は貞節、純潔、無垢という意味だそうですね、素敵な名です。そして赤い薔薇(貞節)、その蕾(純潔)、葉(無垢の美しさ)で花言葉が網羅出来るそこらへんでも素晴らしい名です(笑)。他に薔薇と言えば情熱的な愛系統の花言葉もありますがね。


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