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op
「不用心ではないか。」
突然の声に、アラミスは驚いて振り向いた。水音が騒ぎ、雫が床に砕ける。
青い瞳が、程なくして木戸を背に立つ侵入者の影を見つけた。
「アトス!」
呼ばれて彼は薄明かりの下、腕を組んだままで、頷いた。憮然とした表情の相手を見返す。
視線の先、水を湛えた肌の上に、暗い光が滲んで流れた。
「大胆なことだな、鍵もかけずに湯浴みとは。」
「…玄関は鍵がかかっていただろう。」
「その鍵を私に与えたのはお前だが。」
「こんな所まで入って来るとは思わなかった。」
不機嫌な声。
「だから。」
アトスはひっそりと彼女の許に歩み寄り、その手を捕らえ、唇を寄せる。
「お前は、私に対して不用心すぎると言っているんだ。」
湿気に満ちた部屋の中、潜めた声はこもって、近く響く。
「離せ。」
口づけの作る音を避けるように、アラミスは顔を背けた。退こうとする腕を、しかしアトスは離さずにゆっくりとキスで埋めていく。
肩を、首をつたう水滴を集めるようにして、次第に長く、甘く。息を継ぎ、濡れた髪を分けて白いうなじを辿り、舌で嬲る。
「やめ…」
抗議の言葉も深く奪われ、絡めた水音の間にわだかまって消えていった。流され始めた意識に眉を寄せ、アラミスは懸命に耐える。


こんな強引なやり方は、アトスらしくない。

追い詰める吐息。逃れようもなく目を閉じて、彼女は思う。

けれど。
彼にその強引さを強いているのも、また自分なのだと分かっている。
この男はどうしようもなく見抜いている。今もまだ雨に迷う私を。


うなだれる金の髪を弄いながら、アトスは先刻の出来事を思い返した。

雨の中で、偶然にアラミスを見つけた。水煙に滲むその姿を、美しいと思った。
雨粒を避けようともせず、張り詰めた瞳でひた走り、去っていく。
翻るドレスの、濡れた衣擦れの音がいつまでも耳に残った。
未だ彼女を、走らせるもの。今も自分には明かさぬ顔をして。
その何ものかを思い、雨を受けると、重く強い感情がいつの間にか自分をここまで導いていた。

苦い焦燥に駆られ、アトスは再び腕に力を込める。l


「は…っ」
熱を奪うように、冷えた手が肌の上を侵していく。
わななく体を、その度執拗に腕に捕らえ、引き寄せると、また味わう。胸を、腰を。
仰のいた首元を淫らに吸いながら、探る。全て、彼女の女を暴きながら。折れそうな膝に触れ、なめらかな腿を伝い。
「…っく」
びく、と体が跳ねた。長い指が内側を教える。緩く、速く。次第に深く。抗おうとするほどに絡めとられて。沿おうとすれば焦らすように。
内壁を滑り混ぜる、冷たさと疼き。
「ん…っや…あ」
抑えきれず声が漏れる。吐息はやがて喘ぎとなって、霞む意識を揺らした。黒髪が肌を過ぎて、それすら耐えがたく感じられる。
嫌悪も秘密も、征服していくほどの熱。もはや力の入らなくなった体は再び水の中に沈み始める。
「…も、やめ…」
落ちそうで落ちられぬ快楽の長さに、アラミスはむせび、赦しを乞うた。
「も……許し…、て…」
その声は、震えるほどに甘くアトスを刺す。貫いてしまいたい。
衝動を抑え、アトスは彼女の全てが充分に潤むまで待った。
奪えるだけ、奪うために。どうせ奪い尽くせぬのだから。
そして、ぐったりと柔らかな体を水からすくい上げる。
「ア…トス…っ」
きつく体を寄せて。瞬間、圧倒的な熱が、彼女を砕いた。


「こんなことをして…。」
まだ下がりきらない息を混ぜて、アラミスは呟いた。交わりの後の匂いが、湯気にこもる。
「…。」
アトスは答えず、また金の髪に口付けた。余韻に任せた無言が続く。
「アトス、」
しばらくしてアラミスは何事か言いかけ、けれどやはり口をつぐんだ。
明日、私は銃士をやめる。
告げるべきなのに、言えぬのはなぜか。熱に溶けたままの体を湯に預けながら、彼女はひたすら
黒い瞳を見上げ、胸を痛めた。

 
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