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うろほろぞ
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ppp
「猊下がお待ちではないのか」
 腕の中からの声に、ロシュフォールの指の動きが止まった。

「憎らしいことを言う」

「あなたの弱点だからね」

「生憎だったな。我が猊下は目下、陛下と謁見中だ。故におまえとの時間はたっぷりとあるって訳だ」

「んんっ」

 キュッと長椅子に張られた繻子が音を立てる。

「やめ…」

「アラミス、力を抜いたらどうだ」

「……ったく…」

「そうだ、その眼…」ロシュフォールはアラミスの髪を掻き上げた。

「挑むがいい。おまえのその眼が俺を狂わせる」

 乾いたアラミスの唇を求める。だが、きつく結ばれた唇は男の侵入をがんとして拒んだ。
 その代償としてロシュフォールの指先は、滑るようにアラミスの深淵へと進んでいった。

「…あ…っ」

 長椅子に押しつけられた背中がしなやかに反る。

「そうだ。声を上げろ…俺の腕の中で」

「……ロシュフォール…あなたに…僕が心を許すとでも思っているのか?」

「ん? そうはなるまい、簡単にはな」

 ロシュフォールの唇がアラミスの喉元に触れる。

「………」

「俺は、おまえのこの美しい顔が快楽で歪むのを見たいのだ。
眉間に刻まれる苦悩の表情。額に滲む汗、そういったものすべてが俺のこの手で生み出される。
俺の望みは、悩ましく狂うおまえを見ることだ」

「すごい告白だね。ふふ…たしかに…、僕はあなたの手で乱れるだろう。でも、心まで乱れはしないぞ」

「それでこそ俺のアラミスだな。だからこそおまえがますます欲しくなる」

 アラミスは艶然たる笑みを見せ、腕をロシュフォールのうなじに回した。
 それはロシュフォールが勝ったという訳ではない。ましてアラミスが彼の手に落ちた訳でもない。
 男と女の不可思議な了承であった。
 だから……。
 唇が触れ合い、舌を絡ませ、息を吸う。
 金の髪は絨毯に流れ落ち、描かれたマドンナ・リリーがその中に消える。
 時間が知らぬ間に過ぎて行く二人の秘密の行為。その向こうで小さな音がした。
 銃士であるアラミスの鋭敏な感覚が、その音を聞きつけた。
 伯爵の腕に抱かれたまま、アラミスの身体は硬直した。

『誰かがいる』

 目を見開く。
 纏わり付く髪を手で除ける。
 身体を起こしながら、ロシュフォールの肩越しに視線を流した。
 扉が見えた。
 自分を見ている目があった。
 見慣れた黒い瞳が驚愕を湛えている。

『アトス!?』

 アラミスの視線と、アトスの視線が絡まった。
 ふっとアトスが目を逸らした。
 ぱたん、と扉が閉まった まるで一瞬の夢の如く ロシュフォールが、アラミスの身体から離れて振り返った。
 だが彼が扉に目をやった時には、もうアトスの姿は消え、扉は堅く閉ざされていた。

「どうした。誰かがいたのか?」

 腕がゆるめられた一瞬の隙を突いて、アラミスはロシュフォールの身体の下から抜け出た。

「アラミス?」

「見られた」

 一言いうと、アラミスは乱れた胴着とズボンを正し始めた。

「おい」

 ロシュフォールがアラミスの腕を取って彼女の身体を引き寄せた。
 アラミスは長椅子の前に膝を付いた。ロシュフォールの腕がアラミスを抱き締めた。

「放せ」

 あごを上向かせると、ロシュフォールは彼女の唇に口づけた。今度はささやかな応えが返ってきた。

「扉の向こうにいたのは、アトスではないのか?」

「!」

「やはりな。…行くか?」

「ロシュフォール」

「俺は止めはせん。おまえほどの女だ。ほかに男がいてもおかしくはあるまい」

 アラミスの碧い瞳が輝いた。ロシュフォールは彼女の髪の中へ手を差し入れた。程なくして細いうなじを見つけ出す。

「俺は昔から…奪うのが好きだからな」

 ロシュフォールとアラミスは見つめ合った。アラミスの色を増した唇の端に笑みが浮かぶ。

「あなたは僕を奪えないよ」

「アラミス」

「……そんなあなたは好きだけどね」

「ほう、充分過ぎるほどの答だな」

「ふふ… 今に後悔するよ」

「後悔だと? はは、それはないな。俺は常に前を見る」

 ロシュフォールは言葉を区切り、再び続けた。

「わが…猊下しかり、だ」

「なるほどね」

 納得したようにアラミスは瞬きをした。長い睫毛に魅せられたように、ロシュフォールは指先で彼女の頬を撫ぜた。睫毛は震え、瞳が開かれて彼を見返す。

「……おまえがあいつとどうなっているのかは知らん。知りたくもない。俺にとって重要なのは、おまえが俺の腕の中でこそ魅惑的になるということさ」

「訂正が必要だね」

「ほう?」

「僕はあなたの言いなりにはならない女だからな」

「そうだな」

「どう、後悔した?」

「いや、ますますおまえが欲しくなった」

「そう言うと思った」

 アラミスは立ち上がり、ロシュフォールに自ら口づけると、その身をさっと翻した。

「まったく、いつもアトスに邪魔される。憎らしい男だ。あいつの想わぬ男であったら、すぐさま八つ裂きにでもしてくれるのにな」

 ロシュフォールは衣服を正し、髪を撫でつけた。






「あ、アラミス。隊長が呼んでおられるそうだよ」

 銃士のひとりが彼女の姿を見つけて階段の上から声をかけてきた。

「私を?」

「いや、君とアトスだよ。アトスはどうしたのさ」

「見ていないな」

「まあ、いいや。途中見つけたら頼むよ。俺も探すからさ」

「ああ、なら私は先に隊長のところへ行こう」




「隊長、お呼びでしょうか。アラミス、参りました」

 しかし、扉の向こうからの返事はなかった。

「変だな」

 アラミスが把手に手をやり、扉を開けようとすると、扉は突然中から開かれた。

「アトス」

「隊長は席をはずされた。急なお召しがあったのだ」

「そう、君は?」

「仕事の整理を頼まれてね」

 室内に入ると、執務机の上にはラテン語の書き記された書類とおぼしきものが散乱している。

「手伝ってくれるかな」

「ああ、隊長の用事ってこれだったのか」

「そういうことだ。何でも今夜中にこれを翻訳せねばならない。私一人の手には負えんからな」

「いいよ。どれから?」

「君にはこっちをやって貰おうか」

 どん、と重たい書類が手渡された。

「うわ、すごい量」

「なんでもこの数か月たまったもんらしい」

「困るよな。隊長ってば自分でこういったことをこなそうとしては断念するんだから。早く言ってくれればいいのに」

「全くだ」

 アラミスが傍らに腰を下ろすのをアトスはじっと見つめていた。

「えっと、なになに…」

 アラミスは書類に目を通し始める。

 アトスがアラミスの横に立った。

「アトス?」

 腕がすっと伸びると、アラミスは椅子に座ったまま抱き竦められた。

「ちょっと」

 反論を返す間もなく、無理やり立ち上がらせられる。アトスの片方の手が、机上の書類を端へと押しやった。かと思うと、アラミスの身体が机の上に乗せられた。

「なにを」

 手でアトスの肩を押すが、びくともしない。

「んっ」

 抱き締めたままアトスがアラミスを求めてきた。

「アトス!」

 抗議の声を出した途端、アトスの熱っぽい舌が彼女の口の中へ侵入してくる。求め、それに応え、身体がしなる。大きな手がアラミスの喉から肩、胸へ移動して行った。
 アラミスの襟元の止めが音もなく鮮やかに外されて、ブラウスが肩から滑り落とされた。
 唇が離され、アトスはアラミスを見つめた。瞳の強さのなかに、言いたげな何かが見えそうで、アラミスの身体に震えが走り、腕に鳥肌が立った。

 どうしてアトスはこうも容易く私を捕まえるんだろう。
 どうして私はこの男の腕を解けないのだろう。

「書類が…」

 視線を外したのはアラミスの方が先だった。机上に散乱した紙の束が、彼女の目に入った。
 アトスの視線も、はっとそれらに移された。

「気にすることない」

 やがてふわりと自身の身体が空に浮くのをアラミスは感じた。
 アトスが彼女を抱き上げたのだ。彼は無言のまま隣室の戸を開いた。

 隣室は暗く、ひんやりとした空気に満たされていた。抱き上げられていたアラミスがアトスの手から降り立った。そして、アトスは彼女の腰に当てた手に力を込め、彼女と共に敷物上に倒れていった。

「待てよ、アトス」

 口づけが落ちるのを避けて、アラミスは声を出した。

「誰か来るかもしれないじゃないか」

 顔の上でアトスが冷たく笑みを浮かべていた。

「黙れ」

 低く重い声が降って来た。

「退けよ!」

 かっとしたアラミスは、大きな声を出した。

「嫌だね」

 氷のような響きに、アラミスは答え返すことが出来なかった。
 アトスの手は乱暴に彼女の身体を貪って、彼女を翻弄させた。彼の口はアラミスの果実をきつく噛み、アラミスに悲鳴にも似た喘ぎをもたらした。双丘は様々に形を変えさせられ、男の手の中で熱く燃え上がっていった。

 徐々に、アトスの顔が沈んで行った。
 最後の細い紐が指に搦め捕られた音が鳴った。
 途切れ途切れの喘ぎが続いた。

「あぁ」

 アラミスの喉から声が漏れた。
 露になった彼女の秘密が、アトスの舌先に触れたのだ。身体の奥から流れ出る蜜は、男の喉の奥に吸い込まれていく。アラミスの脚が小さな痙攣を起こして震えた。
 執拗に絶えることのない責め。
 髪は乱れ、身体はしなり、無防備な喉元が白く震えている。
 蕾は刺激を受けて開花し、豊潤な薫りで以て男の心を美惑する。

「んっ! はっ…ぁ…ンッ」

 醸し出される淫らな音と共に声が艶やかさを増していった。
 身体の緊張が高まっていく。
 まだ。
 解き放せ。
 もう少し…。
 意識の奥が切ない叫びを上げていた。
 びくんとアラミスの身体に衝撃が突き抜けそうになった。が、その感覚が途中で途絶えさせられた。
 アトスが突然アラミスの泉から顔を上げたのだ。
 アラミスは声を出すことが出来なかった。責めるようにアトスの腕にアラミスの爪が食い込んだ。体内で爆発しそうな程の感情の迸りが、言葉より優先していた。

「アラミス」

 アトスが彼女の潤んだ瞳を見つめていた。

「イきたいか? え? それともこの続きはお預けがいいかな」

「知っている筈だろ。どうする? 続きは俺の屋敷でするか?」

 アトスはアラミスの耳たぶを軽く噛みながら囁く。

「は、んっ」

 アトスの指は、特に敏感に快楽を待つ蕾を突いた。
 アラミスはゴクリと喉を鳴らして手を伸ばした。手はアトスの落ちてくる黒い髪の先を引っ張った。

「それって、やきもちなわけ?」

 だんまりを決め込んだアトスの目が険しくなった。

「僕がロシュフォールといたからだろ?」

「……だったら悪いか」

 やっとの思いで云っているような答え方だった。

「君がそう言ってくれるのって、嬉しいな」

「あいつとはいつから…」 続ける言葉はアラミスの甘い口づけで中断された。

「訊くな、ということか?」

 アトスの問いにアラミスは微笑んだ。

「僕が恥ずかしい?」

「………いや、恥ずかしいのではない。おまえが欲しいのだ」

「僕もさ、君が欲しい」

 口づけが繰り返された。
 冷めかけた肌が再び燃え上がっていった。
 二人が溶けたのはそれからすぐのことだった。


 結局のところ、隊長から頼まれた翻訳は一晩中かかってしまった。隊長は夜遅くになって一旦部屋に戻って来たが、彼ら二人に仕事を与えたまま、屋敷へ戻られた。

「わしの仕事なのだから、君らばかりに迷惑はかけられん」

 と、優しいことを言ってはいたのだが、アトスとアラミスがそれを断ったのだ。上司がいては、はかどる仕事もはかどらないという時があるのだった。


 早朝のラッパが宮廷に響いた頃、書類の山から二人は解放された。
 そして二人は王宮の出口で別れた。
 しばらくぼんやりと歩いていたアラミスは、はっとして顔を上げた。

「しまった! 剣を忘れて来てしまった」

 王宮へ慌てて引き返していった。


 剣を隊長の部屋に取りに戻った彼女は、途中ロシュフォールに出くわした。

「やあ、ボンジュール、伯爵。早いね」

「アラミス、どうした、おまえこそ」

「泊まりで仕事さ」

「夜勤だったのか」

「うーん、そういったことではないけど、隊長の頼まれごとをやっていたんだよ」

「目が赤くなってる」

「そう?」

 アラミスが目に手をやった時、ロシュフォールが意外そうな顔をした。

「ロシュフォール?」

「……いや…」

 ロシュフォールの視線がアラミスの金髪に注がれている。

「ああ。…そうだよ」

 アラミスはにこっと微笑んで、髪をさらりと風に流した。
 髪からアトスのつけている香りが漂った。

「じゃ、僕はこれで!」

 茫然とするロシュフォールの前をアラミスは笑いながら駈けて行った。





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