部屋に入るなり否応が為しに目に付いたものの、孔明はまるで目に見えてないかのうように振舞っていた。応接テーブルを挟んで対する部屋の主セルバンテスは鼻歌交じりに次回作戦の資料に目を通している。鼻歌は「真っ赤なおーはーな~の~」のリズムであり、先ほどから少なからず孔明の神経を逆なでしていた。
「・・・・セルバンテス殿、お聞きしてもよろしいですかな?」
「ふふ~んふ~ん♪・・・どーぞ」
聞いたら負け、だと自分に言い聞かせていたのに溜まりかねた孔明はついに口を開く。
「アレはいったい何ですかな?」
「アレって?」
資料から目を離さないセルバンテスが分かっていながらそう聞き返していることくらいわかっている。改めて神経を逆撫でされ額に青筋が浮かんだ。
「・・・・・・・あのクリスマスツリーです」
「ツリーって知っているんじゃないか」
「・・・・・・・・・・・」
相変わらず目を資料から離そうとしないまま。この男は自分が苛立つのを楽しんでいる、それをわかっていながら乗ってしまった自分。孔明は聞いてしまったことを後悔する。
「貴方、ここがどういうところなのか分かっておられるのですかな?まったく何を浮かれていらっしゃるのか。クリスマスなどというくだらない『イベント』に十傑集ともあろうお方が!」
部屋の隅にあるのは天井に届かんばかりの大きなモミの木、豪勢なオーナメントで飾り立てられ電球も規律正しくかつランダムに点滅している。何より目を引くのが天辺に飾り立てられた「一等星」は純金によるもので下からの光を浴びればより煌びやかに・・・
それは孔明にとってはイライラするほどどこからどう見てもクリスマスツリーだった。今まではクリスマスが来ようとこんな代物はBF団本部ではあり得なかったのにそれが
「セルバンテスのおじさま、サニーです。入ってもいい?」
この娘の出現によって大きく変わってしまったのだ。
「いいよいいよ~大歓迎だ」
「ちょっとお待ちなさい、今は大事な話を・・・!」
ノックの音とドア向こうの声に敏感に反応し、目を離そうとしなかった資料を投げ捨ててセルバンテスは大急ぎでドアを開けてやった。そこには小さなサニーが真っ白なタートルセーターとタータンチェックのスカート姿で立っていた。
「わー!すごいすごい!クリスマスツリー!」
サニーは真っ先に目に入るツリーに駆け寄り歓声をあげた。
セルバンテスは見たかったサニーの笑顔に満足し目尻を下げる。
そして、孔明の額の青筋が二つになった。
ツリーが飾られているのは何もセルバンテスの執務室だけではない。
樊瑞の部屋には飾られてはいないが屋敷にはカナダからわざわざ空輸した巨大ツリーがエントランスに鎮座しており、ヒィッツカラルドの部屋には光ファイバー製のメロディに合わせて青く輝く真っ白なツリーがある。幽鬼の部屋には温室で育ててきたモミの木をわざわざ移植しカワラザキと共にサニーが喜ぶようにクッキーや飴を飾った。さらに怒鬼は永遠にクリスマスとは無縁の男だと思われていたのに血風連だけでなく自らオーナメントの飾りたてを行いサニーの来訪を待った。十常寺は能力でオーナメントの人形を動かしサニーを大いに喜ばせ、残月は(都合により現段階で何故か十傑)敢えて裸のモミの木のままにしてサニーが来たら一緒に飾りたてを行った。
つまり
『どいつもこいつも』サニーのためにクリスマスを楽しんでいた。
いや、『どいつもこいつも』というのは語弊がある。
「くだらんな」
と言いながらもケーキを無条件に食べられる日を心待ちにする男と
「馬鹿馬鹿しい」
と心底呆れかえった様に吐き捨てながらも娘がウキウキしている姿に目を細める男
そして
「まったく嘆かわしい・・・・」
泣く子も黙る十傑集のあるまじき状況に額に無数の青筋を浮かべる男がいた。
----------------------
イヴまであと一週間。
「ねぇねぇ孔明さま、サンタさんってどこに住んでるのかなぁ」
「知りません」
「じゃあどうやってプレゼントって用意するの?トナカイさんはどうしてお空を飛べるの?えんとつが無いお家はどうやって入るの??」
「・・・・・・・・そんなことどうでも良いですからさっさとこの問題をお解きなさい。二桁の割り算ができないようではサンタはやって来ませんぞ?」
孔明の執務室で行っている「算数のおべんきょう」。
しかし、ドリルを前にしてもクリスマスに浮かれるサニーに孔明は溜め息を漏らす。
「え?できないとサンタさん来てくれないの??」
「そーですとも、さ、おやりなさい」
思わぬ情報にサニーはうろたえ、ドリルに向かうと小さい指を折り曲げながら必死に問題を解き始めた。
「サンタは『良い子』でないとプレゼントはくれないものです。貴女にその資格はございますまい。歯磨きは毎日欠かさずしてますか?好き嫌い無く食べてますか?ニンジンは?一人で朝起きれていますか?ドリルは100点ですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
残念ながらどれもできていない。孔明に手厳しく釘を刺され、サニーは涙目になりながら3問目に頭を悩ませる。
「何ら努力もせずもらえるなど、甘いにもほどがありますな」
どうせ樊瑞やセルバンテスあたりがサンタの代わりになるのは考えるまでも無い。それを鼻先で笑い捨てると必死になるサニーを放って自身はデスクに向かい新たな作戦を練り始めた。
その日からサニーは歯磨きは毎日欠かさないようになり、嫌いなニンジンも無理してでも口にいれるようになった。それに目覚まし時計を3つもセットして一人で起きるよう努力した。
ただ、孔明が与えたドリルだけは最高は97点。100点はどうしても取れないままだった。
---------------------
イヴの夜。
イチゴ柄のパジャマ姿のサニーは、ベッドに入る前に小さな小さな靴下をベッドサイドの机に垂らした。
「100点とれなかったけど・・・サンタさん来てくれるかなぁ・・・・」
布団の中に入ったがそれが心配で何度も暗闇の中で靴下を見直す。もし明日の朝、靴下に何も入っていなかったら・・・・・
「・・・・・・・・・・・・」
不安を振り払うようにサニーはきつく目を閉じて布団を頭から被る。
そしていつしか眠りに落ちていった・・・。
そんなサニーの心配を知ってか知らずか、樊瑞は自身の書斎で着替えを始めていた。絵に描いたような白と赤のツートンカラーのコートに身を包み、黒のベルトを締め、そしてやはり赤と白の帽子。仕上げにたっぷりとしたボリュームの付け髭。
「うむ、我ながら完璧なサンタだ」
姿見の前で胸を張りポーズを決めれば満足に浸る魔王サンタ。寝ているサニーの枕元にプレゼントを置くのは簡単だが、こういうことは形から入るのが彼のこだわりらしい。
「サニーにとってのサンタは世界で私だけだからな」
ふぉっふぉっふぉ。と胡散臭い笑いを漏らし彼はまるで泥棒のような足運びで二階に上がってい。サニーの部屋のドアを静かに開けると「めり~くりすますサニー~」と小声で足を一歩踏み入れた。
「・・・・・・・・・・・・・」
目が合った。
サニーとではない。
「セ、セルバンテス・・・・・」
ナマズ髭のサンタが今まさにプレゼントと思わしきリボンのついた箱を置こうとしていた。樊瑞とさほど変わらない姿だが帽子は被らずいつものクフィーヤが白の縁取りの赤いバージョン。これはセルバンテスのこだわりのようだ。
「あ・・・あはは見つかっちゃった」
「き、貴様!何をしている!!」
「シー!シー!サニーちゃんが起きちゃうだろ?」
思わず出した自分の大きな声に気づいて樊瑞は一気に声のトーンを落とす。横を見ればサニーはまだ深い眠りの中だ。
「何をしているのだっっ」
「見れば分かるだろ?サニーちゃんのためのサンタさんだよ」
「どこから入ってきたかは知らんがサニーのサンタは私だ。私一人で十分だからお前は家に帰って大人しく寝ていろ」
セルバンテスの胸倉を掴もうとした樊瑞は、今まさに窓から侵入しようとしているもう一人のサンタと目が合ってしまった。
「・・・・・幽鬼・・・・・・・・・・・」
「メ・・・メリークリスマス・・・・」
彼もまたご丁寧にサンタ衣装に身を包んでいた。ばつが悪そうに窓から入り込みその後から本物かと見まごう姿のカワラザキも入ってきた。
「何じゃ、お主らもか。おおサニーはよく寝ておるわい」
そう言って手にあるプレゼントの箱を置くと孫の寝顔を見るかのように目を細めた。
「カワラザキに幽鬼まで。ちょっと待て、え?ええ??」
「今宵限りは説明不要。我も『さんたくろす』に扮すること好しとすべし」
もう一方の窓から入ってきたのは丸い体格のサンタ。宙に浮く大きな袋に腰掛けて鐘を小さく鳴らせば袋は静かに床に降りた。
「十常寺・・・お主までも・・・。どういうことだこれは!」
「どういうことか聞きたいのはこっちだ」
樊瑞がその声に振り向けばまるで当然のようにドアから入ってきたヒィッツカラルド。もちろんサンタ衣装だがオーダーメイドの本毛皮、拘りが違う。
「随分と大人数だな」
「コラー!どうしてそっちから入ってくる!!」
「静かにしろ混世魔王、サニーが起きてしまう」
いつのまにか覆面サンタがプレゼントを置いてサニーの布団をかけ直してやっている。ちなみにサンタ帽子ではなくあくまでもいつもの覆面、ただ、色が赤いのは年に一度のクリスマスバージョンらしい。
「ざ、残月・・・・!!」
「この屋敷のセキュリティは見直す必要があるようだな」
しれ、と言い放つと残月は「あれを見ろ」と言わんばかりに顎をしゃくる。その方向に樊瑞が目をやるといつからいたのか和装のサンタが手下を10名ほど連れて仁王立ちになっていた。
「い・・・いつの間にこんな大人数で!」
「ふふ・・・怒鬼様のご命令とあらば我ら血風連、不可能も可能に」
渋くキメてはいるが10名とも首にベルをつけたトナカイの着ぐるみに編み笠姿。角が編み笠から突き出ているのは言うまでも無く。
「ささ、怒鬼様。サニー様にプレゼントを」
無言で頷き歩み寄る彼の姿はサンタ帽子に真っ赤な陣羽織のクリスマス仕様。
「怒鬼お・・・・おまっ・・・」
あまりの異常な状況に声が出ない樊瑞。
「おい、この格好でここに来ればケーキが食えると聞いたがケーキはどこだ?」
おまけに誰から聞いたのかは知らないが、そんなことを言いながらサニーの布団をめくりあげる仮面のサンタがいた。
「お、お前ら揃いも揃って・・・!住居不法侵入で訴えるぞ!!出て行け!」
小声でわめく魔王サンタに誰一人聞いてはいない。皆がサニーの安らかな寝顔を眺めて満足しているようだった。ちなみに赤いサンタはサニーのタンスを物色している。
「ううううう!サンタ役は私一人の特権なはず!!」
悔しがる魔王サンタだったが外ではまだサンタが出番を待っていた。
「くそ・・・あいつらめ何をのんびりやっているのだ。さっさと消えろ」
壁の出っ張りに足をかけてギリギリの状態でへばりつくサンタクロース。姿はサンタではないが・・・・
「イワンの奴めいらぬモノを寄越しおって」
白いボンボンが付いた赤い帽子だけは明確に彼をサンタだと説明していた。寄越されたからといって被らなければ済むことなのだがそれは考えないようだ。
小さなオルゴールが入った箱を手に雪がちらつく寒空の下、部屋で行われている「サンタ大集合」が終わるのを彼は律儀に待っていた。イライラとしているとふと、目が合う。そう、隣の窓の下にもう一人自分と同じように待っているサンタと。
「・・・・・・・・・・・・何か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何か?と不機嫌そうに言われても何も?としか言いようが無い。彼は何も見なかったことにしてただひたすら部屋に居るサンタが出て行くのを待つことにした。
もう一人の「帽子だけサンタ」の男も額に青筋を立てたまま、手にある手編みの手袋を落とさぬようそれから小一時間寒い外で待たされるハメになった。
-----------------------
サニーは目覚めてすぐに目を輝かせた。
山盛りいっぱいのプレゼントは溢れんばかり、夢中になって箱や包装紙を開ければ中にはサニーが喜ぶモノが入っている。ぬいぐるみ、人形、お菓子、絵本、ブローチや靴に人気アニメのおもちゃにとサニーは手に手にとってプレゼントを確かめ幸せを噛み締めた。
オルゴールの柔らかで優しい音色を楽しんでいたらあの靴下に何か押し込まれていたのを見つけた。それはオレンジの毛糸で編まれたミトンの手袋だ。
「あったかい・・・」
小さな手にピッタリのサイズにサニーは笑みがこぼれた。
「あのね、サンタさんがサニーに・・・」
樊瑞を始めとする十傑集にプレゼントをもらったことを嬉しそうに報告し、その様子に誰もが「そうかそうか」と満足する。レッドは樊瑞の屋敷の冷蔵庫で見つけたクリスマスケーキの残りを頬張りながら「良かったな」とだけの返事ではあったが。
そんな喜びいっぱいのサニーの姿を遠くから見つめる一人の男。
滅多にひかない風邪のため、仕方が無く甘んじているマスク姿が彼のプライドを損ねてはいるが娘の笑顔を見られればどうでもいい事。
しかし
彼の横を通り過ぎ、咳き込む策士もマスク姿。
「何か?」
目が合い、不機嫌そうに言われても
「何も」
としかやはり言いようが無かったのだった。
END
「・・・・セルバンテス殿、お聞きしてもよろしいですかな?」
「ふふ~んふ~ん♪・・・どーぞ」
聞いたら負け、だと自分に言い聞かせていたのに溜まりかねた孔明はついに口を開く。
「アレはいったい何ですかな?」
「アレって?」
資料から目を離さないセルバンテスが分かっていながらそう聞き返していることくらいわかっている。改めて神経を逆撫でされ額に青筋が浮かんだ。
「・・・・・・・あのクリスマスツリーです」
「ツリーって知っているんじゃないか」
「・・・・・・・・・・・」
相変わらず目を資料から離そうとしないまま。この男は自分が苛立つのを楽しんでいる、それをわかっていながら乗ってしまった自分。孔明は聞いてしまったことを後悔する。
「貴方、ここがどういうところなのか分かっておられるのですかな?まったく何を浮かれていらっしゃるのか。クリスマスなどというくだらない『イベント』に十傑集ともあろうお方が!」
部屋の隅にあるのは天井に届かんばかりの大きなモミの木、豪勢なオーナメントで飾り立てられ電球も規律正しくかつランダムに点滅している。何より目を引くのが天辺に飾り立てられた「一等星」は純金によるもので下からの光を浴びればより煌びやかに・・・
それは孔明にとってはイライラするほどどこからどう見てもクリスマスツリーだった。今まではクリスマスが来ようとこんな代物はBF団本部ではあり得なかったのにそれが
「セルバンテスのおじさま、サニーです。入ってもいい?」
この娘の出現によって大きく変わってしまったのだ。
「いいよいいよ~大歓迎だ」
「ちょっとお待ちなさい、今は大事な話を・・・!」
ノックの音とドア向こうの声に敏感に反応し、目を離そうとしなかった資料を投げ捨ててセルバンテスは大急ぎでドアを開けてやった。そこには小さなサニーが真っ白なタートルセーターとタータンチェックのスカート姿で立っていた。
「わー!すごいすごい!クリスマスツリー!」
サニーは真っ先に目に入るツリーに駆け寄り歓声をあげた。
セルバンテスは見たかったサニーの笑顔に満足し目尻を下げる。
そして、孔明の額の青筋が二つになった。
ツリーが飾られているのは何もセルバンテスの執務室だけではない。
樊瑞の部屋には飾られてはいないが屋敷にはカナダからわざわざ空輸した巨大ツリーがエントランスに鎮座しており、ヒィッツカラルドの部屋には光ファイバー製のメロディに合わせて青く輝く真っ白なツリーがある。幽鬼の部屋には温室で育ててきたモミの木をわざわざ移植しカワラザキと共にサニーが喜ぶようにクッキーや飴を飾った。さらに怒鬼は永遠にクリスマスとは無縁の男だと思われていたのに血風連だけでなく自らオーナメントの飾りたてを行いサニーの来訪を待った。十常寺は能力でオーナメントの人形を動かしサニーを大いに喜ばせ、残月は(都合により現段階で何故か十傑)敢えて裸のモミの木のままにしてサニーが来たら一緒に飾りたてを行った。
つまり
『どいつもこいつも』サニーのためにクリスマスを楽しんでいた。
いや、『どいつもこいつも』というのは語弊がある。
「くだらんな」
と言いながらもケーキを無条件に食べられる日を心待ちにする男と
「馬鹿馬鹿しい」
と心底呆れかえった様に吐き捨てながらも娘がウキウキしている姿に目を細める男
そして
「まったく嘆かわしい・・・・」
泣く子も黙る十傑集のあるまじき状況に額に無数の青筋を浮かべる男がいた。
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イヴまであと一週間。
「ねぇねぇ孔明さま、サンタさんってどこに住んでるのかなぁ」
「知りません」
「じゃあどうやってプレゼントって用意するの?トナカイさんはどうしてお空を飛べるの?えんとつが無いお家はどうやって入るの??」
「・・・・・・・・そんなことどうでも良いですからさっさとこの問題をお解きなさい。二桁の割り算ができないようではサンタはやって来ませんぞ?」
孔明の執務室で行っている「算数のおべんきょう」。
しかし、ドリルを前にしてもクリスマスに浮かれるサニーに孔明は溜め息を漏らす。
「え?できないとサンタさん来てくれないの??」
「そーですとも、さ、おやりなさい」
思わぬ情報にサニーはうろたえ、ドリルに向かうと小さい指を折り曲げながら必死に問題を解き始めた。
「サンタは『良い子』でないとプレゼントはくれないものです。貴女にその資格はございますまい。歯磨きは毎日欠かさずしてますか?好き嫌い無く食べてますか?ニンジンは?一人で朝起きれていますか?ドリルは100点ですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
残念ながらどれもできていない。孔明に手厳しく釘を刺され、サニーは涙目になりながら3問目に頭を悩ませる。
「何ら努力もせずもらえるなど、甘いにもほどがありますな」
どうせ樊瑞やセルバンテスあたりがサンタの代わりになるのは考えるまでも無い。それを鼻先で笑い捨てると必死になるサニーを放って自身はデスクに向かい新たな作戦を練り始めた。
その日からサニーは歯磨きは毎日欠かさないようになり、嫌いなニンジンも無理してでも口にいれるようになった。それに目覚まし時計を3つもセットして一人で起きるよう努力した。
ただ、孔明が与えたドリルだけは最高は97点。100点はどうしても取れないままだった。
---------------------
イヴの夜。
イチゴ柄のパジャマ姿のサニーは、ベッドに入る前に小さな小さな靴下をベッドサイドの机に垂らした。
「100点とれなかったけど・・・サンタさん来てくれるかなぁ・・・・」
布団の中に入ったがそれが心配で何度も暗闇の中で靴下を見直す。もし明日の朝、靴下に何も入っていなかったら・・・・・
「・・・・・・・・・・・・」
不安を振り払うようにサニーはきつく目を閉じて布団を頭から被る。
そしていつしか眠りに落ちていった・・・。
そんなサニーの心配を知ってか知らずか、樊瑞は自身の書斎で着替えを始めていた。絵に描いたような白と赤のツートンカラーのコートに身を包み、黒のベルトを締め、そしてやはり赤と白の帽子。仕上げにたっぷりとしたボリュームの付け髭。
「うむ、我ながら完璧なサンタだ」
姿見の前で胸を張りポーズを決めれば満足に浸る魔王サンタ。寝ているサニーの枕元にプレゼントを置くのは簡単だが、こういうことは形から入るのが彼のこだわりらしい。
「サニーにとってのサンタは世界で私だけだからな」
ふぉっふぉっふぉ。と胡散臭い笑いを漏らし彼はまるで泥棒のような足運びで二階に上がってい。サニーの部屋のドアを静かに開けると「めり~くりすますサニー~」と小声で足を一歩踏み入れた。
「・・・・・・・・・・・・・」
目が合った。
サニーとではない。
「セ、セルバンテス・・・・・」
ナマズ髭のサンタが今まさにプレゼントと思わしきリボンのついた箱を置こうとしていた。樊瑞とさほど変わらない姿だが帽子は被らずいつものクフィーヤが白の縁取りの赤いバージョン。これはセルバンテスのこだわりのようだ。
「あ・・・あはは見つかっちゃった」
「き、貴様!何をしている!!」
「シー!シー!サニーちゃんが起きちゃうだろ?」
思わず出した自分の大きな声に気づいて樊瑞は一気に声のトーンを落とす。横を見ればサニーはまだ深い眠りの中だ。
「何をしているのだっっ」
「見れば分かるだろ?サニーちゃんのためのサンタさんだよ」
「どこから入ってきたかは知らんがサニーのサンタは私だ。私一人で十分だからお前は家に帰って大人しく寝ていろ」
セルバンテスの胸倉を掴もうとした樊瑞は、今まさに窓から侵入しようとしているもう一人のサンタと目が合ってしまった。
「・・・・・幽鬼・・・・・・・・・・・」
「メ・・・メリークリスマス・・・・」
彼もまたご丁寧にサンタ衣装に身を包んでいた。ばつが悪そうに窓から入り込みその後から本物かと見まごう姿のカワラザキも入ってきた。
「何じゃ、お主らもか。おおサニーはよく寝ておるわい」
そう言って手にあるプレゼントの箱を置くと孫の寝顔を見るかのように目を細めた。
「カワラザキに幽鬼まで。ちょっと待て、え?ええ??」
「今宵限りは説明不要。我も『さんたくろす』に扮すること好しとすべし」
もう一方の窓から入ってきたのは丸い体格のサンタ。宙に浮く大きな袋に腰掛けて鐘を小さく鳴らせば袋は静かに床に降りた。
「十常寺・・・お主までも・・・。どういうことだこれは!」
「どういうことか聞きたいのはこっちだ」
樊瑞がその声に振り向けばまるで当然のようにドアから入ってきたヒィッツカラルド。もちろんサンタ衣装だがオーダーメイドの本毛皮、拘りが違う。
「随分と大人数だな」
「コラー!どうしてそっちから入ってくる!!」
「静かにしろ混世魔王、サニーが起きてしまう」
いつのまにか覆面サンタがプレゼントを置いてサニーの布団をかけ直してやっている。ちなみにサンタ帽子ではなくあくまでもいつもの覆面、ただ、色が赤いのは年に一度のクリスマスバージョンらしい。
「ざ、残月・・・・!!」
「この屋敷のセキュリティは見直す必要があるようだな」
しれ、と言い放つと残月は「あれを見ろ」と言わんばかりに顎をしゃくる。その方向に樊瑞が目をやるといつからいたのか和装のサンタが手下を10名ほど連れて仁王立ちになっていた。
「い・・・いつの間にこんな大人数で!」
「ふふ・・・怒鬼様のご命令とあらば我ら血風連、不可能も可能に」
渋くキメてはいるが10名とも首にベルをつけたトナカイの着ぐるみに編み笠姿。角が編み笠から突き出ているのは言うまでも無く。
「ささ、怒鬼様。サニー様にプレゼントを」
無言で頷き歩み寄る彼の姿はサンタ帽子に真っ赤な陣羽織のクリスマス仕様。
「怒鬼お・・・・おまっ・・・」
あまりの異常な状況に声が出ない樊瑞。
「おい、この格好でここに来ればケーキが食えると聞いたがケーキはどこだ?」
おまけに誰から聞いたのかは知らないが、そんなことを言いながらサニーの布団をめくりあげる仮面のサンタがいた。
「お、お前ら揃いも揃って・・・!住居不法侵入で訴えるぞ!!出て行け!」
小声でわめく魔王サンタに誰一人聞いてはいない。皆がサニーの安らかな寝顔を眺めて満足しているようだった。ちなみに赤いサンタはサニーのタンスを物色している。
「ううううう!サンタ役は私一人の特権なはず!!」
悔しがる魔王サンタだったが外ではまだサンタが出番を待っていた。
「くそ・・・あいつらめ何をのんびりやっているのだ。さっさと消えろ」
壁の出っ張りに足をかけてギリギリの状態でへばりつくサンタクロース。姿はサンタではないが・・・・
「イワンの奴めいらぬモノを寄越しおって」
白いボンボンが付いた赤い帽子だけは明確に彼をサンタだと説明していた。寄越されたからといって被らなければ済むことなのだがそれは考えないようだ。
小さなオルゴールが入った箱を手に雪がちらつく寒空の下、部屋で行われている「サンタ大集合」が終わるのを彼は律儀に待っていた。イライラとしているとふと、目が合う。そう、隣の窓の下にもう一人自分と同じように待っているサンタと。
「・・・・・・・・・・・・何か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何か?と不機嫌そうに言われても何も?としか言いようが無い。彼は何も見なかったことにしてただひたすら部屋に居るサンタが出て行くのを待つことにした。
もう一人の「帽子だけサンタ」の男も額に青筋を立てたまま、手にある手編みの手袋を落とさぬようそれから小一時間寒い外で待たされるハメになった。
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サニーは目覚めてすぐに目を輝かせた。
山盛りいっぱいのプレゼントは溢れんばかり、夢中になって箱や包装紙を開ければ中にはサニーが喜ぶモノが入っている。ぬいぐるみ、人形、お菓子、絵本、ブローチや靴に人気アニメのおもちゃにとサニーは手に手にとってプレゼントを確かめ幸せを噛み締めた。
オルゴールの柔らかで優しい音色を楽しんでいたらあの靴下に何か押し込まれていたのを見つけた。それはオレンジの毛糸で編まれたミトンの手袋だ。
「あったかい・・・」
小さな手にピッタリのサイズにサニーは笑みがこぼれた。
「あのね、サンタさんがサニーに・・・」
樊瑞を始めとする十傑集にプレゼントをもらったことを嬉しそうに報告し、その様子に誰もが「そうかそうか」と満足する。レッドは樊瑞の屋敷の冷蔵庫で見つけたクリスマスケーキの残りを頬張りながら「良かったな」とだけの返事ではあったが。
そんな喜びいっぱいのサニーの姿を遠くから見つめる一人の男。
滅多にひかない風邪のため、仕方が無く甘んじているマスク姿が彼のプライドを損ねてはいるが娘の笑顔を見られればどうでもいい事。
しかし
彼の横を通り過ぎ、咳き込む策士もマスク姿。
「何か?」
目が合い、不機嫌そうに言われても
「何も」
としかやはり言いようが無かったのだった。
END
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