「こら!サニー、お前のその力は無闇に使ってはならんっ」
「おじさまどうして?サニーあたらしいおにんぎょうさんがほしいの」
「我慢しなさい」
「だって・・・ほしいんだもん・・・」
「お前にはまだその力を上手く使うことはできん。それに私とこの前約束しただろう、『魔法』は自分の欲求を満たすために使うことは絶対にダメだと」
「おにんぎょうさん・・・ほしい・・・」
「ダメだ」
「・・・・・・・・・」
口を尖らせて涙目になってしまったサニーを見て樊瑞は小さく溜め息を漏らす。
「ダメ」と言うばかりでこの小さな子どもに「どうしてダメなのか」と説明し納得させる言葉は生憎持っていない。それでも、わかってもらえるよう彼は心を砕いていた。
樊瑞に厳しく言われてサニーは古くなった金髪の人形を手にトボトボと本部内を歩いていた。もうかれこれ2年、遊び相手に使い込んでいるため人形の髪は色あせ、白い肌の顔は黄ばみ一部浅黒くなってしまっている。
人形くらいならセルバンテスが大喜びでサニーに買い与えようとするが、樊瑞が固くそれを禁じているためサニーが持つ人形はこれだけ。ぬいぐるみは熊とウサギの2匹。他は一般的な子どもが持つようなささやかな程度。金銭的には恵まれている環境ではあったが意外とサニーが持っているおもちゃというのは少ない。
本部の中庭の芝生に腰をおろし、古びた人形相手に「ままごと」を始めるサニー。
友達がいない彼女には少々寂しい遊びだ。
「おかえりなさい、じゃあごはんにする?おふろにする?」
どこで覚えたのかそんなやりとりを人形相手にしていたら、突然頭上から
「風呂にするかな」
見上げれば大きな樫(かし)の木の枝に横になっていた幽鬼がいた。
彼は3mの高さから音も無く飛び降り、サニーの横に腰を下ろすと人形を手に取り「ずいぶんと使い込んでるなぁ」と苦笑する。サニーは樊瑞とのことを彼に話し、本当は『魔法』を使って新しい人形が欲しいことを吐露してみた。
「・・・・・なるほどな樊瑞ならそう言うだろう」
しかしサニーとしてはダメと言われても、どうしてダメなのかがさっぱりわからない。せっかく力があるのだから使ってもいいじゃない・・・当然そう思っていた。
不満を残す表情から幽鬼はサニーが納得していないことくらいわかる。
しかし・・・
-----「大きな力」というのは扱いを間違えれば大変なことになる
-----それに・・・際限の無い『魔法』という能力は、特に自己を保たねば自分を見失う。
-----サニーを大切に思う樊瑞はそれを恐れているのだろう。
十傑集は一様に「大きな力」を持ち、またその力もそれぞれではある。中でも自らの「大きな力」の存在に苦しんだ経験を持つ幽鬼は樊瑞の考えがよくわかった。まるでかつてのカワラザキのようだ。
「あたらしいおにんぎょうさんほしいのに・・・」
「そうか、困ったな・・・・」
事情はどうあれ子どもに欲望の自制を強いるのはなかなか難しい。
それに人形はサニーにとっては貴重な「友達」、いつも寂しくこの場所でままごとをしている姿を見ている幽鬼はサニーの気持ちもよくわかる。
どうしたものかと溜め息を吐きそうになった時
「せっかく力があるのだから使えばいいと思うがね。お嬢ちゃんが欲しいのならば好きなだけお人形さんをだせばいい」
「・・・!素晴らしきの」
空中楼閣からヒィッツカラルドが薄い笑みを浮かべてこちらを眺めていた。
男の言葉に幽鬼は眉を寄せる。
この男は力の否定を行わない、それどころか誇示することを躊躇わない。
性質は幽鬼とは正反対にあるといっていい。
高いところから身を乗り出し、軽々と中庭に飛び降りると笑みを浮かべたままサニーに歩み寄ってきた。
「新しく綺麗なお人形さんに飽きたらイチゴが乗ったケーキに甘~いプリンも出せばいい、腹が膨れれば・・・そうだなお嬢ちゃんを慰めてくれるやさしいママを出せばいい。どうだい素晴らしいことじゃあないかね?ククククク・・・・」
「ママも・・・?」
「・・・おい、よせっ」
サニーは少しドキリとする、「もしかしたら可能じゃないだろうか」と密かに胸の奥にしまってあった考えだったからだ。ヒィッツカラルドは幽鬼の珍しい怒気を含んだ声にひるみもせず、彼は薄ら笑いを浮かべて尚も続ける。
「ただし・・・そんなことしてると『お化け』が出てきてお嬢ちゃんを食べてしまうがね?」
「お・・・ばけ?」
「ふふふふ・・・『お化け』の胃の中は光が無くて真っ暗で、一度食べられたらもう逃げられない。助けを呼んでも声は誰にも届かなければまるで沼地のように足を取られていくらもがいても・・・這い出せない」
まるで見たかのように彼は語る。
「身体が溶けて無くなるまで・・・真っ暗いそこで生きてゆかねばならなくなる」
白眼を邪(よこしま)に細めて少女を覗き込んだ。
「自分が真っ暗闇に溶けていくのを感じながら・・・」
白いはずの彼の目が暗がりに澱んだ様に見え、サニーは怖くなった。
ますます怯え、幽鬼のスーツのスラックスにしがみ付いてしまい離れない。
小さな震えがしがみ付く手から伝わり幽鬼は思わず自分の身にサニーを寄せた。
「奴の口はとても大きい、カワイイお嬢ちゃんならペロっと一口で食べられてしまうかもなぁ、はははは!!」
途端に明るく笑い飛ばし、ヒィッツカラルドは幽鬼の背後で怯えるサニーの頭をクシャクシャに撫で回して去っていった。
「ゆ・・・幽鬼さま・・・ほんとうにおばけっているの?」
サニーは幽鬼を見上げ、震える小さな声で聞いた。
彼はは苦しそうに眉を寄せ沈黙を続けていたが、ゆっくりと膝をつくとクシャクシャになったサニーの頭を丁寧に撫でてやり
「古いのを捨てないと約束してくれるなら、私が樊瑞に内緒で新しい人形を買ってやろう」
『お化け』の存在を肯定もしなければ・・・否定もしなかった。
昼間ヒィッツカラルドが自分に語って聞かせた『お化け』のことが頭から離れず、サニーはベッドの中に潜り込んで震えた。小さな子どもにとってそれは例えようも無く怖い存在に思えたからで、サニーはその夜は一晩中眠れなかった。
次の日から秘密の新しい友達が一人増え、古い友達と一緒に遊ぶようになった。
それと同じくしてサニーは力(能力)を使うことを自制するようになった。
理屈などではなく、ただ単純に『お化け』が怖かったからなのではあるが、樊瑞としてはサニーが力の乱用をしなくなったことを不思議に思う。しかしそれ以上に安堵した。
少し大きくなってから『お化け』というものが子供だましだと気づいた後でも彼女は無闇な力の乱用は決してしなかった。小さい頃から染み付いた『お化け』への畏怖が完全に消えたわけではないというのもあるが、意思を持って自制を続けてきたお陰で子どもながらも自身に宿る『欲望』と折り合いをつけ、バランスを保って彼女は自分の力と向き合えるようになっていたからだ。
さらに後年
サニーはもっと大きくなってから、小さい頃に語って聞かされた『お化け』が唯の子供だましではないことをようやく理解した。
それに気づいた時にはもう
『お化け』の存在を語って聞かせてくれた男は既に溶けて無くなった後だった。
END
「おじさまどうして?サニーあたらしいおにんぎょうさんがほしいの」
「我慢しなさい」
「だって・・・ほしいんだもん・・・」
「お前にはまだその力を上手く使うことはできん。それに私とこの前約束しただろう、『魔法』は自分の欲求を満たすために使うことは絶対にダメだと」
「おにんぎょうさん・・・ほしい・・・」
「ダメだ」
「・・・・・・・・・」
口を尖らせて涙目になってしまったサニーを見て樊瑞は小さく溜め息を漏らす。
「ダメ」と言うばかりでこの小さな子どもに「どうしてダメなのか」と説明し納得させる言葉は生憎持っていない。それでも、わかってもらえるよう彼は心を砕いていた。
樊瑞に厳しく言われてサニーは古くなった金髪の人形を手にトボトボと本部内を歩いていた。もうかれこれ2年、遊び相手に使い込んでいるため人形の髪は色あせ、白い肌の顔は黄ばみ一部浅黒くなってしまっている。
人形くらいならセルバンテスが大喜びでサニーに買い与えようとするが、樊瑞が固くそれを禁じているためサニーが持つ人形はこれだけ。ぬいぐるみは熊とウサギの2匹。他は一般的な子どもが持つようなささやかな程度。金銭的には恵まれている環境ではあったが意外とサニーが持っているおもちゃというのは少ない。
本部の中庭の芝生に腰をおろし、古びた人形相手に「ままごと」を始めるサニー。
友達がいない彼女には少々寂しい遊びだ。
「おかえりなさい、じゃあごはんにする?おふろにする?」
どこで覚えたのかそんなやりとりを人形相手にしていたら、突然頭上から
「風呂にするかな」
見上げれば大きな樫(かし)の木の枝に横になっていた幽鬼がいた。
彼は3mの高さから音も無く飛び降り、サニーの横に腰を下ろすと人形を手に取り「ずいぶんと使い込んでるなぁ」と苦笑する。サニーは樊瑞とのことを彼に話し、本当は『魔法』を使って新しい人形が欲しいことを吐露してみた。
「・・・・・なるほどな樊瑞ならそう言うだろう」
しかしサニーとしてはダメと言われても、どうしてダメなのかがさっぱりわからない。せっかく力があるのだから使ってもいいじゃない・・・当然そう思っていた。
不満を残す表情から幽鬼はサニーが納得していないことくらいわかる。
しかし・・・
-----「大きな力」というのは扱いを間違えれば大変なことになる
-----それに・・・際限の無い『魔法』という能力は、特に自己を保たねば自分を見失う。
-----サニーを大切に思う樊瑞はそれを恐れているのだろう。
十傑集は一様に「大きな力」を持ち、またその力もそれぞれではある。中でも自らの「大きな力」の存在に苦しんだ経験を持つ幽鬼は樊瑞の考えがよくわかった。まるでかつてのカワラザキのようだ。
「あたらしいおにんぎょうさんほしいのに・・・」
「そうか、困ったな・・・・」
事情はどうあれ子どもに欲望の自制を強いるのはなかなか難しい。
それに人形はサニーにとっては貴重な「友達」、いつも寂しくこの場所でままごとをしている姿を見ている幽鬼はサニーの気持ちもよくわかる。
どうしたものかと溜め息を吐きそうになった時
「せっかく力があるのだから使えばいいと思うがね。お嬢ちゃんが欲しいのならば好きなだけお人形さんをだせばいい」
「・・・!素晴らしきの」
空中楼閣からヒィッツカラルドが薄い笑みを浮かべてこちらを眺めていた。
男の言葉に幽鬼は眉を寄せる。
この男は力の否定を行わない、それどころか誇示することを躊躇わない。
性質は幽鬼とは正反対にあるといっていい。
高いところから身を乗り出し、軽々と中庭に飛び降りると笑みを浮かべたままサニーに歩み寄ってきた。
「新しく綺麗なお人形さんに飽きたらイチゴが乗ったケーキに甘~いプリンも出せばいい、腹が膨れれば・・・そうだなお嬢ちゃんを慰めてくれるやさしいママを出せばいい。どうだい素晴らしいことじゃあないかね?ククククク・・・・」
「ママも・・・?」
「・・・おい、よせっ」
サニーは少しドキリとする、「もしかしたら可能じゃないだろうか」と密かに胸の奥にしまってあった考えだったからだ。ヒィッツカラルドは幽鬼の珍しい怒気を含んだ声にひるみもせず、彼は薄ら笑いを浮かべて尚も続ける。
「ただし・・・そんなことしてると『お化け』が出てきてお嬢ちゃんを食べてしまうがね?」
「お・・・ばけ?」
「ふふふふ・・・『お化け』の胃の中は光が無くて真っ暗で、一度食べられたらもう逃げられない。助けを呼んでも声は誰にも届かなければまるで沼地のように足を取られていくらもがいても・・・這い出せない」
まるで見たかのように彼は語る。
「身体が溶けて無くなるまで・・・真っ暗いそこで生きてゆかねばならなくなる」
白眼を邪(よこしま)に細めて少女を覗き込んだ。
「自分が真っ暗闇に溶けていくのを感じながら・・・」
白いはずの彼の目が暗がりに澱んだ様に見え、サニーは怖くなった。
ますます怯え、幽鬼のスーツのスラックスにしがみ付いてしまい離れない。
小さな震えがしがみ付く手から伝わり幽鬼は思わず自分の身にサニーを寄せた。
「奴の口はとても大きい、カワイイお嬢ちゃんならペロっと一口で食べられてしまうかもなぁ、はははは!!」
途端に明るく笑い飛ばし、ヒィッツカラルドは幽鬼の背後で怯えるサニーの頭をクシャクシャに撫で回して去っていった。
「ゆ・・・幽鬼さま・・・ほんとうにおばけっているの?」
サニーは幽鬼を見上げ、震える小さな声で聞いた。
彼はは苦しそうに眉を寄せ沈黙を続けていたが、ゆっくりと膝をつくとクシャクシャになったサニーの頭を丁寧に撫でてやり
「古いのを捨てないと約束してくれるなら、私が樊瑞に内緒で新しい人形を買ってやろう」
『お化け』の存在を肯定もしなければ・・・否定もしなかった。
昼間ヒィッツカラルドが自分に語って聞かせた『お化け』のことが頭から離れず、サニーはベッドの中に潜り込んで震えた。小さな子どもにとってそれは例えようも無く怖い存在に思えたからで、サニーはその夜は一晩中眠れなかった。
次の日から秘密の新しい友達が一人増え、古い友達と一緒に遊ぶようになった。
それと同じくしてサニーは力(能力)を使うことを自制するようになった。
理屈などではなく、ただ単純に『お化け』が怖かったからなのではあるが、樊瑞としてはサニーが力の乱用をしなくなったことを不思議に思う。しかしそれ以上に安堵した。
少し大きくなってから『お化け』というものが子供だましだと気づいた後でも彼女は無闇な力の乱用は決してしなかった。小さい頃から染み付いた『お化け』への畏怖が完全に消えたわけではないというのもあるが、意思を持って自制を続けてきたお陰で子どもながらも自身に宿る『欲望』と折り合いをつけ、バランスを保って彼女は自分の力と向き合えるようになっていたからだ。
さらに後年
サニーはもっと大きくなってから、小さい頃に語って聞かされた『お化け』が唯の子供だましではないことをようやく理解した。
それに気づいた時にはもう
『お化け』の存在を語って聞かせてくれた男は既に溶けて無くなった後だった。
END
PR
セルバンテスに言葉巧みに乗せられたような感はあるが、数日後、二人は彼が紹介してくれた店を訪れることにした。
「まるでおじさまとデートしているみたいですわね」
少々語弊があるが、嬉しそうな彼女を訂正するにも忍びない。
「いらっしゃいませ。セルバンテスさまからお話は伺っております」
待ち構えていた女性店員が、彼らを店舗内へと案内する。
「目移りしてしまいそうです……」
並べられた色とりどりの洋服を見回すサニーに、女性の店員が笑いかけた。
「お嬢さま。どうぞ好きなだけ試着なさってください」
サニーはとっかえひっかえ服をその身に当て、時折何事かを考え込む。それを幾度か繰り返し、その中である一点を手に取った彼女は顔を輝かせた。
「これがいいですわ。お願いできますか?」
「では、こちらへ」
サニーは店員に連れられ、ドアの向こうに消えた。一方、樊瑞は別室で彼女が着替えるのを待つ。
ソファに座ると、それを見計らったように別の店員が茶器を彼の前に置いた。
あぁ、いい茶葉を使った中国茶だ。
彼はそんなことを思いながら喉を潤す。
「まぁ、お嬢さま。とても愛らしい」
隣の部屋からそんな店員の賛辞が聞こえてきた。
「こちらでしたら、靴はロングブーツを合わせるといっそう可愛らしいですよ。持ってまいりますね」
そして、ドアの開く音がし、
「どうでしょうか、おじさまっ」
華やいだ声に彼は視線を向ける。
至極嬉しそうなサニーとは対照的に、樊瑞は啜っていた茶を噴出しかけた。
確かにとても愛らしい。その点に関して異論はない。
だが、問題はそのスカートの短さだ。
「サ、サニーっ! はしたないっ! もう少し裾の長い服を……っ」
「でも、おじさま。セルバンテスおじさまは絶対領域は必須だと」
それに、短いほうが絶対かわいい、と仰っていて。
サニーの台詞に、彼は訝って眉を寄せる。
「……なんだ、それは」
「さぁ……よくわかりませんが、ここのことだそうですけど……」
彼女も首を傾げながら、スカートとロングブーツの狭間を指でさししめした。
同僚に殺意を抱くことは滅多にない。頻繁にあっても困るが、しかし、このときほど殺意が湧いたことはない。
覚えていろ、セルバンテス。
樊瑞は胸のうちで呪詛を呟く。
「でも、おじさまっ。私、これが気に入りました」
これがいいですわ。
笑みを浮かべた少女は樊瑞の目の前でくるくると回る。そのたびにスカートの裾が揺れ、なかなか危うい。
サニーはまだ子供だ……うむ。まだ幼い。
動き回るには長い裾は邪魔になるだろう。
樊瑞は無理矢理己に言い聞かせる。
わしがいるときは、マントで覆い隠してやればいいからな。だが、成長したら、絶対にもう少し慎みのある服を着せる。誰がなんと言おうと……特にセルバンテスがなんと言おうが着せてやる。
彼は心中で密かに握りこぶしを固めた。
しかし……樊瑞の決意も虚しく、絶対領域は彼女のトレードマークとなる。
.風邪(アルベルトとサニーちゃん)
クシュン、と小さなくしゃみが聞こえた。
隣を見れば、幼い娘は鼻の頭を赤くしている。
今日はもう屋敷に戻るか、と問えば、
その小さな手で儂の服の裾を掴み、いやいやと首を振る。
普段聞き分けの良い娘に我儘を言わせるものは何なのか。
春になったらまた連れて来てやろう、と頭に手を置くと、
今度はうれしそうに服の裾に頬を寄せる。
少々歩きづらいのでその身体を抱き上げてやると、
頬まで赤くなったサニーの笑顔があった。
クシュン、と小さなくしゃみが聞こえた。
隣を見れば、幼い娘は鼻の頭を赤くしている。
今日はもう屋敷に戻るか、と問えば、
その小さな手で儂の服の裾を掴み、いやいやと首を振る。
普段聞き分けの良い娘に我儘を言わせるものは何なのか。
春になったらまた連れて来てやろう、と頭に手を置くと、
今度はうれしそうに服の裾に頬を寄せる。
少々歩きづらいのでその身体を抱き上げてやると、
頬まで赤くなったサニーの笑顔があった。
2日目 まじない(盟友とサニーちゃん)
小さな手が顔を押さえつけたと思ったら、コツン、と額を儂の額に当てた。
何事かと思っていると、小さく何かを呟く声。
やっと顔を離した娘に何の真似かと尋ねれば、
「おまじない。」と一言答えた。
そうか、と返すと、嬉しそうに微笑む。
あ、いいなーアルベルト。
そう言ったセルバンテスが「私にはー?」と顔を寄せたので、
お前にはこれで充分だ、と、額を指で弾いてやった。
小さな手が顔を押さえつけたと思ったら、コツン、と額を儂の額に当てた。
何事かと思っていると、小さく何かを呟く声。
やっと顔を離した娘に何の真似かと尋ねれば、
「おまじない。」と一言答えた。
そうか、と返すと、嬉しそうに微笑む。
あ、いいなーアルベルト。
そう言ったセルバンテスが「私にはー?」と顔を寄せたので、
お前にはこれで充分だ、と、額を指で弾いてやった。
20日目 十年後(サニーちゃんとヒィッツ)
十年先が楽しみだねぇ、と、セルバンテスおじ様は笑った。
十年経ったらさぞ美しくなるだろう、と、樊瑞おじ様は微笑んだ。
十年先なぞ解らぬわ、と、お父様は顔を顰めた。
鏡を覗き込むと、いつもと変わらない私がいる。
いつもと変わらないのに、少しだけ暗い顔の私がいる。
十年後には、お嬢ちゃんは今よりもっと素敵なレディーだな。
そう言って、ヒィッツ様は小指にキスをくれた。
いつもと変わらないのに、ほんの少しうれしかった。
十年先が楽しみだねぇ、と、セルバンテスおじ様は笑った。
十年経ったらさぞ美しくなるだろう、と、樊瑞おじ様は微笑んだ。
十年先なぞ解らぬわ、と、お父様は顔を顰めた。
鏡を覗き込むと、いつもと変わらない私がいる。
いつもと変わらないのに、少しだけ暗い顔の私がいる。
十年後には、お嬢ちゃんは今よりもっと素敵なレディーだな。
そう言って、ヒィッツ様は小指にキスをくれた。
いつもと変わらないのに、ほんの少しうれしかった。