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25日目  カシスソーダ(サニーちゃんとヒィッツ)

  小さな小瓶の中は、まるで黒のような濃い赤が揺らめいている。
  その色は大人の夜の世界の色。
  見ているだけでドキドキしてしまう。

  ほんの少しの「世界」を注ぎ、グラスの残りをサイダーで埋めて、
  細いスティックがかき混ぜる様はまるで魔法のよう。

  「さて、お嬢様のお口に合いますかどうか?」

  ヒィッツ様はそう笑い、今はきらめく赤に変わったグラスを手渡してくれた。

  「ああ、あとこの事は”樊瑞おじ様”には秘密にね。」

  唇に人差し指を当て、『内緒』のポーズ。
  思わず笑ってしまった私に、ヒィッツ様はご自分のグラスを傾け、

  「お誕生日おめでとう。」

  また一つレディに近づいたお嬢ちゃんに乾杯。
  グラスがカチンと音を立て、氷がカロンと転がった。
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3.華奢な肩(サニー)




3.華奢な肩(サニー)

 その小さな肩はあまりに真っ直ぐで、
 時折彼女の背負う運命を拭い去ってやりたくなるのだけれど、
 それでも、その儚い背中が、
 「大丈夫です」と告げている。

 幼い少女にはあまりに大き過ぎるこの世界。
 それを支える強さは何なのだろうか。

 それでも今こうして一人眠る姿は、
 紛れも無く普通の少女のそれで、
 規則正しく上下するその肩は決して強いものではなく、
 むしろ、その華奢な姿は、
 同じ年頃の少女達よりもずっとか弱い。

 何故だろう、その姿に涙が滲む。
 自分の生き方は、既に運命と受け入れてきたというのに。

    誰よりも細いその腕は、
    誰よりも強く、暖かい。
6. お姫様だっこ(アルベルトとサニーちゃん)






6. お姫様だっこ(アルベルトとサニーちゃん)

 久しぶりに訪れた実父の屋敷には当の主は不在で、
 それでも幼い少女はその部屋の至る所に最愛の父の影を追う。
 広い屋敷には少ない気もする程度の召使い達が、
 それでも実に鮮やかに客間の準備を整えたのは数時間前の事。
 だが少女は部屋への案内をやんわりと断ると、
 父親譲りのその気丈さで、今日こそは父の帰りを待つのだ、と決意する。
 普段主の命令は絶対である執事は、
 そんな一途な少女を冷たくあしらえるほど非情ではなく、
 軽く咳をした少女の為に応接間の室温を通常より2度ほど上げると、
 少し甘めに作ったバン・ホーテンのココアを準備した。

 そんな暖かさに触れ、気が緩んだ幼子が眠りに勝てるはずも無く。

 深夜に帰宅した主は、普段より暖かい応接間に軽く眉をひそめたが、
 中央に設えてあるソファに埋もれる様に眠る不承の娘の姿を認め、
 テーブルに置かれた飲みかけのココアの冷たさに時間を悟り、
 この馬鹿者が、と溜息をついた。
 それでも少女は子猫のように身体を丸め、
 その表情は至極穏やかだ。
 ほんの少し口元に乾いていたココアのかすを、
 無骨な父にしては珍しく指で拭ってやると、
 僅かに漂った葉巻の香りに、少女の顔が幸せそうにほころぶ。

 そんな少女の眠りを妨げるほど、彼は常識知らずな男ではなく。

 抱え上げた身体は、彼が記憶していたものよりずっと重い。
 自分の知らぬ内に、確実に男の血は少女の成長を促していた。
 かつて愛した女性を抱え上げた時の記憶が一瞬過ぎったが、
 過ぎ去った思い出に重さは無い。
 今、この腕に感じるのは、その忘れ形見の重さだ。
 珍しく…本当にこの男にしては珍しく、感傷にも似た想いが胸を過ぎったが、
 無意識にその襟を掴む少女の寝息に、それはかき消された。






* * * * *

青空は抜けるように高く、雲ひとつ無い晴天。
我が義娘の門出になんとふさわしい事か、と目を細めて窓の外を見る。

15年。長いようで短かった。
幼かった愛し子は、今日、神の前で愛する者と永遠を誓う。

正直言ってしまえば初めてサニーの口から「結婚」の二文字が出た時には面食らったものだ。
私の中ではサニーは”娘”であったのだから。
だが、弱々しいひな鳥が冬を越え美しい水鳥になるように、サニーは人を愛する事を知る大人になっていた。これは義父としては喜ぶべきなのだろうが…心中穏やかではなかったのは、義理であれ本当の父親であれ一緒だろう。
伴侶として選んだ相手も意外だった。自分の同僚が義娘の夫になるとは夢にも思っていなかったのだから。歳の差が、という言葉が一瞬脳裏を過ぎったが、これまでの自分の生き方を考えると、そんな些細な事を気にする方が滑稽に思えた。

そう、サニーを育てるまでの自分の人生は、華やかであったにせよどこか空虚だ。
当時の自分を否定し後悔する気はさらさら無いが、サニーを育てたこの15年という年月がどれだけ自分に意義のあるものだったかを改めて思う。

隣室の空気が変わった。
サニーの仕度が済んだようだ。





軽くノックをしてからドアを開けると、鏡台の前で振り向くサニーの姿があった。
部屋は暖かな陽射しに満ち溢れ、純白のドレスは光をまとって輝かんばかり。
しかしそれよりもサニーの顔はもっと美しかった。

「お父様。」
「良く似合う。綺麗だよサニー。」
仕度を手伝っていた小間使いたちは微笑みながら部屋を出て行く。気転の利く彼女達も15年間サニーを見守ってきてくれた大事な人間だ。
「決まってしまうと早かったが…なんにせよ良かった。」
「―――――本当に…そう思っていただけますか?」
おや?と思った。
サニーの目は何時になく真剣だ。
「どうしたのかね?今頃そんな事を尋ねるとは?」
サニーは一瞬うつむき、縋るように私の手をとると、
「お父様はこれまで常に私によかれと手を尽くしてきて下さいました。なのに私は…。」
肩が震えている。
現実を目前にして、自分の結婚が”わがまま”に感じられたようだ。
「…サニー。」
私はそっとその柔らかな手を包み込み、サニーの目線まで腰を落とした。
「この15年、私はお前が幸せたれと思って生きてきた。
 何故なら、それが私の喜びであり幸せだったからだ。」
今にも涙が零れそうな赤い瞳を見つめ、自分でも驚くほど穏やかに微笑む。
「けれどサニー。私は決してお前を甘やかしたつもりは無い。
 子供はいつかは大人になって巣立つ時が来る。
 その巣立ちをわがままだと言うのなら…それは究極の”甘やかし”だ。」
サニーの柔らかな頬を撫でると、指先が熱く感じた。
「私は確かにあまり人に自慢できる人生を送ってきた訳では無いが…
 お前と過ごし、お前を育て、お前を愛したこの15年間は、私の人生の最良だ。
 お前がなんら後悔する事は無いんだよ。」

むしろ、こんな私を父と呼んでくれた事に感謝したいのだ。

サニーの目から美しい雫が零れた。
そっとその涙を指ですくい取ると、柔らかく額にキスを落とす。
「さあこんな素晴らしい日に泣くものでは無いな、サニー?」
「はい…お父様。」
そう答え、微笑んだ顔はどんな大輪の薔薇よりも可憐で美しく。





小間使いに直しを言いつけると、部屋を後にする。
ああ、今日はなんていい天気なんだ。
あまりに陽射しが眩しくて………目に染みる。

熱くなったまなじりに触れた指が濡れていたのは、墓場まで持っていく私の秘密だ。





* * * * *

サニーちゃんの相手は皆様のご想像で。
【サニーちゃんと結婚ED】も見てみたい。

bd
一年で一番甘い日―――――2月14日。
国ごとの解釈は違えど、世界中が愛を考える日。
…本来世界制服を目論む秘密結社・BF団には無縁の行事の気もするが、
幹部クラスである十傑集のリーダー・樊瑞が後見人を務める少女が現れてから、それは一変した。
少女の名はサニー。
幼いながら次世代のBF団を垣間見る能力の持ち主である。
だがその実力はともあれ、サニーはいかんせん幼い。
そしてこの幼い少女に出来る限りの世間の常識を教えたい、というのが樊瑞の願いであった。
決して善人ばかりでないBF団で樊瑞の意見は初めこそ受け入れられなかったが、
実の父であるアルベルトから縁を切られているという境遇がわかるにつれ、
”あの父では教えられぬ事を教えてやろう”という流れが十傑集内で生まれた。
それ以降、BF団内ではわかる範囲の一般的な行事が行われている。
ハロウィン、クリスマス、お正月…ここ最近では節分まであった。
どこまでを世間の常識とするかは疑問があるが、
サニー自身も最近は自分からあれこれと本を読んで調べ物をするようになり、
冒頭のバレンタインデーという日に行き着いたのである。



※ ※ ※ ※ ※



「バレンタインの…チョコレート?」
休暇中の小さな来訪者から尋ねられた話にヒィッツカラルドは軽く首を傾げたが、
すぐに「ああ。」と気がつくと、
「ニホンの独自文化だな。女性が男性にチョコレートを贈るという…。」
自分もBF団に来て…正確にはレッドと会ってからその奇妙な風習を教えられた事を思い出す。
もっとも、レッドから教えられたのは『チョコを贈る』という部分のみで、
女性から云々はしばらくしてから残月に教えてもらった事ではあるのだが。
「それで、お嬢ちゃんはそのチョコレートを?」
「はい、ぜひ作ってみたいのですが…。」
そう言っておずおずと後ろから一冊の本を差し出した。
かわいらしいピンク調の表紙には、『初めての手作りチョコレート』と題されている。
「ふむ…。」
意外にもサニーとは割と一緒に料理をしてみたりお茶を飲んでみたりしているヒィッツだが、
今回のチョコレート作りに関しては即答する事が出来なかった。
カレンダーの日付を確認し、少々申し訳ない顔をすると、
「作るとするともう少し後の日になるとは思うんだが、
 丁度明日から任務が入っていてね。帰還予定は14日の朝なんだ。」
「!…そうなんですか…。」
サニーは少し目を見開き、がっくりと肩を落とした。
アルベルトの屋敷では何となく落ち着かないし、樊瑞の方ではまだ台所を使わせて貰えない。
だからサニーは十傑集の中でも一番料理が上手いヒィッツと一緒に台所に立つことを学んでいたのだが、
それもヒィッツという”大人”がいるからこそである。
いくら利発な少女とはいえ、さすがに幼いサニーだけに台所を使わせる訳にはいかない。
そしてサニーもそれは解っている。
だからこそ余計にどうにかしてやりたいが…と、ヒィッツはあれこれと思考を巡らせていたが、
「―――――そうだな、お嬢ちゃん。イワンと一緒ならこの部屋のキッチンを使って構わないが。」
え、とサニーが目を丸くする。
「ドアの認識にお嬢ちゃんを登録しておく。だから私が留守の間にイワンと一緒にここで作ればいい。」
その方が他の連中に気兼ねせずに作れるだろう?
そう言ってヒィッツは軽く片目を瞑った。
「ありがとうございます、ヒィッツ様!」
そう言って笑ったサニーの顔は眩しい位だった。



※ ※ ※ ※ ※



―――――さて、バレンタインを明日に控えた13日の夜のこと。
ヒィッツは予定より早くなった帰還に気を良くしていた。
任務は順調に完了し、予定していた時間より早く帰路につくことが出来たのだ。
歌でも口ずさみそうな様子で居住棟へ戻り、自分の部屋の前に着いたのだが…。
「………?」
ドアの前で立ち止まる。
部屋に誰かがいる気配がするのだ。
一瞬仮面の男が過ぎったが、それならば気配はあるまい。
そう気がつくと、ああお嬢ちゃんか、と本部を発つ前の約束を思い出した。
それにしても時間がかかったものだ。イワンと都合でもつかなかったのだろうか、と
ドアを開けると、急に鼻を突く甘い匂いと―――――焦げたような臭い。
そして…押し殺すようなすすり泣き。
「お嬢ちゃん?イワン?」
奥のキッチンに声をかけると、ガタン!と何やら立ち上がったような音がして、
「ひ、ヒィッツ…様?」
入口におずおずと顔を覗かせたのは、父譲りの赤い目を更に真っ赤に腫らしたサニーのみ。
さすがのヒィッツもギョッとして駆け寄る。
「どうした?何があったんだお嬢ちゃん?」
「う…ヒィッツさま………!」
緊張が解けたのか、サニーはヒィッツの脚にしがみつくとしゃくりあげながら泣き始めた。
ヒィッツはその栗色の髪を撫でながらイワンの姿を探したが、そこには見当たらない。
よくよく見ればキッチンは燦々たるありさまで、
チョコレートが飛び散っていたり、焦げて固まっていたりしている。
「ほら、落ち着いてお嬢ちゃん。…イワンはどうしたんだ?」
少し落ち着いてきたサニーは、顔を真っ赤にしたまま語り始めた。

予定通り本当は今日イワンとチョコレートの準備をする筈だったのだという。
だが急な出撃命令が下り、イワンは本部を発つ事になってしまったらしい。
そして戻ってくるのは明日以降になってしまうと聞き、
サニーはつい約束を破って、一人でキッチンを使い始めてしまった。
だがやはりまだ幼いサニーには一人で大きなキッチンを使いこなす事は出来ず、
加えて初めてのチョコレート作りで勝手がわからなかったため、
結果として今の惨状が出来上がったのだ。

「どうしても…ヒック!…私、樊瑞おじ様に…グスッ…いつものお礼がしたくて…。
 ヒィッツ様と……お約束…。キッチンも…ごめんなさい………ッ!」
チョコレートが作れなかった悲しさと、ヒィッツとの約束を破って一人で作ろうとした罪悪感で、
サニーは一人動く事も出来ず泣き通していたようだ。
ヒィッツはサニーの頭を軽くコツンと小突くと、
「約束を守らずにいたのはお嬢ちゃんが良くないな。」
「はい…。」
「だが、樊瑞にお礼をしたいというお嬢ちゃんの気持ちはわかった。
 ―――――チョコレートは全部駄目にしてしまったのかな?」
サニーはヒィッツの柔らかくなった口調に少し安堵したようだが、またすぐに顔を曇らせると、
「はい…用意していた材料は失敗してしまって…。」
折角泣き止んだ目に再びじんわりと涙が浮かぶ。
ヒィッツはふむ、とキッチンを眺めて考えていたが、
「…そうだ、お嬢ちゃんにも渡せる『チョコレート』があったな。」
そう言うと、もう一度サニーの頭をあやす様に撫でたのだった。



※ ※ ※ ※ ※



明けて14日。バレンタインデー。
樊瑞は通常のデスクワークの為、執務室に篭ったままであった。
もっとも、今日がそんな『特別な日』などという事を忘れて…
と言うより、縁遠いイベントすぎて知らなかったという方が正しい。
そんな訳で食事もそこそこに、先日完了した任務の事後整理やら報告書やらで、
一人黙々と仕事をしていたリーダーなのであった。

コンコンコン。

そのドアのノックに気づいたのは、さすがに目がチカチカとしてきてモニタから目を放した時。
遠慮がちなそのノックは他の十傑集が叩く音より遥かに軽い。
「誰だ?」
「あの…サニーです、おじ様…。」
「サニー?」
予想もしなかった相手に樊瑞がぎょっとする。
サニーは樊瑞の執務中は邪魔にならないように、とほとんど部屋に来た事がないのだ。
樊瑞が慌ててドアを開けると、はたしてそこには申し訳なさそうに立っているサニーの姿。
同時にふわん、と甘い匂いが漂う。
よくよく見るとサニーは小さなトレーを手にしており、
そこには温かな湯気を立てたコーヒーカップが鎮座していた。
「サニー?これは…。」
「あ、あの…今日はバレンタインという日で、
 女の人が男の方にチョコレートを贈る日なのだそうです。」
やはりイベントは日本仕様で覚えてしまったようだが、それを訂正できる人間はいない。
「それで、いつもお世話になっているおじ様にチョコレートを…。」
「チョコレート?」
樊瑞はカップを見、サニーの顔を見つめた。
サニーはほんの少し頬を染め、カップをトレーごとそっと差し出すと、
「ホットチョコレートです。あ、砂糖は少しにしてあります!」
そう、ヒィッツが教えてくれたのはホットチョコレート…いわゆる『ココア』である。
「本当はきちんとしたチョコレートをお渡ししたかったんです。でも失敗してしまって…。」
樊瑞は少しうつむいたサニーの指を見た。
おそらくはその”失敗”のせいであろう傷や薄い火傷が見える。
未だ小さな子供だと思っていた幼子は、自分の知らぬ内に成長していた。
そんな感慨を胸に樊瑞は柔らかく微笑むと、サニーの頭に大きな手を置く。
「いや、その気持ちが嬉しいよ。ありがとうサニー。」
丁度一休みするところだったし、部屋へ入りなさい。
そう言ってサニーの頭を撫でてくれる手は、淹れたてのココアの湯気よりも温かい。
サニーの頬が先程よりもばら色に近く染まる。
そんなサニーを見つめ、樊瑞も素直な少女に育ってくれているその様子に知らず目を細める。





―――――甘い、温かな香りの中、小さなお茶会はゆっくりと時を刻んでいくのだった。
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