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うろほろぞ
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 ――一体なにをやっているのか・・・。

 レッドカーペットのしかれている回廊で、
 孔明は呆れていた。
 季節は十月。
 滅多に基地の外へ出ない孔明ですら、
 街が賑わっているのがわかる。
 もとより、主に外部で働く十傑集が、その余韻を持ち帰っては、
 色々と議論しているのを聞いて、
 孔明はここに来る前から、うすうす勘付いてはいた。
 しかし、自分にはまったくもって関係のないことで、
 そして仕事もそこそこに、世間の催し事などに浮き足立つ十傑に、
 半ば諦観した。
 ――どうしてこうも盛り上がっているのか。
 孔明はふと思う。
 昨年は、この時期に何もなかったはず。
 いつものように黙々と頭脳を酷使した記憶しかない。
 そもそも、孔明の頭脳が何かを「忘れる」といったような機能を持ち合わせていない。
 何もかも全てが、この1.5㎏の脂質の中。
 そんな頭脳が、昨年は何もなかったと告げている。
 ――記憶違いなど。
 あるわけがない。
 孔明は記憶を積み上げる。
 そしてすぐに結論が出た。
 瀟洒な屋敷にぴたりと合う、猫足のゆったりとしたソファの上に、
 今日の主催者・・・樊瑞と、
 ――サニー・ザ・マジシャン・・・。
 サニーはまだ幼いはず・・・。
 だが、どうやら今日はサニーが主賓のようで、
 小さな黒い衣装に身を包み、先のとがった帽子と、身の丈に合うように作られたのであろう古風な箒を握っている。
 孔明はサニーにまだ一度も会ったことがなかったが、
 話には聞いていた。

「Trick or treat !」
 可愛らしい舌足らずな声で、周りの客に駆け寄るサニー。
 今夜はどうやら無礼講で、十傑集の補佐役や、優秀な部下達がこの屋敷に招待されているようだった。
 そして全員が、仮装していた。
 さすがに十傑の部下であるため、同じ十傑の一人、衝撃のアルベルトたる娘には恐縮していたが・・・。
 孔明はちらと視線を動かす。
 客が多く、ざわめきが周りを支配していた為、力が抜けて、
 思わず溜息をついた。
 勿論、羽扇で顔を隠すことを忘れない。
 ――何故こんなことに・・・。
 作戦が一段落つき、少しばかり仮眠をとろうと、ちかくの寝所に赴こうとドアを開いたところ、
 ・・・・この屋敷につながっていたのだ。
 さすがの孔明の頭脳でも、現実が認識出来ずに、ドアを一回閉め直し、そしてまた開いてみたのだが、・・・無意味だった。
 何度開けても、孔明を案内するよう言付かったのであろう執事が、「お待ちしておりました。」と機械のように繰り返す。
 孔明はそれでも諦めきれずに、ほかに3つ別の部屋へつながるドアがあって、そのどれもを開けてはみたものの、あけたドア全てが屋敷に繋がっていた。
 こうなっては窓から逃げるしか・・・と決意しかけたが、
 生憎基地は高層ビルで、孔明は断念せざるを得なかった。
 策士・孔明に、こんな悪質で性質の悪いことをするのは十傑の中でも限られている。
 恐らくは、白いクフィーヤを身に纏う、冗句の類が好きな男だろう。

 孔明は再度溜息をつく。
 今日の主役には今のところ見付かっておらず、なるべく遠くにと、孔明は高い天井まで届き
 そうな窓の下に避難した。
 外を見ると、日はとうに沈んで、星達がうっすらと自己主張をはじめている。
 屋敷の庭の電灯が、周りの木々を闇から救っている。
 辺りをうかがうと、十傑はどうやらサニーを引き止めて、何やかんやとお菓子をプレゼントしている。
 中には、仲間内に性質の悪い悪戯を仕掛けている者もいた。
 サニーは手持ちの籠がいっぱいになったようで、嬉しそうに微笑んで十傑一人ひとりに挨拶した。
 ――くだらない。
 眉根が自然と寄る。
 不機嫌な顔は羽扇で隠れて見えないだろうが、
 そもそも何故策士である自分がこのような和気藹々とした場にいなければならないのか。
 ――不自然にもほどがある。
 周りの客は孔明の姿かたちを知らない者が多いようだ。
 あまりにも出不精、そして陰険な噂が広まって、孔明の容姿など上級エージェントであっても関わりがなければ知らない者が多い。
 それが幸いしてか、この屋敷についてから執事に案内されるまで、一切話しかけられもしなかった。
 ――十傑に、知られる前に、
 羽扇を握る手に自然と力が込められ、窓から離れる。
 ――早々にこの場を離れたい・・・。
 だが、
 足を進めようとした瞬間、
「・・・!」
 赤い瞳とかち合った。
 ――この男も、この場に居たのか。
 意外に思う。
 スーツはいつもの仕立てを着用しているが、上に黒いマントを羽織っている。
 ――しかも仮装までしているとは・・・。
 そんな男だったか?
 顔の半分は羽扇で隠しているため、疑問は相手に伝わらないと思うが、
 赤い瞳の持ち主・・・サニーの実の親である衝撃のアルベルトは、
 至極嫌そうな顔をして、孔明を睨み付けた。
 孔明と同じようにこうした雰囲気が苦手と見えて、人の少ない窓辺の椅子に腰掛けていたようだ。
 孔明は早々に立ち去りたい身、
 アルベルトの視線をさらりと受け流して、
 椅子の傍を通り過ぎようと踏み出した時、引き止められた。
「おお、策士殿!トリックオアトリート!」
 白いクフィーヤは相変わらずだが、中身は包帯で巻かれている眩惑のセルバンテスが意気揚々に孔明の肩に手をかけてきた。
「離していただきたい。私は帰りますので。」
 羽扇でぴしゃりと手をはたくが、セルバンテスはものともしない。
「アルベルト、出不精な策士もわざわざ来てくれたんだ。もっとこのお祭りに参加してはどうだい?」
 セルバンテスは包帯で巻いた手をひらひらさせて、不機嫌なアルベルトを一層不機嫌にした。
「・・・わしは、貴様と樊瑞に謀られてここに連れて来られたんだぞ!」
 怒号があたりに響くが、周りの喧騒が勝って、サニーたちの居る広場には伝わってないようだった。
 セルバンテスはアルベルトの怒号などには慣れているが、この場の雰囲気を壊されては、と思ったのか、多少穏やかな笑みを残して、
「まぁまぁ、君が天邪鬼だって事はとうにわかりきってるからね。」
 ――策士殿もこの男を使うには気を揉むだろう?
 爽やかに笑いながら、肩にかかっていた腕を離した。
「ところで策士殿。」
 白いクフィーヤが隙間から入ってきた風にたなびいて、一層優雅にみせる。
 セルバンテスは孔明にむかって、何とも意地の悪い笑みを向けた。
 孔明は悪い予感がして、「失礼。」とこの場を退去しようと試みたが、その前に切り出された。
「この不遜で天邪鬼な衝撃のアルベルトでさえ仮装しているのだよ?・・・この場に居るには、君の服装は残念ながら不適切だと思うのだが・・・。」
 ――もちろん、君だって謀られてこの場に来たことは重々承知しているよ。
 ニヤニヤと、笑みが止まらないのか、セルバンテスは隠すことを諦め、孔明を舐めまわすように見た。
「でね、この衣装は実をいうとサニーちゃん直々に選んでくれたんだよ。十傑集だけなんだけどね。あんな幼い子がだよ。涙が出そうだと思わないかい?」
 自分の衣装を指して、そういう。
 セルバンテスはアルベルトの方ににやりと視線を向けたが、アルベルトは気恥ずかしいのか、ふん、と相手にしない。
 なるべく早く、この場を立ち去りたい孔明としては、相手が悪すぎた。
 というより、運がなかった。
 セルバンテスの後ろでは、不機嫌を抑えるためか、アルベルトが煙草をのんでいる。
 この舌を使って、逃げおおせるなど孔明には可能なはずだが、
 ――動けない。
 もしや、眩惑術を使われたのではあるまいか、と危惧するほど、セルバンテスの瞳は強かった。
 否、強いというより、好奇心が混ざったような、少年のような若々しい光を帯びている。
 孔明は、謀られた自分の甘さを恥じ、今日ばかりは・・・と諦めようとしたが、
「で、君は十傑ではないけれど、サニーちゃんが特別に選んでくれたんだ。はい、これ。」

 手渡されたのは、

 鈴のついた細身の首輪と、白い猫耳だった。
 おまけに、ふかふかの尻尾までついていた。


 ・・・孔明は、さすがに孔明は、

「ふざけないで下さい!」

 羽扇でそれをすべて叩き落とした。
 わずかばかりに目が怒りで潤んでいる。
 セルバンテスは手馴れたものか、
 余裕で笑っている。というより、・・・爆笑している。
 アルベルトといえば、普段扱き使われている己の身を思い出してか、「ざまぁみろ」とでも
 言わんばかりに赤い瞳が訴えてくる。
「策士殿は手厳しいなぁ!せっかくサニーちゃんが選んでくれたのにねぇ。」
 ――ねぇアルベルト?
 孔明はその場で初めて、盟友といわれる所以を見た気がした。
 ――いつか謀殺してやる。
 孔明は興奮したのを無理矢理落ち着かせようと、必死になっていた。
「レッドが黒で、策士殿が白らしいよ。・・・樊瑞に何を吹き込まれたのか、サニーちゃんは感受性が強いねぇ。」
 あはは、とクフィーヤを優雅に捌きながら、アルベルトの隣に座る。
 アルベルトは多少の鬱憤が晴れたのか、すこし機嫌が直ったようだった。
 周りの喧騒はそろそろと収まってきて、
 幼いサニーを気遣ってか、今日の催しは9時までと執事が言っていた。
 残りの時間は30分もない。
 アルベルトの煙草の煙が、孔明の鼻を突く。
「策士殿、時間もあと少ししかない。・・・つけてはどうだい?」
 もったいないし。
 と、床下を指差す。そこには叩き落とした首輪と猫耳と尻尾が。
「結構です。」
 また怒りで感情が飲み込まれそうになるが、ぐっと堪える。
 ・・・すると、後ろからちょいちょいと、スーツが引っ張られた気がした。
 ――何だ?
 振り向くと、黒き小さな魔女・・・サニー・ザ・マジシャンがそこに立っていた。
「は、はじめまして、策士さま。わたくしはサニーと申します。」
 ぺこり、と可愛らしくお辞儀する。
 幼いながら、礼儀作法はしっかりとみについているようだった。
「あの、策士さま、その、お気に召しませんでしたか・・・?」
 そっと俯いて、自分が見繕った仮想用の品を、拾い上げる。
「ひどいよねぇ、サニーちゃんがせっかく選んでくれたっていうのに!・・・お父様だって着てくれたのにねぇ。」
 ふん、とサニーから目を離すアルベルト。
 煙草がそろそろなくなってきているが、気づいていない。
 ――サニーはお父様が来て下さったでも、とっても嬉しい一日だったのに、さらに策士さままでお越し下さって、本当に嬉しかったのです。
 少し小さな声で、かすかに聞こえる程度の声で、そういう。
 ――策士さままで、仮装していただくなんて、その、サニーはわがままでしょうか・・・。
 一生懸命選んだのです!と訴えてくる。
 セルバンテスはこの状況をものすごく楽しんでいる。
 そうだよねぇ。やら、サニーちゃんはわがままなんかじゃないよ。やらいらぬ合いの手をいれてくる。
 アルベルトはアルベルトで、策士がしてやられているのが自分の娘だということに少しばかり面白みを感じているよう。
 孔明は進退窮まる。
 ――四面楚歌とは、このことか・・・。
 遠い目を、したくなった。

 そのあと、ハロウィーンパーティーは無事に9時お開きとなり、
 満面の笑みのサニーと、疲れきった策士を同時に見れる機会となった。
 策士の謀殺リストに、
 新たにサニー・ザ・マジシャンが加わったのは言うまでもない。



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