『我らのビッグファイアのために!』
「…ん?」
いつもの忠誠のポーズをとりながら、樊瑞は違和感を感じ首をかしげた。
「どうした」
アルベルトが訝しげに樊瑞を見る。
「いや、今…」
なにか聞こえなかったか、と続けようとした樊瑞の言葉をさえぎるように、
舌足らずなかわいらしい声が男たちの耳に響いた。
「われらのびっぐふぁいあのためにー」
ちょこんとソファに座ったサニーが、小さな手をまっすぐに上げて、
ビッグファイアへの忠誠のポーズをとっていた。
「サ、サニー!?」
そこにいた男たち、サニーの父である衝撃のアルベルト、後見人の混世魔王樊瑞、
アルベルトの盟友である眩惑のセルバンテスは固まった。
「おい樊瑞、もうこんなことまで教えてるのか」
アルベルトが複雑な顔をして娘を見る。
サニーは父には似ても似つかぬかわいらしい顔で微笑んだ。
「いや、儂もまだそこまでは…」
確かに、サニーはいずれ能力を磨いてBF団の一員となる運命である。
しかし、こんな分別もつかない年から強制的に教え込もうとは思っていない。
父の、そして我々の背中を見てサニーが自分からBFへの忠誠を誓うようになればいい。
樊瑞はそんな風に思っていた。そしてそうなるのが自然だと。
だが、まだ意味も分からぬとはいえ我らの首領に忠誠を誓うのは喜ばしいことだ。
樊瑞がサニーを誇らしい気持ちで見つめていると、横から白い塊がサニーに飛びついた。
「サニーちゃん!!君はなーんて素晴らしいんだー!!きっとビッグファイア様もお喜びだよ!」
セルバンテスが大げさな身振りでサニーの前に跪く。
サニーは大好きなおじ様から褒められたことに気をよくして、ソファの上をはねながら
「ビッグファイアのために」を繰り返している。
アルベルトは呆れたように言った。
「我等が言っているのを真似しているだけだろう、あまり本気にするな」
「そうかも知れないけど、この年ですごいじゃないか!君ね、親なんだから自分の娘の成長を喜びたまえよ」
セルバンテスはそういってアルベルトをたしなめる。
樊瑞もそれには同意見だった。
「そうだぞアルベルト。貴様、サニーがひとりでボタンを留められるようになったのも
フォークを使えるようになったのも知らんだろう。サニーは日々成長している。
いくら儂に預けたとはいえもう少し気にかけてやったらどうだ」
樊瑞は普段どおり威厳を持って意見したつもりだったが、内容が内容なだけに逆に滑稽だった。
アルベルトがうんざりした顔になり、セルバンテスは必死で笑いをこらえている。
樊瑞は気づかないのか、「真面目に聞け!」と一喝した。
「あ、そうだ魔王よ、カメラはないのかね?」
笑いの発作がおさまったセルバンテスが樊瑞に尋ねる。
「カメラ?そんなものどうするのだ」
「だって、サニーちゃんがはじめて我らのビッグファイアに忠誠を誓ったんだよ。そんな貴重な瞬間を残しておかない手はないじゃないか」
それを聞いた樊瑞はまるで雷に打たれたような顔になった。
「むう…そういわれればその通り…くそう…3日前サニーが初めてひとりで顔を洗えたところも撮っておくべきであった…!!なんという不覚!!」
本気で悔しがる樊瑞。その姿はすでに後見人ではなく、完全にサニーのパパである。
一方サニーの実のパパであるアルベルトはわれ関せず、と葉巻をくゆらせている。
そんな二人を尻目に、セルバンテスはカメラを持ってくるように指示を出していた。
「さあ、皆さんお撮りしますよ」
オロシャのイワンがカメラを構えると小さな小さなサニーを囲んで3人の屈強な男たちがカメラを睨み付ける。
「…あの…皆さん、もう少し表情を和らげていただけると…」
これでは記念写真というにはあまりにも恐ろしいものが撮れてしまう…とイワンがおそるおそる進言する。
「うるさい、貴様我々に意見する気か。さっさとシャッターを押せ!」
「ちょっと待て!やはりサニーを抱き上げた方がいいのではないのか」
「うーん、でも子供を抱いて忠誠誓ってもねー」
「そ、そうか。よしサニー頑張るのだぞ!この樊瑞がついておる!」
「いいから早くしろ!何で儂がこんなことに付き合っておるのだ」
「サニーちゃんのはじめての記念写真だからねー、うまく撮らないと君、わかってるよね」
脅しともとれるようなセルバンテスの言葉に背筋を凍らせながらイワンは何とかピントをあわせた。
「で、では皆さん、一斉にお願い致します!」
『我らのビッグファイアのために!』
その写真は今でもサニーの宝物のひとつである。
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